SF映画

「ほしのこえ」レビュー

SF
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評価 ★★★☆☆(58点) 全25分

ほしのこえ 予告編 (The Voices of a Distant Star)

あらすじ 2039年、NASAの調査隊が火星のタルシス台地で異星文明の遺跡を発見し、突然現れた地球外知的生命体タルシアンに全滅させられた。この出来事に衝撃を受けた人類は、遺跡から回収したタルシアンのテクノロジーで、タルシアンの脅威に対抗しようとしていた。引用- Wikipedia

永遠の8年

本作品は「新海誠」監督による短編OVA作品。
の監督・脚本・演出・作画・美術・編集のほぼすべてを
新海誠監督一人で手掛けており、
オリジナル版では作品に出てくる二人のキャラクターのうちの一人を
新海誠監督自身が演じている。

夕日

冒頭から印象的な「夕日」が描かれる。
センチメンタルを刺激されるような教室に差し掛かる夕日、
どこか寂しく、孤独感を感じる風景は「光」を意識した描写になっている。
新海誠監督の背景へのこだわり、
強い没入感を生む「光」の演出が作品の世界観を彩っている。

キャラクターデザインに関してはやや稚拙な部分があり、
二人のキャラクターの顔はほぼ同じだ。
背景に対してキャラクターの作画がややおざなりになっている部分があり、
初期の新海誠監督の「荒削り」な部分を強く感じてしまうものだ。

キャラクターの作画だけ見れば酷いアニメのように見える。
だが、背景の作画だけは恐れおののくほどのものになっており、
そんな背景を見せるシーンが多い。
夕日、雨の降りしきる街並み、雨上がりの夕日。そして「宇宙」

この作品は「未来」を描いている。
90年代のような街並みでありながら、2039年の未来の地球は
宇宙人との戦争状態だ。
そんな状況下の中で「少女」は戦い続けている。

時間

少女は選抜メンバーに選ばれ、地球を離れ宇宙で戦っている。
戦闘シーン自体はそこまで長くない。
しかし、そんな短い戦闘シーンの中でも
「板野ミサイル」を彷彿とさせるミサイルの描写や、
「地球外生命体」との接触などSF的にワクワクさせられる描写が多い。

特にラストの戦闘シーンは思わず息を呑まれてしまう。
少女が乗った機体がぼろぼろになりながら、
ただただ「帰りたい」「もう1度会いたい」という思いだけが
彼女の戦う理由だ。

この作品は地球に住む少年と宇宙で戦う少女の
「恋」をこの作品は描いている。
二人の連絡手段は「メール」だ。

地球と宇宙、離れ離れになればなるほどメールが届く時間は伸びていく。
少年にとっては非現実的な少女の現実、
短いメールで綴られる宇宙での彼女の日常。

最初は数日、だが、徐々に数ヶ月、そして「数年」の時間がかかるようになる。
少女は宇宙で戦いつつも、少年はただただ「待つ」ことしかできない。
待っている間にも少女の状況は変わっていく。
時間のズレは大きくなり、メールだけではなく、年齢もズレてしまう。

8年

少女と少年の距離は果てしないものになってしまう。
もう地球には帰れないかもしれない、二度と会えないかもしれない。
距離も状況も絶望的だ。1年後に届くメール。
もしかしたら、少年は少女を忘れメールが届かないこともある。
少年はメールを待つのをやめてしまう。

しかし、そんな少年のもとに「1年前」の彼女からメールが届く。
諦めようと、もう忘れようとしていた「初恋」の少女からのメール。
忘れようとも忘れられない、交わす言葉も少なく、交わせる時間もない。
「光」の速さで8年かかる距離は少年と少女の間に深い深い溝を作る。
もう、その溝はうまることはない。

少女は少女のまま、少年は大人になってしまう。
思いも伝えぬまま、思いを伝える手段も時間がかかる中で、
彼女は届くまでに「8年」かかるメールを打つ。
もうそれが彼女が彼に遅れる最後のメールだとはわかっている。

「届いて」

切なる願い。ただただ会いたいだけだのに、好きと言いたいだけなのに。
そんな単純なことすらかなわない。

8年後に届くメールを少年はただただ待つことしかできない。
それでも、その叶わぬ思いを叶えようと少年は大人になる。
遠くはなれていても、どれだけ会えなくとも、
「思い」がつながりを生む。

決して素直にハッピーエンドとは言えない。
だが、「可能性」を残したラストが心地の良い余韻を残してくれる作品だ。

総評:新海誠監督の原点

全体的にみて「新海誠」イズムともいうべきものを30分ほどの尺で
感じられる作品だ。
時間のズレ、叶わぬ恋、そしてSF要素、描きこまれこだわった背景と
現在の天気の子までの作品に連なる原点の作品として、
新海誠監督らしい要素の数々を強く感じる。

キャラクターデザインとキャラクターの作画のクォイティは
やや低いことが残念であるものの、
その他のクォリティだけは、とてもほぼ一人で作ったとは思えない
クォリティで描かれており、圧巻だ。

特に背景美術は今の映画でも通ずるほどのクォリティであり、
ロボットによる戦闘シーンの描写も、
CG感は強いものの、グリグリと動き、スクリーンでみても
遜色のないクォリティになっている。

本来はもう少し多くの登場人物が出てくるような話を、
たった二人の登場人物だけで描くコンパクトさは、
短編映画らしい魅力であり、
短い尺ではあるものの世界観や設定、キャラクター描写をしっかりと
掘り下げ、どこが「見せたい」のかが非常にわかりやすい。

ただ、全体的に癖は強い。
いい意味でも悪い意味でも新海誠監督らしい部分が強く、
荒削りな部分も多いため人を選ぶことは間違いないものの、
少年少女の「永遠の8年」を30分という尺でしっとりと描いている作品だ。

個人的な感想:6万本

この作品のDVDはなんと6万本も売り上げている。
6万本だ(笑)
ほぼ一人で作り上げて上映も下北沢トリウッドのみ。
そんな作品が口コミで広がり、結果的に6万本の売上を叩き出しており、
今の新海誠監督の作品にもつながる評判を生んだ作品だ。

新海誠監督は本作と前作の「彼女と彼女の猫」など
自主制作畑のクリエイターであり、
そんなクリエイターが多くの人と関わり、
国民的なアニメ映画、大ヒット作品を生み出すことなど
当時、誰が予想できただろうか(苦笑)

今でこそ、YouTubeなどの動画サイトやTwitterなどのSNSが
成長し、多くの人が利用している。
今ならばこういう自主制作のアニメが大注目されて
ヒットすることもあるかもしれないが、
この作品は「2002年」の作品だ。

個人的な肌感ではあるが、こういったネットの口コミや評判、
盛り上がりでヒットする作品は
「涼宮ハルヒの憂鬱」あたりが元祖的な立ち位置と思っているが、
それ以前に、6万本もの売上を叩き出した本作は驚異的な作品だ。

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