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青く燃えたぎれ「BLUE GIANT」レビュー

5.0
BLUE GIANT 映画
(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館
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評価 ★★★★★(85点) 全82分

映画『BLUE GIANT』│「N.E.W.」ライブシーン特別映像【大ヒット上映中!】

あらすじ 宮城県仙台市に住む高校生・宮本大は真っ直ぐな性格の持ち主だが、将来何をしたいのか分からず学生生活を送っていた。引用- Wikipedia

青く燃えたぎれ

原作は漫画な本作品。
監督は立川譲、制作はNUT

世界一

映画冒頭から演奏シーンを魅せてくれる。
雪のふる河原で、たった一人でサックスを吹き続ける男、それがこの作品の主人公だ。
雪が降っているのに汗だくで、ただひたすら彼は「サックス」に向き合っている。
彼の目的、夢は1つだ。

「世界一のジャズプレイヤーになる」

映画冒頭で主人公の目的、ストーリーの行き着く先を示すことで
自然と作品への没入感を高めてくれる。
そんな彼が上京をする、仙台から東京という田舎から都会への上京、
右も左もわからない中で、彼は特に何か決めているわけでもない。

ただただ漠然と「世界一のジャズプレイヤーになる」という思いを抱え、
漠然と、それが東京に行けば叶うという思いがある。
仙台でも東京でもやっていることはかわらない、
サックスを河原で吹くだけだ。
住む場所すらろくに決めず、働く場所も日雇いのバイトだ。

この作品の主人公は若い。
ある程度以上の年齢を積み重ねた人間なら、
ここまで無鉄砲に、無計画に東京に行くことなんてしない。
だが、彼は若いからこそ、自身の中にある
「世界一のジャズプレイヤーになる」という夢が叶うという思いがある。

無鉄砲で無計画な若者の夢の物語、
泥臭く、男臭い、主人公の物語が始まる。

衝撃

ジャズは一人ではできない、多くの仲間が居て、
そんな仲間とスウィングすることで初めてジャジーな
音楽を奏でることができる。だが、主人公はたった一人だ。
ジャズ仲間など居ない。
そんな彼がライブハウスで出会ったピアノの音に心を奪われる。

計画性なんて無い。
勢いで東京に行き、勢いでライブハウスをめぐり、
そんな勢いの中で彼の心を奪う「ピアノ」に出会う。彼にとっては衝撃だ。
天才的なピアニストとの出会い、そんな出会いが主人公の人生をも変えていく。

天才的なピアニストはジャズで勝とうとしている。
本物の音で、本物のジャズを、本物の音楽をやろうとしている。
そんな彼に主人公は挑む。
自分の音を、自分の思いを「サックス」で表現し、ぶつける。

この音の「リアル」感が凄まじい。
単純にサックスの音を生で録音して流しているのではない、
本当に主人公である「大」が演奏していると錯覚させるほどの
「息遣い」をそこに織り交ぜることで、生々しい演奏シーンが出来上がっている。

サックスの音だけではない、演奏をしているときの顔、
体の動きの描写が鳥肌さえ感じさせるほどの表現を産んでいる。
「大」は天才だ。サックスを初めて3年しかたっていないが、
彼はその天才的な努力によって演奏力を身に着けている。
3年もの間、雪がふる河原でサックスを吹き続けることは
生半可なものではない。

だが、一人で吹いてきたがゆえに誰かとの演奏が苦手だ。
熱量だけは雪をも溶かすほどだが、
誰かとセッションすることが序盤の彼の課題になっている。

魅了

そんな主人公の熱量に多くのものが魅了されていく、
たまたま訪れたジャズバーの店主、たまたま出会ったピアニスト、
そして主人公の同級生。

主人公の同級生である「玉田」は都会に憧れて上京してきた男だ。
大学に入ったはいいものの、自分が考えてたものとは違い、
現実と理想の違いに悩んでいる。
そんな中で主人公のサックスを、ジャズに彼は出会ってしまう。

彼は完全など素人だ。ドラムのドの字もしらない。
だが、そんな彼がジャズの世界に、ドラムの世界に魅了されていく。
自分ではない誰かが演奏する音に合わせてドラムを叩く、
その楽しさに、音楽の面白さに魅了されていく。

