評価 ★★★★★(92点) 全108分
あらすじ ハサウェイとケネスがそれぞれの目的のために動くなか、ギギもまた自分の役割のため、ホンコンへと旅立つ。 引用- Wikipedia
肉欲肉欲肉欲
本作品は機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイの2作品目。
監督と制作は前作から引き続き、村瀬修功とサンライズが務めている。
なお途中からストーリーのネタバレも含みますのでご注意ください。
前作
前作が公開されたのは2021年でコロナ禍だった。
そんなコロナ禍にも関わらず前作は大人気作品になり、
特に「カボチャ頭」のマフティーはYouTubeなどの動画サイトで
ある種のミームのように扱われ大盛況だった。
そんな前作から5年、やや待たされた感はあるものの、
いざ公開されると前作以上の興行収入になりそうな勢いがあり、
大人気作品になっている。
前作のようなミーム化現象は今のところ起きていないものの、
起きていないにも関わらず人気が爆発的なものになっているのは
ガンダム、そしてハサウェイという作品のブランドの強さを
感じさせてくれるところだ。
海
これは作品全体に言えることなのだが、明らかに作画のクオリティが
上がっている。それが1番分かるのは「水」の表現だ。
序盤から中盤まで海の上の船を拠点にしているということもあり、
頻繁に海の描写があるのだが、その海に目を奪われてしまう。
もう実写と言われても信じられるレベルだ(笑)
水の透明度、波の表現、どこまでこの「海」の描写に
こだわったんだろう?とぜひインタビューでもしてみたくなるくらいの
圧倒的な海の表現に自然と目が行ってしまう。
本作品における戦闘シーンというのは少ない、
特に序盤の戦闘シーンは数分たたずに終わることも多く、
がっつりとしたMS戦が描かれてもいない。
基本的に序盤から中盤、終盤の戦闘シーンに行くまでは会話劇であり、
その会話劇をいかに「退屈」させずに見せるのかというのがポイントになっている。
その1つが海だ。
主人公であるハサウェイが艦内で悩み足掻く様、
それはまるで海にたゆたうが如く、波にさらわれ、どこへ行くのかもわからない。
テロリストたるマフティーを捜索するケネスはその海を地上から冷静に見つめ、
海という底が見えない広大な場所から一匹の魚を探し出そうとしている。
その一方でギギは海を冷静に見つめている。
キルケ―部隊の女神たる彼女はその海の流れを冷静に見つめ、
その流れの行く先を感じている。
この圧倒的な海の描写、ここまでこだわった描写は
ある種の比喩表現が含まれてるからこそなのだろう。
そう感じてしまうほど圧倒的な海の表現に心を奪われてしまう。
空間
これは前作もそうだったが、ハサウェイという作品における
「空間」の描き方は秀逸だ。
前述した海もその要因の1つだが、キャラクター同士が喋っている、
その「空間」の演出のリアリズムと立体感は強烈な没入感を産んでいる。
特に今作で目立つのは主観視点の多さだ。
序盤では戦闘の最中で、そんな戦闘を録画するカメラの目線で描いたかと思えば、
会話のシーンでもキャラクターが移動する一瞬、その一瞬だけ
「主観」視点を盛り込むことで部屋に入るという単純な動作に
映像的な面白みが生まれる。どことなく実写映画に近い、写実的なニュアンスも強い。
