映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん

評価/★★★★★(99点)

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ロボでもとーちゃんはとーちゃんだ!大人にこそ見てほしいクレヨンしんちゃん映画。

本作品はクレヨンしんちゃんの映画の22作品目の作品。
監督は電撃!豚のヒヅメ大作戦から制作進行や絵コンテ、演出などをしてきた
クレヨンしんちゃん映画ではお馴染みの高橋渉さんだ。今作で2作品目の監督作品となる。
更に脚本家は元双葉社の社員で現在は脚本家、臼井儀人氏とも交流のあった中島かずきさん。
私は公開前にこの「2作品目の監督作品」というのが気になっていたが、
それは大きく、大きく裏切られてきた。

なお、本レビューはネタバレを含みます。

基本的なストーリーはコメディ。
野原ひろしは休みの日、しんのすけを肩車しようとした瞬間「腰」をやってしまった
家にいると家族に冷たい視線をぶつけられるため病院に行こうとするが、
日曜のため病院は定休日、すると怪しいセクシーなお姉さんから「メンズエステ」に招待される
メンズエステで怪しいアロマを嗅がされ眠ってしまったひろしは
目が覚めると「鋼の体」を手に入れていた・・・というところからストーリーが始まる

冒頭からこの映画に対する「期待感」が大きく高まる。
なにせ冒頭から「カンタムロボ」の映画作品が流れる(笑)
子供の頃から「クレヨンしんちゃん」という作品を見てきている私達にとって
「カンタムロボ」もまた懐かしいキャラクターの一人であり、
彼が劇場スクリーンで「劇場盤ロボットアニメ」ばりの激しい戦闘シーンを繰り広げる。

大人になったジョン青年とカンタムjrというお馴染みのキャラキターの漫才のような会話、
クレヨンしんちゃんの作品の世界観だからこそのストーリー展開は思わず爆笑できる。
そして、そこから本編だ。
この作品は面白い、この作品はなにかやってくれる。
冒頭の10分ほどのスピンオフ映画でそれを大きく期待させてくれるシーンだった

そして本編に入ると「日常ギャグ」が光る。
無理矢理なギャグシーンではない、日常の中の笑いの要素を
本編のストーリーを進めながらちょこ、ちょこ、ちょこっと入れてくる。
これが思わず笑ってしまうネタの数々だ。
見ている最中に唐突に脇腹を「こしょ」っとさりげなくくすぐられるような
なんとも絶妙な塩梅でギャグを入れてきて、ストーリーをテンポよく進めていく。
ちなみにオヤジギャグも一流だ(笑)

そして、ロボとーちゃん。この存在感たるやすさまじい(笑)
ビジュアル自体は検索してもらえば画像や予告動画で見ることが出来ると思うが、
その「停止した画像」からでは感じないロボとーちゃんの「重量感」の演出が素晴らしい。
彼が動き度に「ギィーっ」「ギィーっ」と機会音がし、リアルなロボット感を演出している

そんなロボットになってしまった「野原ひろし」と野原一家の日常が序盤で描かれる。
いきなり機械の体になった「野原ひろし」をなかなか受け入れきれないみさえ、
しんのすけ自体は「ロボットになった」事を少し喜ぶが、
声と顔と記憶は野原ひろしでも「ロボット」の体の彼を家族は中々受け入れられない。

ロボとーちゃんは涙は流せないが、表情が豊かに代わり、演じている藤原啓治さんの演技があいまり
ロボットの体なのにその背中には不思議と「おやじの哀愁」を感じる
素晴らしい心情表現が生まれている。

そのロボとーちゃんの機能が秀逸だ(笑)
これはぜひ見ていただきたいが、もういつ使うんだとつっこみたくなるような各種機能、
クレヨンしんちゃんという作品らしいエネルギーの補充場所など、
彼の機能が明かされる度に終始笑わされる
1つだけネタばらしするが「北埼玉ブルース」が流れる機能もある(笑)
まさかあの名曲を劇場で聞けるとは思っていなかった。

そんなロボとーちゃんを家族は少しずつ受け入れていく。
日曜大工をしたり、料理をしたり、シロの散歩をしたり、仕事をしたり。
いつもの「野原ひろし」・・・いやロボットの体を手に入れたことで
いつも以上に父親としての役目を果たす彼の行動を見て家族も受け入れていく。
だが・・・彼はロボットだ。
しかも彼は「目的のある組織」が作ったロボットだ
日常に馴染んだ所でロボとーちゃんはあるプログラムが発動する。

少しネタバレになるが、この「頑固親父」のプログラムは
発動すると普段の野原ひろしではなく、亭主関白の父親になってしまうものだ。
この「亭主関白」という要素こそがこの作品のテーマであり、
今の「男性が弱い立場」にある社会に対しての投げかけにもなっている。

