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陰惨な狂った世界「アークナイツ 冬隠帰路/PERISH IN FROST」レビュー

アークナイツ 冬隠帰路/PERISH IN FROST SF
アークナイツ 冬隠帰路/PERISH IN FROST
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評価 ★★★★☆(60点) 全8話

TVアニメ『アークナイツ【冬隠帰路/PERISH IN FROST】』最終話(第16話)予告映像

あらすじ 鉱石病——それは人々の体を徐々に結晶化させ、死に至らしめる不治の病。 製薬会社ロドス・アイランドはその治療法を研究し、 病が引き起こすあらゆる問題を解決するための取り組みを行っている引用- Wikipedia

陰惨な狂った世界

本作品はアークナイツの2期。
監督は渡邉祐記、制作はYostar Pictures

重い

9話、実質2期の1話冒頭から重苦しい世界観が築かれている。
街は多くの戦闘で破壊され、キャラクターたちも
この「戦争」に心を疲弊している。

この世界は「オリジニウム」という鉱石によるエネルギーが存在する。
だが、そのオリジニウムが原因で「オリパシー」と
呼ばれる不治の病が流行っている。
「感染者」と呼ばれる彼らは様々な立場で戦っている。

感染者はこの世界で迫害を受けている。
差別され、迫害され、身分を剥奪された彼らは自らの権利を
主張するためにも戦っている。

「レユニオン」という組織は暴力、テロ行為などを行っている。
主人公たちが所属する「ロドス」という組織は
そんなレユニオンを戦いながらも、同じ感染者として
病気の治療法などを研究し、感染者を保護している。

悲しい戦いだ。
彼らはこの世界のエネルギーが故に病気になり、そんな病気ゆえに差別されている。
感染者が死ねば感染者を生む、それがより、多くの差別を生み、戦いを産んでいる。

「ロドス」に所属する主人公も、アーミヤも、
感染者をすくいたいと思っている。だが、
誰かを守るために、救うために、同じ感染者を殺さねばならないときもある。

1期ではそんな世界観を描きつつも、
「アーミヤ」はそんな世界で誰かを殺さずに
この状況をなんとかしようと戦っていたのだが、
主人公であるドクターを守るために終盤でアーミヤは
人を殺してしまっている。

そんな事実を受け止めながらも、この戦いは続いていく。
記憶を失ったままの主人公であるドクターの記憶が唯一の鍵だ。
2期でも大きく状況が変わった状態で始まるわけではない。
悲しい戦いは続いていく。

質アニメ

1期はそんな雰囲気があったからこそ、
どこか2000年前半の深夜アニメ、GONZO制作のアニメっぽさを
強く感じる作品だった。

作画のクォリティも非常に高く、ダークな世界観で、
基本的に色合いは暗いのだが、そんな暗さを感じさせながらも、
大胆なカメラワークや演出、1枚1枚の作画のクォリティの
高さを感じさせるシーンが非常に多かった。

2期でも作画のクォリティは高いままだ。
細かいカット割りでシーンを構成しており、
どこか「映画」のような雰囲気を築きあげている。

ただ、カメラワークに関しては1期ほど冒険はしていない。
1期の1話は一人称視点と三人称視点を切り替えながら
面白いアニメーションを表現していたが、
2期では視点の切り替えなどは抑え気味だ。

1期である程度のキャラ紹介と世界観の掘り下げが終わっているがゆえに、
より辛辣な世界観を描いている。
「アーミヤ」は1期で経験したことを悔やみつつもくじけない。
彼女は強い子だ、本当は殺したくなかった相手を殺したとしても、
それで立ち止まることはない。

この世界を救うために、感染者を救うために。
再び立ち上がった彼女の前に「フロストノヴァ」が
現れるところから2期の物語は始まる。

フロストノヴァ

敵である「レユニオン」も1枚岩ではない。
感染者の権利、立場を守るために多くの残虐行為を行っているものの、
命を奪うことに抵抗がないものや、
必要なく命を奪うことに抵抗するものもいる。

そんなレユニオンとの戦いの中で怯える兵士もいる。
だが、アーミヤがそんな怯える兵士に寄り添う。
基本的に「レユニオン」は強敵だ、
主人公たちは苦戦ばかり強いられている。

フロストノヴァが所属する「スノーデビル」小隊は
冷気を操り、命乞いするものでさえ凍らせる小隊だ。
そんな小隊を前に、少数な主人公たちは逃げることはできるのか。
一歩間違えば全身が凍りつく敵、
妥協のない作画で描かれる戦闘シーンは素晴らしい緊張感がある。

それぞれの大義のために、命を賭けて戦う姿、
キャラクターはソシャゲ原作アニメだからこそ多いものの、
それぞれにきちんと活躍の場があり、印象がきちんとついていく。
ロドス、レユニオン、それぞれに正義がある。どちらが悪とはいえない。
世界の根底から変えないとこの悲しい戦いは終わらない。

強敵のフロストノヴァでさえ、感染者だ。
感染者たちの立場を、権利を、命をすくいたい。
どちらもそれは変わらないのに、戦わなければならない。

ソシャゲ原作アニメという都合上もあるが、
メインキャラはほとんど死ぬことはない。
ボロボロになりながらも、なんとか状況を打開し、逃走に成功することが多い。
だが、名前のないモブキャラは違う。
任務のために、争いの中で、彼らはあっさりと命を落とす。

多くの命の犠牲の上にメインキャラは生き延びている。
それゆえに「決着」はつかない。
現実の戦争と同じく、その戦争を率いている上の人間は死なない。
死ぬのは現場の集められた兵士だけだ。

