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「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」レビュー

5.0
映画
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評価 ★★★★☆(78点) 全85分

攻殻機動隊 / GHOST IN THE SHELL

あらすじ テロなどの犯罪を未然に防ぐ、内務省直属の組織「公安9課」に所属する草薙素子(通称「少佐」)は、認定プログラマーの他国への亡命に関わった外交官暗殺の任務を遂行し、亡命を未然に阻止する。引用- Wikipedia

貴方のゴーストに囁く

本作品は1995年に制作されたアニメ映画作品。
原作は士郎正宗氏による漫画作品。
監督は押井守、制作はProduction I.G

未来

この作品の舞台は「未来」だ。
人類の脳は機械化され、電脳化という技術によって人は
体も、脳さえも「機械」の体になっている。
そんな義体化、電脳化された人類が多くなかった世界。
人は当たり前のように自らの「脳」とインターネットを接続している。

この完成された世界観がこの作品の魅力でもある。
どこか退廃的な背景の描写は無国籍な街並みを描いており、
その中に「生きる」はずの人々もどこか無機質に見えてしまう。
それは機械の体故か、電脳化された脳ゆえか。

この作品は極力、キャラクターが「感情」というものもあまり見せない。
むやみに笑うわけでもない、泣いたり、怒ったり、
人としての「感情」の表層的な描写がひどく薄く、
そのせいもあり、この作品全体にはどこかさみしげで、
どこか消え入りそうな無機質な空気感が漂っている。

制作された90年代という時代もあり、
この時代だからこそのデジタル作画ではない手書きのセル画特有の「重さ」が
この作品の重厚な世界観を作り出している。

人形使い

そんな世界観を見せたあとでストーリーが描かれる。
主人公である草薙素子が所属する「公安九課」は
他人の「脳」をハッキングし操る「人形使い」を追っている。
年齢も性別も目的もわからない犯罪者、
この世界だからこその脳をハッキングするという「犯罪」を犯している。

ストーリー的には難解と言わざる追えない。
専門的な用語に関する解説もほぼなく、映画ということもあって
尺は1時間半しかない。
その中で膨大な攻殻機動隊の世界、メッセージを多く濃厚に詰め込んでいる。
何度も見たくなる出来栄えになっているが1度見ただけでは全てを理解できない。

しかし、この作品のテーマと言えるものはシンプルだ。

「機械の体である義体や脳の電子化という技術の進んだ
 未来における人間としての存在ついて」

ということだ。人間を人間たらしめんものは何なのか。
脳も電子化し、体も機械化している人間は、どこからが人間でどこからが機械なのか。
人の「魂」といえる存在はどこに宿っているのか。
彼らはそれを「ゴースト」と呼んでいる。

記憶までも外部端末に記憶している時代で、
もしかしたら、自分は作り物なんじゃないのか。
この記憶すらも誰かが作ったものなんじゃないのか。
自分の脳がハッキングされ改竄される可能性があり、
それを「認識」すらできないかもしれない。

記憶の消去すらもできる世界で決して幻想ではない。
この世界では現実にそういった事件が何度も起きている。
人形遣いに操られた人間は記憶を奪われている、
両親の顔も、生まれも、子供の頃の自分も、妻も、娘もわからない、
家族だと思っていた人物ですら家族ではない。

偽りの「記憶」というデータを植え付けられているだけだ。
そしてそれを偽りの記憶だと自分自身は認識できていない。
頭の中に存在する情報を「現実」だと「自分」だと
人は認識しているだけだ。

そんな事件が起こるからこそ、主人公である草薙素子も考える。

草薙素子

脳を電子化し全身を義体化した「少佐」は自分の存在に疑問を感じている。
周りが自分を少佐と呼ぶから自分を「草薙素子」だと認識できているが、
自分の過去の記憶は本当なのか。
何度も体を乗り換え、顔も何度も変え、記憶も本当か定かではない。
もしかしたら自分は最初から存在しなかったのかもしれない。

そういった不安や、疑問を主人公である少佐は
あくまでもクールに、ストイックに言及して行く。
そんな中で「人形使い」は彼女の目の前に現れる。
彼は人類が遺伝子の「海」から生まれたように、
情報の「海」から生まれた生命体だ。

情報の海から生まれた電子データで構成された存在は、
果たして「生命体」といえるのか?
哲学的なメッセージを大いに孕んだ会話劇は
作品の雰囲気と相まって心地よい重みをまとっている。

戦闘シーン

序盤の戦闘シーンもそうだが、この作品の戦闘シーンは
ある種の芸術の領域に至っている。特に終盤の草薙素子と多脚戦車の戦い。
激しい銃撃はまるで降りしきる雨のごとく、
「光学迷彩」を使用し接近し、そこから強引に破壊する。
義体が壊れることなど関係ない、所詮は自分の体ではなく機械の体だ。

芸術的にすら感じる「肉体美」とアクションの描写と
幻想的な音楽がこの作品の戦闘シーンの印象をより
色濃くしている。

答え

少佐は「答え」を知るために人形使いへハッキングを仕掛ける。
なぜ人形使いは9課へやってきたのか、それはある種の「片思い」だ。
AI、情報の海で生まれた生命体が片思いという
一時的な感情で行動をする。哲学的なメッセージを描いておきながら、
「片思い」という答えはなんとも人間らしい。

「君と融合したい」

人形使いの望みはある種の進化だ。
生命体としての完璧さ、生命体としての本能。
情報の海で生まれた不完全な生命体は進化を求めている。
アダムとイヴのように、生命が種を残すために異性を求めるように。

生命体とはなにか、自分とはなにか、何を持って自身の存在を定義するか。
そんな「迷い」のあった草薙素子にとって、
人形使いとの「融合」はその答えを知るための旅路の始まりでもある。

どこへ行くのも自由だ。彼女がどんな答えを見つけるのか。

「ネットの海は広大だわ」

総評:ネットの海は広大だわ

全体的に見て素晴らしい作品であると同時に
あくまでも淡々にストーリーを描写しており重苦しい雰囲気もあって
ストーリーのわかりづらさもあるので若干人選ぶ作品だ。
SF好きならばぜひ見てほしい作品ではあるが、
この世界観と重い雰囲気は好きな人にしか受け付けない味があり、
だが、だからこそ好きな人にはたまらない内容になっている。

制作された1995年はまだADSLですら普及していなかった時代だ。
そんな時代にここまでの未来を描写したアニメ作品は他にはない。
当時、映画館で見たらどんな衝撃を受けただろうか・・・
そう思ってしまうものの、当時は小学生だった自分には
到底理解できなかったかもしれない(苦笑)

このクォリティ、この世界感、このメッセージ性。
きっと、貴方のゴーストに何かを囁いてくれるでしょう。

個人的な感想:9年ぶり

9年ぶりくらいにこの作品を改めて今回見てみたが、
色褪せない重厚な面白さを感じさせてくれる作品だった。
1度見たはずなのに、2度見たはずなのに、何度も見たはずなのに、
新鮮な気持ちで毎回見ることができる。

色褪せない名作はいつの時代に見ても面白いものだと
感じさせてくれる作品だ

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  1. より:

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    為になりました。
    有り難うございます。