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悪魔的幸福論「悪魔くん」レビュー

悪魔くん ファンタジー
悪魔くん
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評価 ★★★★☆(60点) 全12話

『悪魔くん』予告編PV – 2023年11月9日(木)よりNetflixにて世界独占配信!

あらすじ千年王国研究所――そこは、奇怪な依頼が舞いこむ相談所。研究所の主である《悪魔くん》こと埋れ木一郎は、1万年にひとりの天才少年。引用- Wikipedia

悪魔的幸福論

原作はゲゲゲの鬼太郎でおなじみの水木しげる。
「悪魔くん」はTVアニメとして1989年に放送され、
映画化などもされた。
監督は佐藤順一、制作はエンカレッジフィルム

ホラー

原作が水木しげるらしく、この作品もまたホラーな内容だ。
同時に「探偵もの」でもある。
同時期に上映された「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」と同じく、
ミステリー要素とホラー要素を兼ね備えている。

だが、「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」とは違いホラーの要素としては若干薄く、
ファンタジーなミステリーとしての要素が強い。
主人公である悪魔くんは「二代目」だ。
1万年にひとりの天才少年が営む研究所は奇妙な相談が迷い込む

1話で訪れた女子大生は同じ時間に5人の知人が死ぬという
事件に巻き込まれていた…というところから物語が始まる。

ホラーな作品らしく色合いは暗く重苦しい。
背景もあえて「手書き」で描いたことを強調するような
斜線が消されずに残っており、
キャラクターデザインのクセとあいまって独特の雰囲気を醸し出している。

主人公である悪魔くんは癖のある性格をしている。
どこか世間を斜に見た彼は人をイラっとさせる言葉を吐き散らかす。
彼には建前も偽善も遠慮もない。彼は常に「真実」を求めている。
彼のもとに訪れる珍妙な事件、ある種の探偵として
相棒であるメフィスト三世とともに彼は事件解決に動き出す。

人間

ホラーらしく、起る事件には「悪魔」が関連している。
その裏には必ず人間の欲望が隠れている。他人への嫉妬、恨みつらみ。
そんな思いに「悪魔」がつけこむ。
悪魔は人間を乗っ取り、人間の業を利用して力を発揮する。

そんな悪魔との戦闘シーンも描かれる。
だが、メフィスト三世は半人半魔であるがゆえに力が不足しており、
主人公である悪魔くんもそこまで強くはない。
彼らのピンチに「先代」の悪魔くんがやってくるような
ファンサービスも在りつつ物語が展開していく。

人を呪わば穴二つ。呪った本人を通して
悪魔が魔界から人間界にやってきて人間に乗り移り、
本人が隠している「本性」をさらけだし、
人間の欲望を解き放っていく。

そんな世界で「悪魔くん」は二代目として父の遺志を受け継いでいる。
人間に捨てられ悪魔のもとで育った二代目悪魔くん。
そんな彼が「平等な人間社会」を作るために、
「人類が平等に幸せな生活ができる理想社会である千年王国」を
作るために、平等な世の中にするために「人間の業」に立ち向かっていく。

さらっと描かれてはいるが事件の裏に潜む内容はえぐい。
大学のサークルで起こった男女の問題、
そのうらには「親子の問題」が隠れている。
さらっと描かれる事件の真相があまりにもえぐく、
救いのない物語が見る側に突き刺さっていく。

全ての人間にとっての平等な幸せとはなんなのか。
「悪魔くん」自身でさえ自分自身の幸せとはなにかわかっていない。
そんな彼が人間の業と悪魔とか変わっていきながら、
「幸せ」とはなにかを模索していく。

人間の欲望は深い。
失ったものを取り戻すために、食べたことがないものを食べるために、
自分の欲望を満たすために、人は簡単に「罪」をおかし、
ときに悪魔にすらすがる。

そんな人間を悪魔くんは目にしていく。
ときに彼は自身の中の欲望に迷うこともある。
悪魔の降霊術に秀でた彼は興味本位でサタンを呼び出すこともある、
それもまた彼の欲望だ。
だが、自身の中の欲望が彼の中では定まっていない。

相棒であるメフィスト三世、大家さんや、大家さんの一人娘、
そして父親との関わり合いの中で、
自分自身の日常の中にある些細な幸せという欲望に気づいていく。

他者の欲望に、他者の業に触れる中で、
愛情とはなにか、友情とは何かを模索していく。
彼にとって「見えない」ものは存在しないものだ。
人間は見えないなにかを信じ、それに縛られる。

