評価 ★★★★★(82点) 全12話
あらすじ 人類がいなくなり、長い年月が流れた地球。日本の首都・東京の銀座にあるホテル『銀河楼』では、ホテリエロボットのヤチヨと従業員ロボットたちが、オーナーの帰還と、再び人類のお客様を迎える時を待っていた。 引用- Wikipedia
いぶし銀の名作、最高のホテルアニメ
本作品はTVアニメオリジナル作品。
監督は春藤佳奈、制作はCygamesPictures
ポストアポカリプス
この作品はいわゆるポストアポカリプスな作品だ。
地球は謎のウィルスが流行ってしまい、人類が住めない環境になり、
人類は地球を捨て宇宙に逃げ去ることを決めた。
その結果、地球には人類と呼ばれるものが居なくなってしまった。
しかし、地球には人類が残したものが存在し続けている。
たとえ銀座が植物だらけになっても、彼女達は動き続け、
自らに与えられた命令を守り続けている。彼女達は「ロボット」だ。
1話冒頭からポストアポカリプスな雰囲気を全開にしつつ、
どこか淡々とシュールに物語が進んでいく。
いつか来るお客様を待ち続ける彼女たちは命令を守り続ける。
誰もこないホテルを清掃し続け、誰もこないホテルの扉を開け続ける。
ロボットであっても無限の命があるわけではない。
修理してくれる人類はいない、修理のパーツも限られている。
多くの仲間が壊れ、動かなくなっていく。
いつか来るお客様のために。帰ってくるかもしれないオーナーのために。
どこか「ヨコハマ買い出し紀行」を彷彿とさせる雰囲気と
シンプルではあるものの印象に残るキャラクターデザインが
1話から世界観にしっかりと浸らせてくれる。
この作品の面白いところは序盤会話らしい会話が少ないことだ。
ホテルに勤めるロボットたちは「喋れる」ロボットは少ない。
主人公であるヤチヨと「ドアマン」のロボットくらいだ。
人の言葉を喋れるロボットの多くは壊れてしまっている。
だからこそ「アニメーション」で見せている。
主人公のヤチヨの仕草や表情、ちょっとした言葉で
会話ができないロボットたちのロボットの声を感じさせる。
支配人代理である「ヤチヨ」はちょっとしたことで悩み落ち込む。
悩みつつも彼女はいつか来るお客様のために待ち続ける。
そんなお客様が100年ぶりに
やってくるとこから物語が動き出す。
宇宙人
やってきたお客様は宇宙人だ(笑)
まともなコミュニケーションすらできず、会話もなりたたない。
言語も文化も価値観も違う、そんな宇宙人をもてなす。
このホテルでは動物やペットは泊まることはできない、だが宇宙人はOKだ。
100年ぶりのお客様が連泊し続ける中で、
「環境チェックロボット」も現れる。
地球が再び人類が住める環境になったのかを調査するロボット、
だが、そんなロボットがいくら人類にデータを送っても返信はない。
いつかお客様が、オーナーが、人類が戻ってくる。
それが主人公にとっての希望だった。
だが、そんな希望が打ち砕かれてしまう。
それでも彼女はオーナーの言葉を胸に接客を続ける。
そんな彼女に謎の新機能が追加される。
まるで宇宙人が訪れることがわかっていたかのようなプログラムはなんなのか。
派手なストーリー展開やアニメーションは無いのだが、
じんわりと染み渡るストーリーが描かれる。
100年まち、50年まち、またお客様が訪れる。
次のお客様は「たぬき星人」だ(笑)
お客様は神様
人間のような見た目に変化できる彼らはいわゆる「移民」だ。
母星をおわれ、生きるために地球にたどり着いている。
そんな彼らはマナーや常識がない。
部屋の中を糞だらけにし、穴だらけにし、やりたい放題だ。
お客様の希望に「習性」に寄り添う。そんな一言が彼らを暴走させる。
日本にも「お客様は神様」という概念がある。
しかし、度を越した客はこの作品に限らずいる。
そんな迷惑客がたぬき星人だ。
従業員はお客様のすべての要望に答える必要はない。
営業妨害するような客であれば手を上げることも必要だ。
ホテルという場所だからこそのドラマ、ストーリーがきちんとあり、
ド派手な展開は序盤を過ぎても一切ないのだが、
丁寧な物語の積み重ねと独特な角度で描かれるキャラクター描写が、
この作品にしかない魅力を紡ぎあげている。
食材
ホテルにある食材の種類は限られている。
ポストアポカリプスな地球ではなかなか新しい食材や調味料を仕入れることができず、
同じメニューしか提供できない。食材を探しに行くにも危険はつきまとう。
この作品は本当に世界観を大事にしている。
人類が居なくなった地球、そんな中で動き続けるロボットたちの目線で
ポストアポカリプスな地球をじっくりと描いている。
そんな地球の中でホテル業務を行うロボットたち、あくまでそこはブレない。
時折訪れるお客様を接客し、お客様の要望に応えるために改善し、
少しつづホテルは代わっていく。
もう人類が宇宙へ旅立ってから400年の月日が経っている。
この時点で「オーナー」は普通の人類であれば
寿命でなくなっていることは見ている側にはわかってしまう。
主人公もそれをわかっているのかわかっていないのか、
オーナーを待ち続け、オーナーの夢を叶えようとしている。
ずっと掘り続けている温泉も、新メニューの開発も、
「ウィスキー」作りもオーナーの夢だ。
悠久の年月の中でホテルの従業員たちは少しずつその夢を叶えていく。
変化を受け入れるロ
宇宙人がお客様としてやってくるのはもう当たり前だ。
そんな宇宙人に対応するためのマニュアルも、言語への理解も、