カット割りもかなり頻繁で、何気ない会話のシーンのはずなのに
カットを頻繁に挟みながら意味ありげに手や口といったパーツを映すことで
セリフにはのらない心理描写をさりげなく見せている。
会話の構図、カット、そしてライティングに至るまで、
こだわりまくった会話の空間の演出は魔術的ですらある。
村瀬修功監督のセンス、村瀬修功監督だからこそなし得る空間の魔法だ。
戦闘
そんな会話劇をひたすら見せて、溜めて溜めて終盤の戦闘シーンにつながる。
この戦闘シーンは圧巻の一言だ。
最近のアニメは基本的に高速戦闘でエフェクトモリモリでCGを使いまくり、
立体的なカメラワークで見せることが多い。
だが、この作品は少し違う。
一言で言えば「重い」戦闘シーンだ。
まるで地球の重力に引っ張られているが如く、
重い機体の重さをきちんと感じさせてくれる。
2機のMSが互いが放つミサイルの1つ1つをよける、
その1発1発のミサイルの挙動、ミサイルをどう処理しているのかを
本当に丁寧に見せてくれる、だからこそ瞬きすら許されない。
互いの機体が放つミサイルを1発も受けたくない、自分のミサイルだけを
叩き込みたい、相手の背後を取り合い、時には機体が触れ合う寸前まで接近しながら
戦う戦闘シーンは息を呑むという表現以外では表現できないほどだ。
ミサイルなら1発あたったても致命傷にはならない、だが、
ビーム兵器は別だ。そのビーム兵器の威力を感じさせてくれる演出、
あえて「暗く」することでよりビーム兵器を映えさせている。
MSが放つ様々な光、その光を目立たせるためにあえてくらい画面にしており、
ここは賛否両論あるところのようだが、個人的にはありだと感じた。
ミサイル、ビーム、バルカン、そしてサーベル。
一挙一動に目を離せず、最後の結末の見せ方はあまりにも
「かっこよすぎて」悲鳴をあげたくなりそうだった(笑)
予習
問題点があるとすれば会話劇の用語の難解さだ。
マフティー、マンハンター、キルケー部隊など
基本的な用語は理解しておかなければならず、前作はもちろん、
機動戦士ガンダムや逆襲のシャアを見ていることは前提条件だ。
そういった用語や人物などの説明はいちいちない。
それゆえに、そこを理解していなければ話についていくことすらできず、
この高度な会話劇を堪能することもできない。
ただ、三部作の作品で前作を見ずにこの作品を見るという人は稀だろう。
前作くらいは予習しておくべき部分だが、
ハイテンポな会話劇をきちんと理解する下地はなければ厳しい。
肉欲
本作の主人公たるハサウェイ、彼は悩んでいる。
前作で「ギギ」という少女に出会い、そんなギギに
初恋の相手である「クェス」の面影を感じてしまっている。
肉欲だ。
この「肉欲」というワードは本作品のテーマでもある。
ハサウェイにはケリアという女性がそばにつき献身的に尽くしてくれている。
肉体関係もある恋人に近い関係性だ。
だが、そんな女性がいるにも関わらずハサウェイは「クェス」という過去に
囚われ、「ギギ」という女性に対する思いも抱えてしまっている。
そんなギギとの一夜をしったケリアとの関係性は悪化する(笑)
それどころか彼の周囲には欲望しかいない、
マフティーにはやたら女性クルーが多くハサウェイのことを意識するもの、
肉欲を刺激してくる存在が多くいる。
クェス、ギギ、ケリア、ミヘッシャ、ジュリアetc….