悪魔の釘

主人公である悪魔くんは、過去に「ストロフィア」という
堕天使と関わりを持っている。だが、彼はそのことを覚えていない。
事件の中で現れる「悪魔の釘」、そんな悪魔の釘はなんなのか。
悪魔くんの過去になにがあったのか。

彼にとっての幸せはなんなのか。
自身の欲望のために、幸せのために多くの人間は悪魔に魂を売る。
それは悪魔の善意だ、人の悪意と悪魔の善意、どちらが「悪」なのか。
まるで幸福論をとわれてるように1話1話、
人間の欲望と悪魔のエピソードが描かれていく。

初代悪魔くんも2代目悪魔くんとの関係に悩んでいる。
食事に誘っても断られ、誕生日を祝おうとしても拒絶される。
メフィスト三世との関係性は良好であるものの、
悪魔くん自身が「愛情」や「友情」というものを理解しきれていない。
親に捨てられたという過去故に、自らの生まれ故に。

10話ではそんな二人の会話を「左目」のあたりに
傷の付いた男が聴いている。
そんな男の過去はまさに「あの人」を彷彿とさせる。

同じ「水木しげる生誕100周年記念4大プロジェクト」で
作られた作品だからこそのコラボという名のファンサービスは
映画を見た後にはたまらない要素だ。

主人公はホットケーキが大好きな少年だ。
作中でもよくホットケーキを食べては
自身の中の人生におけるホットケーキランキングを発表している。
そんな中で彼はぼそっとこぼす。

「2位はメフィストの焼いたもの、1位は…」

あえて言葉にしなくとも、その後に出てくる言葉は想像できる。
彼にとって特別なホットケーキ。
そんなホットケーキでの表現が感情表現の苦手な彼らしい、
愛情表現になっている。

終盤、そんな父が封印される事件が起こる。
そして過去が明らかになる。

埋れ木一郎

彼は悪魔くんに子供の頃に
「ストロファイア」のもとで育っている。
歪んだ教育のもとに悪魔くんを歪んだものにしようとしていた。
そんな「ストロファイア」が再び悪魔くんの前に現れる。
彼のためにメフィスト三世も自身の本当の力を開放する。

彼は半分悪魔だ。普段は人間の理性でそれを抑えている。
本性を出したとき、彼は人間ではなくなってしまう。
友はそんな状態になったときは自身を殺してくれと頼んでいる。
友情という見えないもの、それを悪魔くんは信じていなかった。
だが、いざそうなったときに彼は自覚していない友情を自覚する。

心を得た彼は初めて人間になり、
救世主たる資格を得て「ソロモンの笛」をふけるようになる。
だが、物語のラストで衝撃の結末を迎える。
悪魔の契約、人の業と欲望の代償を
彼も支払うことになるラストで物語は終わる。

総評:鬼太郎誕生ゲゲゲの謎を見た貴方に

全体的に見て非常に面白い作品だ。
「悪魔くん」という昭和の作品を現代によみがえらせ、
リメイクではなく「続編」として制作することで、
より現代的な物語に仕上がっている。

「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」もそうだったが、
水木しげるさんが作り上げた世界を、
うまく現代的なニュアンスに落とし込んで新作として作り上げており、
この作品も悪魔くんという作品を基盤に、
親子や友情の物語を描きつつ、同時に人の業を描いている。

鬼太郎誕生では妖怪、
悪魔くんでは悪魔というものではあるものの、本質は変わらない。
妖怪や悪魔が悪いのではなく、全ては人間の欲望ゆえの事件だ。
そんな事件を見ていく中で人間に捨てられ悪魔に育てら捨てられた
「主人公」が幸せとは何かを模索していく。

1話1話すっきりとした展開というより
どこかモヤモヤとスッキリとしないものが残る。
それは悪魔くんも同じだ、人間とはなにか、幸せとはなにか。

この作品ではある種の答えが出ている。
他者の幸せを願うこと、それが幸せなんだと。
その連鎖が彼らの「千年王国」にも繋がっている。
だが、その代償を悪魔くんも最後に払っている。

セカンドシーズンに向けた展開なのか、
コレで終わりなのかはわからないが、
「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」と同じく、
物語としてはきちんと結末がついているのに、
モヤモヤ感の残るストーリーは心に深く残るものがある作品だった。

個人的な感想:あのラストは…

あのラストはどう解釈すればいいのだろうか(笑)
私は悪魔くんに関してはほとんど知らないため、
シリーズを未視聴でこの作品をみたものの、
wikipediaをみると、過去の作品で悪魔くんは殺されており、
数年後に復活するという展開が合ったようだ。

今回のあのラストも過去作品のオマージュなのかもしれない。
そう考えるともしかしたら…続編もあるのかもしれない。
気になるところだ。

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