悠久の年月が解決してくれる。その変化を見るだけでも心地よい。
少しずつ変化していく、ホテルと従業員たち。
傷だらけにボロボロになり、無期限休暇を与えられるロボットたち。
たぬき星人の少女もどんどん成長していく。
お客様も多く訪れるようになった、しかし、色々な変化の中で
主人公自身も破損し、下半身と手を失ってたかとおもえば
元の体に戻る(笑)
どこぞのロボットアニメよりもロボットアニメらしい
戦闘シーンが終盤で見れるのは意味不明でしか無く、
熱い展開のはずなのに思わず笑ってしまう。
この作品に誰もガチガチな戦闘シーンを求めているわけではない。
しかし、あえてこだわって描く制作陣の気概には称賛を送りたい。
結婚式
ホテルがホテルらしくなり、お客さんが多く集まり、
温泉も料理もウィスキーも楽しめるようになった。
だからこそ「結婚式」もできるようになる。
終盤になってもこの作品はブレない、あくまでホテルでの物語だ。
結婚式ができるほどたぬき星人の少女は成長した。
宇宙人で地球人とは寿命が違うものの、成長し、そして老いる。
宇宙人にも死はある。時間は平等だ。
結婚式と葬式を同時にやるうえに死体を使ったマジックまで披露する
という「不謹慎さ」はあるものの、
それが許せてしまうのがこの作品でもある。
全てのお客様が満足するように、最高のおもてなしを。
主人公はホテルマンとしてぶれない。
たまにグレたりするが。
休暇
長いホテル営業、多くの人が訪れれば事件も起こる。
時にホテルでは「不審死」がおこり、
事故物件になることも長い歴史の中ではあることだ。
それ隠蔽することもホテルあるある……なのかもしれない(笑)
終盤で主人公は休暇を取ることになる。
初めて自分のホテルに泊まり、自分のホテルのある街を散策する。
そこには思い出が沢山だ。街は滅び、人類の形跡はどんどん消えていっている。
しかし、それでも彼女たちが作り上げたものと、
地球という星が生み出す自然がそこにはある。
少ないセリフで、モノローグすら無い。
しっとりと淡々と「アニメーション」でポストアポカリプスな世界を見せ、
主人公の心理描写をする姿が染み渡る。
彼女はもう500年以上も動き続けている、
そのなかで宇宙へとおもむき、下半身や手を失うこともあった。
彼女の細かいパーツも限界を迎えている。
ロボットという永遠の命を持つ存在も悠久の時の流れには逆らえない。
同じ型のロボットからパーツを受け継ぎ、命をつむぐ。
それがいつまで可能なのかすらわからない。
だが、それは「生きている」ことの証でもある。
少ないセリフでそれを魅せる11話のクォリティは凄まじいものがある。
そんな500年以上の月日、ホテルを支え続けた彼女の前に
「人類」が現れる。
人類
最終話で人類の今が明かされる。
500年以上の月日をへても人類は第二の母星を見つけられておらず、
ずっと宇宙船の中で暮らしている。
地球の調査に訪れた一人の人類、ウィルスのせいで宇宙服すら脱げない。
だが、真実が発覚する。
主人公が最初に接客した宇宙人からもらった贈り物。
そんな贈り物がたまたま水の中におち、成長し、
人類に悪影響を及ぼす「ウィルス」が消え去っている。
地球は再び人類が住める星へと変化したのだが、
人類は500年以上の時を宇宙で過ごしてしまった結果、
人類は地球の環境に適応しなくなってしまった。
その事実を変えることはできない。
だが、主人公であるヤチヨは500年以上の時をへて
「人類」をもてなすことができた。
もう人類を待ち続ける必要も彼女にはない。
「またのお越しをお待ちしております」
この作品らしい笑いに満ちたラストと
どこかシュールな結末が強烈な印象を残しくれる作品だった。
総評:人類が滅びてもホテルはそこにある
全体的に見て素晴らしい作品だ。
ポストアポカリプス、人類が地球に住めなくなり、
ロボットだけしか居ないホテルを舞台にしつつ、
訪れる宇宙人たちと主人公のドラマを描きつつ、
1クール全体のストーリーにきれいにつなげている。
残酷なまでの時の流れはときに悲哀をもたらしつつも、
それが変化になり、成長に繋がり、主人公の価値観をも変えていく。
あくまでホテルものという軸をずらさずに、
同時にポストアポカリプスものとしてのストーリーも描きつつ、
飽きさせない1クールになっている。
1話1話でハズレの話がない。
迷惑客の話があるかと思えば、変死体がでてきてしまったり、
唐突に宇宙に行ったかと思えば、ロボットバトルアニメが始まり、
ときに感動し、ときに涙を誘い、ラストは笑いで終わる。
アニメーションとして派手なシーンはロボットバトルのシーンくらいだが、
贅沢な作画とアニメーションで演技させている。
ときに11話は秀逸だ、500年以上働いたロボットがもらった初めての休暇、
そんな中で自分の人生をたどり、人生の意味を考え、
生きていることを実感させる。
この11話には余計なセリフが一切ない。
あまりにも秀逸すぎて同じ話を3回も見てしまったほどだ。
1話、2話、3話と積み重ねていくことで面白さも増していく。
素晴らしい作品だった。
個人的な感想:ヨコハマ買い出し紀行
個人的にヨコハマ買い出し紀行などを思い出す作品だった。
ロボットが主人公でポストアポカリプスという点が
にているというだけなのだが、どこか意識されている部分もあったかもしれない。
最近、妙にホテルを舞台にしたアニメも増えており、
謎のブームが起きつつあるが、
果たして今後またホテルのアニメは生まれるのだろうか。
気になるところだ。