評価 ★★★★☆(71点) 全110分
あらすじ 長野県・八ヶ岳連峰の未宝岳。長野県警の大和敢助は雪山である男を追っていたが、男が放ったライフル弾が左眼をかすめ、同時に起こった雪崩に巻き込まれて負傷してしまう。引用- Wikipedia
くらえ!これが神の天罰だ!
本作品は名探偵コナンの劇場作品。
名探偵コナンとしては28作目の作品となる。
監督は重原克也、制作はトムス・エンタテイメント
なお、本レビューにはネタバレを含みますのでご注意ください。
長野県警
本作品のメインとなるのが長野県警だ。
大和 敢助、諸伏 高明、上原 由衣、
この3人がメインキャラとなって事件が進んでいく。
長野県警は過去にも映画に出たことはあるものの
がっつりとメインで描かれたことはない。
それだけに彼らのバックボーンを知らないと
ややついていけない部分があるのは確かだ。
特に「風林火山」の事件は今回の事件と深く絡んでおり、
映画を見る前に予習しておくと楽しめる部分もある。
しかし、全く知らないという状態で見ても
映画の中で最低限の説明はあり、
なんとなくではあるものの把握できる部分もあるため、
問題ないと言えば問題ないが、見ておいたほうがベターだ。
そんな3人の一人「大和 敢助」の左目には傷がある。
今回はこの傷に残された謎を巡る物語になっている。
10ヶ月前に起きた事件、すでに解決したはずの事件なのに
「大和 敢助」を狙うものが現れる。
毛利小五郎
そしてもうひとり、今作のメインとなるのが毛利小五郎だ。
毛利小五郎がメインとなるのは本当に久しぶりであり、
過去には14番目の標的と水平線上の陰謀でメインとして
扱われたが、水平線上の陰謀から約20年ぶりにメインへと
返り咲いたことになる。
声優の変更など毛利小五郎をメインにしにくい時期もあり、
そのあたりの関係もあるのだろうが、
名探偵コナンという作品において初期からのメインキャラである
毛利小五郎が再びメインとして描かれるというのは
1コナン映画ファンとしては嬉しい部分だ。
長野でおきた事件、そんな事件を何故か
毛利小五郎のかつての相棒である「ワニ」が窓際部署なのに
捜査しており、毛利小五郎にとあることを聞きたいと
電話してくるところから物語が動き出す。
序盤から非常に「意味深」なシーンが多い。
国立天文台で起こる事件、大和刑事が過去に巻き込まれた雪崩の記憶、
毛利小五郎のかつての相棒やテレビで流れる
「司法取引」の改正問題、序盤の30分ほどで
いわゆる「伏線」をかなりばらまいている。
ミステリー
今作はミステリーだ、アクションももちろんあるものの、
本格的なミステリーを描こうとしている。
最近のコナン映画はかなり「ド派手」で壮大な作品が多かった印象だ。
FBIや黒ずくめの組織など巨大な組織が絡むがゆえに
事件も大きくなりやすかった、しかし、今作はいい意味で規模感が小さい。
どことなく初期から中期のコナン映画を彷彿とさせる感じだ。
特に「暗黒期」と呼ばれる時代のコナン映画は
事件の規模感としてはTVスペシャルくらいの規模の作品も多かった、
この作品もそんなニュアンスを感じさせる部分がある。
いつもの日常から事件が起こり、舞台が変わる。
日常からの延長線上にあるコナン映画は本当に懐かしい。
最近で言えばから紅の恋歌くらいまで戻らないと
この規模感の話はない。
そんな序盤の日常から「毛利小五郎」のかつての
相棒であるワニが射殺される。
この展開もどことなく「14番目の標的」を思い出す展開であり、
作品全体としてセルフパロディ、セルフオマージュを含む要素が多い。
スケボー
コナンと言えばスケボーだ。
27作品の映画の中で様々なアクションをみせ、
次は一体どんなアクションを見せてくれるのか、本当に期待でしかない。
そんなスケボーアクションを序盤から見せてくれる。
この作品ではなぜかコナンのスケボーの描写にやたら
気合が入っており、スケボーの推進装置の部分がドアップで映ったり、
スケボーに謎の噴射機能がついてて少し浮けたりする(笑)
毛利小五郎の相棒を射殺した犯人とのカーチェイスなのだが
犯人も負けず劣らずのバイクアクションを見せており、
