「ソウルフル・ワールド」レビュー

4.0
映画
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評価 ★★★★☆(60点) 全101分

あらすじ ジャズ・ピアニストを夢見る中学校の音楽教師ジョー・ガードナーは、ある日ニューヨークで1番有名なジャズ・ミュージシャンドロシア・ウィリアムズのジャズ・クラブで演奏するチャンスを手に入れるが、浮かれ気分で街を歩いている最中にマンホールへ落下してしまう。引用- Wikipedia

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志半ば、夢追い人に捧ぐ

本作品はピクサーによるオリジナルアニメ映画作品。
もともとは劇場公開予定だったものの、コロナウイルスの影響で
ディズニープラスによる配信限定の作品になった。
監督はピート・ドクター

志半ば

この作品の主人公は「中年」だ。父は既に亡くなり、年老いた母がいる。
そんな身でありながら彼は夢というものを諦めきれていない。
父のように音楽を愛し、ジャズを愛し、いつか音楽を仕事にしたいと思っている。
しかし、現実は厳しい。中学で臨時の音楽教師をしながらも、
この年になってもまだ夢は諦めきれない。

そんな中で彼に最後とも言えるチャンスが訪れる。
るニューヨークで1番有名なジャズ・クラブで演奏をするチャンスだ。
自身が教えたかつての生徒からの誘いがきっかけになり、
有名なジャズミュージシャンと演奏をする機会を得る。
ようやく夢が叶う、ようやく母に、世間に、胸を張ってジャズミュージシャンと言える日が来る。

しかし、そんな志半ばで「マンホール」に落ちてしまうところから物語が始まる。
この作品は音楽を、夢を、中年になっても諦めきれない男の物語だ。
このレビューを読んでる人の中にもそんな人はいるはずだ。

10代、20代のときに、自身の夢を追い求めていたが
諦めてしまった過去のある人は多いはずだ。
音楽だけではない、舞台、スポーツ、宇宙飛行士、医者、アイドル。
若き日に自分自身を信じ、自分のやりたいこと、好きなことを、
「仕事」にしたいと走り続けてきた人は多いはずだ。

しかし、現実は厳しい。
この作品の主人公はそんな現実をわかっていながらも
まるでしがみつくように中年になっても夢を追いかけてきた。
だからこそのチャンス、しかし、そのチャンスを掴んだのに
あと一歩の所で命を失ってしまう。

無念、後悔、そんな怨念にもにた「夢」への執着が
彼を「魂」への世界へといざなう。

魂の世界

魂の世界の描写は独特だ。
生まれる前のこどものような無垢な魂は可愛らしいデザインをしている。
そんな無垢なる魂を管理しているのが「ジェリー」だ。

複数の個体が存在する「ジェリー」は別の個体であってもジェリーであり、
3次元のはずの世界なのに2次元の世界で生きてるように「線」で
作られた体を持っている。

この独特な世界観は不思議な雰囲気を醸し出している。
無垢なる魂の無邪気な行動は可愛らしいく、
ジェリーも口調は優しいものの、ジェリーによって魂は
生まれる前に性格を決められている。

可愛らしいキャラが強制的に性格を決められる姿と
ジェリーたちのデザインも相まってどこか管理社会、
ニコニコとした顔で幸せそうに過ごしているこの世界、
ディストピアのような空気感を醸し出すことで、
どこか怖さすら感じさせてくれる。

幸せとはなにか、生まれ変わることの必要なきらめきとはなにか。
主人公が魂の世界で「22」番と出会うことで物語が動き出す。

きらめき

「22」は長い間この世界に存在している。
様々な偉人の教育や価値観を教えられるものの、「22」にとっては
まるでピンとこない。
彼らが過ごしてきた偉大な人生、その人生の中で培われた経験を聞いても
「22」の中に「きらめき」が生まれることはなかった。

そんな中で出会ったのが主人公である「ジョーガードナー」だ。
彼の人生の中にきらめきと呼ばれるものは少ない。
志半ばで死んでしまったからこそ、無念と後悔が残っており、
今ここで死んでしまえば彼の「人生」そのものが無価値になってしまう。
だからこそ主人公は生き返るための方法を模索する。

だが、そんなあせりや後悔が「22」には伝わらない。
どうしてそこまで地上で生きることをしたいのか、
そもそも生きる意味は有るのか。
どこか哲学的なニュアンスで描かれるストーリーは人によって
色々な受け方ができそうな内容だ。

「22」という生きる意味を見出だせない魂と、
「ジョーガードナー」という自分の人生の意味が生まれそうな男、
そんな二人が出会い、模索していく。

「生きるとはなにか」「幸せとはなにか」

地上

序盤をすぎると舞台は再び地上へと映る。
ジョーの体に入ってしまった22と、猫の体にはいてしまった主人公。
主人公は元の体に戻りライブに出るために紛争する中で、
22は「生」を実感する。

