評価 ★★★☆☆(58点) 全12話
あらすじ 父・野原ひろし(35)の束の間の息抜き=昼メシを、限られたお小遣いと時間の中でこだわりにこだわり抜く姿を描く。 引用- Wikipedia
帰属のグルメ
本作品の原作はクレヨンしんちゃんのスピンオフ漫画。
監督は西山司、制作はDLE
偽ひろし
この作品の原作は賛否両論ある作品だ、
スピンオフであるからこそなのだが、本家本元とはキャラデザも違い、
「野原ひろし」というキャラクターに対する違和感やシュールな
ストーリー展開などもあり、連載開始当初は批判的な声も大きく
「自分を野原ひろしと思い込む男」などと言われていた。
そんな作品がまさかのアニメ化だ。
DLE制作であるがゆえの低予算作画、いわゆるFLASHアニメに近いが、
この作品の作風とはあっている。
この作品を鬼滅の刃クラスの作画でやる必要はない、宝の持ち腐れだ。
低予算感はあるものの安定した作画で描かれており、
「昼めし」を題材にした作品であるがゆえに料理の作画は
とんでもなくこだわっている、まるで実写のような質感で
ハイクオリティな作画は鬼滅の刃も土下座するレベルだ。
他のすべてを捨ててでも「料理」にこだわった結果、
写真を使うことでとんでもなくリアルというか
実写そのままだ(笑)
そこの割り切り感も素晴らしく、1話で実写の料理が出てきたときには
思わず笑ってしまう魅力がある。
原作は偽ひろしなどと言われていたが、
アニメではアニメの野原ひろしを演じている「森川智之」が
演じているおかげで「偽物感」が薄れており、
原作では美味しそうに見えなかった料理も
アニメでは実写をそのまま使うことできちんと美味しそうに見える。
実写以外での料理の描写もあるが、このクオリティも地味に高く、
漫画は偽物感があるのにアニメでは本物になっているという
不思議な現象が起こっている作品だ。
孤独のグルメパロディ
この作品でやっていることはシンプルだ。
ようは野原ひろしで「孤独のグルメ」をやっている。
サラリーマンである彼が色々なお店で外食をする。
基本的にはその流れであり、孤独のグルメとにている部分がある。
ただインドカレーを食べるというだけなのに、
そのお店になぜしたのか、なぜメニューにしたのか。
その過程がきちんと描かれており、パロディ元である孤独のグルメと違って、
「野原ひろし」というキャラクターのアイデンティティも活きている。
ときに周りの目を気にしながら、ときに部下に気を使いながら、
パロディ元の孤独のグルメの主人公である井之頭五郎とは違い、
野原ひろしはぜんぜん「孤独」ではない。
「社会」、「家庭」、「会社」への帰属意識が野原ひろしにはある。
井之頭五郎はフリーランスで部下も上司もおらず家族もいない独身だ。
野原ひろしは会社に勤めて家族も部下も上司いる。
見事に正反対なキャラクターであえて孤独のグルメのパロディをやる面白さがある。
人間臭さ
孤独ではないからこその面白さがある。
特に部下である「川口」の存在感はえぐい。
サラリーマンであり、上司という立場ゆえに部下に奢る必要もある。
主人公である野原ひろしが少ないお小遣いを駆使して
毎日の昼めしに悩んでいる中で「奢り」というのはより、悩みのタネだ。
なるべく安く、だが、ケチと思われたくはない。
そんなサラリーマンらしい苦悩がいい意味でのコメディになっており、
「川口」という部下は嫌味なほどに効果的に作用している。
限られたお小遣いの中でいかにやりくりするのか。
そこには「人間関係」という要素も含まれる。
パロディ元にはない、ある種の「人間臭さ」がたまらない。
1話のインドカレー、2話の回転すしと本当に庶民的な外食だ。
だからこそ親近感が湧きやすく、1話1話起承転結すっきりとした話を
