映画

超綱渡りの挑戦作「トリツカレ男」レビュー

3.0
トリツカレ男 映画
画像引用元:(C)2001 いしいしんじ/新潮社 (C)2025映画「トリツカレ男」製作委員会
スポンサーリンク

評価 ★★★☆☆(58点) 全97分

映画『トリツカレ男』本予告 |11月7日(金)公開

あらすじ ジュゼッペはみんなから「トリツカレ男」とよばれていた。一度何かにとりつかれると、ほかのことにいっさい気がむかなくなる。 引用- Wikipedia

超綱渡りの挑戦作

原作は小説な本作品。
監督は髙橋渉、制作はシンエイ動画。

キャラクターデザイン

ここ最近、アニメ映画のキャラクターデザインが話題になることが多く、
特に「ChaO」を始めとした「Studio4℃」のキャラデザは
賛否両論を生んでいる。
キャラデザは極端なものでなければ話題にすらならない部分だ。
だが、ここ最近は「ChaO」のせいもあってキャラデザに注目が集まっている。

そんな中でこの作品のキービジュアル、そしてキャラデザもやや話題になった。
原作の小説の表紙を見ると、どちらかといえば絵本っぽいデザインであり、
小学生や中学生の読書感想文の題材になったりもするようだ。
一方で映画のほうはかなり癖のあるキャラデザに仕上がっている。

ヒョロヒョロでガリガリで、髪の毛もくるくる、
ヒロインと呼べるキャラクターも美少女とはいえない。
正直、ChaOよりも攻めたキャラクターデザインっぽい感じでは有るが、
見ていると不思議と「絵本」を読んでいるような感覚になる。

最近のアニメのキャラデザでは決してない、たしかに癖はある。
序盤の段階ではそのくせの強さとストーリーの方向性の見えなさに
不安になる部分があるが、なれると不思議と違和感は消える。

大衆ウケはしない、攻めたデザインであることは間違いなく、
事実、興行収入は驚くほど伸びていない。
このキービジュアルだけをみて、この作品を見に行こうとする人は
なかなか少ないはずだ。

髙橋渉

私自身もこのキービジュアル、キャラデザに引っかかっては居たものの、
同時に「髙橋渉」という監督への信頼感もあった。
髙橋渉監督はシンエイ動画に所属しており、
多くのクレヨンしんちゃん映画を作り上げている。

逆襲のロボとーちゃん 、ユメミーワールド大突撃 、花の天カス学園。
私が大好きな作品ばかりだ。だからこその信頼があった、
高橋監督なら面白い作品に仕上げてくれる、
数々の名作クレヨンしんちゃん映画を手掛けてくれた彼ならば
ただの癖あり作品では終わらないはずだと。

その信頼は裏切られることはなかった。
この作品は「狂気」の作品だ。
なお、ここからはネタバレを含むレビューとなりますので
ご注意ください。

唄うよー

この作品はミュージカル映画としての側面もある。
映画の冒頭から「トリツカレ男」こと主人公が歌いまくってる。
街をある時も仕事中もおかまいなしだ。

ミュージカル映画の場合、歌うことは自然なことであり、
歌っているということ自体に対して誰かが
「なんで歌ってんねん!」と突っ込むことはない。
そういうものだと我々も受け止めている。

だが、この作品の面白いところは、このセカイにおいてそれは
別に普通ではないということだ(笑)
主人公が歌いまくっていることに対して訝しげな顔をし、
彼が働く店のオーナーは迷惑がり、このままだと首にするぞと言ってくる。

彼がそういう男だということは街全体が知っている。
彼はすぐに何かに「取り憑かれる」男だ。
ジャンプにハマれば三段跳びをしつづけ、探偵にハマれば
探偵の真似事をし難事件を解決し、外国語にハマれば15の国の言葉を喋る。

見た目とは裏腹にすごい男だ。だが、彼は熱しやすく冷めやすい。
色々なものに取り憑かれるものの、それを貫き通すことができず、
最後まで本気になれない。
三段跳びで大会にでても決勝直前に飽きてしまって別のことをやりだしたりと、
同じことが半年と続かない。

