言の葉の庭

評価/★★★★☆(71点)

言の葉の庭 評価

全46分
監督/新海誠
声優/入野自由,花澤香菜,平野文,前田剛,寺崎裕香ほか

あらすじ
靴職人を目指す高校生のタカオ(秋月孝雄)は、雨の日の1限は授業をサボって庭園(モデルは新宿御苑)で靴のデザインを考えていた。ある日、タカオはそこで昼間からビールを飲んでいる女性、ユキノ(雪野百香里)に出会う。どこかで見たことがあると感じたタカオがそれを尋ねると、ユキノは否定したが、タカオの制服と校章に気づき、万葉集の短歌 「雷神(なるかみ)の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ」 を言い残して去っていった。

スポンサーリンク

まるで読む映像作品、これが新海誠クォリティ

本作品は2013年に公開された短編アニメ映画作品
秒速5センチメートルで有名な新海誠監督による作品だ
なお、DVDが出るのが異常に早かった。

見だして私はまず声が出た「うぉっ」そんな声だった(笑)
本当の冒頭の1シーン目、そこには地面に降りしきる雨が描写されている
地面に薄く溜まった雨に更に雨が振り、地面が水滴の波紋を描く。
これだけのシーンなのだが、まるで実写のような描写に思わず声が出てしまう。
そう、この作品の作画は凄まじい。

この作品の背景は雨だ。梅雨の時期の物語ということで雨が振り続いている。
透明のビニール傘、雨の降る駅、公園、
梅雨の時期の少し汗ばんだような湿気の臭いすら感じるほどの背景作画だ。
そこに「雨の音」「えんぴつを走らせる音」「歩く音」などの「梅雨の音」が
耳に心地よく響き渡り、梅雨の公園という舞台をリアルに生々しく感じさせる

そんな舞台にいるのは二人の男女だ。
1人はチョコレートをつまみにビールを飲むショートカットの大人のお姉さん。
1人は学校をサボった高校生。
二人は雨の日に屋根の着いた公園の休憩所で出会う。

この作品の会話と呼べるセリフは少ない。
主人公が雨の日にサボる癖がついており、雨の日は必ず公園に行く。
そこには必ずビールを飲むお姉さんがいる。
二人だけの公園の休憩所で雨音をBGMに二人は二人の時間を過ごす。

最初は会話らしい会話など無い。
靴職人を目指す主人公はノートに鉛筆で靴や脚の絵を書く、お姉さんはビールを何本も開ける。
話しかけるのはお姉さんからだ。「学校は休み?」と何てことない会話だ
特別な状況だからこそ、何てことない会話から自分の本質を語るようなセリフが、ふとこぼれる。
そして二人の間にいつからか「雨の日に公園で会う」という約束とはまた違う決まり事が決まる

何日も、何日も。梅雨の間の雨の日に二人は公園で会話をする。
その会話の内容はほとんどセリフとして喋っていない。
バックグラウンドのBGMが流れる中、シーンが変わり
主人公の回想で物語や主人公の夢が少しずつ語られる

そして主人公はいつからか、いつも「雨の日」を願う。
お姉さんの事情は聞かない、なぜ仕事をサボっているのか、何の仕事をしていのか
そんなことは聴かない。
15の少年にとって大人のお姉さんは「大人」であり、
自分の世界とは違うところにいると彼は自覚している。

前半の15分でそんな彼の心情が語られる。
そして後半の15分で彼女の心情が語られる。

彼女は社会人としては「駄目な大人」だ
部屋はちらかり、ゴミだらけ、仕事のストレスのせいで味覚障害にまでなっている。
そんな彼女は仕事には行かず公園で「高校生の男の子」との会話を楽しみにしている
料理が下手なのに料理を頑張ってみたり、
大人の余裕を見せるかのように高い本をプレゼントしたりする。

彼の前で彼女は「大人のかっこいい女性」でありたいと思っている。
だが、本当の彼女は「かっこいい大人」では決して無い。
どこか虚勢を張るように彼と話す彼女の姿は割れそうなガラスの靴のようだ

そんな二人が雨の日に会話をし、すこしずつ、すこしずつ、近づいていく。
そして彼が彼女に触れる。
彼が最初に触れるのは「右足の親指」だ。
まるでガラスの靴にでも触れるようにそっと、包み込むように足に触れ
彼女の足のサイズを入念に、丹念に、繊細に図る。
彼に触れられたことで彼女は少しだけ弱気を見せる

そして「梅雨」があける。
二人にとって晴れの日は会えない日だ、会いたい気持ちはあるが
二人は互いの名前も知らない、二人は恋人ではない。「会う理由」がない。
二人にとって「雨の日に会う」という決まり事のようなものを心の何処かにあるため
晴れの日には会わない。
だが、二人は会ってしまう。晴れの日に、公園ではない場所で。

彼のその後の行動は若さ故の衝動、若さ故に抑えられない。
彼女のためになるなんてことはないのに、それを抑えることはできない。
そして「雨が降る」
二人の気持ちに雨が答えたかのように、二人が会えなかった日の分まで溢れるように。