2エピソードずつテンポよく描いている。
非マンネリ
こういう作品の場合「マンネリ」というのはつきものだ。
だが、この作品はそこをうまいこと回避している。
野原ひろしの「昼めし」というスタンス、主軸は変えず、
一人で色々な店にいったかとおもえば出張先での昼めしが描かれたり、
川口や新卒の社員との昼めしを描いたり。
これだけでもうまいことマンネリを回避しており、
特に川口とのエピソードは秀逸だ。
パンケーキの店にいって女子になりきったり、
新人社員に嫉妬する川口のご機嫌取りをしたり(笑)
この川口の面倒くささがいい塩梅でギャグになっている。
そこに「女子大生」であるハルカを加えることでうまくマンネリを回避している。
彼女は自意識過剰ぎみであり、バイト先の飲食店に現れる
「ひろし」に対して自意識過剰を大爆発させて妄想を炸裂する。
アニメや原作にいるサブキャラは川口と上司とユミちゃんくらいしか
この作品にはでてこず、終盤に某キャラが二人でてくるものの、
ほとんどオリジナルキャラと野原ひろし、
そして川口でうまくエピソードを作っている。
それでもエピソードの当たりはずれはあるものの、
そのエピソードも10分くらいで終わるため
当たりはずれも気にならず、マンネリもあまり感じない。
非常にバランスのいい作品だ。
終盤
終盤になるとヨッシー&ミチリンや、ゆみちゃんなどの
お馴染みなキャラクターが出てきたり、
外食ではなくお馴染みの「家」で一人で昼飯を楽しんだりする。
原作やアニメそのままの家はスピンオフ感が強まっており、
シチュエーションが変わることで新鮮味も生まれる。
終盤は1エピソード完結の物語ではなく、
野原ひろしというサラリーマンらしい物語が
複数エピソードにわたって描かれており、
「1クールの締め」を意識したストーリー構成にきちんとなっている。
1クールで終わるのがもったいないほど、
グルメアニメとしてのしっかりとした魅力があり、
ぜひ2期を見たいところだ。
総評:原作は偽物、アニメは本物!?
全体的に見て「キワモノ」で終わらせずにしっかりと作られてる作品だ。
DLE制作だからこそFLASHアニメ的な雰囲気はあるものの、
カットを頻繁にはさみ、きちんと動きを見せており、
低予算ではあるのだろうが、しっかりとこの作品らしい雰囲気を作り上げている。
ストーリー的にも原作がなぜ長期連載なのかがわかってしまう部分がある。
野原ひろしのスピンオフ、孤独のグルメのパロディで始まった作品だが、
「野原ひろし」が主人公だからこそのサラリーマンとしての哀愁あり、
そんな哀愁が共感と愛着をうんでいる。
サラリーマンコメディとしての面白みもしっかりとあり、
川口のサイコパス感などもこの作品らしい面白みに繋がっていた。
ギャグに関しては好き嫌いもある上に、この作品を名作というには
物足りないのだが、キワモノや出落ちではなくしっかりとした
作品を作り上げており、ぜひ1話だけでも観てほしい作品だ。
2期、3期、4期とやっていけばもっと深い面白みがでてきそうなだけに
2期を期待したいところだ。
個人的な感想:嫌いだった
原作の初期、私も数話だけ読んだ記憶があるのだが、
あまり好きではない作品だった。
クレヨンしんちゃんの原作を手掛ける臼井儀人先生は既に亡くなっており、
亡くなったあとに始まった作品なだけに余計に印象が悪かった部分もある。
それでも今もなお連載を続けており、もう10年の長期連載だ。
ときおりシュールで奇抜なエピソードがSNSでもバズったりしており、
長期連載するだけの魅力がしっかりとそれだけあるということだろう。
アニメでのその片鱗を味わうことができただけに、
ぜひ2期でもっとこの作品を味わいたいところだ。



