「宇宙よりも遠い場所」レビュー

評価 ★★★★★(86点) 全13話

あらすじ 高校二年生の主人公・玉木マリ(キマリ)は、自室で自分が高校に入学したらしたいことを書いた手帳を見つけ、「青春する」という言葉を思い出し、高二になっても何もできていない事に気付く引用- Wikipedia

若さって何だ?振り向かないことさ!

本作品はマッドハウス制作のTVアニメオリジナル作品。
監督はいしづかあつこ、制作はマッドハウス。
脚本は花田十輝。

見出して感じるのは声優だろう。
最近のTVアニメはメインどころに新人声優、
脇役に中堅やベテラン声優といった配役をすることが多い。
しかし、この作品の場合、メインに中堅声優を起用し、
いわゆる新人声優というのが居ない。

メインの4人は水瀬いのり、花澤香菜、井口裕香、早見沙織が演じている。
水瀬いのりさんは新人と中堅声優の間ぐらいの芸歴ではあるものの、
まるで5年くらい前の深夜アニメのようなメインキャラの配役は、
制作側の「この作品にかける意気込み」を感じさせる。
新人声優にはできない、可愛いだけではない演技力を求めているのが分かる。


引用元:©YORIMOI PARTNERS

更にキャラクターデザイン。
いわゆる萌えアニメっぽさをあまり感じないデザインだ。
「ぱっつん」と切りそろえられた髪は独特の可愛さを感じさせるものの、
深夜アニメというよりは一般向けを意識したアニメ映画のような特徴であり、
普段アニメを見ない人でも違和感や嫌悪感を感じないデザインだろう。

しっかりと演技のできる声優と受け入れやすいキャラデザ。
だからこそメインキャラの印象が序盤の段階からすんなりと深まり、
作品のストーリーに変な先入観がつかず、シンプルに入り込める。

ストーリーは至ってシンプルだ。
何もしてこなかった少女が「南極」を目指す。
1話の段階で作品の終盤の展開を予期させ、
ストーリーのゴール地点を明確にすることで、
彼女達が一体どうやって南極へ行き、南極で何をするのかという
ストーリーへの期待感を高めている。


引用元:©YORIMOI PARTNERS

そんな期待感にまるで沿うようにストーリーをゆっくりと進めてき、。
話が進む中で丁寧にキャラクターを追加していく。
最近のアニメは1話で一気にメインキャラクターを出すことが多い。
しかし、この作品は「自然に」「受け入れやすく」キャラクターを出す。
だからこそひとりひとりのキャラクターの印象がしっかりと深まる。

普通の高校生でしか無い彼女達が「南極」へ行くというハードルは高い。
南極へ行く男性隊員を誘惑したり、観測隊のスポンサーになろうとしたり、
素人考えな彼女たちの考えは無鉄砲ではあるものの微笑ましく、
わちゃわちゃしながら南極への道を模索する彼女達の姿は
ギャグにもなっており、それが余計にキャラクターへの愛着を湧かせる。

キャラに愛着が湧くからこそストーリーを楽しめる。
メインキャラのうちの1人は友達の居なかったアイドルだ。
そんな彼女にはじめての友だちができる、
たったこれだけのシーンなのだがうるっとさせられてしまう。


引用元:©YORIMOI PARTNERS

一言で言えば「青春」だ。若さという勢いだけで彼女達は突き進む。
後先を考えてるんだか考えていない行動は、
結果的に彼女達が「南極の観測隊」に入れるきっかけにもなる。
見方を変えれば運が良かっただけ、ご都合主義にも見えてしまうだろう。

だが、彼女達は行動している。行動したからこそチャンスがめぐり、
彼女達なりに頑張ったからこそ結果がついてきた。
きちんと順序立てて計画通りに言ったわけではない、
努力を積み重ねた末の結果というわけでもない。

しかし、それでいい。
もし「アイドル」と友達にならなくても彼女達は
どうにか南極へ行く手段を見つけただろう。
そう感じさせるだけキャラクターの力強さがあり、
決してご都合主義には感じず若い勢いに見ている側も乗せられる。


引用元:©YORIMOI PARTNERS

序盤を乗り越えると訓練が始まる。
制作にあたって文部科学省、国立極地研究所、海上自衛隊などが協力しており、
だからこそリアルな南極に向かうための訓練が行われる。
南極への荷物は「自分のへの体重を含め100kgまで」などの
興味深い要素もきちんと描かれることで、
キャラクターが南極へ行く過程を同じように味わえる。

その中でいい味を出してくるのは「玉木 マリ」の友人だ。
彼女は決してメインキャラクターではない。
友人という立ち位置のキャラであるものの「玉木 マリ」という少女を、
自分より下、できない子と位置づけることで
自分のアイデンティティを確立している子だ。

ある種、中盤の山場も言える彼女の告白は衝撃だ。
南極へ出発する日に自分の今までやってきた行動を主人公へ告白し、
自分の自己嫌悪と主人公への嫉妬や感情を爆発させる。
決してメインキャラではない、物語の主人公になれない彼女の
精一杯の「絶交」宣言とラストの彼女の行動は
スッキリとした何かを感じさせてくれる。


