評価 ★★★★★(85点) 全6話
あらすじ ハッピーを広めるため地球に降り立ったハッピー星人のタコピーは人間の女の子しずかと出会う。 引用- Wikipedia
禁断の問題作
原作は漫画な本作品。
監督は飯野慎也、制作はENISHIYA
全6話
本作品は地上波放送ではなくWEB配信のみであり、
しかも全6話しかない。原作が全2巻とかなり短いという部分もあるが、
「内容が過激」だからこそ地上波でできないという部分もある。
物語はしずかちゃんがタコピーと出会うところから物語が始まる。
ハッピー星人であるタコピーはタコのような見た目をした宇宙人であり、
宇宙にハッピーを広めるために旅をしている。
そんな中で出会ったのが「しずかちゃん」だ。
タコピーには「悪意」がない。悪意というものを、そもそも理解できず、
自分に食べ物を与えてくれた「しずかちゃん」に恩返しをしたい一心で、
様々な道具をしずかちゃんに貸そうとする。
簡単に言えばドラえもんだ、だが、タケコプターのような道具を渡そうとしても、
しずかちゃんは暗い表情を浮かべるのみだ。
「だって空なんか飛べたって何も変わらないし」
彼女の様子は不穏だ、妙に痩せており、綺麗とは言えない格好をしている。
同級生たちは彼女の陰口を言い、彼女をいじめている。
下敷きを毎日のように壊しながらも笑っている始末だ。
「生活保護の金で買えるでしょ」
セリフやアニメーションで主人公であるしずかちゃんの現状を理解させてくれる。
彼女の母が何をしているのか、父の不在、いじめの現状、
あまりにもつらすぎる現状だ。
彼女は絶望している、人生そのものに、生きることそのものに。
だが、彼女にとって犬の「チャッピー」が唯一の生きがいだ。
チャッピーとの日々があるからこそ、彼女は生きていける。
そんな現状を「タコピー」は理解できない。
悪意というものを理解できないタコピーは善意のみしか存在しない。
彼女がタコピーの前にボロボロの姿になって現れても、
チャッピーを失う何かがあっても、タコピーは理解できない。
理解できないからこそ間違う。
絶望した彼女の前に「長いリボン」型の道具をタコピーは提供してしまう。
友達と仲直りできる道具を使い、しずかちゃんは自らの命を断つ。
なんで死んだのか、タコピーは理解できない。
自らが掟を破ったから死んだ、そう思い込んでいる。
この作品はタコピーという存在が理解する物語でもある。
タコピーはしずかちゃんという少女を救うために、時間を遡る。
アニメーション
この作品の作画のテイストは面白い。
最近は「キレイな作画」のアニメが多く生まれているが、
この作品は敢えて作画に手書きのような荒々しさが残っている。
テイストとしては「ルックバック」に近い、
原作の絵のテイストは残しつつ、あえて作画を綺麗にしないからこそ、
より「生々しさ」を感じさせてくれる。
ちょっとした「しずかちゃん」のシャツのよれやしわ、
机に書かれた悪口の数々、荒々しさが残っているからこそ、
それが生々しさへと変換され、より見ている側にリアルに突き刺さる。
首をつり揺れるしずかちゃん、
同級生であるまりなちゃんに殴られ残る頬の後、
悪意しか感じないいじめっ子の「表情」にゾワゾワとしたものを感じさせる。
そんな悪意にタコピーも触れていく。
彼女の現状は何も変わらない。
同級生には彼女を守ろうとしてくれる人もいる、だが、変わらない。
先生も見て見ぬふりだ。
まりなちゃん
しずかちゃんをいじめる「まりなちゃん」。
彼女がなぜしずかちゃんを過度なまでにいじめるのか。
それは彼女の父のせいだ、しずかちゃんの母は夜の仕事をしており、
まりなちゃんの父と関係を持っている。
それを、まりなちゃんの母も、まりなちゃんも知っている。
まりなちゃんの家庭環境も最悪だ。
家庭が崩壊し、虐待を受ける二人の少女が、
互いに傷を舐め合うのではなく、互いに傷口に塩を塗り込んでいる。
まりなちゃんにとって、しずかちゃんは
「自分の父親を誘惑して自分の母を傷つけた娘」だ。
まりなちゃんは自らの現状をどうにかすることはできない、
だからこそ、しずかちゃんにどうしようもない思いをぶつけている。
過度ないじめはどうしておこるのか、それは「環境」ゆえにだ。
本来、人を傷つける行為には子どもでも親からモラルを教わり、
ブレーキが掛かる、だが、その環境がおかしければ
モラルというブレーキは壊れてしまう。
しずかちゃんには何も悪いことはない。彼女は犠牲者だ。
だが、まりなちゃんも同時に「家庭の犠牲者」だ。
彼女も加害という安易なストレス解消方法に走った悪いところはある、
しかし、彼女もまた犠牲者だ。
彼女なりに自らの父に、しずかちゃんの母に刃を向けようとしている。
幸せだった家庭がしずかちゃんの母によって壊されてしまった苛立ちを
子どもながらに消化しようとしている。だが、それは消化しようのない思いだ。
だからこそエスカレートしてしまう。
