評価 ★★☆☆☆(38点) 全85分
あらすじ 書物の街・読長町(よむながまち)に暮らす高校生・御倉深冬は、曾祖父が創設した巨大な書庫「御倉館(みくらかん)」を管理する一家の娘だが、本を好きになれずにいた。引用- Wikipedia
荒削りの削り節
原作は小説な本作品。
監督は福岡大生 、制作は株式会社かごめかんぱにー
新進気鋭
2025年は本当にアニメ映画が多く、オリジナルアニメから
漫画原作、果てはアーケードゲーム原作のアニメまで
多くのアニメ映画が制作された。
それだけアニメ映画市場というものが広がり、
製作費や宣伝費がTVアニメよりもかかることの多いアニメ映画を
作りやすい環境が生まれていることでもある。
いわゆるアニメ映画バブルだ。
そんな中で本作品の原作は「小説」だ。
本屋大賞にノミネートされており、それなりに知名度はありそうだが、
私個人としては知らなかった作品だ。
制作会社も聞き覚えがなく、調べたところ2022年に
出来たばかりの制作会社であり、
監督自体も聞き覚えがないため、しらべたところ、
ダンガンロンパの3期などを手掛けている。
原作、制作会社、監督。
最近のアニメ映画はどれかしらに知名度があることが多いのだが、
この作品はどれもいまひとつパンチに欠けている。
しかも映画の公開は12月26日という年の瀬も年の瀬で、
よっぽどの原作ファンか、酔狂なアニメオタク、
アニメ映画6000人族と呼ばれる人くらいしか見に行かないだろう。
ただ、そういった作品も映画として勝負できる環境が
今のアニメ映画界にあることの表れでもある。
本の街
この作品の舞台は本の町だ。
有名な蔵書家が集めた巨大書庫「御倉館」 があり、
この街の住人の多くが本が好きで本を愛している。
だが、そんな街に住んでいて、しかも巨大書庫「御倉館」 を作りあげた
曽祖父を持つ主人公は本が嫌いだ。
街を歩けば「御倉館」 の娘と騒ぎ立てられ、
多くの人に声を掛けられる。
幼少期のころの祖母との「トラウマ」もあり、本や物語というものが
苦手になっている少女だ。
そんな彼女の父親が「御倉館」 を管理しているのだが、
父が怪我をしてしまい入院し、彼女が管理することになる。
だが、いざ「御倉館」 のカギを開けようとすると、
なぜか鍵が開いており…というところからストーリーが動き出す。
この序盤の展開は非常にわかりやすく、
どんなストーリーが展開するんだろうというワクワク感もきちんとある。
主人公はいわゆる芸能人声優ではあるものの、
演技や声の違和感があまりなく、自然と主人公のセリフが耳に入ってくる。
だが、そんな序盤と裏腹に話が進みだすと
濁流に飲み込まれるような感覚になる作品だ。
本の呪い
いざ巨大書庫に入るとそこには謎の美女がいる。
謎の美女に誘われるまま本を読むと、その本の世界が一気に現実世界に侵食してくる。
なんでもこれは「ブックカース」と呼ばれるものであり、
書庫の本を守るために、一族以外が本を持ち出すと発動する呪いらしい。
この本の世界がある程度有名なものならば楽しめた部分もあるかもしれないが、
作中ででてくる本の世界の題材となる本は私たちの世界には存在しない本だ。
マジックリアリズムだったり、ハードボイルドだったり、SFだったり、
色々な世界に入り込むのだが、どれもこれも結末の知らない物語が
ドタバタと展開される印象だ。
この呪いは街全体を飲み込み、町の住民は強制的に登場人物にされ支配される。
主人公が盗まれた本を触ることで呪いが解かれるのだが、
時間以内に呪いを解かなければ街が消えてしまう。
とんでもない呪いだ(苦笑)
本を盗んだ犯人や謎の美少女など色々な伏線は非常にわかりやすく、
このあたりの伏線はある程度想像通りに回収されるのだが、
その反面で色々と予想外な展開も起こる。
犯罪者だらけ
この街にはほんの事となると犯罪を平気で犯すやつだらけだ。
最初に本を盗んだ人物は単純に本が好きで本を盗み、
次に本を盗んだ人物は書庫の呪いが本を盗まれない完璧なシステムだから、
万引きの多い自分の本屋をなんとかしたくて本を盗んでいる。
どいつもこいつも気軽に不法侵入し、気軽に窃盗をかます。
最後に本を盗んだ人物だけ少し同情の余地があり、
過去に呪いのテスターにさせられて呪いが夢か現実かよくわからず、
それを確かめたかったという思いで行動している
とにかく犯罪者が多い。
そんな犯罪者たちが起こしたできごとをかなりテンポよく、
はしょり気味に描いているせいも合っていまいち没入感が生まれず、
どこかダイジェストでも見ているかのような感覚になってしまう。
オムニバス?