追いかけてくるコナンと真正面で向き合ったかと思えば、
コナンが放ったサッカーシュートをバイクを使って
跳ね返す始末だ(笑)
かなり描写に気合が入ったアクションではあるものの、
過去作と比べるとやや物足りない部分もあり、
スケボー自体もあっさりと壊れてしまう。
しかし、安心してほしい。
今作の舞台は「雪山」だ。
長野
事件の捜査の中で長野でおきた事件と関係があると睨んだ
毛利小五郎たちは長野へと足を運び、
長野県警とともに捜査することになる。
一方で少年探偵団たちも博士の知り合いのいる
「国立天文台」の見学に訪れており、コナンもそこに紛れ込んでいる。
国立天文台の巨大なアンテナがこれみよがしに見せつけられ、
元太が「すげー!」と叫ぶだけでコナン映画ファンとしては
ワクワクしてしまうだろう(笑)
ちなみに元太は壮大な雪景色を見て美味しそうとも叫んでいた。
意味不明である。
そんな長野ではかつて猟銃店で「強盗事件」が起こり、
その時の怪我で猟銃店の娘が自殺をしている。
かつての強盗事件の犯人の一人は服役中であるものの、
もう一人は「司法取引」を結び「執行猶予」がつき
すでに出所しているという状況だ。
毛利小五郎の相棒を殺した事件と数年前の強盗事件、
そして「司法取引」を恨む者たち。
事件が複雑に絡み合いながら進行していく展開は
まさにミステリーであり、いわゆるミスリードを誘うような要素もある。
ところどころで犯人がなぜか「大和 敢助」を狙うシーンが有り、
そのあたりでのアクションシーンはあるものの、
基本は地味な捜査のシーンが続く印象だ。
しかし、そんな地味な捜査をぶち壊してくれる展開がある。
雪崩
雪山が舞台のコナン映画ということで
多くの人が「沈黙の15分」を思い出したことだろう。
同じ雪山が舞台、ならばもしかしたら雪崩がまた見れるかもしれない。
あのコナンによる「神の御業」を見れるかもしれない。
そんな期待をしてしまう人も多いはずだ。
ご安心いただきたい、今作ではがっつりと雪崩のシーンが有る。
しかも2つの雪崩が起きる。
犯人がわざと雪崩をおこし、コナンたちが巻き込まれる!という
状況の中で、コナンはあえて別方向から雪崩をおこし、
雪崩同士をぶつけて止めようとする(笑)
この地域ではわざと雪崩を起こすために
音を反響させる装置のようなものに音のバズーカのようなものを
当てている、その装置を犯人が利用して雪崩起こしたため、
コナンも同じ装置を使い、雪崩を起こす。
残念ながらスノボーによる神の御業ではないところは
残念ではあるものの、沈黙の15分の雪崩をもう1度みたい、
そんな私のようなねじり曲がったコナンファンの要望にも
応えてくれる、それだけではない。
セルフオマージュ
ここから「過去作」が活きてくる。
毛利小五郎は射撃の腕はピカイチという設定があり、
14番目の標的でその設定が描かれている。
その設定を今作では起用している。あまりにもにくい展開だ。
しかも、そんなシーンを2度も描いてくれる。
毛利小五郎がシンプルにかっこいい、眠らない小五郎の
魅力を余すことなく描いている。
初期からのコナン映画を見ている人たちだからこそわかる、
そんなシーンがこの作品には多く、
雪崩もそうだが、終盤で氷の下に「諸伏 高明」が
閉じ込められてしまったときに自らの位置を知らせるために拳銃を放つ。
これも沈黙の15分でコナンが雪崩に混こまれた際に
サッカーボールを射出したのと同じ方法だ。
こういったセルフパロディ的なシーンが多く、
コナンを知ってるほど、コナン映画を見てきた人ほど
楽しめるような印象だ。
安室さんなど公安関係のキャラクターも多く登場するが、
今回、コナンに別の公安が「盗聴器」を仕掛ける。
そんな行動もかつて「安室」も行っている。
コナンと信頼関係を築く以前の出来事ではあるものの、
それをあえて指摘する部下のセリフにも思わずニヤニヤしてしまう。
そういった過去作のシーンや要素を知っていると楽しめる部分が
本当に多く、最期のポストクレジットでのシーンまでもそうだ。
過去の27作品というシリーズの重みがあるからこそ、
