映画

至高の動物園映画「Flow」レビュー

4.0
FLOW 映画
(C)Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.
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評価 ★★★★☆(65点) 全84分

長編アニメ『Flow』本編映像

あらすじ 人間がいなくなったポスト・アポカリプスの世界で、森で暮らす1匹のダークグレーの猫が洪水と水位上昇に流され、旅に出る物語。 引用- Wikipedia

至高の動物園映画

本作品はラトビア・フランス・ベルギーで制作されたアニメ映画作品。
監督はギンツ・ジルバロディス、制作はDream Well Studio
Sacrebleu Productions、Take Five

本作品の登場人物はすべて動物だ、主人公は猫であり、森の中に暮らしている。
この作品の世界観、設定は非常に面白い。
登場人物は動物のみで人間はいない、しかし、人間が作ったような
建築物などは風化しつつも残っている。

この世界は「ポストアポカリプス」な世界だ。
人間が何故か居なくなり動物のみが暮らす地球。
動物だけというとピクサーやディズニーの映画ならば当たり前のように
二足歩行したり、喋ったりと擬人化されることも多いが、
あくまでも動物は動物のままだ。

二足であることもなく、言葉を喋ることもない。あくまで彼らは動物だ。
種族同士のコミュニティ、群れで存在する動物たちや孤独に暮らすものもいる。
「セリフ」という「言葉」がないからこ
すべてアニメーションで説明しなければならない。

主人公ある猫はある日、犬たちから魚を一匹奪う。
犬に見つかり逃げる中で、森に異変が訪れるというところから物語が始まる。

映像

本作品はフルCGで制作されており、そのリアルさは
日本のCGアニメではなかなか見れないタイプのリアルさになっている。
特に「水の表現」は印象的だ。

主人公が水面に映る自らの姿を眺めているところからはじまり、
洪水に巻き込まれる。場面によって水から受ける印象が違い、
その印象の違いを巧みな水の表現で「見て」感じさせる。
穏やかな水、荒々しい水、まるで水に感情があるかのように。

猫と1匹の犬は洪水から生き延びるものの、
別の種族故になかなか相容れることがない。
だが、彼らは今住んでいる森がやばいことに気づく。
水面上昇だ、穏やかに暮らしていた森はもう安らかに住める場所ではない。

どこかにある住処、楽園を求めてさまよう猫。
FLOWというタイトル通り、水の流れに身を任せるがごとく、
猫の冒険が始まる。

動物園

犬に出会い、カピパラに出会い、キツネザルに出会う。
猫は冒険の中で様々な動物たちと出会い交流していく。もはや見る動物園状態だ。
1匹1匹の動物が非常に愛くるしく、リアルな動きを見せてくれる。
言葉がないからこそ、セリフがないからこそ、さりげない動きや
表情、無き声で彼らの感情を見せてくれる。

秀逸な心理描写だ。
大きな表情の変化はリアルな動物ゆえにないのだが、
細かい表情の変化やちょっとした動きで感情を見せている。

動物たちは日本の伊豆シャボテン動物園などを取材して
動きを研究したらしく、その動きを若干誇張しつつも
あくまでリアルな動物らしく描いている。
自然の環境音も心地よく、いい意味で寝る前に見ると
睡眠を誘われる作品になっている。

ボートに揺られ森の中をさまよったかと思えば、
ヘビクイワシに捕まって大空を飛んだり、
そうかと思えばまた森の中をボートでさまよう。
彼らがどこに行き着くのか、彼ら自身もわからない。

リアルな動物よりも若干知恵はあり、
優しいカピパラや、ひょうきんな犬など、
それぞれのキャラクターの「性格」が感じられる。
ときには同じ種族と争うこともある、
だからこそ彼らは協力しながら、この状況を生き抜こうとしている。

序盤はただの動物にしか見えないのだが、
話が進んでくると彼らにある「知性」から生まれる「性格」が
キャラクターとしての魅力につながってくる。

身を任せるしかない

FLOWというタイトルの通り、彼らは流れに身を任せている。
人間が居なくなった世界、映画のスクリーンの中の世界に
見ている私達はなにもすることができない。
ただひたすら彼らの冒険を見続けるしかなない。

