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普通な彼女が生き抜いた辛辣な時代「この世界の片隅に」レビュー

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評価★★★★★(94点)全128分

あらすじ 1944(昭和19)年2月、18歳のすずは広島から軍港のある呉の北條家に嫁ぐ。戦時下、物資が徐々に不足する不自由さの中、すずは持ち前の性格で明るく日常を乗り切っていたが、翌年の空襲によって大切なものを失う。広島への原子爆弾投下、終戦。それでもすずは自分の居場所を呉と決め、生きていく。引用 – Wikipedia


普通な彼女が生き抜いた辛辣な時代

原作は漫画アクションで連載していた漫画作品。
実写ドラマ化などもされ2016年にアニメ映画として制作された。
監督は片渕須直、制作はMAPPA

見出して感じるのは「のん」の声の可愛さだろう。
本作品の主人公、北條すずを演じているの能年玲奈こと「のん」であり、
彼女の独特な声の可愛らしさが癖になるような魅力を感じさせる。
広島弁のイントネーションが非常に可愛らしく、、
キャラクターの印象を「のん」の声が後押ししており、
作品の世界観にすんなりと入り込んでしまう。

いわゆるアニメ声優の演技演技した演技ではない。
かといって芸能人声優に有りがちなわざとらしい過剰な演技や
演技とも言えない演技でもない。
しっかりと演技はしている、だが、その演技を感じさせないほどの自然な声の
抑揚の付け方は「のん」さんの役者としての天性の才能を感じるものだ。

そして流れるOPの曲。
ザ・フォーク・クルセダーズの悲しくてやりきれないのカバーであり、
この曲名を聞いたことが無い人でも曲を聞けば
「あぁ!聞いたことが有る!」という曲のはずだ。
そんなノスタルジックさを感じさせる曲で更に作品の世界観に入り込める。

まだストーリーも全然始まってないような序盤の序盤だ。
だが、そんな「冒頭」で「この作品は面白い」という予感を
強く感じさせる描写になっている。

そしてストーリー。
序盤の少女時代からすぐに18歳へと成長する。
戦争中の時代背景をきっちりと描写しつつも、
そんな戦争にかかわりのない少女がお見合いをし嫁いでいく。

この序盤のストーリーはかなりあっさりしている。
戦争中ということを感じさせないほど質素では有るが平和な生活、
この時代だからこその女性の生き方など、
描写自体はあっさりしているのだが、そのあっさりした描写でも
しっかりとした雰囲気があるからこそ引き込まれる。

特に「初夜」の雰囲気、もちろんダイレクトな描写はない。
だが、奥ゆかしさを感じるような雰囲気と
祖母からの「合言葉」を緊張して言う様など、
今の日本では失われた様式美のようなものを感じることができ、素直に面白い。

しかし、それと同時にわかりにくさも有る。
しっかり聞き取り、しっかり見て、初めてセリフの意味合いを理解できる部分もあり、
細かい部分での情報量が非常に多い。
結婚初夜の合言葉も「ん?なんのこと?」と思う人もいるだろう。
描写自体はあっさりしているのに画面に描かれていることが非常に多いため、
集中して見ないと意味合いが伝わりづらい部分もある。

そしてどんどんと時間が流れていく。
細かい背景や「生活音」の中で戦争が激しくなっていくことを感じ、
時系列の変化を目と耳で感じさせる。

この作品の主人公は普通の女の子だ。
風立ちぬのように飛行機を設計するわけでも、
永遠の0のように戦闘機に乗るわけでもない。戦時中の普通の女の子だ。

食べ物の配給が減る中で工夫して料理をしたり、
防空壕を掘ったりするしかない。
ただひたすら日々を必死に生き、戦争が終わることを願うしか無い。

彼女は物語の主人公だが特別ではない。
特別ではない主人公の物語を2時間という尺できっちりと丁寧に描いている。
特別ではないからこそ物語の序盤のインパクトは薄い。

だが、特別ではないからこそ「感情移入」することができ、
感情移入してしまうからこそ激しくなっていく戦争に抗えない彼女の心情に、
見ている側がどんどんと共感していき、
特に感動できるわけでも涙をながすようなシーンでもないのに、
なぜか悲しくなり涙腺を刺激されてしまう。

