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「雲のむこう、約束の場所」レビュー

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評価 ★★★☆☆(43点) 全91分

雲のむこう、約束の場所 予告編 (The Place Promised in Our Early Days)

あらすじ 産国家群「ユニオン」は「エゾ」を支配下に置き、島の中央にとほうもなく高い、純白の塔を建造しつつあった。しかしユニオンの意図は誰にもわからない。引用- Wikipedia

新海誠流エヴァ!?

本作品は新海誠監督によるオリジナルアニメ映画作品。
新海誠監督としては初の長編アニメ映画となり、
今までは基本的に個人制作だったが、今作は共同制作となっている。
制作はコミックス・ウェーブ

雑踏

映画の冒頭は「雑踏」が描かれる。
都会の険しい雑踏、行き交う人々、都会の街並みを描きつつ、
同時に田舎の街並みも描き、その2つがつながる「空」を描く。
建物に入り込む光まで美しく計算され描かれた背景は
さすがとしか言いようがない。

しかし、新海誠監督らしい景色の描写は流石ではあるものの、
何処かあまり飲み込まれない。
それは語りのせいでもある。

「新海誠監督」作品は基本的にモノローグで物語が進むことが多い。
この作品もそんな主人公のモノローグと語りで物語が進んでいく。
本作ではいわゆる芸能人声優が起用されており、
「吉岡秀隆」さんが起用されている。

彼の声の魅力はみなさんご存知のとおりだと思うが、
アニメだとやや聞こえづらく、音量バランスのせいもあるかもしれないが
BGMにかきけされてしまうようなか細い声での
モノローグがいまいち頭に入ってこない。

相変わらず、背景のクォリティに比べてキャラクターデザインは
厳しいものがあり、前作の「ほしのこえ」ほどではないものの、
背景から浮いてしまっているうキャラクターデザインはやや気になるところだ。

南北分断

この作品の世界観はややこしい。
「ユニオン」という共産国家群が「北海道」を支配下においており、
そのせいで北海道と本島は分断されてしまっている。
ユニオンは謎の「塔」を建設しており、
主人公はそんな見えるけど遠い場所である「塔」に憧れを持ち、
友人とともに「飛行機」を作っている。

中学生な彼らのちょっとした秘密。
まるで小学生が秘密基地をこっそりと作るように、
彼らも見えているが遠い場所である「塔」に訪れようとしている。
飛行機が完成したら3人であの場所に訪れる、
世界が緊迫した状況でも子供には関係がない。3人だけの約束、夢だ。

しかし、そんな中で3年の月日が流れる。
主人公とヒロインはある日を境に3年間会っておらず、彼らは大人になる。
大人になったからこそ、ただの夢だった飛行機も現実のものになる。

ここまではわかるのだが、塔の設定がかなり複雑だ。
塔は「平行宇宙」を観測するものであり、
塔の周辺はそんな平行宇宙に侵食され始めている。
90分ほどの映画の尺としてはかなり複雑な設定になっており、
あまり説明めいた説明も少ない。

序盤から淡々と世界観の描写やキャラクターの描写がつのり、
あまりフックとなる部分がない。
ひたすらに淡々と、美しい景色とともに静かに
ストーリーを見せられているような印象だ。

南北統一を目論むもの、塔の研究をしているもの、
眠り続けているもの、現実逃避をしているもの。
様々な視点と状況にいる人物が多く、
それが複雑に絡み合うストーリーは難解だ。

夢という初恋

どこかへいってしまったヒロインは3年間眠り続けている。
その夢を通して主人公とヒロインは繋がってはいるものの、
夢の中では主人公はただの傍観者で何もすることは出来ない。
飛ばさなかった飛行機という後悔、あのとき約束を果たせなかった後悔。
この作品は「初恋」というもの描いている。

初恋が必ずしも報われるものではない、
だが、何年たっても初恋は心にしこりのように残り続ける。
また会いたいという思い、あのときの約束を、
思いをどうにかしたいという思い。
それが「夢」や「塔」という形で比喩している。

故郷を離れても、誰か別の人と付き合っても、
ときおり「初恋」の人を思い出す。
初恋への執着、未練、そんなどうしようもないものが
「夢」と言うかたちで顔を出す。

そんな初恋が叶うなら、たとえ世界が滅んでも
「キミ」を選ぶ。
彼女が目覚めれば平行宇宙の侵食は一気に進んでしまう。
今いる「宇宙」の消失だ。

世界が戦争を、人同士が争っていても、たとえ宇宙が滅んでも、
彼らは「初恋」の人を救うために動く。
この作品は新海誠監督らしい「セカイ系」だ。

エヴァ

前作の「ほしのこえ」でもインターフェイスに
新世紀エヴァンゲリオンっぽさを感じたが、
この作品もかなり全体的にエヴァ臭が漂っている。
平行宇宙の侵食も「サードインパクト」のように見える描写があり、
塔の研究をしている施設の風景も「ネルフ本部」にすら見える(笑)

2000年代前半はこの作品だけでなく、
新世紀エヴァンゲリオンの影響を受ける作品が多かったが、
この作品もそんなエヴァの影響を強く受けているのを
前作以上に感じてしまう作品だ。

彼女を取り戻した代償、約束の場所をなくした世界。
そんな世界でも彼らは生き続ける。
素直にはハッピーエンドとはいえない、どこか余韻と
考察する余地を残したラストはこの時代だからこそのものだ。

総評:忘れられない初恋

全体的に見てかなり人を選ぶ作品なことには間違いない。
新海誠監督らしい美しい背景描写と街並み、
終盤の「ヴェラシーラ」の飛行シーンなど
作画だけ見ればこの作品の世界観と空気感をしっかりと
感じられるものになっている。

ただ、その一方でストーリーは複雑だ。
平行宇宙、南北に分断された日本という世界は
SFの基礎知識がなければついていけない部分がかなりあり、
ストーリーも終盤までかなり淡々と描かれてしまっている。

91分という尺では描ききれていない部分も多く、
「描きたいこと」を詰め込みまくっている感じもあり、
初の長編映画ということで気合が空回りしてしまっているような
そんな印象を受けてしまう作品だ。

中盤以降の「新世紀エヴァンゲリオン」を意識したような
描写の数々はこの時代特有のエヴァの影響、
セカイ系の台頭を強く感じるものであり、
この作品もある意味で「新海誠版エヴァンゲリオン」と
言えるような作品なのかもしれない。

音楽に関しても感動的な曲が流れているものの、
どうも「盛り上がりどころ」を音楽で作りきれていない感じもあり、
音楽の使い方やストーリー構成を含めて、
「長編映画」としての作り方がやや稚拙だ。

それでも新海誠監督らしい悲しい恋愛とSFの世界観を
感じられる部分はあり、最後のハッピーエンドとは素直に言えない
ビターなエンディングは作品の雰囲気と相まって
見る人の心に何かを残すような作品だ

個人的な感想:君の名は

2022年になって見返すと、この作品を下地に
「君の名は」が生まれたんだなと感じる要素が多い。

夢で会えない、次元のすれ違いは「君の名は」では
時間のすれ違いという風に描いており、
この作品を一般受けに、ローカライズしたものが
「君の名は」なのかもしれないと感じる作品だ

人を選ぶ作品ではあるものの、
2022年、「すずめの戸締まり」まで作り続けた新海誠監督作品を
見たあとに見返すと趣すら感じる作品だった。

「雲のむこう、約束の場所」は面白い?つまらない?

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