ポストアポカリプスな世界で動物しか居ない、
人間が居ない世界を映画というスクリーンのフィルターを通して
断絶した世界を垣間見れるような感覚だ。
人が居なくなり、界面が上昇している動物だけの世界。
それを見ているだけで面白い。

彼らは流れに身を任せるしかない。
どこかに楽園があるという情報があるわけでもなく、
船の舵も僅かにしか取れない。風と水の流れのゆくままだ。

それでで選択の時はやってくる。
どんどんと水没していく世界で動物たちはわずかな場所で生きている。
そのそばを船で通れば「助ける」かどうかの選択肢が生まれる。
群れではない、多種多様な動物たちが集まる「仲間」。

自分と違う存在を認め受け入れる。これこそが多様性だ。
優しいカピパラが船に入ることを受け入れ、
群れから離れたヘビクイワシ、孤独だったネコetc…
様々な事情を抱え、様々な姿を持った動物たちが
1つの船に集まっている。

群れの中にいるときには気付けなかった他者と共存するということを
この作品は描こうとしているのかもしれない。
その共存の中で自らの役割を見つけ、自分の立ち位置、
居場所を自ら切り開き作り上げている。
それが多様性の社会でのあり方なのかもしれない

なまじセリフがないからこそいろいろな想像をしてしまう作品だ。

助け合う

ラストは本当に色々と考えさせれる展開だ。
激しい嵐が起こり、水位が急にあがり、彼らの船が難破してしまう。
せっかくできた仲間が離れ離れになったものの、
なんとか彼らは再会するものの、そこに「ヘビクイワシ」の姿はない。

しかも、船すらない。仲間を失い、船を失う。
それでも彼らは生きてゆく。彼らは決して孤独ではない、仲間がいる。
最初と最後で同じようなシーンがあるからこそ、
セリフがなくともそれが伝わる。
そしてエンドロール後のシーンをどう解釈するかは見る人次第だろう。

神秘的な世界観であり、特に終盤になると
1度見ただけでは飲み込みづらい表現はあるものの、
逆に2度、3度と何回も見てみたくなる不思議な作品だ。

この流れるままの物語の結末をどう受け取るのか、
ぜひご覧いただきたい。

総評:これが本当の多様性だ

全体的に見て序盤は面白さが掴みづらかったのだが、
中盤になってくるとネコ達の旅に目が離せなくなり、
終盤、そしてラストの展開を見てしまうと
しばらく呆然とするような感覚になってしまう作品だ。

圧倒的な背景の映像美、特に水の印象は素晴らしく、
自らを映す水の意味、荒々しい水、穏やかな水、
場面によって水の印象がガラリとかわり、
それを効果的に作用させている。

あくまでも動物らしいリアルな挙動を描きつつも、
この作品の世界の動物たちにある「知性」が
キャラクター性につながり、それが見えてくる中盤から
ネコたちが可愛くて仕方なくなってくる。

様々な動物が海面上昇している世界のなかで、
1つの船に乗り、行く宛もない旅をする、
ただただそれだけなのに面白い。

表面的には「それだけ」なのだが、それだけじゃないことを
感じさせる、いわゆる考察させるような要素が非常に多く、
1回目ではなく2回目をみると「あ!」と気づくポイントも多い作品だ。

日本では残念ながら興行収入が伸びず知名度も低い作品だが、
海外ではゴールデングローブ賞を受賞するほどの作品だ。
まだご覧になっていない方はぜひ、この機会にご覧いただきたい。

個人的な感想:ネコも犬も死なない。

こういう動物が出る映画だとネコや犬が死ぬシーンが有るかどうかを
期にする人も多く、海外には映画で犬やネコが死ぬかどうかの
一覧をのせてるサイトもあるようだ。
この作品、とりあえずメインキャラであるネコと犬は死なないので安心してほしい(笑)

84分と短い映画であり、非常に見やすい作品だ。
現在はアマプラでも配信しており、動物園に行く感覚で
ご覧いただきたい。
きっと動物たちの旅模様に心を奪われてしまうはずだ。

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