キャラクターに愛着が湧いているからこその共感からくるやり場のない
自分の感情が涙腺を刺激し自然と涙を浮かべている。

この作品は戦争を扱っている。
戦争を扱ってはいるが、そこに強い反戦メッセージだったり、
戦争賛美のようなものはない。
主人公が生きた時代でたまたま戦争をしていただけに過ぎず、そこに善も悪も無い。
戦争を扱った映画に有りがちなテーマの押し付けがましさというのがまるでない。

戦闘が彼女の目の前で始まっても彼女の目には現実味が薄く、
まるで「絵」を見ているような感覚になる。
普通の人にとっての戦争などそんなものだ。
だからこそ空襲が起こっても彼女は普通で居られ、普通に生活を送る。

もっと過剰に描くこともできるはずだ。しかし、この作品はそんなことはしない。
淡々と粛々とどんどんと時間が流れていき、どんどんと戦争は激しくなっていく。
そして徐々に戦争が「現実」になっていく。

夫が軍人になり、義父が負傷し、
親戚の女の子が爆弾で亡くなり、右手も失う。
絵空事のように思えていた戦争が彼女の前に現実となって遅いかかる終盤は、
普通に暮らしていた女の子にはつらすぎる現実だ。
しっかりと序盤から中盤まで主人公に感情移入してしまったからこそ、
このつらすぎる現実にただひたすら涙を浮かべてしまう。

戦争が終わった際の彼女の涙は普通な彼女だからこそ流した涙だ。
しかし、生きていかないといけない。
真っ白なご飯は美味しいし、空襲がない日は安心できるし、
アメリカ軍の食事に旨いと言ってしまう。
最後まで普通に生き抜いた彼女の生き様が深く深く心に残る作品だった

全体的に見て素晴らしい作品だった。
戦争という題材でありながら普通な主人公を話の中心に置くことで、
前半までは戦争の現実味を薄く描き、キャラクター描写をきっちりと深め、
後半から戦争を現実にすることで普通な彼女が普通に生きることの難しさを描きつつ、
押し付けがましくない戦争の残酷さを生々しく描いている。

淡々とあっさりとした描写が多い。
それは死であっても性描写であっても同じだ。
あっさりと描くからこそ素直に見ている側にも伝わり、
しっかりと感情移入してるからこそ、そのシンプルな描写がストレートに突き刺さる。

欠点を言うならば情報量が非常に多いということだ。
尺的には2時間の作品だが、その尺以上に内容は濃い。
集中してみなければ、前半に出てきたキャラクターをキチンと覚えていなければ
わかりづらいシーンも有り、1度見ただけでは把握しきれない部分もあるだろう。

何度も見てわからなかった部分のシーンの意味を理解するのも
この作品の面白さの1つであり、
分かりづらい部分を分からないまま見ても、
「主人公」の魅力があるからこそ彼女の人生に深く感情移入し、
最後までじっくりと見てしまう作品だ。

何度もリピートする人がいて少ない公開館が徐々に増えていったのも納得できる。
この作品は1度見て素直に感動し、2度見て感心し、3度見てまだ感動してしまう。
2時間というストーリーの中に詰め込まれた主人公の生き様を、
何度も何度も見たくなる魅力に仕上げていた。

個人的には素直に面白かった作品だ。
戦争を扱ったアニメの「火垂るの墓」がどうにも私は好きではないのだが、
この作品は同じ戦争を扱っているのに、ここまで違うのかと思うほどだ。
押し付けがましくないからこそ抵抗なく見られる作品だ。

余談だが私は「あまちゃん」を見ておらず能年玲奈こと「のん」の
演技をこの作品で初めて見たのだが、びっくりするほどの演技力だ。
この作品はもちろん内容やアニメーションとしての表現やストーリー構成の
素晴らしさも有るのだが、「のん」の声と演技が作品の厚みを
何倍にもしていたように感じるほどだった。

今さら、「あまちゃん」みてみようかな(笑)

「」は面白い?つまらない?

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