評価 ★★★★☆(70点) 全70分
あらすじ 宇宙世紀0079、地球連邦とジオン公国が戦った一年戦争の末期。サイド4のスペースコロニー群、ムーアはジオン軍の攻撃により破壊され、多くの住人が命を落とした
引用- Wikipedia
これが大人のガンダムだ!
原作は漫画な本作品。
元々はWebアニメとして制作され、本作品は前編に当たる4話までを
つなげ新規カットをくわえた劇場アニメとなる。
監督は松尾衡、制作はサンライズ
「宇宙世紀末期
本作品は機動戦士ガンダム、通称ファーストガンダムと時代を同じくしており、
時系列的には「末期」だ。
戦争が激化し、多くの犠牲が生まれている状況で
とある兵士は「ジャズ」を聞いている。
ジムの中でまるでドラムを叩くようにコックピットを叩く。
こんな状況でなければ彼はどこかのジャズバーでドラムを叩いてたかもしれない。
だが、そんなことはこの戦争の最中では許されない。
戦闘の前のそれぞれのルーティーン、タバコを吸う者もいれば
音楽を聴くものもいる。
次の戦闘で自らが死ぬかもしれない。
そんな事を考えないように彼らはそれぞれの一時の平和を味わっている。
思わずにやけてしまう日常描写だ。
ジャズにあわせてジムを操作し、バーニアを動かすシーンなど
この作品でしか味わえない細かい描写だ。
サンダーボルト宙域
最終局面を迎えつつある一年戦争、
そんな中で「サンダーボルト宙域」と呼ばれたものを取り返そうと
彼らは戦っている。
トランペットが激しく鳴り響く中で、彼らはデブリの中を駆け回る。
そんなノリの良いジャズの音ともに仲間たちは宇宙の塵へと帰っていく。
多くの命が散りゆく中で流れる音楽。この作品は音楽とともにある。
主人公のジャズをきき、ジオンはポップな音楽を聞いている。
ジャズの小気味よいリズムと、ポップな調べの中で命はどんどんと散りゆく。
悲惨な戦争のはずなのにそう感じさせない音楽が
この作品らしい雰囲気を作り出しており、思わずにやけてしまう。
敵の機体に乗り込み、敵の機体を奪う主人公。
彼は敵に向かってこんなセリフを吐く
「イオ・フレミング少尉だ、ジャズが聞こえたら俺が着た合図だ」
こんなかっこいいセリフに惚れない人は居ないだろう(笑)
機動戦士ガンダムシリーズの本編ではない、
外伝的な作品だからこそのキャラクターの死の軽さと、
そんな悲惨さを覆い隠すような音楽の融合がたまらない。
例え機体が破壊されようとも敵のモビルスーツを奪って
ジャズとともに帰還する男、主人公の魅力に取り憑かれてしまう。
そんな彼に試作型モビルスーツのパイロット任させるところから
ストーリーが動き出す。
彼がガンダムに乗って初出撃するシーン。本当にたまらない。
激しいジャズのリズムがガンダムの出力の凄さを感じさせ、
そんな機体に振り回されながら、戦場をかき乱す
「ガンダム、俺の力になれ」
戦場に魅入られた男が白い悪魔を手に入れ、戦場をわがままに、自由にかけまわる。
その「脅威」の描写もセンスの塊だ。
あえて彼が乗るガンダムに立ち向かう敵機の「視線」で描くことによって
ガンダムの脅威を、イオ・フレミング少尉の技術の凄さを感じさせる。
主観映像を効果的に利用することによって、
より戦闘シーンが盛り上がる。
本来、ガンダム作品の1話の場合は主人公がガンダムを手に入れて
初戦闘をして終わることが多い。
だが、この作品は外伝的な作品だからこそ1話から
本編の終盤のような苛烈さを極める戦場が舞台になっており、
1話からガンダムシリーズ終盤のような面白さを醸し出している。
リビングデッド師団
主人公と相対するジオン側の兵士たちは
「リビングデッド師団」と呼ばれるものだ。
文字どおり、ゾンビのごとく、人体が破損しても彼らは戦い続けている。
戦争で失った手足、そんな手足でありながら彼らは機体と自らをつなげ、
兵士として戦い続けている。
彼らは文字通り、戦争における人的資源だ。
例え手足を失っても、失った手足の代わりに義足を付け、
その義足を通して、普通の人間ではありえない操縦を可能とするシステムを
ジオンが確立しており、優秀な兵士となっている。
現実ならばただの負傷兵で、戦場からは去る兵士たち。
だが、この世界では負傷兵はより強い兵士になって戦場に帰ってくる。
戦争の中で更に手や足を失っても、彼らは「脳」が残り続ける限り戦い続ける。
そんな彼らの物語とキャラクターをきちんと描くことで、
地球連邦にもジオンも関係なく感情移入してしまう。
誰が悪いわけではない、戦争というものが悪い、
だが、その戦争は終わらない。彼らは戦い続けるしか無い。
多くの仲間の命が白い悪魔に、義足のスナイパーに奪われていく。
二人の主人公が戦場で相まみえればジャズの音ともに激しい戦闘を繰り返す。
最後の最後まで、足を失い、手を失っても、彼らは戦い続ける。
戦いに勝つために、仲間を守るために
