「竜とそばかすの姫」レビュー

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評価 ★☆☆☆☆(18点) 全121分

あらすじ 高知県の田舎町に住んでいる、そばかすが目立つ地味な女子高生・すずは、幼い頃に母を事故で亡くして以来、大好きだった歌を歌えなくなり、父との関係にも溝が生まれていた。引用- Wikipedia

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宝の持ち腐れ

本作品は細田守によるオリジナルアニメ映画作品。
監督は細田守、制作はスタジオ地図。

U

映画冒頭、この作品で重要な要素である「U」について説明される。
Uはいわゆるメタバース的なSNSであり、世界中に50億人もユーザーが居る。
50億人のユーザーがUに集まり、アバターでもう1つの世界を楽しんでいる。
そんなUの世界観の描写は素晴らしい。

様々なアバターが存在し、どこかデジタルでありながらも、
温かみを感じる仮想空間の世界の描写は圧倒的な世界観の描写であり、
そんな「デジタル」な空間から一気に現実への描写に巻き戻す。

私は細田守監督とは相性が悪い。
演出家としての彼の才能は本当に素晴らしいが、
ここ数年の彼が手掛ける作品は嫌悪感すら感じるものがあり、
本サイトでもあえてレビューしてていない。

しかし、この映画の冒頭は細田守監督、いや、演出家としての
細田守氏の才能を根強く感じる。
デジタルな空間を壮大に描いたあとに場面を切り替え、
「田舎の木造建築」に住む現実の少女を映し出す。

この落差の演出は思わず息を呑む。
田舎の描写はどこかさみしげだ、宮崎駿監督が手掛けるような
温かみのある「田舎」ではなく、現代的な今の閉塞感のある田舎の描写は
細田守氏だからこその背景描写だ。

そんな田舎の閉塞感は学校の中にもある。
主人公の「すず」は美少女とはいえない、そばかすがあり、地味で暗い。
彼女の過去は明るかった、楽しい子供時代の思い出は色褪せず、
まだ母が居た頃の記憶を、思い出を引きずっている。

しかし、そんな母はもういない。
他人の子供を助けるために母は犠牲になり、
そのせいで彼女は「他人」との関わり合いに恐怖を覚えてしまう。
ネットの母に対する中傷、見ず知らずの他人が見ず知らずの他人に
正義感というナイフをいつでもつきつける。

その結果、彼女は自分の「世界」に閉じこもってしまっていた。
自分のために母が犠牲になったのならまだ違ったのだろう、
しかし、母は見ず知らずの他人の子供を助けるために犠牲になった。
彼女はそんな母の正義感を理解できず、ネットの母への中傷を
目にした結果、他人との関わり合いを拒んでしまう。

現実に閉塞感を感じ、可能性を感じない彼女は
もう1つの現実「U」に可能性を見出す。

優秀すぎるデバイス

この手の仮想現実を扱ったものの場合は、
何かしらのVRデバイスが描かれることが多い。
VRゴーグル的なものや、体を全て包み込むようなもの、
コックピットの中に入るようなものまで作品によって様々だが、
この作品はワイヤレスイヤホンである(苦笑)

このあたりの設定の描写の詰めの甘さは常に目立つ。
ワイヤレスイヤホンくらいしかない大きさの端末を
耳に突っ込むだけで、まるでソードアート・オンラインのごとく
五感のすべてまるごと仮想世界にはいることができるのは
一体どういう技術なのか。

SFというのは本当と嘘が入り混じっている。
例えばガンダムが宇宙空間で戦う際に武器の音が聞こえるが、
本来、空気のない宇宙空間で音は発生しない。
しかし、それは嘘でいい。

現実的なSF考証を織り交ぜながらリアル感をだし、
同時に「嘘」を織り交ぜることでSFというファンタジーは
それぞれの作品の世界観を構築させている。

しかし、この場合は嘘に説得力があまりにもない。
この作品の時代設定が今なのか、それとも100年や1000年後なのか、
そういったものは一切描写されていないものの、
現実世界の日常描写から感じるのは私達が過ごしている「今」と
そうかわらない。

