風立ちぬ

評価/★★★★★(83点)

風立ちぬ 評価

126分
監督/宮崎駿
声優/庵野秀明,瀧本美織,西島秀俊,西村雅彦,風間杜夫ほか

あらすじ
ゼロ戦設計者として知られる堀越二郎と、同時代に生きた文学者・堀辰雄の人生をモデルに生み出された主人公の青年技師・二郎が、関東大震災や経済不況に見舞われ、やがて戦争へと突入していく1920年代という時代にいかに生きたか、その半生を描く。幼い頃から空にあこがれを抱いて育った学生・堀越二郎は、震災の混乱の中で、少女・菜穂子と運命な出会いを果たす

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鯖の骨を美しいと思う男の物語

本作品は2013年に公開されたジブリ映画作品。
崖の上のポニョ以来の宮崎駿自身が監督を務めた作品だ
原作はモデルグラフィックスという雑誌で連載していた宮崎駿による漫画作品、
ジブリとしては初めて「実在の人物」を扱う作品だ
なお、当サイトとしては900作品目のレビューになる

基本的にストーリーは・・・青春というジャンルが一番近いかもしれない。
子供の頃から飛行機に憧れていた少年「堀越 二郎」は
少年時代に夢のなかで有名な飛行機制作者のカプローニと出会う。
彼に出会ったことで「堀越 二郎」は航空技術者になる決意を固めるが、
時代は戦争へ、そして震災が起こる・・・
という所からストーリーは始まる

恐らく本レビューを見に来た方が1番気になっているのは声優だろう。
新世紀エヴァンゲリオンの監督でお馴染みの「庵野秀明」が配役され
いい意味でも悪い意味でも強く話題になり、
有名な映画レビューサイトでは
「気になって画面に集中できない。せっかくの感動も台無しである。」とまで書かれていた。
私個人としても笑うつもりで見に行った(笑)

しかしながら、そんな私のゲスな期待を大きく裏切る。
「庵野秀明」氏の声は本作品の主人公に合っている。
確かに声の高さと少しかすれた声をしてはいるが、その声がこの映画の主人公である
「堀越 二郎」のキャラクター性とマッチしており、
後半にある囁くようなセリフは涙腺をくすぐられそうになるほどだ。

これは「堀越 二郎」のセリフに「叫ぶ」セリフがなかったことも大きいといえる、
あの声質と演技力なら恐らく叫ぶような演技だとかなり聞き難いものがあるだろうが、
飄々とした喋りと飛行機のことに夢中になると空返事しかしかしないという
「堀越 二郎」というキャラの喋り方と「庵野秀明」氏の声がなんともマッチしている。

むしろ、「堀越 二郎」の子供時代が冒頭で描写されるのだが
この子供時代を演じているの声のほうが厳しい。
wikipediaにのっていなかったため誰かはわからないのだが、
男の子のわりには妙に甲高い声をしており、最初に喋った時は驚いたほどだ。
冒頭で子供時代の高すぎる声というクッションがあったからこそ、
青年時代からの「庵野秀明」の声にすんなり入っていけたのかもしれない。

中盤であっさりとヒロインの父にヒロインとの付き合いを許してもらうシーンが有る。
ここのシーンはあまりにも「好きです」「はい、菜穂子さんです」と淡々にいっており
本当にあっさりと二人が付き合い結婚を約束するというシーンを描写しているのだが、
これは「庵野秀明」の演技というよりも「堀越 二郎」のキャラ性だ。

終盤ではヒロインに対し「綺麗だよ」と言うシーンが何回かあるが、
この「綺麗だよ」という言葉が本当に染み渡る。
結核という大病を患ったヒロインが寝巻き姿で寝ている姿を見て、結婚式での綺麗な艶姿を見て、
主人公は普段は飄々とした喋りなのに、自分の気持を抑えられず
思わず「綺麗だよ」と溢れるような演技は素直に感動した。

この「堀越 二郎」というキャラクターは独特だ。
震災が起こっても冷静で取り乱したりはしない、
目の前で飛行機が落下してもその先にあるものを見ている、
彼は決して慌てないし冷静なキャラクターだ。

そんな彼が素を見せるのが「里見菜穂子」だ。
彼女と彼は震災の時に出会っており彼女を助けている、そんな二人が偶然にも避暑地で再会する
彼はその時、挫折のようなものを味わっており
現実逃避のごとく避暑地のホテルに泊まりに来ている。
そんな中での再会。

