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大人の 青春映画「空の青さを知る人よ」レビュー

5.0
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評価 ★★★★★(80-点) 全108分

映画『空の青さを知る人よ』予告【10月11日(金)公開】

あらすじ 高校2年生になる相生あおいは姉であるあかねとともに暮らしており、音楽漬けの毎日を過ごしていた引用- Wikipedia

30代を超えた「あなた」に送る青春アニメ映画

監督は長井龍雪、脚本は岡田麿里、制作はCloverWorks。
いわゆる秩父三部作と呼ばれる作品で
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』、『心が叫びたがってるんだ。』に
続く三作目となる。

エレキベース


引用元:(C)2019 SORAAO PROJECT

見出して感じるのは音へのこだわりだ。
ここ最近の日本のアニメ映画は「新海誠」作品のヒットの影響で
背景の作画がかなりこだわって描かれることが多く、この作品も秩父の風景を
細かく描いているものの、新海誠作品ほどの引き込まれるような背景描写ではない

しかし映画が始まってすぐに主人公である「あおい」が
橋の上でエレキベースにノイズキャンセリングイヤホンを差し込み
かき鳴らすシーンが有る。
ベースのリズミカルな音とそれをかき鳴らす少女の姿が妙にマッチしており、
この作品の世界観にぐっと引き込まれる。

この作品において音楽は重要な要素の1つだ。
彼女は幼い頃に両親をなくしており、
年の離れた姉が親代わりになって13年の月日が経っている。
子供の頃に姉の彼氏がバンドを組んでいて、その影響で彼女もベースを始めた。

そのベースの音ともに過去が描かれる。
彼女の姉が幼い彼女のために「彼氏との状況」を断ったこと、
今の自分がその姉と同じ年齢になったものの、自分はどこか鬱屈しており、
姉のためにも生まれ育った街から出ていき、上京しようと考えている。

この年令特有の少し「ひねくれた」感じと、完璧な姉に反抗する姿が
思春期真っ盛りであり「秩父三部作」特有の青春真っ只中なキャラクター描写は
いつもの「らしさ」を感じる主人公だ。

そんな彼女の前に姉の彼氏が13年前の姿で現れる所から物語が始まる。

しんの


引用元:(C)2019 SORAAO PROJECT

ある意味で彼はもうひとりの主人公だ。
13年前の彼は夢に向かって進もうとしている所であり、
東京で音楽で成功して付き合っていた主人公の姉を迎えに来ると意気込んでいた。

そんな夢に向かってまっすぐな13年前の「しんの」が生霊となって
主人公の前に現れる。自分がなぜ生霊となってここにいるのかもわからず、
彼にとってはいきなり13年も時間が立っている状況だ。
子供だった主人公は自分と同じくらいになっており、最初は戸惑いつつも
自分のなすべきことに気づいていく。

13年経った現在の「しんの」は13年ぶりに故郷に帰ってくる。
だが、彼は13年前の「しんの」とはまるで違う、
優しくもなく、ミュージシャンとして売れてるわけでもなく、
演歌歌手のバックバンドをしている始末だ。

一応は「プロ」であり夢はかなったとも言えるのだが、
13年前の自分が思い描いていたような未来の自分ではない。
だからこそ故郷にも帰らず、やさぐれていた。
13年ぶりに演歌歌手のバックバンドとして故郷に帰ったことで、
主人公の姉とも再会してしまう。

彼の姿に重なる人は多いはずだ。
かつての、高校生の頃の自分は夢があり、その夢を叶えようとしていた。
だが「30」という年齢になって、その夢が高校生の頃に思い描いていたとおりに
かなったとは言い切れない。

多くの「30」という節目を超えた大人が通ってきた道のりだろう。
誰しも夢が叶うとは限らない、夢が叶うことすら珍しい。
13年後の「しんの」の姿は見ている自分たちそのものであり、
彼の姿に自分を重ねてしまう人も多いはずだ。

秩父三部作のうちの2作品はどちらかといえば10代向けの作品だ。
10代特有のキャラ描写と甘酸っぱい恋愛模様、青春の鬱屈、
そんな青臭さを感じるような作品だった。

しかし、この作品は違う。
「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」から8年の月日が立ち、
当時、このアニメを見ていた10代や20代は
アラサーになっていてもおかしくない。

