青春

極上のエグい映画体験「劇場版 鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来」レビュー

5.0
劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来 青春
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
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評価 ★★★★★(90点) 全155分

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』公開中CM(LiSA『残酷な夜に輝け』ver)

あらすじ お館様の危機に駆けつけた炭治郎や柱たちは無惨によって謎の空間へと落とされ、鬼の根城である無限城での最終決戦に身を投じていく 引用- Wikipedia

極上のエグい映画体験

本作品は鬼滅の刃の劇場アニメ作品。
監督は外崎春雄 、製作はUfotable
なお本レビューにはネタバレを含みます。

無限列車編

2020年に公開された無限列車編は
日本中を巻き込むほどの大ヒットを生み出した作品だった。
コロナ禍の日本、映画館は閉鎖され、いつコロナが終わるのか。
そんな不安を抱えている中での公開だった。

もともと鬼滅の刃自体がTVアニメの段階から
話題性のある作品だったものの、映画のヒットは
異常性すら帯びているほどだった。
当時、キメハラなんて言葉が生まれるほど
鬼滅の刃がまさに社会現象になった。

興行収入400億、この壁は簡単に破れるものではない。
コロナ禍だったからこそ、多くの人が娯楽を求めていたからこそ、
鬼滅の刃は400億という偉業を達成した。

そこからTVシリーズが3回あり、鬼滅の刃のブームは未だに続き、
根強い人気を保ったまま最終章を迎えた。
劇場先行配信などはあったものの、
今作で鬼滅の刃は映画館に帰ってきた。

あれから約5年、物語は最終局面を迎え、
主人公である竈門炭治郎の宿敵である
鬼舞辻無惨を追い詰め、多くの鬼たちと相まみえることになる。

舞台は無限城へ、そしてスクリーンへ。
400億円をたたき出した鬼滅の刃の映画は
誰しもが期待してしまうことだろう。
そんな重すぎる期待を背負っての映画最新作、
もう度肝を抜かれた

背景

背景というのは手を抜こうと思えば抜ける部分だ。
キャラクターの作画が大事であり、背景というのは二の次になりやすい。
聖地巡礼を狙うアニメや、現実のどこかを舞台にしているアニメでない限り
「背景」というものは重要視されない部分だ。

しかし、この作品は違う。
今作では「無限城」という場所を舞台にしており、
その名の通り、無限に広がり、無限に変化していく城の中で戦っている。
言葉にすれば2行しかない背景の設定だが、
そんな2行の設定を無限に膨らませている。

多角的に広がる無限城、まるで仮想空間の中にでもいるような
浮遊感と自由に広がりまくる部屋や建物が
ufotableらしいCGでぬるぬると変化し動きまくっている。

各ボスともいえる存在である上弦がいる部屋は
その鬼らしい装飾で彩られており、
特に童磨がいる場所はまさに「ボス部屋」だ。
背景の描写だけで「別格の存在がいる」ということを表しており、
それが写実的に描かれているからこその没入感が生まれている。

鬼という畏敬の存在がいる場所なのに、
まるでワックスで綺麗に清掃されたような床や、
美術を楽しむがごとく装飾された部屋の数々、
それが目まぐるしく動き回り、人間たちを惑わす。

そんな背景の中で戦うモブ鬼殺隊の戦闘シーンでさえ映える。
名前すらない鬼と名前すらない鬼殺隊が戦うシーンですら
一級品の背景と作画で描かれており、思わず目を奪われてしまう。

だが「柱」は別格だ。
彼らの戦闘シーンが大迫力で画面狭しと描かれ、
鬼との戦闘で容赦なく美しい背景が壊れることで
より魅入られる戦闘シーンを作り上げている。

破壊の美学だ。
美しく描かれた背景があっさりと崩れ去ることに
快楽すら覚えてしまう

奥行き

そんな背景を映す「カメラ」も素晴らしい。
平面的ではなく「立体的」に映すことによって、
奥行きというものをしっかりと感じさせてくれる。

時には後ろから、上から、下から。
ありとあらゆる角度で映すことによって無限城という
場所の「空間」をきちんと感じさせるカメラワークがあり、
そんな広い空間の中での戦いに立体感が生まれる。

この奥行きをスクリーンで味わうからこそ意味がある。
スマホの小さな画面や、家における一般的なTVのサイズでは
この「奥行き」まで感じることは難しい。
映画館だからこそ、スクリーンだからこその
「映画体験」をアニメという媒体で感じさせてくれるのが
鬼滅の刃という作品だ。

無限列車編は列車という舞台は狭くもあった。
そんな狭い中での戦闘シーンが面白さでもあったのだが、
無限列車とは真逆のとんでもなく広い空間ということを
序盤からきちんと感じさせてくれる。

贅沢なまでの背景と、そんな背景を活かしたカメラワークが
名もなき鬼殺隊と名もなき鬼の戦いですら盛り上げてくれる。
序盤は柱やメインキャラクターたちが所狭しと
無限城の中を駆け回る。

