評価 ★★★★☆(65点) 全12話
あらすじ 大学一年生の河合まこは、できるだけ周りに波風を立てず毎日を淡々と暮らしていた。そんなある日、まこの目の前に現れたのは小川しのん。 引用- Wikipedia
もう味わえない、至高のモラトリアム
本作品はTVアニメオリジナル作品。
「のんのんびより」のスタッフが再集結して作られたことが
話題になった作品だ。
監督は川面真也、春水融、制作はP.A.WORKS
日常
2010年代前半は「けいおん!」などの影響もあり
いわゆる「日常アニメ」が多く生まれた。
だが、そんな日常アニメブームは終わり、趣味系の作品に取って代わられた。
そんな日常アニメブームの中でアニメ化された
「のんのんびより」のスタッフが再集結してオリジナルアニメを作る。
期待感が強い作品だ。1話の冒頭から丁寧な描写が目立つ。
内気な大学生である主人公は一人暮らしをしながら、
色々なものを作り食べていた。彼女は孤独だ。
一人でご飯を食べることに楽しさを見いだせるタイプでもなく、
飲食店に一人で入る勇気もない。
友達もいない彼女は日々をどこか空虚に過ごしている。
そんな彼女が再会するのが小学生の時の友達だ。
食事
この作品はタイトルでも分かる通り「ご飯」をテーマにしている。
日々味わう食事、そんな食事にフォーカスした作品は
シンプルに「飯テロ」だ。
1話で主人公が食べる「ソースカツ丼」。
調理工程まで丁寧に描かれることで味を想像させ、
そんなソースカツ丼を主人公が幸せそうに食べる。
衣の音が耳まで幸せにしてくれる。
そんな食事をきっかけに主人公は変わろうとする。
一人の時間も好きだけれども、誰かと一緒に何かをしたい。
そんな1歩が1話で丁寧に描かれており、
日常アニメらしいスロースタートではあるものの、
これぞ日常アニメといわんばかりの「まったり感」だ。
主人公の友人が作った「食文化研究部」は名ばかりのサークルだ。
あくまで大学でまったりするためのサークルでしか無い。
手に入れた部室を掃除し、まったりしようとするものの、
活動実績を見せないとサークルとして認められなくなることが明らかになる。
限られた器具で、限られた食材で、料理を作る。
いろいろな食材を合わせて作られた
「カマンベールピラフ」はあまりにも美味しそうだ。
大学生
何気ない大学生の日常をPA.WORKSらしい温かい作画で描く。
忘れかけていた日常アニメの魅力が余すことなく感じられる作品だ。
1話では久しぶりに友達と再会し、2話ではサークルに入り料理を作る。
3話はメインキャラの一人のへそくりを探し、高尾山に行く。
ただそれだけだ、だが、それだけだからこそいい。
少ないメインキャラをきちんと立てながら、
彼女たちの日常をゆっくりと静かに描く。
そんな日常には常に「食事」がある。
特別な何かではない、しかし誰かとなにかを食べる幸福を
しっかりと感じさせてくれる。
ボッチだった主人公がサークルに入り変わっていく。
ゆっくりと成長し変化し、関係性が深まっていく。
温泉のような安心感が生まれている作品だ。
この手の日常アニメは「中身がない」と言われがちだが、
この作品にはきちんと中身がある。
食事という人が生きていくうえで不可欠なものを描きつつ、
そんな食事と誰かと一緒に食べることの幸福感を
「日常」の中で描いている作品だ。
出会い
4話になるともうひとり、新キャラが追加される。
主人公と同じような内気な少女であり、主人公以上に人見知りをする子だ。
内気同士、人見知り同士の交流は心の壁をしっかりと感じさせる。
そんな心の壁を解きほぐすのもまた「食事」だ。
同じ釜の飯を食う、そんな行為が心の壁を崩してくれる。
「大学生の日常」という枠はでない。
友達とサークル活動に勤しみ、どこかに出かけたり、ご飯を食べたり。
食事に関しても「趣味アニメ」のようにガッツリとした掘り下げもなく、
あくまでも「日常」アニメだ。
彼女たちの4年間、モラトリアムのようなものを覗き見るような背徳感。
それがまさに日常系アニメの本質だ。
バーベキューをしたり、スイーツを食べに行ったり、
ちょっと太ってしまってダイエットをしたり。
何気ない日常を何気なく描く。
特別ではない日常を楽しむ、これぞ日常アニメだ。
作画
日常アニメは基本的に会話劇であるがゆえにアニメーションとしての
面白さが薄くなってしまう部分もある。しかし、この作品は別だ。
自然なカット割りで構図をちょこちょこと変え、
画面に映すキャラクターを変えながら様々な角度でキャラクターを映す。
