これぞミステリーの快楽「僕だけがいない街」 レビュー

2016年9月3日

評価/★★★★★(100点)/全12話
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あらすじ
ある日、ピザの配達中に交通事故をめぐるリバイバルを経験した悟は、事故の被害は減らせたが自身は負傷し、二日間入院することになる。これを機会に、ピザ屋で一緒にアルバイトをしていた愛梨と親しくなり、また事故の知らせを受けて上京した母親・佐知子とアパートで暮らし始めることになる。

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これぞミステリーの快楽
普通の主人公だからこそ辿り着いた結末。

原作はヤングエースで連載中の漫画作品。
監督は伊藤智彦、制作はA-1 Pictures
なお、藤原竜也主演で映画化もされた。

見だして感じるのは暗さだろう。
29歳売れない漫画家の主人公、アルバイトで過ごす日々。
希薄な人間関係で淡々と自分語りをする。
非常に暗い、最近の作品でここまで冒頭が地味で暗い作品も珍しい。

主人公は「リバイバル」という能力を持つ。
1分~5分、主人公の意思とは無関係に、
一種のタイムスリップが起こることがある、
これは大きな事件だったり、命が失われる何かが起こったりする予兆であり、
主人公は、その現象に自分の正義感にも似た使命感を刺激され、
リバイバルの原因となった事件を解決する。

そんな能力を持つ主人公が地味、これはこの作品の最大の特徴でもあるだろう。
中学3年生の時をかける少女でもない、
重度の厨二病のマッドサイエンティストでもない、
29歳のバイト男性だ、主人公としての魅力のようなものは微塵も感じない。
そんな主人公の「母親」が殺される事件が起こったことで
主人公は「18年前」へとタイムリープすることで物語が動き出す。

この1話の地味さと衝撃のギャップは凄い。
何の魅力も感じない主人公と、そんな主人公の持つ能力を
淡々と説明した後に「衝撃的な事件」を見せ、
主人公の状況を一気に変化させる。
1話の前半から中盤までは物凄い地味だ、だが、地味だからこそ
1話終盤の衝撃が際立ち、物語の世界観に一気にのめり込むことが出来る。

物語の目的も非常にわかりやすい。
「主人公の母親を殺したのは誰なのか?」
「主人公はなぜ18年前にタイムリープしたのか?」
作品の方向性と目的が1話でしっかりと見ている側に伝わり、
2話以降の「謎解き」が面白くなる。

同時に「昭和の懐かしさ」を思い出させてくれる。
視聴者層的に20代、30代の子供時代、
ドラクエに夢中になり、家に帰れば母親が料理を作っている。
そんな「懐かしさ」を主人公が味わうように視聴者も味わう、
ノスタルジックな気持ちと「母親が生きている」という主人公の気持ちに
どこか共感してしまう人も多いはずだ

小学生時代の悪友たち、おぼろげな小学生時代の時の記憶。
もし、自分が「小学校時代」にタイムスリップしたとしても
同じように戸惑い、同じように行動したりしてしまうかもしれない。

もし自分が漫画やアニメに出てくるような特別な力を手に入れたらどうするか。
「アニメ作品」ひいては娯楽は空想だからこその主人公が多い。
そんな主人公の行動や言動は自分だったらそうしないというものも多いだろう、
しかし、この作品の主人公は生々しさがあり、
もし、自分が同じ能力を持ち同じ状況でも主人公と
同じように行動するだろうという不思議な共感を生んでいる。
そんな「不思議な共感」は、主人公が「普通」だからこそ生まれるものだろう

そんな中で同級生の女の子が事件解決の糸口ではないかと考える。
それは主人公が小学校時代に誘拐され殺された少女であり、
親から虐待を受け、クラスメイトとの交友もない。
あの頃はしゃべりもしなかったクラスメイトと敢えてしゃべることで
誘拐事件を未然に防ぎ、更に、母親が殺される事件も防げるのか?

話が進めば進むほど伏線は増えていく。
1話の段階でも、2話も、3話も、4話も、
この作品はどんどん伏線を張り巡らせながら話を進めていく。

各話、決してテンポは早くない。
じっくり、ゆっくりと物語を進めながら、毎話、とても気になる所で話が終わる。
地味なストーリー展開ではあるもの、その地味な印象を打ち消すように
毎話の「引き」のおかげで次の話が気になって仕方なくなる。
この絶妙なテンポと引きのおかげで、作品への期待感と没入感が
見れば見るほど深まっていく。

同時にストーリーが純粋に面白い
29歳から小学生にタイムリープする、この時間設定からくる
「記憶の曖昧さ」がこの作品の面白さの1つでもある。
未来を変えようとしているのに、未来を知っているのに、
過去の自分が起こした行動を忘れているせいで、
違った行動ではなく同じ行動をしてしまうこともある。

