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これぞ岡田麿里、欲望が世界を壊す「アリスとテレスのまぼろし工場」レビュー

3.0
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評価 ★★★☆☆(59点) 全111分

映画『アリスとテレスのまぼろし工場』 本予告|maboroshi Main Trailer

あらすじ 製鉄所の爆発事故によって全ての出口を閉ざされ、時まで止まってしまった町。いつか元に戻れるように「何も変えてはいけない」というルールができた引用- Wikipedia

これぞ岡田麿里、欲望が世界を壊す

本作品は岡田麿里監督によるアニメ映画オリジナル作品。
制作はMAPPA。

世界観

冒頭からかなり癖のある作品だ。
中学生である主人公たちは深夜、友達と集まって勉強をしていると
地元の工場が謎の爆発事故を起こす。
すると、なぜか彼らの街が閉じ込められてしまう。

海からも、山からも出れない。
この町の住人は事故によって閉じ込められてしまう。
序盤は見ている側に対する情報が非常に少なく、
この作品の世界観やストーリーを飲み込むのにやや必死になってしまう部分がある。
いわゆる考察アニメと呼ばれる作品ほどではないが、
ある程度、見ながら見ている側が考えることを要求される。

中学生である彼らが閉じ込められた街の中で、
自分自身を見失わないために「自分確認表」というものを定期的につくり、
「変化」しないように心がけている。

どこかポストアポカリプスめいた管理社会のような空気感すら感じさせる
設定は面白く、なぜ彼らがこんなことをしているのか?というのを
見ているうちに自然に考えてしまう感じだ。

中学生である彼らは大人にはならない。
この街は「時間」という概念からも切り離されており、
彼らは痛みすら鈍くしか感じない。
作品では明言されてないが、おそらくは自殺をしたところで
この町の住民は死ぬことはない。

変化もせず、痛みも鈍くしか感じない。
どこか「刹那的」な表情を浮かべる主人公や、
わざと痛みを感じることで生きている実感を感じようとするものなど、
この街の人間はどこか狂い、ズレている。

いつ出られるかわからない。
作品の中で彼らがいったい何年ここで過ごしているのかはわからない。
だが、おそらくは10年以上の月日をここで過ごしている。
変わらぬ季節、変わらぬ町並み、変わらぬ姿、
彼らはこの街から出ることはできない。

そんな世界だからこそ中学生の主人公でさえ免許が取れている。
年齢的には18歳を超えているからなのだろう、
それぞれが閉じ込められたこの街の中で
自分自身を見失わないように自分というものを確認しつづけている。

そんなどこか渇いた世界観をMAPPAによる作画が彩る。
冬しかないこの世界観の背景を繊細に描き、
なにげない日常シーンの中で高いクォリティの作画で描かれた
町並みや人物たちの表情の描写は流石の一言だ。

特に序盤で主人公が家にかえり、自宅の台所をのぞき、
隣の部屋の居間に廊下越しに視線を移すというシーンは、
なにげないシーンのはずなのに異様なまでに
ヌルヌルと動いており、映画を見終わったあとになぜか
強烈に印象に残っている。

序盤から中盤は激しいアクションなどがあるわけでもない、
だが、それでも退屈させないアニメーションとしての
魅力がきちんと日常シーンの中で光っている。

とある人物はこの現象は神に対する罪であり、
罰があったからだとうそぶく。
神の山から鉄を削り、それで生きてきた街の人間に
バチがあたり、神の怒りが静まるまではここから出ることもできない。

街の空にはときおり謎のヒビがうまれ、
そんなヒビを神の機械となった鉄工場から生まれる煙が塞ぐ。
この世界がいつ壊れるのか、壊れたらこの世界から
彼らが解放されるのか、それすらもわからない。

いつか神が彼らを許し、街から開放してくれるかもしれない。
そんな希望だけが彼らの生きがいだ。
変わらぬ世界で、変わってしまうことはこの世界では罪だ。
だが、思春期の少年少女にとってそれは、
とてもつらい「罰」のようなものだ。