それなのにワイヤレスイヤホンくらいの端末で
フルダイブVR世界に入ってしまうのは違和感しか無い。
中盤には主人公が部屋などの安全なところではなく
田舎の道「走りながら」Uに入り込むシーンも有り、
一体、現実の体はどうなってるのだろうかと疑問ばかりだ。

「U」自体もちょっと意味不明だ。
50億人がこの世界を楽しんでいるらしいのだが、
彼らが何を目的としてこの世界にアクセスしているのかが意味不明でしかない。

今のメタバース自体もMETA社が手掛けていたりするが、
何がしたいのかよくわからないものも多い。
だからこそ、この世界で描かれている仮想現実である
メタバースもそんな感じになっているのかもしれないが、
50億人もアクセスするようなSNSに見えない。

主人公もUに入った瞬間になんの脈絡もなく歌いだしてしまうため、
もう少し「過程」や「説明」がほしいところを一切していない。
U自体はその人が持つ隠された能力を無理やり引き出すようなのだが、
これまたどんな機能なのだろうか(苦笑)

現実の世界で歌えなくなった少女が仮想現実では歌えるようになる、
その流れ自体は理解できるものの、過程が省かれているため、
いまいち物語の飲み込めない。

そんな飲み込めない状況で主人公のフォロワーが
何十万も一気に増えていく。このあたりの過程を納得できない。
確かに曲自体は素晴らしく歌も本当に素晴らしいのだが、
何十万ものフォロワーを数日たらずで獲得する流れは納得しにくい。

徹底的にこういった「過程」を省く傾向にある作品だ。
見せたい場面だけを見せ、本来は描く必要があるはずの過程や説明は
制作側の「頭」の中で完結してしまっている。

そんな唐突な展開の中で、唐突に「竜」が現れる。
彼は唐突にベルの前に現れ、Uの秩序を守っている正義の団体と戦っている。
彼は「悪しき竜」と呼ばれているが、
彼が一体何をしたのかはふわっとしかわからない。
正義の団体のアバターを使用不可にするくらいの抵抗はしたようだが、
竜がなぜ正義の団体に追われるハメになったのかがいまいちわからない。

これもまた「過程」を描かない。
竜がネットの嫌われ者で酷いやつと言われているという情報だけを
こちらに伝えるだけだ。

そもそも、この「U」を運営している会社なり人物なりがいるはずなのだが、
そこは一切明かされない。
これがTwitterなら垢バンなりなんなりの対処がされるはずだが、
この作品ではそういった「運営」も描いておらず省いてしまっている。

正義の集団の攻撃方法も謎だ。
彼らは竜に対して「アンベイル」というものを行おうとしている。
アンベイルは簡単に言えば情報開示請求のようなものだ。
仮想現実Uのアバターではなく現実のどこの誰かがわかってしまうものだ。

裁判所の仕事である(苦笑)
Uの管理者や運営元ならばともかく、正義の団体は1ユーザーに過ぎないのに、
スポンサーはよくわからないが多くおり、
管理者しかできないはずのアンベイルを行える武器を持って
竜に挑んでいる。

意味不明だ。
例えばTwitterで個人のユーザーが「こいつ迷惑だから情報開示してやる!」と
Twitterにハッキングしようとしているようなもので、
本来は彼らこそ垢バンされるような存在だ。

話が進めば進むほどツッコミどころを過程の描写不足が積み重なり、
話が進めば進むほど違和感が募っていく。

なんで…?