だが、着実に確実に淡々と、未来は変わっていく。
しかし、それが「いい結果」とは限らない。
変わったのは状況だけだったり、時間だけだったり、
「結果」が変わらず、失敗する。
失敗すると主人公は「最悪」の現代へと戻される。

何も変わらない、何も変わっていない残酷な現代、
変えられたはずなのに、変えようとしたはずなのに結末を変えられない、
それどころか最悪な現代は、より最悪な方向へと向かっていく。
未来と過去を繰り返しながら「事件」を徐々に紐解きながら、
犯人と真相へと迫っていく。

話が進めば進むほど「ゾクゾク」としたミステリーの感覚が体を駆け巡る。
謎に近づいた時、未来が変わらなかった時、未来が変わった時、
ミステリーにおける「快楽」にもに似た面白さが何話かに1度訪れる。
緊張感と緊迫感、開放されそうでされないもどかしさ、
犯人の純粋な怖さと恐怖、「犯人」を主人公の立場で探っていく快感。
久しぶりに・・・本当に久しぶりに良いミステリーを味わうことが出来る。

この作品の中盤以降、犯人が「分かってしまう」方もいるだろう。
せっかちな方はWikipediaなどでネタバレを見てしまうかもしれない、
しかし、この作品は「それでも」楽しめる。
むしろ、知っているからこその面白さもあり、
「それはだめだぁ!」と思わず叫んでしまうような展開を
知っているからこそ味わうことも出来る。

犯人を「証拠」で追い詰めるのではない。
物語の積み重ねと主人公のとった行動の結果、
その全てが犯人が犯人と認めるための行動へと繋がる、
ミステリーであり「タイムリープ」ものだからこそ、
「僕だけがいない街」になった結果、たどり着いた結末は
決してハッピーエンドとはいえないかもしれない。

だが、主人公が「理想」の未来へとたどり着こうと
時間を逆行した「代償」を払い、未来へとたどり着く。
物語に出てきた1つ1つのキーワードが
「僕だけがいない街」というタイトルに帰結するための伏線であり、
結末への道筋となっている。

全体的に見て素晴らしい作品だ。
1話の前半に感じた地味さから驚愕の展開、
その驚愕の展開をなかったコトにするためにタイムリープを繰り返し、
未来を変えながらあがく「普通の主人公」は、
普通だからこそ見ている人に強い共感をさせ、
1つ1つの伏線がストーリーを紡ぎ、結末へと至る。

タイムリープの要素はご都合主義を感じさせる要素が1つもない。
タイムリープした結果、未来は変わったが、
結末を変えたのはタイムリープがきっかけではあるが、
「実際の時間経過」が事件を解決へと結びつかせるのは、
タイムリープを扱っている作品のある意味、裏ワザ的な解決方法だろう。

余談だが、個人的に「悠木碧」さんの泣き演技にまたやられてしまった。
見ていた方は分かってくれるだろう、あのシーンは反則だ。
主人公を演じた方は声優ではなく俳優さんだが、
俳優さんだからこそ「アニメ的」ではない「生々しさ」と「普通さ」が
際立ったようにも感じる。

各演出のにくさも光る。
「モノローグ」の演出のうまさは11話で光り、
各タイトルの付け方と見せ方は憎さすら感じる。
見せ次第では地味になりそうな作品だが、その地味になりそうな部分を、
絶妙なテンポと演出で素晴らしい作品に仕上げてくれていた。

普通の主人公だからこそ少しだけ不器用で、
物語の主人公で特別なチカラを持っているが、
普通の主人公だからこそがむしゃらに、
物語の主人公はハッピーエンドを迎える。
最後のあのシーンは、主人公と同様に見ている側の気持ちも
強く救われたような気持ちになるシーンだ。

1話から最終話まで、本当に素晴らしい作品だった。
欠点らしい欠点はほぼない。
気になるところといえば主人公の「癖」くらいだろうが、
それ以外はストーリーも、ストーリー構成も、テンポも、演出も、演技も、作画も、
文句のつけようがなかった。

そして私はタイトルにきちんと意味をもたせ、
最終的にそれにたどり着く作品が大好きである。
ミステリー、タイムリープ、悠木碧の泣き演技、タイトルへの帰結、
この作品は私の大好物を並べられたような作品であり、
マイナス要素がちょっと偏見で見えなかったかもしれない。
だが、たまにはストレートに素直に、
100点をつけてもいいんじゃないでしょうか(笑)

あなたも普通の主人公のタイムリープミステリー、味わってみませんか?
本当に、本当に・・・素晴らしい作品でした。