大人ならば変わらないことのほうが安心感を感じることもある、
むしろ変化を恐れる傾向にある。だが、若者は違う。
彼らは心も体も変化の途中だ、それをいつまでも抑えておくことはできない。

思春期だからこそ、そこに「恋心」も生まれてしまう。
だが、そんな変化という恋心がこの世界の崩壊に繋がっていく。
序盤はこのとらえどころのない世界観にやや戸惑うものの、
中盤からは「岡田麿里」という脚本家のらしさが
ニョキっと顔を出し始める印象だ。

三角関係

主人公は一人の女の子が気になっている。
「佐上睦実」という少女はどこか蠱惑的で、彼の気持ちに気づいており、
彼をからかうように下着を見せつけてきたりする。
そんな彼女に苛立ちながら「大嫌い」といいながらも、
彼の中には「好き」という気持ちへの変化が起こっている。

この世界が止まるまでは気になる女の子でしかなかった。
だが、この世界が止まり、長い間時を過ごす中で、
変化をしないようにしながらも思春期の少年少女は
「恋心」という変化を止められない。

それは主人公だけではない。
些細なきっかけで彼のことがきになり、
彼に告白めいたことをしてくる女の子もいる。
だが、そんな思いは彼には通じないどころか、
友達同士にその姿を見られてしまう。

強い「変化」はときに「心の傷」を生む。
この世界でなぜ「変化」を恐れるのか、それは心の傷が原因だ。
停滞する世界の中での変化はヒビをうみ、そのヒビは人間にも現れる。
そして神の煙はあっさりと、主人公に告白した女の子を消し去ってしまう。

変化して心の傷を産んでしまえば、自分が、この世界が壊れてしまう。
だからこそ、この世界で変化してはいけない。
変化しなければ永久にも近い時を過ごすことができるが、
そのかわり変化することはできない。

夢を叶えることも、誰かと恋人になって将来結婚をし、
子供を作ることもこの世界ではできない。
妊娠中にこの世界で閉じ込められた女性は一生、出産することはできない。
強い変化は世界を壊し、心の傷が生まれればその人も消えてしまう。

そんな真実をしった町の住民たちの中には絶望のあまり
消えてしまうものも現れる。

ポストアポカリプスな世界観から、どこかホラーな世界観への変化、
そんな世界観の中で描かれる「岡田麿里」という脚本家の描く
思春期の少年少女の感情の爆発と表情の描き方には
思わずニヤニヤとさえられてしまう。

大人は変化しないことをむしろ臨んでいる部分がある。
だが、若者の変化は止められない。
恋をしたいもの、夢を叶えたいもの、
大人になりたいという思いが彼らを突き動かす。

五実

序盤で主人公が出会うのが「五実」という少女だ。
彼が恋する「佐上睦実」にそっくりな少女ではあるものの、
彼女は姉妹ではないと答え、工場の中に閉じ込められて生活をしている。
言葉もろくに話せず、狼のような少女。

そんな少女を「神の子」と呼ぶものもいる。
彼女は一体何なのか、この世界はなんなのか、
ゆっくりとこの作品の世界が紐解かれていく中で、
岡田麿里さんらしい男女の恋模様が描かれている印象だ。

ただ、これは作品全体で言えることだが「冗長」なシーンが非常に多い。
映画自体の尺は1時間50分ほどだが、
もう少し短くまとめられる話を、だらーっとやってしまっている感じが強く、
1シーン1シーンで妙に間延びしているシーンが目立つ。

そのせいで描かれている内容は面白いのに、
その面白さが微妙に引き伸ばされてしまっている印象で、
作品全体が間延びしてしまっている。

真実

終盤でこの世界の秘密が明らかになる。
「五実」という少女が感情を爆発させると広がるヒビ、
そのヒビの世界の先には「夏」の町並みが広がっている。
この町と同じ場所のはずなのに、
外には同じ場所で時間が経過してしまっている。

ネタバレしてしまえば、この世界は「まがい物」の世界だ。
わかりやすくいえば街を愛する神様のような存在が、
その街の1番いいときの姿をそのままコピーして
保存しているような世界がこの世界だ。