「ダリル・ローレンツ」という男は失っていない右腕をあえて切り落とされる。
誰かを守るために、彼は戦争の道具となる。
残酷な現実が次々と描かれる。
本来は1話18分全8話の短い尺の作品だからこそ、
余計なシーンがなく、サクサクと物語が展開していく。
非常に「濃ゆい」作品だ。
子供
兵士はどんどんと失われていく。失われた兵士は補充される。
だが、大人とは限らない。
イオ・フレミング少尉の下には「子供」なパイロットが送られる。
戦争の悲惨さ、苛烈さ、残酷さを叩きつけられる。
戦争の中での人間の心理をこの作品は如実に描いている。
戦争の中で戦争に生を見出すもの、戦争にすべてを捧げるもの、
戦争に絶望し自殺するもの、戦争という現実から逃れるために薬に逃げるもの。
それぞれがそれぞれの立場で戦争を味わっている。
死んでしまった仲間は生き返ることはない、
父親と繋いだ手はもうない、子どもたちはもう両親には会えない。
失ったものは取り戻すことはできず、戦争は多くのものを失わせる。
平和な日々と、あの頃の気持だけが唯一の心の拠り所だ。
そんな日々を取り戻したい、その思いだけで彼らは戦い続けている。
「理不尽な現実こそ、僕らの敵だ」
いつか心から笑えるその日まで兵士である彼らは戦い続けるしか無い。
この戦争で生き残ることは奇跡かもしれない、
でも「奇跡」が起こるかもしれないという希望のもとに、
罪を重ねながら彼らは戦い続けている。
「あばよ、同じ消耗品の兄弟たち、生き残ったら乾杯だ」
短い尺の中で次々と飛び出す名言たちが心に染み渡る。
子どもたちは始めての戦場の中で誕生日ケーキにささった
ろうそくを消すようにあっさりと消えゆく。
市街地戦
終盤のフルアーマーガンダムVSサイコ・ザク戦は素晴らしいの一言だ。
高性能のフルアーマーガンダムと、機体と自らの神経をつなげるサイコ・ザク。
どちらも後には引けない。
後にひくには失ったものがあまりにも大きすぎる。
彼らがコロニーの中で激しく撃ち合う様は興奮してしまう。
巨大なビームライフル、降りしきるミサイル、
激しくもみ合いながら動きまくり撃ち合いまくる戦闘シーンは
誰もいないコロニーを破壊しまくり、互いの機体を破壊していく。
フルアーマーガンダムの多種多様な武装、
サイコザクの自らの神経と繋いだからこその動き、
ロボットアニメ好きならば「たまらない」ものだ。
戦争の最中の憎しみは止まらない。
故郷を破壊された地球連邦軍、仲間を多く殺されたジオン、
憎しみの連鎖を止めようとしようものもいる。だが、止まらない。
戦争は1個人の感情だけでは止まらない。
複雑に絡み合った憎しみという感情は互いを滅ぼすまで止まらない。
人の思いが戦争を生み、人の思いが戦争を激しくする。
四肢を失ったダリル・ローレンツに負けたイオ・フレミングは絶望し、
多くの仲間を失い捕虜となるところでこの作品は終わっている。
総評:ジャズとともにあいつはやってくる
全体的にみて素晴らしい作品だった。
劇画調の作画で彩られるガンダムの世界は一言で言えば大人だ。
あっさりと死にゆく命、メインキャラクターでさえ簡単に死ぬ。
そんな世界で戦争に魅入られた男と、戦争を乗ろう男が対峙し、
モビルスーツで自らの感情を増大させ、戦争をより激化させていく。
本当は素直に笑いたいだけなのに、平和な日々を取り戻したいだけなのに。
そんな彼らのささやかな思いですら「奇跡」が起きない限りはありえない。
この作品でそんな奇跡はおこらない。
無慈悲に戦争は続いていく、無慈悲に人の命は失われていく。
戦争において人は資源でしかなく、大人も子供も、男も女も関係ない。
そんな世界を70分ほどで濃密に描いてるのがこの作品だ。
余計なシーンは一切ない、サクサクと進むストーリーが
より戦争の残酷さ、命の儚さを強調しており、
そんな世界で生きるキャラクターたちに強く感情移入してしまう。
作品の7割位が戦闘シーンだ。
次々に描かれる戦闘シーンは素晴らしい迫力で描かれており、
モビルスーツの破壊の描写、戦闘シーンの激しさは息を呑むほどの
クォリティと没入感を生んでいる。
本当に素晴らしい作品だ。
作中で流れる「ジャズ」も強く印象に残り、
早く続きが見たいと思わせてくれる作品だった。
個人的な感想:配信
この作品の存在自体は知っていたが、配信限定ということもあって
当時は見逃しており、映画化してることもしらなかった(苦笑)
水星の魔女の1クールと2クール目の間でTVエディションを放送することをしり、
この作品の存在を知ったのだが、劇場で見たかった作品だった。
ガンダムの本編を見ていなくとも、ジオンと地球連邦が戦争をしている
くらいの情報だけわかっていれば把握できる面白さがあり、
外伝とは思えないほど高い完成度を誇る作品だった。
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