「里見菜穂子」は「堀越 二郎」に対し震災の時に助けてくれた貴方は王子様のようだという
「堀越 二郎」はそんな彼女の純粋さや笑顔に惹かれたのかもしれない。
二人は「紙飛行機」を通じて言葉ではなく、気持ちをのせて心を通じ合わせる
恋に落ちるのは本当に一瞬で、あとは心を確かめるだけ。
そんなメッセージが伝わってくるようななんとも和ませるシーンだ。

そんなヒロインは「結核」という大病を患っている。
彼女が倒れたと聞けば、普段は冷静なはずの「堀越 二郎」は涙を流しながら、
列車にのりこみ彼女のもとへ急いで駆けつけ抱きしめる。

終盤ではヒロインも寂しさのあまり・・・というより自分の寿命を悟ったのだろう。
山の病院から抜け出し、「堀越 二郎」のもとへ訪れる
小さいながらも結婚式を上げるシーンの彼女の美しさは「堀越 二郎」と同じで
思わず「綺麗だ」とつぶやいてしまうほど美しい。
二人の初夜でのヒロインのあの一言は反則なまでの可愛さを生んでいた。

二人の生活は何ともはかなげだ。
小さな離れで彼の帰りを待ち、彼が持ち帰った仕事をしている横で布団に入りながら
彼の手を握ったまま眠りに入る。
彼がタバコを吸いたいといっても手を離させてはくれない。
「病気の妻の横でタバコを吸うなんて」という感想も見かけたが、
このシーンはそういう解釈ではない。二人には単純に時間がない。

劇中で「創造的人生の持ち時間は10年」という台詞がある。
これは堀越二郎の航空技術者としての時間を示唆しており、
そして結核という大病を患ったヒロインの時間をも示唆している。
二人が結婚したのはこの時間のうち5年以上の時がたっており、あと5年しか無い。
二人は二人の時間が短いと分かっているからこそ
タバコを吸う時間すらも二人にとっては一緒に居たい時間なのだ

そして10年がたち、
堀越二郎が作り上げた美しい飛行機は戦争から一機も帰ってこず、里見菜穂子は亡くなっている。
そして堀越二郎は夢のなかで再び彼女に再会する。

「生きねば」というセリフはCMなどで描写されていたが、
この「生きねば」というセリフは二人の10年を示唆しており、
そして堀越二郎の今後の人生をも示唆している。

ストーリーとしては決してハッピーエンドとはいえない、だがバッドエンドとも言えない。
実在の人物をモチーフにしたからこその「一人の男」の人生を見たような
そんな不思議な感覚に包まれてストーリーは終わる。

ストーリーの流れ的には展開の速さが顕著だ。
ストーリーとストーリーの繋ぎという部分が冒頭から中盤までほとんどなく
唐突に場面が入れ替わり時系列も1年や2年あっという間に過ぎていく。
この早すぎるストーリー展開は本来なら賛否両論とも言えるのだが、
ここで「ジブリの作画能力」と「ジブリの雰囲気作り」が後押しする。

圧倒的な絵力で展開が変わり時系列が変わっても
「これはどういう状況でどうなったか」をセリフやナレーションではなく絵で理解させる
壊れた街並みが復旧していたり、壊れた飛行機が目の前にあったり。
前のシーンと次のシーンで「何が起こったのか」を敢えて描写せず結果と結果をつなげ
見ている側に一瞬考えさせてそれをすぐに理解する。

下手な作画や雰囲気作りが下手ならば理解できない。
しかしながら、ジブリという制作会社だからこそ出来る作画と雰囲気のお陰で
絵と絵の繋ぎでストーリー展開がわかってしまう。

故に「アニメ」として面白い。
うつりゆく日本の背景の作画、飛び立つ飛行機、壊れる飛行機、列車、軍艦、
そういったあの時代の雰囲気を匂い立つほど描写しており、
メインである「飛行機」の動きは繊細だ。

飛行機が270kで飛び、400kの速度に挑み壊れる。
文章にすればたった1行でしかないシーンをじっくりとたっぷりと
爽快感を味わい、後に喪失感を味わう。
アニメーションという媒体だからこそ出来るシーンといえるだろう。