だからこそ、この3作目は単純な青春映画ではなく
「青春」を通り過ぎた大人に向けた作品になっている。

あかね


引用元:(C)2019 SORAAO PROJECT

主人公の姉でもある彼女は健気だ。
13年前に両親をなくし、幼い妹が居たために彼女は
彼氏と上京するという夢を諦めるしかなかった。
13年経っても「しんの」への思いは忘れられず30を超えても浮いた話すらない。

そんな彼女の前に13年ぶりに「しんの」が現れる。
東京ですっかりやさぐれた彼に愛想をつかすわけでもなく、
13年前と同じように彼に接する彼女の姿は健気であり、
「しんの」が街に戻ってこようと彼女に吐き捨てても
彼女はそれを素直には受け入れない。

彼のギターを聞き、13年前と同じような雰囲気でふざけあう。
だが13年経ってしまった、30になってしまった互いの絶妙な距離感は
生々しく、二人の気持ちが痛いほどわかるだけに強く感情移入してしまう。
決して妹の前では13年間見せなかった涙をこぼすシーンは涙腺を刺激され、
その涙に主人公もまた影響される。

今までの秩父三部作ではなかったキャラクター描写だ。
青春真っ盛りのキャラ特有の感情の爆発ではなく、
大人だからこその言葉に出来ない、言葉にしてはいけない感情の表現は
繊細だがストレートに見てる側に伝わる。

岡田麿里という脚本家がこんな大人の繊細なキャラ描写をできるとは
正直夢にも思わなかったくらいだ。
彼女の脚本はどちらかといえば極端な感情の表現による青春の表現だった、
泣き、叫び、走り、感情をぶつける、そんな彼女の十八番が今作では控え気味だ。

13年前のしんの


引用元:(C)2019 SORAAO PROJECT

彼は生霊だ、13年前に主人公の姉に上京を断られた想いが残ってしまった姿だ。
13年前の「しんの」が故郷においてきた思いとも言える。
彼の言葉はまっすぐだ、18歳の高校生らしく夢に溢れ、希望に満ちている。
自分が少なからず夢を叶えたことに歓喜するものの、
自分が思い描いていた将来の自分とは違い「やさぐれている」姿に苛立つ。

終盤で13年前の「しんの」と今の「しんの」が対面する。
13年前の自分が13年後の自分に投げかける言葉はひどくまっすぐだ、
まっすぐであるがゆえに、純真であるがゆえにひどく13年後の彼に突き刺さる。
13年前の自分に「将来、お前になりたいと思わせてくれ」と言う言葉は
彼でなく、見てる人にも突き刺さるはずだ。

今の自分は「止まっている」と思っていた、だが13年前の自分からすれば
まだ「前に進んでいる」んだと。
どこか色々なことを諦めていた現在の「しんの」が
13年前の自分の言葉で前に進み出す。

この作品は彼が再び歩き出すストーリーでもある。

主人公


引用元:(C)2019 SORAAO PROJECT

彼女は自分のせいで姉が幸せに慣れていないと思っている。
自分のせいでこんな田舎の役場に努めていて、恋人とも別れる羽目になった。
自分のせいで色々なものに縛られていると。
だからこそ、自分が上京することで姉も前にすすめるのではないかと。

しかし、そんな彼女の前に13年前と現在の「しんの」が現れてしまう。
現在の「しんの」はかつてのような優しさはなく彼女に対しても冷たく、
何度も彼の大人としての言動に傷つけられる。
その一方で13年前の「しんの」はかつてのように優しい言葉を彼女に投げかける。
それは彼女にとっての恋心にもつながる。

だが彼は生霊だ。地縛霊のように外に出ることもできない。
彼の思いは13年後の自分と姉をくっつけることにあり、
それで自分は消えると思っている。

彼の思いを告げてしまえば、姉と「しんの」がくっついてしまえば
彼は消えてしまう。そんな消えることは決まっている彼への恋心は切ない。
自分の思いを爆発させ、時には姉に辛い言葉を投げかけ、
時には彼に自分の気持ちをまっすぐに伝える。

だが、どうしようもない。
自分のせいで姉が幸せになれなかったと思っていた彼女もまた
姉の気持ちを知り、姉の苦労を知ったことで、
自分が最後に諦めることを選ぶ姿はなんとも切ない。

彼女の最後の「叫び」と「走り」と「涙」は
秩父三部作を締めるにふさわしい主人公の姿であり、
同時に30代のキャラクターのストーリーを描くことで、
大人も少年少女も楽しめる作品に仕上がっていた。