本作品はコミカライズ版もでており、
そちらではもう少し1つ1つの世界を丁寧に描いている。
だが、映画では尺の都合上ダイジェスト的にせざるをえなかったのだろう。
結果的にダイジェストで没入感が生まれがたいものになってしまっている。
場面のつなぎもあまく、どこかオムニバスのようなものでも
見ているような感覚になるのだが、でもオムニバスではない。
本来は1話1話別れてるものを無理矢理つなぎあわせたような
妙な感覚にもなってしまう部分がある。
色々な部分でアニメにおける「拙さ」を感じてしまう。
終盤
終盤は更に大変なことになる。
呪いを止められなかった主人公は「煉獄」の世界に迷い込み、
そこで祖母が復活して祖母が大暴れしだす(苦笑)
ここまでしがみついてついてきたストーリーではあるが、
終盤の展開はかなり突き放された感があり、
ラストのハッピーエンドに至る展開自体は悪くないのだが、
祖母が復活してからの展開は飲み込みがたいものがあった。
どうにも違和感を感じて少し調べたところ、
この終盤の展開はどうもオリジナルのようだ。
映画としての盛り上がりどころが欲しかったのはわかるが、
そのせいで露骨に飲み込みがたく違和感の出る展開になってしまっている。
ラストのハッピーエンド自体は悪くなかったものの、
映画全体としてはどうにもしっくりと来ない作品だった。
総評:この映画を見る者は…..
全体的に見てアニメーションのクオリティは高く、
色々な種類の本の世界を目まぐるしく冒険していく感じは悪くはない、
だが、あくまで悪くない止まりだ。
90分ほどの尺では原作の話の取捨選択をしきれておらず、
そのせいでかなりゴチャゴチャした作品になってしまっている。
町の住民が本の世界の登場人物にさせられて演じているというのは
面白いのだが、普段と登場人物になったときのギャップを感じるには
「普段の姿」というのがあまり描写されてないせいで、
ギャップの魅力が生まれない。
主人公やメインキャラも掘り下げがたりてない印象が強く、
キャラの描写よりもとにかくストーリーを進めなくては!という
意思を感じるような脚本のせいでキャラへの愛着や感情移入も生まれにくい。
原作からかなり削った部分があることは原作を読んでいなくても伝わり、
削りすぎた結果、プロットだけをひたすら見せられてるような感覚にもなる作品だ。
年末年始にこの映画をわざわざ見に行くという酔狂な人以外は
映画館に足を運ぶ人も少ないだろう。
配信や、もしくはTVアニメなどでじっくり1クールくらいかけて描いていれば
もう少し印象は違ったかもしれない。
個人的な感想:荒削り
個人的におそらく今年最後のアニメ映画となった。
色々と荒削りな部分が多く、削りすぎた結果、鰹節みたいになってる作品だ。
風味は感じるが、もとの鰹ほどの食べごたえはなく、
その鰹節でダシをとったものを飲んでいるような映画だ。
決して作品として駄作とけなすほどでもなく、
かといって名作と称賛はできない。
なんとも微妙な評価で終わってしまうのはもったいない作品だ。
作品としてのポテンシャルは感じるのに、そのポテンシャルを発揮しきれていない。
そのもどかしさが強く残る作品だった。