鉄工所の事故で多くのものがなくなり、街も衰退してしまう。
その事故の直前の街とそこにいる住民を
神様のような存在がコピーしただけに過ぎない。

外の世界では本物の彼らが成長し暮らしている。
彼らの存在はこの世界でしか存在できない「まがい物」だ。
それをしった町の住民の一部も絶望してしまう。
おとなになりたかったもの、夢を叶えたかったもの、
お腹の中の子供を産みたかったもの。

そんな絶望という変化が心の傷をうみ、
更にこの世界のヒビを広げ、多くの人がこの世界からいなくなる。
いつこの世界がなくなってしまうかわからない。

まがい物であることも、わかっている。
だからこそ、彼らは自分の気持ちを抑えることをやめる。
抑えていた恋心を、本当の気持ちを、ぶつけあう少年少女の姿はまっすぐだ。

どこか扇情的ですらある。
序盤から下着がちらっとみえるシーンや、
「膝の裏」というフェチズムの塊のような場所を注目するシーンがあったりと、
妙にセクシーなシーンがチラチラとあるのだが、
終盤の主人公とヒロインのシーンのキスシーンはかなり過激だ。

フレンチどころかディープなキスシーンを描いており、しかも長い。
作画のクォリティは素晴らしく、キスシーンの描写は素晴らしいのだが、
長すぎてロマンチックというより、
途中で笑いに変わってしまうような感じだ。

そんなキスシーンを「五実」が見てしまう。
まがい物のこの世界において、彼女だけはまがい物ではない。
簡単に言えば彼女は「神隠し」にあった子供だ。
この停滞したまがい物の世界において彼女だけがまがい物ではない。

だからこそ、彼女は主人公に恋をし、失恋を経験する。
この世界における異物が負った心の傷は
この世界の崩壊を促進させる。

母と娘

岡田麿里監督は初の監督作品である
「さよならの朝に約束の花をかざろう」で親子の物語を描いていた。
あの物語は母と息子の物語だったが、今作では母と娘の物語を描いている。

終盤は非常に「女」というものを感じるストーリー展開だ、
岡田麿里だからこそ、岡田麿里という脚本家だからこその、
もう思わず笑ってしまうような感情の表現によるセリフは
流石の一言だ。

かなりのネタバレになってしまうが、「五実」は現実世界での主人公とヒロインの娘だ。
「五実」にとっての初恋は父としらぬ若い姿の「父」であり、
恋のライバルは母親だ。
子供にとっての初恋が親、特に女の子の場合が父親が初恋ということは少なくない。
そんな物語がこの作品では描かれており、女性ならば共感できる部分も、
逆に批判的になってしまう部分もあるかもしれない。

特にラストのシーンは強烈だ。
母であるヒロインが娘に対して「彼はわたしのもの」と宣言する(笑)
主人公が死ぬ時に最後に思い出すのは自分でありあなたではない、
私自身も最後に思い出すのは主人公であり、あなたではない。

自分の娘ともいえる存在に強烈に「母」の嫉妬をたたきこみ、
母である前に「女」なのだと宣言するシーンは強烈だ。
娘に対して完全勝利宣言をするようなものだ(笑)

これぞ岡田麿里、これぞ岡田麿里節といえるような
セリフと、このシーンをするための世界観とストーリーと
設定だったんだなと感じるような
母と娘の父を巡る三角関係のような恋愛模様の描き方が強烈だ。

しかし、このシーンも長い。
このまがいものの世界が壊れかけている中で、
現実世界への「ヒビ」も塞がりかけている。
彼女を現実世界に戻すなら今しかない、時間がないという中で
長々と母が娘に完全勝利宣言をする。

緊迫した状況なのにそれを感じさせない長々とした台詞回しは
せっかくの盛り上がりどころをと状況の腰をおるような
冗長さが生まれてしまっており、
最後までこの作品全体の間延び感がもったいないと感じる作品だった。

