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今世紀最大の爆死作品「ChaO」レビュー

2.0
ChaO 映画
画像引用元:(C)2025「ChaO」製作委員会
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評価 ★★☆☆☆☆(25点) 全89分

映画『ChaO』予告/ 8月15日(金)公開

あらすじ 船舶をつくる会社に勤める平凡な青年ステファンは、ある日突然、人魚王国の姫チャオから求婚される。 引用- Wikipedia

今世紀最大の爆死作品

本作品はStudio 4℃によるオリジナルアニメ映画作品。
監督は青木康弘、制作はスタジオ4℃

なぜ…

Studio 4℃といえばアニメオタクならば聞き覚えのある人も多いはずだ。
最近だと「えんとつ町のプペル」や「海獣の子供」、
少し前のものだと「鉄コン筋クリート」などを手掛けており、
やや癖はあるものの、素晴らしいクォリティのアニメを制作している。

ただ、あまり興行収入が多い作品を手掛けているという印象はなく、
いわゆる「質アニメ」っぽいものを多く手掛けている会社だ。
そんな会社が構想に7年もかけ、作画枚数は10万枚にもなった作品なのだが、
多くの人がこの作品のことを知らない。

圧倒的な宣伝不足だ、劇場では少し予告も流れたようだが、
世間の知名度はかなり薄く、しかも、公開時期も最悪だ。
アニメなら鬼滅の刃にクレヨンしんちゃん、
実写ならジュラシック・ワールドに国宝と様々なジャンルの映画が
ひしめく激戦区のなかで公開している。

「ひっそり」公開されるならまだわかる。
だが、なぜかこの作品の上映館は300館を超えている(苦笑)、
もはや笑えないほどの無謀な挑戦だ。
この規模で公開するのはコナンやジブリや鬼滅の刃ならわかる、
だが、全くもって知名度がないオリジナルアニメ映画でやる規模ではない。

配給が東宝だからこその規模なのはわかるが、
作品の善し悪しに限らず、商業展開が無謀だ。
実際、公開日の着席率は3%であり、私が観に行ったときも
ほぼ1日中公開していたが、私の回は私一人しかいなかった。

これほどまでに「爆死」している作品はなかなかない。
ポッピンQは平成最大の爆死映画として語られることも多いが、
それを余裕で超えている。

ある意味、鬼滅の刃と全くの逆を行っている作品であり、
そういう話題しかネット上にも出てこない作品だ。
逆に気になってきてしまうのがオタクというものだ(笑)

共存人魚

この作品の世界は独特だ。
「人魚」という種族が認知されている世界であり、
人間と人魚はわだかまりはありつつも、共存している。
しかし、船のスクリューで魚が巻き込まれることも多く、
それが社会問題にもなっている。

映画の冒頭では本編から未来の時系列が描かれており、
人間と人魚の共存がより広がった世界が描かれている。
バスや電車には交通手段には小さいプールのようなついており、
そこには人魚たちが居て一緒に移動している。

そうかとおもえば人魚たち専用の水の交通レーンがあったりと、
人間と人魚の共存している世界というものをこれでもか!と描いている。
まるで「ドラえもん」で描かれた未来の世界、
そんな未来の世界をこの作品は人魚と共存していたら?という
独特の角度で描いて見せてくれている。

この独特な世界観は面白いが、
未来の主人公をとある記者が追いかけてくるという所から
物語が始まるのが非常にわかりにくい。
そもそも見ている側としては映画冒頭が未来の時系列から始まっていて
誰が主人公なのかもわからない状況だ。

それなのに主人公ではない記者のキャラが
街中を走り回る姿を見せられる。
この作品はとにかく街並みを見せようとし必死だ。

背景

主人公は船の上で暮らしており、過去になにかあった雰囲気を醸し出している。
そんな主人公の過去が本筋だ。場面が変わるとまた街並みを見せられる。
主人公が家から会社に移動したり、別のところに行く展開になると
毎度のようにご丁寧に「背景」を描いている。

この背景はたしかにすごい、手書きで描かれたテイストの背景は
非常に練り込まれており、とんでもない密度になっている。
だからこそこの作品の独特な世界観を後押ししているともいえるのだが、
制作側が7年かけて10万枚も積み上げて作画を見せたくて必死だ。

舞台が人魚と共存している世界であり、しかも、
「日本」ではなく「上海」が舞台だからこそ、
余計にファンタジー感が強まっている感はあるものの、
何度も何度も街並みを見せられるのは流石に飽きてくる。