一時的にストレス解消になるかもしれない、だが、解決はしない。
理解
タコピーの思いは純粋だ、しずかちゃんを笑顔にしたい。
しずかちゃんが死なないような未来にたどり着きたい。
だが、何度も何度も何度も何度も繰り返しても、
タコピーは理想の結末にたどり着かない。
そんな必死な彼の行動は「まりなちゃんの死」という最悪の結末へとたどり着く。
「本当にこれいいのか?」
だが、タコピーのそんな衝動的な行動はしずかちゃんの笑顔につながる。
自らをいじめる存在、自らのストレスになる存在が居なくなる、
それは1番簡単な方法だ、だが、しずかちゃんは
まだモラルという名のブレーキがあるからこそ、
相手を殺すという発想は生まれなかった。
しかし、タコピーはそれをやってしまう。
あまりにも予想外な展開に、この物語の結末はどこへいくのか
1度見てしまうともう目が話せない。
純粋に、嘘偽り無く、「まりなちゃん」を殺した「タコピー」に
涙と笑顔を浮かべるしずかちゃんの表情を
見ている側もどう消化していいのかわからない。
タコピーもまた「理解」しきれない。
他人の悪意を、しずかちゃんの問題を、まりなちゃんの問題を、
東くんの問題を、タコピーが理解できないからこそ、
どんどんと状況は最悪になっていく。
タイムリープものとしても最悪な状況だ。
あずまくん
そんな「まりなちゃん」の死体を同級生である「あずまくん」に見られてしまう。
彼はモラルをもっている。宇宙人がやったということを信じつつも、
世間がそれを信じないことを理解できる。
しずかちゃんが少年院に行くことは確実だ、
あずまくんもまた「歪んだ家庭環境」に生まれている。
優秀な兄をもち、そんな兄と常に比べられる。
だからこそ「しずかちゃん」に「頼られる」ことで自尊心を満たす。
歪んだ少年少女が歪んだ感情をぶつけ合い、歪んだ結末を引き起こす。
その原因は「親」だ。
しずかちゃんの親が、まりなちゃんの親が、あずまくんの親が、
彼らの親が歪んでいるがゆえに子どもたちもまた歪んでしまっている。
しずかちゃんがいい例だ、彼女の母は男を惑わし生活している。
生活保護を受けているようだが、それも収入を偽装したものだろう。
そんな親を見ているからこそ、しずかちゃんもまた
悪意なくあずまくんという「男」を自分のために利用する。
まりなちゃんの「暴力」も、しずかちゃんの男へ媚びることも、
親がそうしてきたからこそだ。
そうすることを見てきた、だからそうすることしかできない。
あずまくんもまた「他人の期待」に答えることしかできない。
それが罪であることも自覚しつつ、そうすることしかできない。
母の期待に応えられることを求められ続けてきた、
だからこそ、「しずかちゃん」の期待に答えることで
自分というものを保とうとしている。
母から見放されたことでより、しずかちゃんに依存する。
そんな「あずまくん」を、しずかちゃんは利用する。
未来
まりなちゃんを消し、あずまくんを利用し、
しずかちゃんは父がいる東京へとたどり着く。
彼女の愛犬であるチャッピーは父のもとに居る、
そんな母の「嘘」を信じることでしか彼女が生きる希望を見いだせない。
自分にとって要らない存在、邪魔な存在は消してしまう。
そうすれば楽になることをしずかちゃんは学んでしまっている。
そんな中でタコピーは忘れていた記憶を思い出す。
タコピーは彼女たちが高校生の時にこの地球に訪れ
「まりなちゃん」にであっている。
離婚した母と暮らし、虐待を受ける日々はもう消えない傷が残っているが、
あずまくんと付き合うようになっている。
「しずかちゃん」の自殺は未遂で終わり、転校生として戻ってきている。
そんなしずかちゃんにあずまくんは惚れ、
まりなちゃんも自らの命をたつ。悪循環だ。
タコピーがなにをしても、現状は変わらない。
何度も時を巡っても、タコピーは「理解」しない。
まりなちゃんを笑顔にするために、未来からしずかちゃんを殺しに来たタコピー。
だが、しずかちゃんもまた犠牲者だ。
だからこそタコピーは悩む。
まりなちゃんの未来を知り、しずかちゃんの今をしり、
彼はようやく「理解」しようとする。
無知とは罪だ、理解しないことも罪だ。
タコピーの原罪はそこにある。
おはなし
悪意なき人間は居ない、完全なる聖人のような人は大人であろうと
子どもであろうとほとんど居ない。良いところもあれば悪いところもある。
それが人間だ、善意もあれば悪意もある。
しずかちゃんにも善意があれば悪意があり、
まりなちゃんにも善意があれば悪意がある。
それをタコピーは最終話、ようやく理解する。
しずかちゃんの最後の叫びはあまりにも悲しい。
彼女はまだ子どもだ、どうしたらいいかわからない。
どうしたらいいのかを誰かが教えてくれなかった。
タコピーはそんなしずかちゃんの話をきちんと聞き、理解しようとする。
タコピーの星では争いはおきない「おはなし」ですべて解決する。
人間は話していることが本心とは限らない面倒な生物だ。