序盤をすぎると、そんな「竜」の正体を巡る物語が始まる。
しかし、ここでも意味不明だ。
主人公は自分自身のライブに乱入してきただけの存在である
「竜」に何故か固執し、なぜか正体を探る。

彼女がなぜ竜をそこまで気にして、正体を探るような行動をするのか。
その『動機』が見てる側にはまるでわからない。
彼女がなぜ竜にそこまで固執するのかがわからず、
わからないからこそ固執し、竜を探そうとする彼女に感情移入などできない。

そんな竜と主人公の関係性が曖昧かつふわっとしているのに、
二人で美女と魔獣のごとくお城で踊りだしても、
何がしたいんだろうという感情しか浮かばない。
中途半端なディズニー映画的な要素を出されても、
そもそもの動機がよくわからないため中盤からは見てる側は蚊帳の外だ。

個人情報を何が何でも暴こうとする正義の団体やUの人々も、
主人公の「倫理観」のようなものが終始よくわからない。
何が何でも竜の正体を暴こうとする彼らの目的が
まるで理解できない。

正体バレ

中盤で主人公がベルであることは幼なじみの男の子にいきなりバレる。
彼がなぜ主人公に気づいたのかがまるでわからない。
仮想現実Uの世界で彼女は自分が美少女と思う顔になっている。
唯一の手がかりは「歌声」くらいだが、
彼女は現実世界では歌えなくなっており、
長い間、幼なじみは彼女の歌声を聞いていないはずだ。

歌えなくなった原因が母親がなくなったことだとすれば、
声変わり前の彼女の歌声はだれも知らないはずなのだが、
なぜか幼なじみと、合唱団のおばさんにはバレる。
ちょっと意味不明だ。

虐待

Uの世界で叩かれまくり襲われまくる「竜」は
Uの世界から消えてしまう。そんな竜を主人公は必死人探し回る。
彼女がなぜそこまで竜に固執するのかは相変わらずわからないが、
彼女は「50億人」の中から竜をみつけないといけない。

彼女がどうやって「50億人」の中からリアルの竜を見つけるのか。
これまたご都合主義全開だ。
検索していたら、たまたま竜の弟が、龍の目の前でしか主人公が
歌っていない歌を歌っている配信をしていたため見つけることができる(苦笑)

竜は「虐待」を受けている少年だ。
彼は誰も信じず、大人を信じず、
現実世界の主人公を「ベル」だと信じることもできない。
この過程はまだ納得できる、しかし、更に意味不明な展開になる。
幼なじみの男の子がこんな事を言う

「ベルじゃなく、素顔のままで歌えばいい」

ベルが主人公である「すず」と信じてもらうために、
ベルが素顔で、すずの姿のまま呼びかける。意味不明だ。
ネット上のいざこざでネットリンチが発生しているようなUの世界で
「身バレ」のリスクは絶大だ。

ある種の匿名性の否定をしたいのはわかる。
インターネットという世界でどこの誰かわからない人が
叫んでも心には響かないとでもいいたいのはわかるものの、
そこにいたるまでの過程がかなり強引だ。

ベルがすずであると伝える手段はいくらでもある。
竜と二人きりで踊ったことや、
二人だけしか知らない「秘密」がいくつかあるのに、
それを利用しない。

素顔のままでUの世界で歌う映像表現と曲は素晴らしいが、
そこにいたるまでのストーリーとキャラクターたちの動機やセリフに
いちいち納得できない。

見ず知らずの「虐待」を受けている子供を助けるための
「50億人への身バレ」という自己犠牲、
母親と同じ他人への自己犠牲を彼女がすることで、
彼女は母の思いを知るという展開にしたいのはわかるが、
あまりにも強引だ。

虐待

竜は虐待を受けている少年だ。
何度も助けを求めているが助けられず絶望し、
その鬱憤をUの世界で晴らしている。
そんな竜を助けたいと主人公が思う気持ちは理解できるが、
終盤の展開は謎すぎる。

虐待を受けた子供がおり、だいたいの居場所もわかっており、
「証拠」となる虐待シーンも配信されている。
それなのに通報、児童相談所が48時間はなぜか動かない(苦笑)

調べた所、本来は
「虐待通告受理後、原則 48 時間以内に児童相談所や関係機関において、
直接子どもの様子を確認するなど安全確認を実施する」
とある。

48時間以内と48時間後ではまるで意味合いが違う。
通報を受けてから二日以内になんとか調べて確認します!というのが
本来のルールのはずなのに、
何故かこの作品では通報を受けてから2日後にしか動けないルールになっている。
意味不明である。
脚本を書いた人たちが勘違いしたのかもしれない。

一人でいかせるな!!!