確かに背景の描写はすごい、密度もとんでもない。
だが、それをひたすら見せられても飽きる上にテンポが崩れてしまっている。

キャラクターデザイン


この作品の最大の欠点はキャラクターデザインだ。
キービジュアルやPVをご覧になっていただくとわかりやすいが、相当にクセがある。
ストレートに可愛いやかっこいいというキャラクターデザインになっておらず、
特に「鼻」の描写はかなり特徴的だ。
更に女性キャラクターが化粧をしていると余計にキワモノ感が凄まじい。

鉄コン筋クリートもかなりクセのあるキャラデザではあったが、
この作品はそれ以上だ、キャッチーさというものがない。
ヒロインの「人魚姫」である「チャオ」は魚のときは可愛らしいのだが、
人間の姿になるとクセ強なキャラクターデザインになってしまい、
可愛さが薄れてしまう。

序盤をすぎるとキャラクターデザインに慣れてはくるのだが、
モブキャラなどがクセを超えた「異系」の存在になっていることもある。
頭だけが非常に大きかったり、手足のバランスがおかしかったり、
もはや妖怪みたいなモブキャラもあちこちにいる。

主人公とヒロインの恋愛がニュースになるほどの話題であり、
「魚と結婚するなんて」みたいな主人公の台詞からも、
人間と人魚が結婚したから生まれたハーフがあちこちにいるわけでもないのだろう、
おそらく主人公とヒロインが初の異種族婚なのかもしれない。

それなのにバランスのおかしいモブキャラやサブキャラばかりで、
画面の情報量は多いのだが、違和感のある情報になっており、
サブキャラやモブのキャラデザがノイズになっている。

そんな、ふとした瞬間にキャラクターデザインの違和感に
素に戻ってしまうような感覚にすらなる部分も多く、
あまりにも癖のあるキャラクターデザインは人を選びすぎる。
このあたりも興行収入が伸びない原因の1つなのだろう。

人魚姫

クセの強いキャラクターデザインと
情報量の多い作画のせいで分かりにくくなっているが、
この作品は一言で言えば「人魚姫」的なお話だ。

人間に恋をした人魚のお姫様が陸に上がり、
色々とあり1度は海に戻るものの、人間が愛に気づき
人魚姫を取り戻し、幸せに暮らしました、めでたしめでたしだ。
根本にあるのはおとぎ話的なシンプルな話なのだが、
そこに肉付する要素の数々が余計だ。

そもそも序盤から脈絡がない。
記者の男が出てきたかと思ったら未来の主人公と出会い、
過去を語り、過去の時系列に物語が移り、
主人公が自分の開発したエアージェットという
魚を殺さない推進システムを開発しようとしている中で、
船の上で掃除をしていたら唐突にヒロインである人魚姫が出てくる。

主人公はわけがわからないなかで人魚姫に求婚され、
トントン拍子に結婚まで話が進む。
人間と人魚は難しい問題を抱えており、外交的な問題を解決するためにも
周囲が利用した部分はあるのだが、主人公は蚊帳の外だ。
彼に主体性のようなものがなく常に流されている。

人魚姫であるチャオは昔主人公に会ったことがあるようなことを
匂わせているのだが、主人公には記憶がない。
このあたりの伏線もバレバレでしかなく、
伏線があまり効果的に作用していない。

チャオ

チャオというヒロインはたしかに可愛らしい。
人魚だからこそ人間の暮らしや文化を理解しておらず、
それでも主人公のために必死に人間というものを学ぼうとしている。
最初はデンキウナギだったご飯がきちんとしたお弁当になり、
楽しそうにデートをする姿は乙女だ。

ただ、そんなヒロインに対して主人公の魅力がない。
ぼーっとしてたらなんか結婚して、自分の仕事もどんどん上手くいく。
全ては人魚姫と結婚したからこその話題性が後押ししただけなのだが、
この作品の主人公に主人公としての魅力がない。

中盤でチャオが主人公を驚かせようとロボットに乗って大暴れする
という意味不明な展開があるのだが、
それが起きると仕事がめちゃくちゃになり自暴自棄になり、チャオを突き放す。

起こるトラブルがあまりにも脈絡がなく、
家の中で花火をぶちあげたり、ロボットで大暴れしたり、
チャオというヒロインに振り回される主人公を描きたかったのはわかるが、
脈絡のない展開と主人公に対する好感のなさもあいまって
いまいちストーリーの盛り上がりが生まれない。

デートシーンだったり、帰宅するシーンだったり、
ひたすらに街並みを見せ、ロボットなどのアクションシーンや
追ってくる記者から逃げるカーチェイスシーンなど
アニメーションとしての見ごたえがあるところは多いのだが、
肝心のストーリーが微妙すぎる。

はぁ?

