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「劇場版 デジモンアドベンチャー」レビュー

4.0
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評価 ★★★★☆(70点) 全20分

あらすじ 郊外の団地に住む太一・ヒカリの幼い兄妹のもとに、ある時PCからタマゴが現れ、中からコロモンと名乗る不思議な生命体が誕生する。
引用- Wikipedia

これが天才・細田守の演出

本作品はデジモンアドベンチャーの初映画作品。
監督は本作で初監督を務める「細田守」、脚本は吉田玲子。
制作は東映アニメーション

前日譚

この作品はデジモンアドベンチャーと銘打っているが、
本編を見ていなくても問題ない作品になっている。
あの彼らの「冒険の物語」が描かれる4年前の話。
いわゆる前日譚だ。

「パソコンの中から謎の卵」が出てくる。
彼等はそれがデジモンであることを知らない、親にも言えず、
こっそりと「それ」を育てることになるというところから物語が始まる。
幼い主人公である太一と、彼の妹であるヒカリ。
この作品はそんな二人が体験した不思議な春休みの思い出の物語だ。

たった20分の壮大な物語の前日譚。

ボレロ

冒頭から印象的な曲が流れる「ボレロ」だ。
独特なその曲は独特な雰囲気を後押ししており、
この作品はその一曲のみしか使われない。

どんな場面でも、流れるのはボレロのみ。
夜中に目が冷めたときも、朝起きたときも、卵から不思議な生き物が生まれても、
どんな状況でも「ボレロ」を流す。
強烈にこの作品の印象が「ボレロ」という曲とともについてしまう。

小さい子供が見た不思議な夢のような現実という空気感を
作品全体で使われる「ボレロ」はこの作品の象徴のような曲だ。
兄妹の意思とは関係なく育ち続ける「デジモン」。
彼等はそれを見ていることだけしかできない。
だからこそ、他の手段がないことを示すように1曲だけを流し続ける。

単調に、繰り返し、繰り返し。
彼等はこの作品において主人公ではあるが「傍観者」だ。
幼いがゆえに何もできず、見つめることしかできない。

日常の中に生まれた「不思議」な出来事。
のちに選ばれし子供なる彼等が体験していた不思議な出来事。
この空気感の演出こそが「演出家・細田守」の真骨頂であり、
たった20分に彼の才覚が詰め込まれているような空気感の作り方は
さすがとしか言いようがない。

作画

この作品は最近のデジタル作画とは違い、まだセル画で作られていた時代だからこその
雰囲気と重厚感がある。
2人が育てていたデジモンが進化し、彼等の意思とか関係なく、暴れまわる。
その際の「重厚感」はこの時代だからこそのものだ。

重みが違う。デジタルというものはどうしてもセル画比べると
画面から感じる絵の厚みが薄くなってしまい、最近はそこを
演出で上手くカバーしている作品がほとんどだが、
この作品の時代は絵が醸し出す重みのみで、重厚感を演出している。

まるで特撮の怪獣映画だ。
言葉も通じず、意思の疎通もできない存在になった「アグモン」。
そんな未知の存在を目の前にして幼い2人が味わう恐怖。
思わずぞわっとするような演出でまるでホラーのように、怪獣映画のように、
兄弟な力に逆らえないことによる圧迫感すら感じさせる。

言葉足らずな妹とまだ子供な太一という少年のたった2人の
少ない台詞。そんな少ない台詞の中で説明と言えるものは殆どない。
彼等には何もわからない、デジモンという存在も、デジタルワールドの存在も、
今目の前で何が起こっているのかも理解の範疇を超えている。

子供の眼線で描かれる日常の中に生まれた不思議な出来事による恐怖。
2体のデジモンが二人の目の前で戦う様子をただただ見ていることしかできない。
流れるボレロはシーンによって感じ方がかわり、
唐突に中断するボレロと、唐突に流れ出すボレロがよりこの作品に独特な
雰囲気を作り上げている。

前日譚。彼等はただ見つめることしかできない。
のちに彼等は知ることになる、だが、このときはただ見つめることしかできない
幼い子どもたち。しかし、主人公の太一にだけはわかっている、
コロモンとかわした「友達の印」、太一とヒカルの思いで立ち上がるコロモン。
幼い彼等に唯一できることを必死でやる姿に涙すら溢れてきてしまう。

「撃て」

進化したグレイモンへの最初で最後の命令。
そんな前日譚は「ボレロ」とともに終り、
デジモンアドベンチャーという冒険譚が「Butterfly」で始まる。

総評:だから今ぼくはここにいる

全体的に見てたった20分だが濃厚すぎる作品だ。
「ボレロ」のみを使った作中の音楽による演出と空気感づくり、
この時代の作画だからこその厚みと重厚感を感じさせる怪獣バトルと、
それに抗うことができずただただ見ていることしかできない2人の兄妹と、
選ばれし子供たちの前日譚がキレイに20分で描かれている。

本編を見ていなくと問題ないが、本編を見ているとより
この作品の面白さが突き刺さるはずだ。
あくまで前日譚であり、それ以上でもそれ以下でもない部分はあるものの
前日譚としての完成度は高い。思わず本編をあの頃に戻って
もう1度TVの前で見たくなるような、そんな前日譚だ。

独特な空気感を演出することにかけては天才とも言える細田守さんの
初監督作品にふさわしい空気感と雰囲気があり、
デジモンの映画でありながら「ボレロ」という曲をコンサートで1曲、
じっくりと聞いたような満足感と強烈な印象の残る作品だった。

個人的な感想:久しぶりに

10年、下手したらそれ以上ぶりに今作を見たが
10年以上前に始めてみたときよりも衝撃的な作品だった。
細田守節とも言わんばかりの演出の妙は流石の一言であり、
その凄さをたった20分で感じられる。

演出家・細田守の凄さを味わえるそんな作品だ。
デジモンを知らない人も知ってる人も是非見てほしい一作かもしれない。

「」は面白い?つまらない?

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