その「歴史」をこの作品では感じさせてくれる。
知らなければ知らないでさらっと流してしまう部分ではあるが、
知っていると思わず「ニヤリ」とさせられるシーンが多い。
27作品の重みがあるからこその毛利蘭とコナン、
そして灰原哀とコナンの関係性にも思わずニヤニヤしてしまう。
2つの事件
ミステリーとしても非常に濃厚だ。
この作品の脚本を手掛けているのは「櫻井武晴」さんであり、
相棒などの脚本も手掛けつつ、コナン映画もいくつも手掛けている。
最初に手掛けた絶海の探偵などはかなりリアルな設定であり、
相棒でやっててもおかしくないようなテイストがあった。
この作品もそんな相棒テイスト「櫻井武晴」テイストを強く感じる。
特にそれを感じるのは「司法取引」の部分だ。
日本での司法取引が始まったのは2018年、今から7年前だ。
この作品では8年前の事件で司法取引が行われたことになっており、
若干のズレはあるものの、そのあたりも考慮しているのだろう。
司法取引は捕まえた犯人がなにか別の事件の証拠や
共犯者などの情報を提供するかわりに罪が軽くなる制度だ。
その司法取引の「是非」を今作では訴えている。
8年前におきた強盗事件では二人の犯人のうちの一人が
先に捕まり、司法取引を行い執行猶予がついてしまっている。
だが、そんな事件をきっかけに犠牲になったものもいる。
そんな犠牲になったものもいる事件なのに
司法取引を行うことが正しいのか。
しかも作中では司法取引がより行いやすくなるように
「証人保護プログラム」をおこなるように法律が変わろうとしている。
8年前の事件と今起きている事件、
毛利小五郎の相棒が殺された事件、大和刑事が襲われる事件、
複雑に絡み合う物語が進めば進むほど前のめりで
先が気になってしまう。
でてくる用語、ワードとしてはわかりにくいものも多く、
かなり大人向けだ。子供向けとはいい難い部分もあり、
子供が見ると事件がわかりにくい部分もあるだろう。
この作品は子供の頃からコナン映画を見続けてる人に送られている作品だ。
過去の作品も履修し、コナンを愛してくれている。
そんな人達が楽しめる要素と、
1作目から27年以上の月日がたったからこその
大人なテイストのミステリーがたまらない。
公安
この事件には公安が深く絡んでおり、
事件の裏側では「日本政府」も巻き込まれるほど壮大なものだ。
しかし、物語自体は長野だけで進行し、壮大な事件ではあるものの、
それをうまくこじんまりとまとめ上げている。
公安という警察の中でも特別な組織。
そんな公安に所属する者たちの人には言えない行動の数々、
正義を守るため、この国を守るため、ときには心を、
自らの命すら犠牲にし彼らは戦っている。
それを感じさせる描写がうまい。
特に「安室」は声優が変わったということで
一瞬戸惑う部分はあったものの、ラストで「公安の闇」を
あえて彼がこなす姿は新しい声優になったからこそ、
「安室透」というキャラクターに違った角度の魅力が生まれた印象だ。
事件の真相を明かすシーンでも
「犯人候補」の登場のさせ方が非常にうまく、
同時に「毛利小五郎」だけが早い段階で
とあることをきっかけに真犯人にたどり着いているというのも
素晴らしい展開だ。これもまた水平線上の陰謀と同じような要素だ。
見ている側を惑わすミスリードと伏線を積み重ねが
事件の真相が明らかになる最期まで続き、真犯人がわかったときに
「そういうことだったのか!」とパズルのピースが
埋まっていく感覚がたまらない。
非常に優秀なミステリーであり、完成度の高い
大人向けなストーリーに仕上げている。
だが、そんな大人向けではあるものの、
この作品はコナン映画だ。
とんでもアクションがあってコナン映画はコナン映画といえる(笑)
天罰
今作の最大のネタバレになってしまうが、
終盤、犯人へコナンによる天罰が下る。
なにをいっているかわからないと思うが、そのとおりなのだから仕方ない。
コナンはかつて雪崩を起こすという神の御業を見せている、
そんなコナンだからこそ天罰も下せる。
逃げる犯人、追いかける警察たち、
コナンもまた犯人が壊したアンテナの一部にのり、
