「サマーゴースト」レビュー

4.0
映画
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評価 ★★★★☆(64点) 全40分

あらすじ 高校生の杉崎友也、春川あおい、小林涼の3人は、それぞれ家族や友人、将来について悩みを抱えていた。インターネットを通じて知り合った彼らは、花火をすると現れると噂される若い女性の幽霊”サマーゴースト”に会いに行こうと思い立つ。引用- Wikipedia

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今、そこにある希死念慮

本作はオリジナルアニメ映画作品。
監督は小説『君の膵臓をたべたい』の装画や
劇場版『名探偵コナン』シリーズのイメージボードを
手がけたことで知られるloundraw氏であり、本職はイラストレーターのかただ。
脚本は乙一氏、制作はFLAT STUDIO。

線香花火

映画が始まった瞬間にこの作品の独特な世界観に呑まれる。
3本の線香花火と3人の少年少女、印象的な空は夕方と夜の狭間だ。
監督さんがイラストレーターさんだからこそなのかもしれないが、
普通のアニメ作品とは作画の雰囲気が違う。

1枚1枚の絵がそのまま「イラスト」としてどこかに掲載されていてもおかしくない。
どこを切り取っても絵になる構図で描かれた作画は芸術の領域だ。
どこか退廃的で触れれば壊されそうなそんな危うさを感じさせる。

いわゆる「アニメ塗り」とは違う。
使われる色合いがどこか「漫画的」であり、
そんな塗りと構図が1枚1枚の絵としての完成度を高めており、
そんな絵がサクサクと切り替わるカット割りが
見てる側がまば叩きするたびに場面が切り替わるような印象だ。

この作品はたった40分しかない。
そんな短編映画だからこそのカット割りが
ストーリーにテンポを生んでおり、目まぐるしくストーリーが展開していく

夏の幽霊

3人の少年少女はある夏の日、噂になっている「幽霊」に会おうとしている。
インターネットで出会った彼らは互いを知らない、
それぞれが悩みを抱えている。
それは若さゆえに、まだおとなになっていない少年少女であるがゆえに。

彼らがどんな悩みを抱えている。
とある場所で花火をすると現れる幽霊。
幽霊に会うためには条件がある。
「死に触れよう」としている人間だけだ。

彼らは生きている、だが「死」を考えている。
幽霊の存在を目の当たりにしてしまったがゆえに、余計にその
「死」のイメージは明確になる。
死ねば楽になる、死ねば今の現状から逃げることができる、
若い身でありながら余命を宣告され死が間近な人間もいる。

一人ひとりが「死」に直面している。
3人が「幽霊」と出会い、3人が3人と出会って
それぞれが自分と、今と、死と向き合う物語だ。
物語は淡々と描かれる。

だが、淡々では有るもののテンポが悪いわけじゃない。
余計なサイドストーリーも、深いキャラの掘り下げもない。
もっと尺があれば膨らませた部分もあったかもしれないが、
40分だからこそ、あえてそこを膨らませずに
この作品の「死と向き合う」若者の物語をまっすぐに描いている。

自由

少年は縛られている、家に、親に、自分自身に。
別にいじめられているわけじゃない、余命を宣告されているわけでもない。
しかし「生きづらさ」を感じている。自由ではないと感じている。
恐らくは多くの人が10代で感じる「大人」からの支配という抑圧、
そんな抑圧の中で彼はぼんやりと「死」をイメージしてるに過ぎない。

そんな彼が夏の幽霊、サマーゴーストに誘われ幽体離脱を体験する。
自由だ。どこに行くのも、何をするのも、空だって飛べる。
幽霊は自由だ、死ねば自由に慣れるのかもしれない。
苦しい今から逃げ出せて解放されるのかもしれない。

そんな死者からの誘惑と同時に死者は語る。
自分がどうして「死んだ」のか。彼女には後悔がある。
もう死んでいるからどうしようもない、後悔してもどうしようもない。
何が変わるわけでも、生き返るわけでもない、変えられない現実だ。

死は自由であると同時に終わりだ。
あやふやだが、たしかにそこに存在する「死」。
そんな死を時には美しく、時には恐ろしく、時にはおぼろげに
この作品は「アニメーション」としてそれを表現している。

キャラクターに当たる光、カメラワーク、背景美術、音楽、声優の演技。
この作品は基本的に会話劇だ。
生きている人間と幽霊のちょっとした言葉の交わし合いだ。
そんな会話劇をこの作品だからこその雰囲気を作り上げている。

この作品を見ていると鼻を「白檀」の香りが
くすぐられるような感覚にすらなる。
作品としての雰囲気づくりがそこに存在しない、描かれても居ない
花の「香り」まで感じさせる。

苦しい

3人は死と生、そして自分自身と向き合っていく。
幽霊に出会ったからだけではない、3人の少年少女が出会ったからこそ
それぞれがそれぞれの「死生観」をぶつけあい、他者と向き合っていく。
青臭い青春模様、これもまたジュブナイルだ。

ときには幽霊から励まされる。
死んでいる存在から「生きる」ことを応援される。そんな矛盾。
夏の幽霊に彼は惹かれつつ有る、長い間、幽体離脱したからこそ
彼は死の世界へいざなわれようとしている。

自分は「生きていたい」のか、それとも「死にたい」のか。
自分自身にすらそれはよくわからない。
生きることに何の意味があるのか、辛いだけの世界になぜそこまでしがみつくのか。
そんな中で出した主人公の答え。

映画冒頭の未来のシーンがラストのオチにもつながる。
生きているものと、死んだもの。
3人の少年少女が「死」と「今」と向き合った物語だ。

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総評:希死念慮に問いかける

全体的にみて素晴らしい40分の短編映画だ。
監督さんの本業がイラストレーターだからこその
独特な雰囲気あふれる作画のクォリティはこの作品の雰囲気を作り上げている。
咲くは40分しかないものの、その40分の中で
若者の「希死念慮」を描いている。

親や家庭環境、いじめ、病気。
様々な問題で「死」を考え始めた少年少女たち。
そんな少年少女たちが死んでいる「幽霊」と出会い、
自分自身の死生観を人生観を、今を見つめ直す。

投げ出すことは簡単だ、たしかに自由と解放がそこにあるかもしれない。
そんな甘美なる死の誘惑もきちんと描きつつ、
この作品は「生きる」ということの意味も描いている。

辛いことも多い、どうしようも出来ないことも多い、生きることはつらい。
だが、それでも「生きている」ことには価値があるのだと。
幽霊には過去しか無い、でも、生きてる人間には未来が有る。
40分できちんとまとまった物語はしっとりと心に染み渡る作品だ。

主人公に比べ他の二人の描写がやや薄いのは気になる部分であり、
荒削りな部分はあるものの、この作品だからこそ、
loundraw氏だからこその世界観がある。
そんな世界観は一見の価値があり、そんな世界観で描かれるストーリーが
美しくも儚い。

起承転結のすっきりとした素晴らしい短編映画だった。

ポスト新海誠

loundraw氏は巷ではポスト新海誠監督と言われており、
初期の新海誠監督作品のような雰囲気、短編の映画という
組み合わせがそうさせるのかもしれないが、
そう言われるのも納得する空気感がある。

loundraw氏自身が代表のアニメ制作会社も設立しており、
今後も多くのアニメを手掛けるのだろう。
5年後、10年後にはもしかしたら
「君の名は」を超える作品が生まれるかもしれない

「サマーゴースト」は面白い?つまらない?

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