この移動シーンだけで面白い。
無限城という舞台を徹底的に拘って描いてるからこそ、
「移動シーン」ですら映画映えする。

私はアニメにおけるパルクールは否定的だ。
パルクールというのは現実の人間が現実の街でやるからこそ面白いのであって、
アニメでそれをやられても映像映えすることはない。
それなのにパルクール的な移動をやる作品も少なくないが、
同じような移動でもこの作品は次元が違う。

無限城という現実ではありえない場所を、
現実ではありえない動きで駆け回る。
ただの移動ですら映画映えする映像美に圧倒される。

テンポ

序盤から中盤までのテンポ感は非常に素晴らしく、
余計な場面転換もほとんどなく、どんどんと話が進んでいく。
本作品はタイトル通り「猗窩座」との戦いを主軸にしており、
そちらがメインだからこそ、そこに至るまでの戦闘を
かなりサクサクと描いている印象だ。

序盤は童磨と胡蝶しのぶの戦闘が描かれ、
次に善逸と彼の兄弟子といえる鬼との戦いが描かれる。
この2つの戦闘に至っては体感として30分くらいで描かれている。
尺自体は短めではあるものの、濃厚すぎる30分だ。

更に善逸と鬼となった兄弟子の戦いもまた別の意味で圧巻だ。
雷の呼吸という「速さ」による剣戟だからこその
ハイスピードなアクションと雷のエフェクトの数々、
背中を追い求めていた兄弟子が鬼に堕ち、師匠もなくなり、
怒りと悲しみと愛憎をたぎらせながらの戦いは圧巻だ。

そんな善逸の勝負は一瞬だ。
彼が生み出した技は目にも止まらぬ速さで駆け抜け一瞬で終わる。
あまりのテンポの良さにそのまま無惨を倒しそうな勢いがあるほど
序盤から中盤まではテンポが非常にいい。

演技

童磨と胡蝶しのぶ、胡蝶しのぶにとっては仇ともいえる存在に
「怒り」をにじませながら戦うシーンは
静と動を切り替えながらも空間を意識したカメラアングルと
圧倒的な戦闘シーンに息をのんでしまうほどだ。

そんな作画、アニメーションに負けないのが声優の演技だ。
童磨を演じる宮野真守さんの飄々とした演技と、
「怒り」を徐々に顕にする胡蝶しのぶを演ずる早見沙織さんの演技、
この両者の演技の「ぶつかり合い」とも言えるような
戦闘シーンに目も耳も心をも奪われてしまう。 

鬼滅の刃には実力派の声優が勢揃いしている。
そんな声優たちの「エグい」演技を堪能できるのも
本作の魅力であり、感情を爆発させながら、
そんな感情を表現する声による演技が本当に素晴らしく、
キャラクター一人一人を強烈に印象付けるものになっている。

猗窩座

そんな序盤から中盤を経て描かれる「猗窩座戦」は別格だ。
彼が登場するだけで無限城全体がうなるような地響きをあげ、
ゴジラでも現れるような印象を受ける(笑)
猗窩座と竈門炭治郎、冨岡義勇との戦いは鬼滅の刃であると同時に
どこか「ドラゴンボール」でも見ているかのような気分になるほどだ。

贅沢なまでに描かれた背景、それが容赦なく壊れる。
猗窩座が腕を振るえば竈門炭治郎や冨岡義勇が柱や壁を壊しながらぶっ飛び、
猗窩座が拳を繰り出せば、まるでエネルギー弾でも放つがごとく
容赦なく無限城が破壊されていく。

「無限城」という場所での戦闘だからこその、
容赦ない建物の破壊と、奥行きを感じさせるカメラアングルだからこその
多角的な戦闘シーンが戦闘シーンを否が応でも盛り上げてくれる。
もう「圧巻」としかいいようがない。

まさに「死闘」だ。
冨岡義勇という水の呼吸の使い手が息をつく暇もなく技を繰り出し続け、
そんな二人に炭治郎もしがみつくように刀を振るう。
だが、たとえ腕を切り落としても、足を切り落とそうが、一瞬で再生する。

あの「煉獄杏寿郎」すら叶わなかったのが猗窩座だ。
その実力差を感じさせる戦闘シーンはどうなるかが予測できず、
一瞬気を抜いただけで戦闘が終わるような
緊張感が常に漂っている。

弱者

猗窩座は常に強さを求めている。
鬼となり、無限の命を持つ彼は自らの技を極め、多くの柱を殺してきた。
彼の最も嫌いなものは「弱者」だ。
強者かどうかは闘気とよばれるもので彼は感じており、
そんな闘気を戦闘にも利用しているからこその強さでもある。

戦闘の中で炭治郎は思考する。猗窩座の強さはなんなのか。
そんな炭治郎がたどり着いたのが「無我の境地」ともいえる世界だ。
それは猗窩座が辿り着こうとしてもたどり着けなかった、
強者ではなく「弱者」がたどり着く世界なのかもしれない。

殺気や闘気というものを感じさせず、相手を攻撃する。
まるで自然と一体になるような境地だ。
そんな境地へと炭治郎はたどり着く。

猗窩座が背を向ける中で炭治郎はあえて
「正々堂々」と叫び、自らの存在を自覚したうえで
堂々と猗窩座の首を切断することに成功する。
背後からいきなり教わったわけでもない、正々堂々とした勝負だ。