同じ構図でカットもほぼかからずに会話を続けることも日常アニメでは可能だ。
だが、あえてこの作品はそういったことをしておらず、
彼女たちの日常をありとあらゆる角度から描こうとしている。
同じ場所で何度もカットがかかり、センスのある構図の絵を
絶え間なく見せ続けることで飽きさせない。
ストーリー自体の起伏は薄いぶん、アニメーションによる起伏で
物語にリズム感を生んでいる。
簡単なようで非常に高度なことをしており、
マンネリやダレというものが生まれやすい日常アニメを
きちんと盛り上げる映像が作られている作品だ。
好みは分かれるが少しだけセクシーなシーンも有り、
それが良いスパイスにもなっている。
働かざる者食うべからず
彼女たちは大学生だ、色々と自由がきく部分はあれど、
お金の問題は常に発生する。
だからこそ働く、バイトをしたり、農業サークルの手伝いをしたり。
労働のあとの「ご飯」、それは格別なものだ。
終盤になると5人だけでなく、別のサークルのキャラや
家族などもでてくるものの、メインキャラの
5人の日常であることはブレない。
夏が過ぎ、学園祭が始まり、少しずつときが進んでいく。
大学生という4年間の日々は1日に1日、確実に減っていく。
もう少しすれば就活や将来を考えなければならない。
だが彼女たちはまだ1年生だ。
将来のことを考えるまではまだ猶予がある。
この貴重なモラトリアムはかけがえのないものだ。
今、社会人の人たちにとってはもう味わえない失われた日々であり、
そんな日々をどこか思い起こさせてくれる。
大学生という身の丈にあった等身大の大学生らしい
遊びを、毎日を彼女たちが過ごしている。
ファンタジーや現実感がない描写がほとんどないからこそ、
このモラトリアムに共感を覚えてしまう。
モラトリアムはあくまでも猶予期間だ。
彼女たちの日々は少しずつ進んでいき、成長していく。
自分や友達だけに腕をふるっていた料理を他人に振る舞ったり、
人見知りを少しずつ克服したり。
ゆっくりとした変化がたまらない。
成長
1話の主人公と終盤の主人公では大きな変化が生まれている。
一人で料理を作り食べていた主人公が、多くの人と食卓を囲み、
それまでなかった「思い出話」に花を咲かせる。
誰かと一緒にいるからこそ思い出は生まれる。
そんな思い出を話せるようになるほどメインキャラの関係性が深まっている。
日常アニメには中身がない、そんなことはこの作品には言わせない。
きちんとした「成長」とモラトリアムが詰まっており、
1クールで一切ブレがない。
毎回の食事の中で少しずつ成長し変化していくキャラクターたち、
そんなキャラクターの「1年」が1クールできれいに描かれている作品だった。
総評:最高の日常アニメをあなたに
全体的にこれぞ日常アニメと言いたくなるような作品だ。
大きな出来事や激しいアクションシーンがあるわけでもない、
恋愛要素なんて微塵もない。あくまで普通の大学生の普通の日常だ。
そんな普通の大学生の日常だからこそ「料理」が常にそばにあり、
食事を重ねていくことで変化し成長していく。
丁寧なストーリーで1話1話綴っており、その1話1話が飽きさせない。
各季節のイベントをこなしながら、アニメーションによる
起伏で日常系の欠点である起伏の弱さを補いつつ、
1話1話の印象がきちんと残る。
派手ではないが、プロの仕事が光る作品だ。
一歩間違えば飽きる、一歩間違えばダレる。
しかし、1クール、飽きさせずダレさせない。
日常アニメの面白さが詰まった作品でありながら、
大学生らしく「モラトリアム」であることを感じさせる変化と
時間の流れがきちんとあるのも心地良い。
オリジナルアニメであり、2期があるかどうかはわからないが、
このまま2期、3期、4期と彼女たちの卒業までの日々が
描かれれば名作になり得る作品だ。
オリジナルアニメで4期やることはなかなか難しいが、
いつか続編が作られることを期待したい。
個人的な感想:嗚呼懐かしき日常アニメ
久しぶりに純粋な日常アニメだ。
料理という点は特色ではあるものの、
料理自体が主軸はなく、趣味アニメではない。
あくまで5人の大学生の日常でそれ以上でもそれ以下でもない。
意外と1話1話のオチがしっかりしているのもポイントかも知れない、
特に11話のオチなどはくすくすと思わず笑ってしまうオチになっており、
各話にきちんと締まりがある。
日常アニメと言うジャンルは人を選ぶ部分はあるものの、
ブームがすっかり終わってしまった今だからこそ、
もう1度、日常アニメの良さを再認識させてくれるような作品だった。