彼が歌うのは今、歌うことにハマっているからこそだ。

ネズミと出会ってネズミの言葉を覚えたりもするものの、
彼の人生には「なにか」が欠けている。
それは本気になれるものだ。
だからこそ、色々なものにトリツカレても途中で投げ出してしまう。

そんな彼が出会ったのが風船売の少女だ。
今度は彼女にトリツカレてしまう、
その感情を恋と呼ぶのか、愛とよぶのか、それともただ
「アイドル」を推すような感覚なのかは我々にはわからない。

だが、彼は三段跳び以上に彼女にトリツカレる。
もう全てが彼女のため、彼女の笑顔のためだ。
そんな笑顔を守るためなら彼は何でもする。

彼女に借金があるとわかるやいなや、借金をしているギャングに直談判にいき、
彼女の母が病院で床に臥せっているときけば医者になりすまし治療しようとする。
本編を見ずにこのレビューを読んでいる方が、
このあたりのシーンを想像してしまうと、
この作品の主人公に対して独特の気持ち悪さを感じてしまうかもしれない。

確かにそのとおりでもある。
別に主人公が惚れた女性が彼になにかをしてほしいと頼んだわけではない。
彼女が自らの事情を喋ったわけでもない、
ネズミにこっそりと彼女の家に入らせて探らせて知っただけだ。

一歩間違えばストーカーとしてしょっぴかれそうなことを
ジュゼッペという主人公は平気でやる。
トリツカレたものに対する異様なまでの「執着」、それは狂気でもある。

そんな執着という名の狂気が中盤から顔を出し始める。

アニメーション

アニメーションの表現も本当に豊かだ。
まるで絵本でもめくるような感覚で次から次に様々な色彩で場面が彩られる。
ギャングの親分と退治するときは夜のシーンだからこその色彩でえがき、
季節が移り変われば街並みも季節の色に染まっていく。

まるでジュゼッペという主人公の感情を表すような
弾むようなアニメーションは見ていて本当に心地よく、
序盤は癖のあるキャラデザと、癖のある主人公で疎外感が生まれるのだが、
中盤になるとすっかりと馴染み、
終盤に差し掛かる頃にはこの作品の世界観に、ジュゼッペという主人公に
見ている側がすっかりと取り憑かれる。

彼は彼女の笑顔を「くすみのない」ものにしようとしている。
それは心の不安でもある、そんな不安をいくつも取り払っても、
彼女の笑顔のくすみは取れない。
そんなくすみの最大の原因をジュゼッペは知ってしまう。

彼女には婚約者が居る。
執念のような恋、ジュゼッペの彼女に対する思いは異様ともいえる。
そんな異様な思いが叶わないとすれば彼はどうするのか。

この作品のこのキャラデザだからこそ、
髙橋渉監督だからこその「ジュゼッペ」という狂気の男の描写が
終盤で際立ってくる。

取り憑かれる

ジュゼッペは彼女にトリツカレ、そして同時に彼女の婚約者にも
取り憑かれているといってもいい。

彼女は婚約者からの手紙がこないことに悩んでおり、
そんな彼女のためにジュゼッペは婚約者のことを調べ上げ、
婚約者はすでに亡くなっていることをしってしまう。
そういう状況でジュゼッペという男がどうするのか。

ジュゼッペは婚約者になろうとする。
この時点でだいぶ狂気じみているが、1日だけならまだわかる、
だが、何ヶ月もずっと、冬の間中、好きな人のために彼は
婚約者という他人になりきる。異様な行動だ。

厳しい冬にそんなことを続けていれば体調も悪くなる、
だが、それでも彼はやめない。
なにかに「取り憑かれた」ように彼は婚約者そのものになっていく。
ちょっとしたホラーだ。
トリツカレ男と呼ばれた男が本当に取り憑かれる。

ラスト

豊かだった色合いは鳴りを潜め、暗い色と雰囲気で描かれる作画、
ジュゼッペが取り憑かれる姿の描写は素晴らしく、
このキャラクターデザインだからこそ、この「狂気」が際立ってくる。