総評:10代と30代の青春ストーリー


引用元:(C)2019 SORAAO PROJECT

全体的に見て完成度の高い作品だ。
今までの秩父三部作のうちの2部作とは違い、
10代のキャラ同士の青春の物語ではなく30代のキャラクターの物語も描くことで
ストーリーに厚みが生まれており、青春真っ只中のキャラクターと
青春を終えた30代のキャラクターの対比が素晴らしい。

夢を追う10代、夢を追うのに疲れ諦め始めている30代。
青春アニメを多く手掛けてきた長井龍雪監督や岡田麿里だからこその
青春ストーリーと大人のストーリーが上手く1つの作品としてまとまっており、
「あの花」を見ていた20代や10代が8年経って大人になったからこそ
刺さるストーリーになっている。

サブキャラクターも魅力的であり、以前の秩父三部作品ならば
もっとギスギスしたりドロドロしたり口喧嘩しあってもおかしくないが、
今作ではそういったギスギスやドロドロは控えめだ。

主人公に恋する小学生や、主人公の同級生のギャル、
姉としんのと同級生だった「みこちん」といったキャラが
メインキャラクターのストーリーにさり気なく干渉しており、
キャラクター同士の関係性が微笑ましい。

ただ1つだけ欠点を言うなら終盤のシーンだ。
映画として「派手」なシーンを作るために生霊である「しんの」が
主人公を抱きかかえて空を飛んだりはねたり、空から落ちたりと
ちょっとあまりにも突拍子もないド派手なアクションシーンを展開している(苦笑)

確かにアニメーションとして大きく動かせる部分が少なく、
映画としての盛り上がりを作りたかったのはわかるが、
繊細なキャラクター描写とセリフの掛け合いが素晴らしかったのに、
いきなり飛んだり跳ねたりされるのは違和感がかなり強く、
新海誠監督の「天気の子」で似たようなシーンが有っただけに余計に
この作品には不釣り合いに感じてしまった。

しかし、そのシーンを除けばエンドロールの「ハッピーエンド」なシーンも含めて
素晴らしいストーリーに仕上がっており、
10代の青春を描いてきた秩父三部作の三部作目にふさわしい作品になっていた。
10代ではなく30代に見てほしい青春アニメだ

個人的な感想:岡田麿里が丸くなった


引用元:(C)2019 SORAAO PROJECT

岡田麿里さんという脚本家は私の中では極端な感情描写が特徴だった。
可愛らしい女の子キャラが顔歪めて口喧嘩をし、泣き、叫び、走る。
その極端な感情描写を青春ストーリーの中に収めることで
見る側の感情移入を誘っていた。

しかし、今作は繊細だ。
30代というキャラクターの感情の描写は過去の岡田麿里脚本のキャラのように
叫んだり、泣いたりはしない。
口喧嘩は少しあるものの、極端な感情描写ではなく自然なものだ。
こんなに繊細な脚本を岡田麿里さんが手掛けたことが個人的には最大の驚きだ。

10代の不安定な感情を描写しつつ、30代の落ち着いた感情も描写する。
今作は今の「岡田麿里」さんだからこそ為せるストーリーだったのかもしれない。
秩父三部作はこれで終わりのようだが、今後もぜひ岡田麿里ワールドを期待したい。

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出演:吉沢亮, 出演:吉岡里帆, 出演:若山詩音, 出演:松平健, 出演:落合福嗣, 監督:長井龍雪
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  1. ダーク・ディグラー より:

    僕は長井龍雪は器用貧乏の職人監督だと思ってる。

    その器用貧乏気質が凄い出てたなこの作品。

    なんかそれなりに良くはできてるんだけど傑作や名作にはならないという意味で器用貧乏な人だとしか感じない……

    一言でいえば抑圧のメロドラマが作りこまれてない!

    この一言かな?

    茜がなんかあまりに聖人君子過ぎて逆に萎える。

    アニメと言う事がわかっても萎える。

    何か都合がいいんですね物語やキャラに……そんな気がした。

    後,しんのがどういうシステムで神社から出れなかったのかまったくわからない!

    それに細田演出意識した演出クド過ぎ!

    最後の見せ場手塚治虫の短編アニメの『ジャンピング』かよ!

    そこが長井龍雪と岡田磨里の限界なのかな?

    メロドラマ期待したのに単なるトレンディードラマって感じでやっぱ長井龍雪の限界だな…