この作品のタイトルは「逆襲のロボとーちゃん」だが「逆襲のとーちゃん」でもある。
それは野原ひろしという一家族の父親のことだけを言っているのではない。
以前に比べて父親の立場は弱くなり、亭主関白というのも減り、家庭での父親の立場は弱くなった
女性専用車両、レディースデイなど男性という性別自体の立場も弱くなっている。
そんな現代に対する「社会風刺」とも言える内容だ。
私は久しぶりに「折檻」という言葉を聞いた気がする。
(子供向けアニメ映画で喫煙シーンが有るのも珍しい。)

弱くなった父親に「ロボとーちゃん」は怒り、彼らを煽り立てる
「ちちゆれ!ちちゆれ!」と組織の名前を連呼して(笑)
(コレ自体はハイグレ大魔王のハイグレ!ハイグレ!に対するオマージュと思ったのは
 私の考えすぎだろか)

そして敵が本格的に動き出す。
本当にストーリー展開が「流れる」ように軽やかで本筋のストーリーを進めながら
ギャグをどんどん入れてくるためストーリーの進め方が自然かつ面白い。
自然かつテンポよくストーリーを進めるため「ロボとーちゃん」という存在に
しっかり、強く感情移入できる。
今作の主人公は「野原ひろし」と言っても過言ではない。

だからこそロボとーちゃんの真実が中盤に明かされた時は
「わかっている」「予想できた」真実ではあるのだが・・・
衝撃だ。
しんのすけが「とーちゃん」叫び父親を助け、二人の父親を目の前にする。
この時の「ロボとーちゃん」の何ともいえない表情は記憶にしっかりと残るシーンだ

生身の体の「とーちゃん」、機械の体の「とーちゃん」
どちらも「しんのすけ」にとっては父親に間違いない。
だが、二人のとーちゃんはそれを認めることは出来ない。
ロボとーちゃんはとーちゃんをニセモノだと叫び、とーちゃんはロボとーちゃんを
「俺の記憶をコピーしただけのロボットだ」と叫ぶ。

シリアスな展開だ、一歩間違えば重いだけのストーリー展開になってしまう。
だがこの監督は「ギャグ」を織り交ぜつつ、絶妙な塩梅で
先の展開が気になるストーリーを展開させる。

そして終盤。
私は「しんのすけ」がピーマンを食べるシーンだけで泣けるとは思わなかった
ただ、嫌いなピーマンを食べて叫んでいるだけのシーンだ
文章にしてしまえば全く伝わらないだろう。
だが「嫌いなピーマン」を食べることで「洗脳されたロボとーちゃん」に訴えかける
彼の子供なりの、子どもとしての思いを父親である彼にぶつけるシーンは
本当に知らぬ間に涙腺を刺激され涙を流してしまうシーンだ。

更にラスト。
これはロボとーちゃんの真実と同じように大人ならば「予想」できる展開だ。
むしろ「どうせ最後はこうなるんだろう」と大人ならオチが見える展開だ。
だが、そんな予想できる内容を「わかっていても泣いてしまう」シーンに仕上げている。

本来クレヨンしんちゃんは「子ども向け」の作品だ。
だからこそ野原ひろしや野原みさえが死んだり、血だらけになるような怪我をすることはない。
しんのすけの身近なキャラクターが死ぬという表現は映画でも2作品を除いてない。
それは「死」という演出が子ども向けにとっては重い描写であり、
死を描く以上「血の表現」も必要になる場合が多く子供向けとしては描きづらい
コメディ作品でもあるクレヨンしんちゃんにとって「死」というのは一番描写が難しい要素だ

この作品はそれを「ロボットになったとーちゃん」という設定で表現している。
彼はロボットだ、銃で撃たれたり、ボロボロになったり、敵に体に穴を空けられても
壊れはするが死ぬことや血が流れるようなことはない。
だからこそ「死」を描写することが出来る。

彼の最後は無残な姿だ
敵にやられた体はボロボロで直ることはない。
予想できた展開だ、だが予想してしまっていたからこそ、その姿や言葉、行動のすべてが心に響く。
最後の力を振り絞り敵を倒したロボとーちゃんは、最後の戦いに挑む
それは「野原一家」の「とーちゃん」を賭けた最後の勝負だ。

父親を掛けた二人の「戦い」は涙無くして見ることは出来ない。
二人の勝負を家族は応援する、どちらかだけを応援するのではない
「とーちゃん」を応援する家族にとって間違いなくどちらも「とーちゃん」だ。

そして最後のシーン。
これは憎すぎる「カメラアングル」としかいいようがない
あえてボロボロになっている彼の姿を映すのではなく「ロボとーちゃんの視点」で
家族を見ながらロボとーちゃんはしんのすけに投げかける
「大きくなれ」と。

しんのすけもその言葉に目一杯彼なりの表現で答える
勝負に負けた彼は自分はとーちゃんではないというが、
しんのすけは素直に、本当に素直にロボとーちゃんに自分の感情をぶつける。
そして、もう一人の父親の死をきっちりと描き、
ロボとーちゃんの笑顔でこの映画は終わる。
私はエンドロールの中、涙と泣き顔をなんとかする作業で大変だった(笑)