更に震災のシーン、これはもうセンスとしか言い用のない表現だ。
単純に画面が揺れる、建物が崩壊するという描写ではなく
地面がまるで波立つようにうねり、叫びが聞こえ、小石が震える。
宮崎駿という監督の「センス」が垣間見えるシーンの1つといえるだろう。

ストーリー自体は単調なのだが、アニメーションとして見ていて面白いシーンが多く
故に余計な言葉や余計なセリフがなくストーリーを進められる。
絵で見せて、セリフで納得させて、アニメーションとして理解させている

全体的に見て、この作品は傑作だ。
混沌とした時代の中で自分の夢に生き、一人の女性を愛し自分の夢を実現する。
まっすぐに自分に正直に生きて、まっすぐに女性を愛する。
そんな一人の男の人生を味わうことの出来る作品だ。

そんな人生を素晴らしい作画と音楽が後押ししする。
単調なストーリー展開を素晴らしい雰囲気で包みあげ、
展開が早いからこそ飽きずに、そしてじっくりと「堀越二郎」の人生を味わえる。
クリエイターとしての10年、病気を患った女性との10年、
そんな10年の最後に「生きねば」というセリフの重みが伝わってくる

私はこの作品の中での「風」の表現が好きだ。
飛行機の機体に沿うように風通ったり、吹き抜けるような風がふいたり・・・

「里見菜穂子」という人物が死ぬというのは予告編やいろいろなサイトを見れば
すぐ分かることなのであえて書いてしまうが、
「里見菜穂子」が明確に死ぬシーンは描写されていない。
「里見菜穂子」という人物は自分がもっとも綺麗な時間、
死ぬ直前ではなく、その少し前、自分が綺麗な姿な時を彼と過ごし、
そして彼の元を去る。

そんな彼女との別れを「風」で表現しているシーンは私は本当に好きだ。
あの風が吹いて彼が何かを悟ったような表情をする。
言葉でもない、絵でもない。声でもない。
アニメーションという表現の塊があのシーンにはあった。

欠点を言うならばこの作品は好みが分かれやすい。
特に子供に見せても一切面白く無いだろうし、親子連れで見に行くような作品ではない
声に関しても「庵野秀明」氏の声が気になる方もいるだろう。

ストーリー展開の速さでシーンの細かい描写がないため
「震災から復興する日本の姿」や「主人公が戦争に加担したという葛藤」シーンなどはない。
だが逆に、そういった要素を描けば変に重くなってしまい
ここまでストレートにストーリーを楽しめなかっただろう。

男性や女性というものの価値観でもこの作品に対する評価は違うかもしれない。
堀越二郎は仕事一筋で仕事をやめてまで愛する人のそばにはいかない、
里見菜穂子は自分の綺麗な姿だけを見せたい、勝手に去っていく。
私個人はそんな彼を自分に正直、そんな彼女を儚げで美しいと思ったが、
価値観次第では反対の印象を受けるかもしれない。

だからこそ酷評する人の気持ちもわかる。
ジブリにこんな作品を求めていないという人の気持ちもわかるし、
やっぱり声が気になるという人の気持ちもわかる。
ストーリーが単調で細かい描写がないため退屈だという人の気持ちもわかる。

だが、そんな人の気持ちもわかるのだが
私は「面白い作品だった」と声を上げたい。
本当は300行以上のレビュー記事になってしまっていたのだが、
あまりにもストーリーの解説をして過ぎてしまいかなり削りました。
それほど見た後にしみじみとシーンを思い返すことの出来る映画だ

個人的には堀越二郎が序盤で「鯖の味噌煮」を食べ、
そんな鯖の骨の曲線と美しいといい、それを飛行機に当てはめる描写が好きだ
彼は海軍から飛行機を作れと言われ、「銃火器がなければ」飛ぶ理想の飛行機を作ろうとしたり
飛行機バカともいうような彼に不思議な愛着を感じてしまった。

本当に強く好みが分かれる作品ではあるが、
少なくとも「アニメーション」としての面白さは存分にある。
最後の最後まで★5にするか★4にするか迷ったのだが・・・
あえて批判覚悟で★5にしたい。

もう1度じっくりと見たいと感じさせる作品だ。
2回目は映画館ではなくDVDで他人の目を気にしないところで
1人でじっくりと細かいところも見てみたい。
久しぶりにジブリの映画で「もう1度見たい」と素直に思った作品だ

DVD,心待ちにしています。

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