ただ、そういった狂気が際立つ一方で物語のシンプルさが逆に際立つ。
ジュゼッペという主人公の愛情も、受け取り方次第では気持ち悪さを感じるが、
そういった葛藤はなく、物語はハッピーエンドで終わる。
まるで童話のようなシンプルさとご都合主義感は作品全体から感じる部分であり、
ジュゼッペという男の狂気が際立つようで際立たない。

綺麗すぎるともいえる、物語の中で敷かれた伏線も見事であり、
それが終盤で回収されて活かされていく展開は美しい。
だが、綺麗すぎるラストはどこか物足りなさを感じてしまうものでもあった。

なにかに熱くなり、すぐに冷める男、もしかしたら彼女に対しても
そうなるかもというフラグはありつつも、そうはならず、
彼女に対する無償の愛も見ていると一線を越えるような気持ち悪さがあるが、
それを彼女は気持ち悪がらずに受け取ってしまう。

見え隠れする狂気、ジュゼッペという主人公の奇天烈さは素晴らしいのだが、
最終的には安易ともいえるハッピーエンドで終わってしまうのは
安心感を感じつつも、どこか拍子抜けしてしまう部分だった。

総評:純愛?それとも生理的に無理?

全体的に見て予想以上の面白さは有る作品だ。
クセが有りすぎるキャラクターデザインは序盤をすぎれば慣れ、
終盤の主人公の行動とキャラクターデザインが不思議とマッチしており、
作品を見終わった後にはこのキャラデザである意味正解だったなと
感じることが出来るようになっている。

アニメーションのクオリティも高く、ミュージカルシーンやアクションシーンは
見ているだけで心が弾むような感覚になり、
終盤の吹雪の中でのシーンの吹雪の描写はこだわりを感じさせる部分だ。

その一方でミュージカル映画としてはやや中途半端だ。
主人公が歌う曲もそこまで多くはなく、
あとはヒロインとギャングの親分が歌ったりするものの、
ディズニー映画ほど歌うわけではない。
ミュージカル映画ならミュージカル映画でもう少し歌はあってもよかったかもしれない。

ストーリー的にはまるで童話のような物語ではある。
色々なものに夢中になっては冷める男が
本当に夢中になれるものを見つけてハッピーエンドになる話だ。
どこか道徳的な話でも有る。

しかし、それと同時に際立つのが主人公の狂気だ。
無償の愛といえば聞こえはいいが、その裏では親友であるネズミに
こっそり彼女の家に侵入してもらい情報を手に入れて、
なんとか仲良くなるようになる部分など、ほぼストーカーだ。

彼女が様々な行動を「愛」を受け取ったからこそいいものの、
一歩間違えば犯罪者としてパクられてもおかしくない。
特に「死んだ婚約者になりすます」ことなど、
ドン引きされてもおかしくない行為だ。

見る人の価値観、受け取り方によっても違う。
ジュゼッペという男の愛を素敵と感じる人もいるだろう、
だが、彼を生理的に無理と感じてもおかしくない。

見る人によって受け取り方がまるで違ってくる作品だ。
キャラデザへの拒否感も含め、強烈に人を選ぶ作品には違いない。
これを読んでいるあなたがどう感じるのか、
ぜひ劇場でお確かめいただきたい。

個人的な感想:綱渡りすぎる

キャラデザ自体は序盤をすぎればなれるものの、
この作品の主人公の行動が問題だ。
正直途中までヒロインは主人公を騙していて、
主人公が貢がされているだけのようにも見えなくない部分があり、
そういう邪念が常に漂ってしまう。

終盤の展開も下手したらバッドエンドになるかも…
という緊張感のままで落ち着くところに落ち着いたハッピーエンドになってしまい、
そのあたりが腑に落ちず、面白かったものの、
「わりと」という言葉をつけたくなる作品だ。

決して万人受けしない作品だが、
お時間があれば映画館で見ていただきたい作品だ。

「トリツカレ男」に似てるアニメレビュー

\楽天ポイント4倍セール!/
楽天市場