しかし、彼は素人だ。
そんな彼の演奏を天才ピアニストは否定する。
だが、主人公は「誰だって最初は素人だ」と言い放ち、
玉田もまたそんな熱量に飲み込まれ、自身も熱を放っていく。

ローンを使ってドラムセットを買い、音楽教室に通い、
毎日部屋で練習をし続ける。
かつて主人公が3年間、河原で吹き続けたように、
彼もまた夢のために、自身の中の熱量を解き放つ場所を探している。

3人共、凄まじい熱量をもっている。
その熱を解き放つ場所が「音楽」であり「ジャズ」だ。
行き場のなかった思いを、鬱屈とした現実を、
それぞれの夢を叶えるために彼らはジャズと向き合っている。

そんな若さと男臭さを感じるストーリーと
キャラクター描写にニヤニヤしてしまう。
彼らの最初のライブのお客さんはたった4人だ。
だが、そんな4人の前で彼らは「かっこいい」ジャズを披露する。

3人が奏でる音、それぞれが際立って聞こえる。
3人の思いが、3人の熱量が積み重なったライブは
マグマのごとく煮えたぎった音だ。

天才二人の前に初めて3ヶ月の玉田はついていけない。
必死に、振り落とされないように、悔しい気持ちを抱えながらも
くらいつき様と、ライブ後の落ち込んだ表情、
自ら「バンドを抜ける」と言い放つ彼に胸を打たれる。

そんな玉田を2人は認めてくれる。
「思ったより良かった」
天才的なピアニストの言葉、主人公の信頼、
そんな言葉と信頼に玉田は涙を流す。

もっとうまくなりたい、もっとジャズをしたい、
もっと二人についていきたい、二人に負けないように、
バンドをやっていけるように。
ただ流されたのではない、自分が「やる」と決めたことだ。

一人の天才と、一人の努力と、一人の素人。
そんな3人のライブに見てる側も魅了される。
それは作中のお客さんたちも同じだ。
最初はたった4人のお客さんしかいなかったライブが32人に、
徐々に徐々に増えていく。

3人の目標も決まる、1年以内に大きなライブハウスに立つこと。
夢への道を一歩一歩、進んでいく。

フェス

そんな彼らが小さなフェスに出ることになる。
彼らが呼ばれたのは若いから、少し人気が出てきたからという理由で、
彼らの音に魅了された人が誘ったわけではない。
そんなことを言われ黙っている3人ではない(笑)

自分たちの音を、本物の音を、努力の音を
本当の「ジャズ」を鳴り響かせる。
序盤よりも大胆な動きで演奏をしながら、
そんな演奏シーンをより激しいカメラワークで魅せている。

見ている側が彼らの音に「さらわれる」ような感覚になるような
映像表現と熱量を感じる演奏シーンの表現は、
「アニメ」という表現だからこそなし得るものだ。
彼らの中にある熱、彼らの若さ、がむしゃらな演奏に
思わずニヤニヤしてしまう。

否定

主人公は努力の天才だ、「玉田」もそんな努力を続け、
少しずつ認められていく。
だが、本当の天才である「沢辺 雪祈」はそんな才能を
有名なライブハウスのオーナーに否定される。

自分は天才だと思ったのに、才能があると思ったのに。
まるで見透かされたように自身の演奏を否定される。
14年ピアノをやってきたという自負、他の人より上手いという自身。
だが、それは若さゆえの驕りでもある。
自分には音楽しか無い、だが、その音楽を否定される。

それは他の2人も同じだ。
日雇いバイトで食いつなぎ、玉田に至っては留年もしてしまっている。
彼らはあとがない、音楽以外に、ジャズ以外に何もない。
それぞれが自分に向き合う中で「沢辺」も変わっていく。

それまでの彼は自分をかっこよく見せていた。
自分の部屋に2人も招かず、努力を見せず、虚勢を張っていた。
だが、それでは本当の音楽をできない。
がむしゃらに、虚勢を張らずに、自分を表現する。

内蔵をひっくり返すように、自分を表現する彼の姿、
今までの彼ならありえない「スタンディング」での
狂気に満ちた音楽は彼の人生そのものを表現するかのようだ。

だが、そんな彼が事故に巻き込まれてしまう。
夢を叶える一歩手前、そんな一歩手前で彼の右腕は
演奏をすることができなくなってしまう。

2人

それでも彼らは夢を諦めない。たった2人、サックスとドラムしか居ない。
ジャズのバンドとしては異例だ。
それでも2人は「夢」をつなぐために、「JASS」というバンドの
栄光を勝ち取るために立った2人で舞台にたつ。