そんな勝負に猗窩座は負けた。
だが、彼は強者でいることに、生きることにしがみついている。
だからこそ彼は首を切り落とされてもなお再生しようとする

過去

猗窩座の過去は非常に辛くエグい。
病弱の父のために盗みを働き、罪人の入れ墨を何度も入れられ、
そんな父が自殺し、絶望した中で出会った男と男の娘、
もう1度家族を作り、愛情を噛み締めていたさなかで
二人を殺されてしまう。

全ては弱いからだ。弱くなければ生きていることもできた。
猗窩座が追い求める強さ、その強さは弱者を守るためのものだ。
しかし、鬼になったことで強さを求める本質を忘れ、
強さのみを追い求めるようになってしまったのが猗窩座だ。

炭治郎に正々堂々と首を落とされ負けた。
猗窩座は自ら「負けた」ということを実感し、
過去を思い出す中で「誰が弱者だったのか」を実感する。

行き場のない怒り、行き場のない思いは他人ではなく
本来は自分に向いていたものだ。
もっと強ければ守れたかもしれない大切な人たち、
そんな人すら守れない「弱者」な自分を最も殺したかったことに気づく。

もっとも殺したかった弱者を殺すことで猗窩座の
「未練」ともいうべき思いが消化される。
静かな戦いの終わりと、満身創痍な炭治郎と冨岡義勇の姿が
戦闘の激しさ、緊張からの緩和を感じさせる。

だが、まだ戦いは終わっていない。
無惨は打ち込まれた毒を解毒するために隠れており、
上弦の鬼はまだ残っている。

戦いはまだ続く。
もっとこの映像に、物語に、演技に浸っていたいと感じさせながら
本作品の幕は降りる。

総評:これが興行収入400億円の圧だ!

全体的に見て圧巻だ。
ここ数年で1番「映画」を見たという
実感を強く感じさせるほどのスクリーン映えしまくる
映像美の数々はひれ伏してしまうそうなほど素晴らしく、
あまりにもエグい映像表現に恐れおののいてしまう。

贅沢な背景と立体的なカメラワーク、
そのすべてが無限城という異空間を生かし切り、
戦闘シーンの迫力をこれでもかと引き上げている。

そんな無限城を舞台に描かれる激しい戦闘シーンと、
容赦のない破壊描写の数々には快楽すら覚えるほどであり、
各キャラと鬼たちとの戦いにそれぞれきちんと特徴があり、
ずっと目がはなせない。

そんな映像だけでなく声優の演技も一級品であり、
各声優の演技に聞き惚れてしまう名演にひたることができる。
「音の圧」もきちんとあり、
映画館でこの作品を見なくてどうすると思ってしまうほどだ。

ストーリー的には三部作の第一章であり、
まだまだ続くという感じではあるものの、
第一章からテンポよく物語を綴り、余計な場面転換がない。
中盤からの猗窩座の過去や戦闘はがっつりと尺を取って描かれているものの、
ダレることなく155分という映画を味わい切ることができた作品だ。

無限列車編の400億、そんな高いハードルを
本作品はくぐるのではなく「飛び越える」ためのものに仕上げている。
無限列車編以上のアニメを作ろうとしているのが見ていて伝わってくる。

三部作だしテレビでどうせやるでしょと思ってる人も多いはずだ。
だが、この作品は映画館で見るべき映画だ。
劇場にぜひ、足を運んでいただきたい。

これは、単なる第一章ではない。
劇場という場でしか成立しえない、極上のアニメ体験の幕開けだ。

個人的な感想:えぐい

見てる最中「エグい」という言葉が何度もよぎった作品だった。
作画も、背景も、カメラワークも、演技も、ストーリーも
なにもかもがエグい。これほどまで作り込まれ、練り上げられたアニメ映画は
なかなか拝むことができない。

正直私はそこまで期待はしていなかった。
TVアニメの1期と2期、無限列車編は楽しんでいたが、
3期の「刀鍛冶の里」編はグダグダしており、
場面転換も多くてうんざりしてしまった部分もあった。

今作の無限城も多くのメインキャラと敵がおり、
場面転換が多い作品になるのでは?と危惧していたのだが、
そんなことはなく、無限列車編以上のものを見せたいという
制作側の意思が1つ1つのシーンから伝わってくる作品だ。

「コロナ禍」という特殊な状況ではない中での上映で
400億円という壁は厚い。
無限列車編自体はたしかに面白く素晴らしい作品ではあるものの、
400億円という数字ははいろいろなタイミングが重なった結果でもある。

今作でどこまでその数字に追いつけるのか。
はたまた追い越すことができるのか。
映画を見終わったあとでも気になってしまう作品だ。

公開34時間ですでに興行収入が20億円を突破しているようだ。
この勢いが保てれば、千と千尋の神隠しや無限列車編を超える。
そして第二章はいつになるのか。
心待ちにしたいところだ。

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