まるでスノボーのように滑り出す(笑)
スケボーだけでなく実質スノボーシーンを見れるだけでも満足なのだが、
コナンが乗っているのがアンテナの一部であることをまず
頭においておいていただきたい。
犯人か逃げる中でコナンは「足止め」をしようとする。
そこで思いついたのが序盤で見学した国立天文台にある
「レーザー」だ。このレーザーは空に擬似的に星を描くために
使用されるものなのだが、このレーザーを犯人に
「照射」しようとしている(笑)
灰原哀がレーザーの角度を調整し、そしてコナンが
射出されたレーザーを自らが乗りこなすアンテナの一部で
「受け止め」角度を変更する、もはや意味不明すぎて
このシーンは大爆笑だ。
本来は遠く離れた空に星を描くレーザーではあるものの、
とんでもない量の光量を浴びる犯人の視力が心配だ。
熱量自体はそこまでないため焼死するわけではないものの、
やってることはガンダムシリーズに出てくるコロニーレーザーのようなものだ。
規模も出力も違うものの「サテライトキャノン」に近いことを
今作ではやっている。まさしく神の天罰だ。
ただの足止めなのにどうしてそこまでのことをしないといけないのかという
ツッコミどころはあるものの、そんなツッコミも込で
本当に楽しい作品だった。
総評:コナン映画を見続けた貴方へ
全体的に見てコナン映画を見続けた人にはたまらない作品だ。
毛利小五郎をメインに据え、あえて過去作を彷彿とさせる要素を
ふんだんに取り入れており、過去作を見ているからこそ分かる部分や、
過去作を見ているからこそ楽しめるシーンが非常に多い。
そういった過去作のオマージュシーンもそうだが、
長野県警関係や安室さんを含む公安周りもそうだが、
今作は予備知識があったほうが楽しめる部分が多い。
かなり割り切って「ファン向け」に作られている感はあるが、
コナン映画はキャラムービーだ、それでいい。
前作もそういった傾向が強かったが、
YAIBAからのキャラなど「誰?」となるキャラがあまりにも多かった。
しかし、今作はある程度、過去作や過去のコナンを見ていれば
誰?となるキャラはほとんどいない。
事件の規模自体も小さい感じから始まり、
裏では壮大な日本政府を巻き込む事件にまで発展しているものの、
あくまで裏だ、コナンたちが知らない所、見えないところで
そういった部分が動いており、見た目はこじんまり、
裏では壮大というのがちょうどいい塩梅になっている。
アクションシーンの見ごたえも素晴らしく、
序盤のスケボー&サッカーボールアクション、中盤の雪崩、
終盤の神の天罰とバランスよくコナンらしいアクションシーンを
描いており、もう見ていて笑いが止まらなかった。
長野県警のキャラのラブロマンス要素もありつつ、
長野県警のメインに据えたからこそのシリアスな
ミステリーであり、毛利小五郎がメインだからこその要素、
そしてコナン映画だからこその要素がバランスよく盛り込まれており、
そこに「櫻井武晴」さんらしいテイストも加わっている。
予備知識が若干必要なことと、本格ミステリーではあるため、
やや人を選ぶ部分はあるものの、
刺さる人には強烈に刺さる作品に仕上がっている。
ミステリー、ラブロマンス、アクション、
コナン映画に必要なものがバランスよく詰め込まれており、
大満足な作品だ。
今年は近年とはテイストの違うコナン映画だっただけに
来年はどうなるのかが楽しみだ。
個人的な感想:天罰
ラストのレーザー照射はツッコミどころも凄まじいが
インパクトも凄まじいシーンだ。
もう声を抑えるのが必死で、心のなかで大爆笑してしまった(笑)
過去作のオマージュ、セルフパロディの多さも
ここまですべてのコナン映画を見てきた私にとっては
どこか嬉しいファンサービス的なニュアンスもあり、
そういった部分でも楽しめた作品だった。
それだけに過去作を見ていない人などは
どの程度この作品を楽しめるのかは謎だ。
映画としての完成度、ミステリーの濃度、アクションの満足度、
どれもこれも素晴らしかったが、人を選ぶ分はありそうだなと言う感じだ。
興行収入はここ最近、100億を2作連続こえているが
果たして今作はどうなることやら…