引用元:©YORIMOI PARTNERS

中盤以降は日本を飛び出す。
ちょっとしたハプニングでシリアスな展開になるかと思いきや、
とんでもない「オチ」が待ち受けており強烈なギャグ回に転換したり、
南極へつくまでの紆余曲折もまるで日常アニメのような、
ほのぼの感を感じさせつつもこの作品ならではの面白さを感じさせる。

特に「船の上」の生活は面白い。
お風呂、洗濯、トイレなどのちょっとした要素がさり気なく描写されており、
全部説明するのではなく背景に細かく描写することで見る側に感じさせる。
南極だからこその「船の揺れ」などをもカメラワークを揺らしまくることで、
三半規管が弱い人なら見てるうちに酔うレベルだ(笑)

南極観測における日本の実情や方法など知らないことも多く、
それを彼女達を同じように見ている側も知る。
アニメを通して南極への道のりの険しさ、南極観測の難しさ、
そして「南極での生活」までしっかりと見てる側に伝わることで、
メインキャラたちと一緒に南極へ行っている気分になれる。


引用元:©YORIMOI PARTNERS

シリアスな要素も多い。だが、この作品は変に重くならない。
玉木マリの友人や、友達の居ないアイドル、高校を中退したバイト、
南極で母をなくした少女。
一人ひとりの設定はもっと重く描くこともできる要素だ。

しかし、この作品はきちんとしたシリアスを描きつつも、
青臭いまでの青春模様を全開で描くことで重さを感じさせない。
重い設定があるのに、その設定の消化がうまく、
物語の中できちんと活かしストーリーを盛り上げている。

だからこそ終盤の展開は素晴らしい。
「小淵沢 報瀬」という少女は南極で母をなくしている。
だからこそ南極へ行きたいと思い、他の3人も影響されている。
母親がなくなってから南極へ行くという目的だけで生きてきた彼女は、
南極についても変われない自分に悩んでいる。

終盤の母親の死に縛られていた彼女が南極の「母がなくなった場所」で
母親の死を強く強く実感するシーンは、
彼女の叫びと「花澤香菜」さんの演技も相まって涙を誘われてしまい、
このシーンを描きくためにこのキャラクターと舞台があった!と
感じさせるほど素晴らしい演出とストーリー構成だった。

しっかし感動させた後に最終話では「オチ」もあり、
そのオチがなんともこの作品らしい余韻をひしひしと感じさせてくれた。
1クール終わった後に良い作品を見終わった実感を沸かせてくれる作品だ。


引用元:©YORIMOI PARTNERS

総評

全体的に見てしっかりと作られた作品だ。
女子高生が南極へ行くという物語を1クール全13話という中で、
きちんとした起承転結を感じさせるストーリー構成になっており、
1話1話にきっちり意味があり、1人1人のキャラに感情移入できる。
眩しいまでの若さと青臭いまでの青春模様を全開で描きつつも、
きちんと演技のできる声優だからこそ素直に受け止める事ができる。

南極という舞台も非常に面白い。
観測隊の活動や南極へ行くまでの過程はきちんと描いており、
アニメではおそらく初めて描かれる要素の数々は新鮮に受け止めることができ、
最終話の「南極の氷をつかったかき氷」や、
南極での料理の数々はもっと色々見てみたいと思うほどに面白い。

青臭いまでの青春模様は押し付けがましさを感じる人もいるかも知れない。
キャラたちの青春を描くために整合性を無視している部分もあり、
若さという勢いでごまかしている部分も多い。
だが最終話まで見ると「騙されてよかった」と感じる出来栄えになっており、
フィクションだからこそのご都合主義の良さも感じさせてくれる。

1クールで収めるために余計な要素やシーンがない。
だからこそ「もっと南極での彼女達を見てみたい」を思ってしまう。
あくまでも青春群像劇のメインの舞台が南極というだけであり、
舞台そのものがメインではないことはわかっているのだが、
いっそ2クールくらいでこの作品を味わいたかった。
いい意味でも悪い意味でも綺麗にまとまりすぎている。

ただ1クールのアニメにこれ以上のものを求めるのは酷だ。
南極を舞台に女子高生たちの青春物語をきっちりと味わえて、
最後に「あー面白かった、もっと見たかった」と思わせてくれた作品だ


引用元:©YORIMOI PARTNERS

個人的な感想

個人的には予想以上に面白かった作品だ。
感動した!という感想が非常に多かったため、
ちょっと見るのをためらったのだが、感動というよりは青春模様が素晴らしく、
南極という舞台の面白さもきっちり感じさせてくれた。

特に「高橋 めぐみ」は予想外のキャラクターだった
脇役でしかなかったはずの彼女がこの物語のオチを飾ることになるのは、
予想以上に出来過ぎでしかなく、あのラストシーンは本当に
「やられた!」と声を出したくなるほどだった(笑)

売上的には7600枚と大健闘。
この手のアニメは売れにくい部類ではあるのだが、
しっかりと評価され、しっかりと売上に反映されているのは嬉しいことだ。
こういった良質な1クールアニメがもっと増えることを切に願いたい。

余談だが、この作品を気に入った人は
実写映画の「南極料理人」もおすすめしたい。
終盤の生活風景など似てる所も多く、味のある作品だ。