この戦争がどこまで続くのか。
メインキャラが死なないからこそ、戦況の大きな変化も生まれず、
現実の戦争と同じく陰惨な泥沼の戦いは長く続いてしまう。
この状況を打開する手立てが各陣営にはない。

行き当たりばったりの、その場しのぎの状況の変化を
繰り返すことができない不毛な争いだ。
そんな不毛な争いに死体が積み重ねられていく。
仮初めの勝利を、仮初めの奪還を、仮初めの救いが、
この絶望的な世界のほんのわずかな希望を紡いでいく。

そんな現場で流れる血とは裏腹に、
各組織の上層部は怪しげな雰囲気をまとっている。

視点

2期の中盤で視点が切り替わる。
主人公たちを追い詰めていた「レユニオン」の兵士たち、
そんな彼らが今度は逆に追い詰められる。
追い詰められているからこそ、主人公たちと同じく状況を打開しようとする。

自らの「アーツ」という能力を使えば使うほど、
彼らもまた蝕まれていく。
自らの命を守るために、誰かを守るために、
彼らは自らの命を燃やしながら戦っている。

視点が切り替わることで互いの正義を描き、
どちらの正義にも「正しさ」があることを描いている。
主人公側のキャラは犠牲にならないが、
敵であるレユニオンのキャラは犠牲になっていく。
救いのない、憎しみの連鎖が止まらない。

戦いが続く中で「なんのために」戦っていたのかも分からなくなる。
今いる場所が救いのなるのか、今やってることが正しいのか、
戦いが混迷していく中でキャラクターたちも
自身の「今」に悩んでいく。

それぞれの陣営も「命を奪うため」に戦っているのではない。
互いの命が危険に陥る中で、敵である彼らは協力し合う。
知恵のあるものだからこそ、会話による和解の可能性もある。
今は互いに道を違えている。

しかし、もしかしたら、そんな道が交わる時が来るのかもしれない。
絶望とすくいのない状況で一筋の救いという名の光が見えてくる。
だがそれでも、争いは止まらない。

冬の女王

フロストノヴァは重度の感染症者だ。
痛みを抑え、他者が触れることすらできない冷気に覆われながらも、
強力なアーツを使い、戦いに興じている。
そんな状態にも限らず、彼女は限界を超えて力を使っている。
己の過去故に、己の正義故に、仲間のために。

彼女の悲しげな歌は心を響かせる。
「自分に勝てればロドス」に行く。それが彼女と主人公たちの約束だ。
だが、それは彼女の「死」を意味する。
死を前にしてようやく人と触れ合うようになれた彼女、
死の直前にして彼女は主人公の仲間になってくれる。

それほどの状態でならなければわかり合うことができない。
この世界で生き抜く人々は背負っているものが多すぎる。
それゆえに縛られる。
そんな生き様という縛りから解放されるには、
死ぬことくらいでしか出来ない。

同じ人間なのになぜ争わなければならないのか。
不毛な争いの中で、不毛に消費されていく命、
この争いはどこまで続くのか、どこに行き着くのか。

救いはあるのか。

総評:これはもはや戦争映画だ

全体的に見て1期と同じく安定したクォリティで描かれている作品だ。
1期ほど大胆なカメラワークはなかったものの、
頻繁なカット割りと高クォリティな作画で描くことで、
このダークかつシリアスな世界観の重苦しい空気感を
見事に表現しており、それがこの作品の面白さを後押しししている。

ストーリー的に1期からの続きであり、
1期を見ている前提であり、なおかつ各陣営のキャラなどを
把握していないと分かりづらい部分もあるものの、
そこさえ飲み込めればSFな世界観で描かれる
「戦争」の陰惨さが染み渡るような面白さになっている。

戦争という互いの正義がぶつかり合う行為、
そんな行為は現実でも行われている。
そこで消費されるのは名もなき兵士たちだ。
それは現実も、この作品も変わらない。

多くの名もなき兵士が犠牲になり、命が燃えつづけ、
それが大きな大火となって、更に戦争を苛烈なものにしていく。
争っているのは人間だ。色々な種族のキャラクターが居るものの、
知恵を持つ人であることには変わらない。
だからこそ厄介だ。

互いの正義のために、どちらが間違っているともいえない。
そんな正義のぶつかり合いが憎しみの連鎖を生み、
命を奪う目的のために戦っているのではないのに、
命を奪わなければ自身の正義を貫けない。

悲しい戦いだ。
一時休戦をすれば、互いに理解できるかもしれないと思えるほど
楽しげに会話をすることもできる、酒を飲み交わすこともできるかもしれない。
だが、戦闘が始まればそんな休戦のことなど忘れてしまい、
互いに命を削り合う。

メインキャラクターは滅多に死なないものの、
一歩間違えば死が隣りにある状況で、犠牲者も生まれる。
そんな犠牲をメインキャラクターが乗り越え、
少しでもよりよい世界になるために、そんな犠牲を無駄にしないために
一歩を踏み出している。

2期で大きくストーリーが動いたとはいえない。
3期の発表は今のところはないものの、
このハイクォリティで描かれる陰惨な戦争映画のようなストーリーを、
アニメという媒体で続きを見たいところだ。

個人的な感想:3期

ぜひ3期がほしいところだ。
ソシャゲ原作アニメはキャラクターの多さに
振り回される傾向にある作品が多いが、
この作品はそういうことにはなっていない。

丁寧にストーリーを見せ、キャラクターを見せる。
本来それが当たり前なのだが、当たり前なことが出来ていない
ソシャゲ原作アニメが多いからこそ、
きちんと作られたこの作品の続きが作られることを期待したい。

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