そこにはいない「沢辺」、だが、彼のピアノは
彼らの中にずっと鳴り響いている。
だからこそ彼らは2人でも舞台に立つ。

1年前はドラムすら触ったことがなかった「玉田」のソロ。
彼はずっとソロを任せてもらえなかった。
始めたばかりだからこそ当たり前だ、
そんな玉田のソロは思わず涙腺を刺激されてしまう。
彼の成長と変化がしっかりと感じられる演奏に魂まで震える。

そして主人公。4年以上の月日をかけてたどりついた舞台。
仙台では雪がふる河原で吹き続け、東京に来ても彼は河原で吹きつづけてきた。
やってることは変わらない、舞台が変わっただけだ。
だが、彼の演奏は人の心を震わせるレベルになっている。

舞台には立っていない「沢辺」、
そんな彼が作り上げた曲を、心の中の彼とともに演奏する姿と
ラストのメンバー紹介には思わず涙がこぼれてしまった。

そして最後のアンコール。
「左手だけ」のピアニストによるアンコール、3人のバンドはこれで最後だ。
天才ではない玉田と、右手がいつ回復するかわからない沢辺、
そんな2人は「世界」を目指す主人公の足手まといだ。

ここで止まっては居られない。だからこその解散だ。
命が燃え尽きるほどの演奏、ジャズにかける熱い思い、
3人の若者の若さと熱さを感じられる2時間の映画だ。

総評:滾れ、若者よ

全体的に見て素晴らしい作品だ。
内容、ストーリー自体はシンプルなものだ。
ジャズというジャンルを使い、そんなジャズに溺れた3人の若者が
夢を叶えようとする青春ストーリーになっている。

しかし、そんなシンプルなストーリーを音楽と
アニメーションが盛り上げてくれる。
この手の音楽を扱うアニメの場合、ライブシーンは数えるほどだったり、
序盤や中盤、そして終盤の盛り上がりどころのここぞというときに、
描かれるものだったりする。

ただ、この作品の場合は作中の3分の1くらいは演奏シーンだ。
ひたすらに演奏をしながら、演奏の中で彼らの過去が
回想シーンとして時折描かれながら、
それがキャラクター描写に厚みに繋がっていく。
余計な言葉などいらない、彼らの演奏が彼らのキャラ描写だ。
そんな演奏シーンをアニメーションによる表現がもり立てる。

モーションキャプチャーやロトスコープを使いながら、
リアルな演奏中のキャラの動きを描写しつつ、
そんな現実の人間の動きにアニメ的な大胆なカメラワークや
現実の人間ではありえない誇張された動きを演出することで、
彼らの音楽が「見て」伝わるような表現へと高めている。

ストーリーもシンプルでありながら、
そんなシンプルなストーリーをキャラクターが盛り上げてくれる。
仙台で3年間サックスを引き続けた主人公が、
天才ピアニストに出会い、素人の友達をドラムにして
3人でジャズバンドを組む。

そんなシンプルなストーリーではあるものの、
それぞれが「自分」と向き合いながら、自身の音楽を
どう表現すればいいのかを考え、ときおり自分の才能に挫折しつつも、
そんな壁をぶち破る姿が涙を誘う。

特に素人だった「玉田」は3人目の主人公だ。
メインキャラの3人が3人共主人公の作品などめったにない。
努力し続けた主人公、自身の才能に溺れ見つめ直し事故にあってもなお
音楽を諦められない「沢辺」、そして素人でありながら
二人の天才にしがみついた「玉田」。

この3人の誰かに共感し、誰かに深く感情移入してしまう。
そんな3人の結成から解散までの物語が、
2時間のライブの中で描かれていたような作品だった。

個人的な感想:なんで劇場で見なかった私

今とても後悔している。
この作品が公開されていた期間、私は引っ越しやら
結婚の準備やらに追われており、劇場に足を運ぶことがデキなかった。
配信がはじまり見たあとには深い後悔が襲った。

この作品は劇場で見るべき作品だった。
家のヘッドホンやスピーカーでは音楽の表現を
最大限に味わいきれない、
この作品は映画館のあのスピーカーで味わうものだった。

それだけが惜しまれる作品だった。

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