終盤で主人公はようやくチャオとの過去を思い出すのだが、
この「過去」が問題だ。
主人公の両親は漁師だったのだが、彼が幼い頃に亡くなっている。
その原因は「スクリュー」だ。

だからこそ主人公は魚や人を傷つけないスクリューを使用しない
エアージェットというシステムを開発しているというのは
理解できるのだが、そもそものこの両親の死に方が
あまりにも意味不明でしかない。

まず、両親と幼い頃の主人公が乗っている船のスクリューに
「イルカ」が引っかかってしまう。
そこで主人公の母が船の下に潜り、イルカをスクリューから解放する。
だが、母の髪の毛がスクリューにひっかかってしまう。

ここまではいい、だが、問題は父親だ。
慌てた父親はすぐに海に飛び込み、母を助けようとするのだが、
その過程で「スクリュー」は動き出す(苦笑)
完璧なミスだ、父親がエンジンを止めておかなかったせいで、
父親と母親がスクリューに巻き込まれて死んでしまう。

現場猫もびっくりな人災にあっけにとられてしまい、
終盤の話の展開が頭に入ってこないほど
主人公の父親が馬鹿すぎる。

スクリューのせいで主人公が孤独になってしまった、
孤独で可哀想な主人公の唯一の支えがチャオだったという
ストーリーにしたいのはわかるのだが、
頭の中では現場猫が「よし!」と指を指している。

ラストの展開自体は予定調和なハッピーエンドでしか無く何の意外性もない。
両親の死の原因だったり、そもそも人魚の姫であるチャオが
なぜ「魚の腹に居たのか」など語られない部分で疑問に浮かぶ分もあり、
構想9年の割に、脚本がさっき考えましたみたいな
レベルにしかなっていないのは残念なところだった

総評:構想9年!作画枚数10万枚の大赤字映画

全体的に見て微妙な作品だ。
確かにアニメーションのクォリティは高い、作画枚数10万枚は
伊達じゃないと感じさせるほどの密度のある作画は、
この作品の癖のある世界観を確立させており、
情報量の多い映像を90分しっかり見せてくれる感じだ。

しかし、その90分の中で意味のないシーンが多い。
背景を見せるためにキャラクターを歩かせるシーンを長回しで映したり、
ロボットアクションシーンをやりたかったのか、
唐突にヒロインがロボットに乗ってきて大暴走したりと、
ストーリーの中で贅沢なアニメーションを活かしきれておらず宝の持ち腐れだ。

ストーリー自体は現代的な人魚姫的なストーリーであり、
そこに新鮮味を感じることはない。
ジブリで言えば崖の上のポニョや、最近だとバブルなんかも
人魚姫をモチーフにしており、ディズニーも実写映画化したばかりだ。
人魚姫というネタ自体がすでに使い古されている。

その人魚姫というネタ自体を活かしきれているわけでもなく、
普遍的かつありきたりなストーリーで、王道の面白さすら感じない。
予想外だったのは主人公の両親の事故の原因ぐらで、
あとは「こうなるんだろうな」という話の結末に
寄り道をしながらたどり着いた印象だ。

キャラクターデザインのクセの強さや作画の圧巻ぶりなど
いつものStudio4℃らしいところもあるものの、
これまでのように原作のある作品ではなく、
完全オリジナルの作品故に「脚本」の拙さが目立ちまくっている作品だった。

個人的な感想:逆鬼滅の刃状態

いわゆるアニメ映画6000人族以外は見ておらず、
いろいろな映画館の予約状況を見てもスカスカだ。
なぜここまで勝負を仕掛けたのか本当に謎でしかない。

構想9年、作画枚数10万枚、300館規模で公開なのに
おそらく興行収入は行って5000万、数字すら出ないレベルだろう。
とんでもない大赤字なのは間違いない。
鬼滅の刃でここまで興行収入が盛り上がってる中で、
そんな鬼滅の刃と真逆を行くような作品が公開されているのはある意味奇跡だ。

映像のクォリティは一見の価値はあるものの、
この作品自体を人に勧めたくなるという印象は受けず、
おそらく今週末からがっつりスクリーンを減らされ、
下手したら8月中には上映が終わるかもしれない。

今しか見れないかもしれない貴重なアニメ映画、
あなたもアニメ映画6000人族になるなら
今がチャンスかも…しれない。

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