彼の周りには多くの「女性」がつきまとう。
そこに彼は悩んでいる、こう書くととんでもないドスケベ野郎にも聞こえるが、
その「肉欲」におぼれてしまうことをハサウェイ自身が1番恨んでいる。
彼は自分の抱えている罪、自分が抱えている責任に苛まれている。
クェスを失った過去、多くの犠牲を出したのに地球連邦は腐敗し、
シャア・アズナブルの理念に共感を覚え、テロリストとなっている。
彼にはなさなければならないことがある、大義だ。
幸福
その大義をなすことが自らが生きる理由であり、存在価値だと思っている。
しかし、それと同時に肉欲という名の「幸せ」が彼を誘惑する。
マフティーをやめハサウェイ・ノアとして生きる道、
すべてを忘れ一般的な幸福に、好きな女性と共に幸せに過ごすことも出来る。
だが、それをすることは彼の中の大義が許さない。
マフティーはテロリストであるがゆえに不安定な立場だ。
仲間も多く失い、いつ連邦に見つかり命が脅かされるかわからない。
そんな中で「肉欲」に溺れるわけには行かない。
だが、ギギという少女の甘い誘惑に、彼女の存在に甘えてしまいたい。
この重圧から救われたいという思いも抱えている。
彼は病んでいる、幻聴や幻覚は日常的に彼を襲い、
その幻覚や幻聴が自らの罪を、甘さを、弱さを際立たせる。
少しくらい甘えても、肉欲に溺れても誰かに怒られるわけでもない。
しかし、彼自身がそれを許さない、それなのに肉欲への誘惑はつきない。
この問答の描き方は本当に素晴らしく、鬱々としたハサウェイの
セリフと表情、彼を巡る女性たちの描き方が重苦しくのしかかる。
中盤でケリアは彼のもとから離れてしまう、そんなときにハサウェイは
思わず彼女を追いかけてしまう。
断ち切らなければいけないのに、こだわってはいけないのに、
断ち切れず、こだわってしまう。
周囲が彼に求める理想像、自分が自分に求める理想像と
現実とのギャップに彼は押しつぶされそうになる。
解脱
ハサウェイは終盤、戦闘の中で「過去」を垣間見る。
戦っている相手、MSが戦闘の中で装甲や武器が剥がれ落ち、
その中身たる「量産型νガンダム」の姿を見てしまったからこそ、
過去と今を重ねてしまう。
その過去の中で自己問答の中で彼は「解脱」しようとする。
自らの中に抱えた甘さ、そして矛盾。
マフティーである自分、テロリストである自分がなすべきことを、
大義を果たすために犠牲を「殺人」をすることで、
自らの甘さや迷い、矛盾、そして肉欲を捨て去ろうとするのが終盤だ。
ここで彼が解脱できていれば運命は違ったかもしれない。
だが、彼は解脱できない、彼はニュータイプの素養はある、
しかし彼はニュータイプになりきれないオールドタイプだ。
重力を、欲望を、肉欲を捨て去ることができない。
捨て去ろうとした瞬間に聞こえてしまうギギの声、
そんな声に、肉欲に彼は結局溺れてしまう。
完璧すぎる肉欲の描き方はどこか仏教的な概念すらはらみ、
ラストの展開で思わず笑みがこぼれてしまうほどだった。
総評:ガンダム史上、最も肉欲にまみれた主人公
全体的に見て素晴らしい作品だ。
作中の8割ほどは会話のシーンなのだが、その会話劇を
もり立てるためのアニメーションとしての見せ方が素晴らしく、
会話劇なのに一切飽きない、そこからの終盤の戦闘シーンで
フラストレーションが一気に爆発し、108分という上映時間があっという間だ。
ストーリーも素晴らしく、ハサウェイという一人の男の
自己問答の中で肉欲、俗世からの解脱を描いている。
だが、結局は解脱しきれないというのもハサウェイというキャラらしく、
男ならばどこか共感してしまうはずだ(笑)
前作も本当に素晴らしい作品だったが、前作以上にクオリティの上がった
アニメーション、そしてキャラクター描写とストーリーは
「名作」と言わざるを得ないほどであり、前作を楽しんだ方なら
間違いなく楽しめる作品に仕上がっている。
ぜひ劇場でご覧いただきたい。
あなたの中のある肉欲についても考えさせられるはずだ。
個人的な感想:ニヤニヤ
映画を見てる間、ずっとニヤケっぱなしだった。
肉欲で悩むハサウェイの姿、アニメーションの素晴らしさの数々、
そしてラストの展開、にやけないほうが無理だ(笑)
第三部がいつになるのかはわからないが、
解脱しきれなかった男の末路を心待ちにしたいところだ。