だからこそ、タコピーは理解できない。
おはなししているはずなのに、おはなしができていない。
しかし、終盤で「あずまくん」は
「兄」とおはなしすることで現状を打破している。
兄とのおはなし、素直に言い合う喧嘩が相互理解に繋がり
現状を打破するきっかけになる。
この作品に出てくる大人は子どもを理解していない。
しずかちゃんの両親はしずかちゃんをきちんと見ていない、
まりなちゃんの両親も、あずまくんの両親もだ。
誰も子どもたちの話をちゃんと聞いて理解しようとしていない。
だからこそ、この問題が起こっている。
理解
タコピーは最終話でようやく理解する。
「自分」の存在がここまで大きな事件につながっていることを。
だからこその自己犠牲だ、自らの命と引換えに、
自らと出会う前に時間をも巻き戻す。
だが、すべてが無かったことになったわけではない。
記憶はなくなってしまった、だが、残っているものもある。
タコピーがいなくなりつつも、タコピーの存在をきっかけに
まりなちゃんとしずかちゃんが「おはなし」をするきっかけを
タコピーが作り上げている。
長い長い旅路の果て、何度ものループの中でタコピーがたどり着いた
「おはなし」という答えだ。
最初に地球にやってきたときは「まりなちゃん」を幸せにするために、
彼女のおはなしを聞いて、そのおはなしのとおりしずかちゃんを殺そうとした。
だが、タコピーは理解した。相手の言う事を聞くだけが正しい訳では無い。
そんなタコピーなりの理解が彼の最後の行動であり、
物語の結末につながっている。
お話がハッピーを生む、何度もそう言っていたタコピーの言う通り、
描かれてはいないが「まりなちゃん」と「しずかちゃん」は
たくさん話し合ったのだろう、だからこその未来の姿だ。
ハッピーを広めるため来訪したハッピー星人タコピーの目的は
達成できたのかもしれない。
総評:最低で最高な問題作
全体的に見て非常に挑戦的な作品だ。
配信限定とはいえ「小学生の自殺」シーンが有り、
小学生に対する肉体的、精神的な虐待の数々や殺人など
鬱々とした展開や描写が非常に多く、人によっては心を病む作品だ。
それほどまでに衝撃的な内容であり、
メインキャラクターの小学生たちが抱えている問題は大きいものの、
そこに出る作品を間違えたとしか思えない「タコピー」という
宇宙人が絡むことで物語がより複雑なものになっていく。
便利な道具を色々持っているのに、そのどれもが役に立たないどころか、
その道具のせいで状況が余計にややこしくなる。使えないドラえもんだ。
その原因はタコピーの無知と無理解による罪だ。
人間というものは嘘を付く、本心を話しているとは限らない。
それを理解できないからこそ状況がややこしくなる。
だが、ある意味でタコピーという存在はブレない。
タコピーはハッピーを広めるために地球にやってきて、
タコピーの星では「おはなし」ですべて解決する。
振り返ってみればラストの結末はまさにそのとおりだ。
本心で相手と話し合うことで相互理解が生まれる。
それはわかっているのに人は嘘をつき、暴力に走る。
だから争いが起こり続ける、それが人というものが抱える原罪だ。
親の原罪というものも描いている、子どもを育てるうえで親の影響は大きい。
親の言葉遣いを真似したり、行動を真似する。
親から学ぶことで子どもは生き方を学んでいく。
この作品に出てくる子どもたちは歪んでいる、だが、その原因は「親」だ。
まともな大人というものがこの作品には殆ど出てこない。
先生も、両親も、ろくに子どもを理解せず、
自分の都合の良い付き合い方しかしない。
親が子どもを理解していれば、きちんと「おはなし」していれば変わったかもしれない。
そんな犠牲者である子どもたちの生き様は見ているだけで辛く、
どんどんと悪くなる現状に目を逸らしたくあるものの、
全6話という短さとテンポの良さもあって、
最終話まで一気に見てしまう魅力がある作品だ。
アニメーションも非常に優秀で、特に表情の描写は素晴らしいものがあり、
あえて表情が変わらない動かないシーンがあったり、
場違いなBGMだったりの演出面でもより作品の雰囲気を感じさせるものになっており、
間を感じさせる声優さんの演技も一級品だ。
1つ1つの要素がしっかりとこの作品を盛り上げている。
全6話通して非常に重苦しい内容ではあるものの、
最終話まで見るとすっきりとした結末でもあり、
こういった内容がトラウマという人以外にはぜひ見ていただきたい作品だ。
個人的な感想:Web限定
地上波で出来なかったというより、あえて地上波でやらなかったからこそ、
原作からの表現や展開の数々をごまかす必要もなく描けている。
こういった作品は今後配信アニメで増えるかもしれない。
昨今は地上波では規制もかなり強くなっており、
10年、15年前のようなセクシーなアニメもやりづらくなっている。
もはや地上波、TVアニメという媒体にこだわる時代ではないというのを
感じさせる作品の1つだった。