全体的に見て素晴らしすぎる作品だった。
ストーリー全体に散りばめられた細かいギャグの数々は
序盤から終盤まで絶え間なく笑ってしまうものばかりになっており、
そんなギャグの中でストーリーをきっちりと進め、
「ロボとーちゃん」というキャラクターを活かしたストーリーを作り上げている。

そしてテーマ姓。
現代の弱くなった父親、男性という立場を「クレヨンしんちゃん」なりの社会風刺として描き、
敵の目的もそのテーマに乗ったしっかりしたものになっている。
テーマ性がしっかりしたストーリーと「ロボとーちゃん」というキャラクターをしっかりと描く事で
終盤の予想できる展開を予想できるのに「泣いてしまう」ラストに仕上げている。

更にオマージュや往年のネタとも言える内容の数々。
長年クレヨンしんちゃんという作品に関わってきた監督と脚本家だからこそできる
過去のクレヨンしんちゃんのネタや映画のオマージュ要素が単純に面白い。

それこそ冒頭のカンタムロボだったり、北埼玉ブルースだったり、
しんのすけが「敵の体を這いずりまわる」シーンだったり、
小林幸子ミレニアムビームのオマージュのような五木ロボのコブシビームだったり、
ハイレグ大魔王のハイグレ!ハイグレと叫んだようにちちゆれ!ちちゆれ!と叫んだり
映画ではお馴染みの「劇画調」になるシーンがあったりと
過去の映画で「面白かった」という要素やおなじみの要素が自然に多く含まれており、
それが今までクレヨンしんちゃんを見てきた「大人」にとって
面白いと感じさせる1つの要素にもなっている

更に作画。
冒頭のカンタムロボの映画作品の作画も素晴らしかったが、
ロボとーちゃんが画面狭しと動きまわるシーンの作画の完成度は高い。
きちんと「重量感」を感じさせる演出で繰り広げられる戦闘シーンは迫力満載で
終盤の巨大ロボット同士の戦闘シーンもスクリーンで見る価値のあるシーンに仕上がっている
まさにロボット好きな「男のロマン」を刺激させられるシーンの数々だ

欠点を言うならば・・・子供には分かりづらいネタが結構多いといことだ。
もちろんわからなくても雰囲気で楽しめるようにはなっているが、
「朝まで生テレビ」のパロディや、亭主関白などのネタ、オヤジギャグなど
若干子供に分かりづらいネタが有るのは少し残念な所だ
もちろん、子供目線ではあまり気にならない部分かも知れないが。

更に言えばかすかべ防衛隊の活躍などが少なく、
サブキャラの存在感が薄いということぐらいだろうか。
クレヨンしんちゃん映画はだいたいヒロインとなるキャラクターが存在するが
今回のヒロインは非常に影が薄く、別に居なくて問題がないようにも感じるキャラだ
幼稚園の先生やかすかべ防衛隊の活躍や登場するシーンも少なく、
本筋のストーリーにサブキャラはあまり絡んでこない。

だが、キャラクター数を絞ったことでストーリーがスッキリしたとも言える。
メインのキャラクターを野原一家と敵に絞ることで
すっきりとストーリーとギャグを楽しむことができ、
癖がなく素直に感動できる作品に仕上がっているとも言えるだろう。

去年はイイ意味で「本来のクレヨンしんちゃん」らしいコメディ映画だった。
だが今年は「オトナ帝国の逆襲」をも超えるとも言える感動コメディ作品だ。
笑いあり、戦いあり、涙あり、クレヨンしんちゃんらしさあり。
素晴らしい完成度の作品だった。
大人も子供も素直に笑えて泣けて、面白かった!と言える数少ない作品の1つだ

BDは出たらもう1度じっくり見たい、見たらまた絶対泣いてしまうが
もう1度じっくりと見たいと感じさせる作品だ。
もうそろそろ公開が終了してしまうので、見ようかどうか迷ってる方は
ぜひ足を運んでいただきたい。きっと笑って、泣いてしまうはずだ

個人的な意見になってしまうが、大人にしかわからないシーンだと思うのだが
生身のとーちゃんと敵のボスの台詞の掛け合いが非常に印象に残っている
嫌いなピーマンを目の前にして嫌がるしんのすけに対し、

ひろしは
「押し付けることがしつけじゃない、自分からやることが大事」と叫ぶ
しかし、一方で敵のボスは
「そんな考えが今の日本を駄目にするんだ」と叫んでいた。
(セリフが微妙に違うかもしれません)

ある意味でどちらも正しいセリフだ。
それだけに非常に深いセリフだとも言える。
子供にはわからない見所がちょっと多めだからこそ大人にこそ見てほしいクレヨンしんちゃん。
ぜひ、ご覧頂きたい。

いやぁ~トイ・ストーリー3以来、久しぶりに劇場でボロ泣きしてしましました(笑)