総評:脚本家としては優秀だが監督としては…

全体的に見て「これぞ岡田麿里」というストーリーとセリフと
キャラ描写を味わうことのできる作品だ。
変わらないことを強いられる世界の中での少年少女の恋模様、
そんな恋心が世界を崩壊させ、変われない世界での変化を生む。
この世界観とストーリー自体は面白く、その中での恋愛模様も素晴らしい。

特に主人公とヒロイン、そして現実世界での二人の娘との
三角関係はこれぞ岡田麿里といわんばかりの恋愛模様であり、
彼らにとってはおとなになった自分たちの娘であり、
娘という実感のない少女と彼らを両親と思わない少女の関係性の描き方や、
母による娘の完全勝利宣言も含めて岡田麿里さんだからこその
セリフをたっぷりと味わうことのできる作品だ。

しかしながら、その一方で「監督」としての力量不足を感じる。
どこか新海誠監督作品的なテイストを感じる部分もあり、
このあたりは昨今の事情を考えれば仕方ない部分かもしれないが、
岡田麿里さん自体はそこまでファンタジーやSF的なものが得意ではないのに、
作品に無理やり落とし込んでいるような印象を覚える。

前作はかなり唐突な展開で場面を繋いでいたような印象だが、
今回は逆に丁寧すぎるくらいに1シーン1シーンたっぷりと描いており、
それが作品全体の間延びに繋がってしまっている。
特にラストのシーンに関してはあまりにも間延びしすぎだ。

監督も脚本も自分でやってるからこそ
「取捨選択」をしきれずに、自分のやりたいこと、
描きたいことだけをとにかく詰め込んでいるような印象を覚える。

世界観や設定は変わっているものの、
1作目と同様に「親子」の物語であり、
岡田麿里さんとしてはここを描きたいんだろうなという部分はわかるものの、
ややパターン化を感じてしまう部分でもある。

アニメーションのクォリティ自体は非常に素晴らしく、
MAPPAだからこそのカメラワークや表情の描写が、
岡田麿里という脚本家のキャラクターの心理描写を後押ししている一方で、
作品全体における取捨選択をしきれておらず、
作品全体が妙に間延びしてしまっている印象だ。

面白くはあるのだが、1度見ればいい。何度も見たくなる作品ではない。
「岡田麿里」という脚本家が好きならば楽しめるが、
逆を言えば「岡田麿里」という脚本家が嫌いな人は楽しめない。
いい意味でも悪い意味でもオタク向けな作品に仕上がっており、
そう考えると前作のほうがまだ多くの人に受け入れられた作品かもしれない。

個人的な感想:脚本家

やはり岡田麿里さんは脚本家であって監督ではないんだなと感じてしまう作品だった。
前作よりも唐突な展開はなくなっているものの、
1シーン1シーンの間延び具合はひどく、MAPPAだからこそ
アニメーションの魅力が生まれているが、そこに甘えてしまっている。

この作品も脚本自体は面白く、
別の監督さんがやれば、もっと面白くなったかもしれないと感じてしまう部分も多い。
岡田麿里さんとしては主人公とヒロインと娘の三角関係を描きたいからこそ、
ややおざなりになってる部分も多く、
1作目もそうだが、もう少し削ったほうがいいと感じてしまう部分がちょこちょことある。

それは本来は監督としての仕事だ。
作品全体の取捨選択をしきれておらず、
そのせいで妙に間延びしているシーンやおざなりになってる部分、
盛り込みすぎている部分も多い。

設定的にも面白いことは面白いのだが、
もう少しシンプルな方がオタクだけではなく一般受けをすると感じる部分もある。
二重三重の構造を紐解いていく面白さはあるが、
その面白さを読み解ける人はいわゆるオタクだけだ。

岡田麿里さんとしては別に大ヒットしなくとも、
そこそこヒットすくらいでいいと考えているならば
これでもありなのかもしれないが、
彼女だからこその台詞回し、青春模様、キャラの感情の爆発の表現があるだけに、
ここでこじんまりと収まってほしくないと感じてしまう。

もし岡田麿里監督の三作目があるならば期待したいが、
果たして…

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  1. 匿名 より:

    岡田麿里は早く鉄血2期を作った事を謝れ