公園以外で、晴れの日以外で会った二人にはもう「決まり事」はなくなる。
どんなに晴れていても、どんなに雨が降っていても二人は会う
それは公園でなくてもいい、どこでもいいのだ、そう彼女の家でも。
二人はそんな幸せを噛み締める。

そして彼の口から「好き」という言葉が出る。
しかし、彼女は「大人」の立場で15歳の少年の好意を受け入れることはしない
決して拒絶ではない、だが受け入れることはできない。
彼女は彼女自身の言葉を飲み込み、大人としての言葉を表に出す。

だが、そんな大人の態度は少年にとって「現実」でしかない。
彼女と自分の距離を自覚し、彼女に情けない顔を見せないように
彼はせめて駄々をこねる子供ではなく、大人の対応をした彼女に自分も大人の対応をする
今までの新海誠作品ならココで終わりだろう。
だが、今回の新海誠作品は違う。

この作品はアニメだ。現実的な話ではあるがアニメだ。所詮は創作物だ。
だから「夢」があっていい、だから「現実的」じゃなくてもいい。
そんな監督の声が聞こえるかのように彼女は裸足のまま彼を追いかけ
感情をぶつけあう。そして静かに虹がかかる

全体的に見て質のいい短編小説を「見て」味わったかのような作品だ。
徹底的にこだわった雨の描写と雨の街並みがあるからこそ
少ない会話と主人公とヒロインのモノローグだけで物語がゆっくり進めることができ
雨が止むととたんに現実に帰ったかのように一気にストーリーが進み
そし雨が降るとまた夢のようになる。
現実と夢物語と交互に味わうかのように、まるでページをめくるように
雨の日の恋の物語が、傘に残った水滴のように物語の余韻を少し残して終わる

声優さんも素晴らしい。
入野自由さんの声は、夢は見ているが現実を知っている高校生の彼にとてもあい
最後の彼の感情の叫びは名演だ。中途半端な演技ならあそこのシーンは生きない。
花澤香菜さんの声は序盤は大人の女性、中盤は駄目な大人、最後は恋する女性を演じる
この3つの声の微妙な演じ分けが「大人の女性」をリアルに感じさせ魅力的に感じる。
素晴らしい配役といえるだろう。

この作品はアニメだからこその面白さがある。
本当の雨、本当の人間なら短編の少年とお姉さんの恋なんてのはありきたりだ。
しかし、アニメだからこそ短編恋愛ものなんてめったになく、
リアルな表現の雨、リアルな人間描写だからこそ「ありきたりな恋物語」が
非現実的な話でありながら、現実的に感じさせる魅力がある。
3次元という描写では伝わらない、2次元だからこそ魅力を感じる内容だ

短編だからこその魅力もある。それは語りすぎないことだ。
語りすぎないことで見ている側にまるで小説を読んでいるかのように想像力を働かせ
彼女の事情を頭のなかで考えながら見る。
本当は知りたい彼の代わりに見ている側が本当の彼女を知りたくなる。
そこで「駄目な大人」である彼だけではなく彼女が描写されることで彼女にも感情移入できる。
45分という短編のストーリー構成が物語に良いスパイスを与えている。

ただ短いゆえに欠点もある。
それは簡単にいえば深みにかける、もう一歩何かがほしいと感じてしまう点だ。
少年とお姉さんの恋や雨の描写は素晴らしい。だが、どこかもどかしいのだ。
作品全体で印象に残るシーンも多く、足のサイズを図るシーンなどドキドキするのだが、
「ここ!!!」というシーンような、決定打が欲しかった。
最後の二人の感情のぶつけあいは物語の締めであり、決定打とはいえず、
物語が始まって終わるまでどこかもどかしい、
そのもどかしさが物語の余韻を残してるとも言えるのだが、どこかもどかしい。

それこそキスをするシーンや、
テーマになっている靴を履かせるようなシーンがあれば違ったのかもしれない。
更にいえば何回も楽しめる作品というわけではない。
「彼女の秘密」がネタバレしてしまっている2度目は1度目以上に楽しめるとはいえず
1度目は素直に楽しめたが、2度目を見ると荒を探したくなってしまう作品だ(苦笑)
映像美にだいぶごまかされている感じも強い。
それほどまでに作画が素晴らしい。
本作品は男性でも女性でも楽しめる作品だろう。
男性ならば「大人のお姉さん」に憧れる時期があったはずだ、
女性なら「年下の男の子」との恋愛を妄想することもあるはずだ。
そんな憧れや妄想をアニメという媒体で味わせてくれる作品だ。

45分で見終える短編小説、読んで見ませんか?
今後の新海誠さんの作品に更に期待したくなる作品だ

個人的には足を図るシーンに妙なフェチズムめいたものを感じた
脚ではなく、足、足ではなく足の指という具合に
ピンポイントなフェチズムといえばわかりやすいのかもしれないが
そういったピンポイントな部分が好きな方も楽しめる作品かもしれない(笑)

スポンサーリンク