この作品の最大のツッコミどころがココだ。
竜の正体、居場所、虐待を受けてる事実がわかったものの、
児童相談所がなぜか48時間後にしか動かないために、
主人公が自ら助けに行こうとする。

一人で(苦笑)
意味不明だ、本当に意味不明すぎて頭を抱えてしまった。
これで竜の正体や竜が虐待を受けてることを彼女しか知らないならまだわかる。
しかし、主人公以外にも友達や合唱団のおばさんなどの大人がいるのに、
なぜか彼女を一人で送り出す。

もう意味不明だ。
これで彼女が周囲に止められるのにもかかわらずに
こっそりと抜け出して行ったとかならまだわかるが違う。
むしろ「駅まで送る!」と応援する始末だ。

一応は心配してくれる
「一人で大丈夫かな」と、でも、「すすが決めたことだから」と
一人で行くことを誰も止めない。
竜のもとには虐待している父親がいる、すずはただの女子高生だ。
どこぞの名探偵の幼なじみのように空手の有段者なわけでもない。

そんな一人で東京に向かうと「竜」と彼の弟が
家の外でふらふらしている(笑)
もう、証拠の動画付きで警察に突き出したほうが早いと思うのだが、
この作品は公的機関が一切仕事をしない。

もうわけのわからないまま、50億人に身バレした主人公の
今後に不安を覚えながら終わってしまう作品だった。

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総評:過程を省くな…

全体的にみて嫌悪感を超えて「呆れる」作品だった。
たしかに映像表現は素晴らしい、Uの世界観の描写と
仮想世界でのベルという歌姫の歌唱シーンは圧巻だ。
田舎の何処か閉塞感のある描写も細田守さんらしい魅力を感じる。

しかし、ストーリーが終わっている。
キャラクターたちがどうしてそういう動機をえたのか、
そういった「過程」がまるで描かれておらず、
制作側が描きたいシーン、やりたい展開だけを描いてしまっており、
キャラクターがどうしてそんな事を言うのか、
どうしてそんな行動をするのかがまるで納得できない。

映像表現と音楽でゴリ押ししまくっており、
劇場で見ればそのあたりでごまかされる部分はあるものの、
そのごまかしが一切効かない家のTVでみてしまうと、
ツッコミまみれ、描写不足の数々のストーリーに呆れるしか無い。
これでも抑えたほうだ。ツッコミだせばキリがない。

演出家としての細田守さんのすばらしさを感じる一方で、
同時に脚本家としての細田守さんの酷さ、
そしてその両方を合わせた監督としての細田守さんの
実力不足を如実に感じる作品だった。

個人的な感想:見た目だけ…

本当に見た目だけなら素晴らしい作品だ。
PV映像を見ると映像表現の素晴らしさは感じていただけると思うが、
そんなPV映像で終わっていればよかったと感じるほど、
ストーリー、キャラクター描写は酷い。

雰囲気や世界観は本当に素晴らしい、描きたいこともわかる。
だが、それを「伝える」事ができていない。
監督の頭の中で自己完結してしまっており、作品に表現しきれておらず、
こんなツッコミだらけの作品が生まれてしまった。

いろいろな意味で次回作が気になるところだ。

ピアノミニアルバム 竜とそばかすの姫
ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス

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  1. 匿名 より:

    先日のTV放送があると知り、あえてレビューを見ずに放送を見たのですが、放送後にレビューを読み、概ね自分が?と思った所をレビューされており、読みながらヘドバンなみに頷いておりました。こう言うニュアンスや違和感って言葉にしずらいのを上手く文章にされてると思いました。

    5.0 rating