物を食べる喜び、風を、自然を体で感じる喜び、
人としゃべることの喜び、人の愛を感じることの喜び。
生身の体に入ったことで「生を享受」することで、
22の中で「生きる」ことの意味や幸せ、楽しさを実感させていく。

この作品は「ジョーガードナー」といううだつの上がらない男の物語でありながら、
同時に「22」という社会不適合者ともいわんばかりの魂が
社会を知り、社会を味わう物語でも有る。
彼が無邪気に生きることの幸せを噛みしめる姿はおじさんの姿ではあるものの
可愛らしい。

だが、主人公はそんな幸せを否定する。
彼にとっては当たり前だ、ものを食べ、自然を感じ、日々を生きることは
「当たり前」であり、それは別に幸せでもなんでも無い。
彼にとっての幸せは「ジャズミュージシャン」としての大成であり、
日々の幸せなどどうでもいいことだ。

せっかく見つけたはずの「きらめき」を否定されることで
22はまた悩んでしまう、長い時を経てようやく見つけたきらめきが
主人公にとってはどうでもいいことだ。
早く身体を返してほしい、そしてライブをしたい。
それが彼にとっての幸せであり、人生の意味だ。

終盤、22は主人公にすら突き放されてしまうことで
再びさまよえる魂となりは立ててしまう。

ライブ

終盤で主人公はライブを大成功させる。
だが、問題はその後だ、また次の日にも同じようなライブが有る。
せっかく手に入れた幸せ、人生のきらめきだったはずなのに、
なにかが足りない、22だ。

彼が感じていた日々の幸せ、自分が普段当たり前だと思っていた
生活そのものが彼にとってのきらめきそのものであり、
それを「否定」し、22のことをすっかりと忘れてライブをしてしまったことへの後悔が彼の中にふつふつと湧き上がってくる。

だからこそ、彼は再び22に会おうとする。
22から取り上げてしまった「地球」へのチケットを彼に返す。
彼にとっての人生の最高点とも言えるライブを成功させた。
もう彼には「後悔」や「無念」というものはない。

もうコレ以上にないほどの最高のライブをした自分の人生は
コレ以上のものはないかもしれないからこそ、
22から取り上げてしまったものを返そうとする流れは悪くはない。
しかしながら、終盤でややご都合主義が目立つ。

物語はハッピーエンドのほうがいいのは私も同意だが、
ラストの「22」も報われ、主人公も再び生き返るという展開は
どうにも「ご都合主義」のほうが目立ってしまっている作品だった。

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総評:夢を諦めた貴方へ

全体的にみて良くも悪くもピクサーらしさを感じる作品だった。
「生きる意味」や「幸せ」とはなにかというどこか哲学的な
ニュアンスを含むストーリーは夢を諦めてしまった大人だからこそ
刺さる部分も多く、その一方でもうひとりの主人公である「22」が
「ジョーガードナー」を通して人生そのものの意味を考えるストーリーは生きてくる。

アニメーションのクォリティも流石であり、
特に演奏シーンでの「指」の動きや人物の描写の数々は、
キャラクターによっては「実写」のようにみえるレベルまでに洗練されており、
その一方で魂の世界はファンタジックではあるがどこか怖さすら感じさせてくれる。

ストーリー的にこういう「テーマ」で描きたいと言うのはすごく伝わる。
物語の序盤から中盤までの流れは素晴らしいものの、
終盤、特にオチの部分はややご都合主義感が強い展開であり、
ふわっとしたラストはもう少し納得の行く展開にしてほしいと感じてしまう。

テーマも悪くなく、キャラクターも悪くない。
だが、どこか説教臭い部分も多く煮え切らないストーリーになっている。
内容的にはアラサー以降に刺さりそうな内容では有り、
大人向けに作られている作品であることはわかるものの、
大人向けならばもう一歩踏み込んでほしかったと感じてしまう。

ただ、刺さる人には強烈に刺さる作品だ。
夢を諦めてしまった大人がみればもう1度、なにかに打ち込みたくなる一方で
「今の人生」も悪くはないと感じられる作品かもしれない。

個人的な感想:最近のピクサー

最新作である「私ときどきレッサーパンダ」のときも感じたが、
最近のピクサーはものすごくテーマ性や社会性のようなものを
前面に押し出している。

かつてのピクサー作品にも「テーマ性」や「社会性」を感じる作品も多かったが、
それはあくまでストーリーの中に潜ませているもので、
それを大人が見ると「感じる」ことができ、子供は素直にストーリーを
楽しむような作品が多かった。

しかし、最近のピクサーは作品全体で強いメッセージ性を感じる作品が増えている。
このあたりは昨今のアメリカの問題というのもあるのかもしれない。
黒人な主人公や決して可愛いとはいえない主人公など、
そういった要素を盛り込み、ピクサーなりの社会性を映画の中で表現している。

それが悪いとは言わないものの、そのせいでどこか素直に作品を楽しめないのが
この作品を見てわかってしまう感じだった。

「ソウルフルワールド」は面白い?つまらない?

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