映画

羊も逃げ出す完全催眠映画「不思議の国でアリスと-Dive in Wonderland-」レビュー

2.0
不思議の国でアリスと 映画
画像引用元:不思議の国でアリスと製作委員会
スポンサーリンク

評価 ★★☆☆☆(36点) 全95分

本編映像「アリスとの出会い」篇|劇場アニメ『不思議の国でアリスと –Dive in Wonderland-』大ヒット上映中!

あらすじ 失敗しないように空気を読み、周囲と同じようにしているはずなのになぜかうまくいかない大学生の安曇野りせ。人生に迷っていた彼女は、亡き祖母が遺した招待状に導かれ「不思議の国」に迷い込む。 引用- Wikipedia

羊も逃げ出す完全催眠映画

原作は「不思議の国のアリス」な本作品、
監督は篠原俊哉、制作はPA.WORKS

私のXのアカウントはフォローしているアカウントの都合上、
大量のアニメ情報が否が応でも流れ込んでくる。
特にアニメ映画なんかは公開された直後には感想で溢れかえっており、
大体の雰囲気をつかめることが多い。
そんな中でこの作品は「感想」というのがなかなか流れてこなかった。

感想よりも「眠ってしまった」というツイートが圧倒的だった。
異様な事態だ、つまらない映画を比喩するときに「眠ってしまった」と
書く人もたまにはいる、確かにつまらない映画を見ると、
映画という暗い環境も相まって眠気を誘われることもある。

しかし、この作品はそういうことではない。
面白い面白くない、つまるつまらないではなく、
なぜか「眠くなって」しまって寝てしまう。
中にはこの映画をきちんと完走するために3回や4回、
映画館に足を運んでいる人がいる。

一体どういう映画なのだろうか(笑)
α波的ななにかが出ているとしか思えない。
面白い面白くないや、内容に関するツイートより
この睡眠ツイートのほうが気になってしまう作品だ。

なお、私は当日は7時間睡眠、お昼ごはんは普通にたべ、
14時からの上映回でみた。
お昼寝には抜群な時間であることに後で気づいたが、
普段、お昼寝するクセは私にはないため安心してほしい。

気絶

先に結果から書いてしまうが、一瞬気絶した(笑)。
映画館には私を含めて5人ほどのお客さんがおり、私は最後列で見ていた。
映画が進むに連れ、前のお客さんたちの体勢が徐々に傾き、
1名は最善の方の中央に居たのではっきりと見えてしまったのだが、
明らかに頬杖をつき寝ていた。

そんな中で私は開始5分であくびがでた。
まだ映画が面白い、面白くないなんて判断が一切できない部分だ。
それなのに何故か眠気に誘われる、そこから約1時間、何度か
目を閉じ、やばいと思い目を開いたものの、
1時間あたりで本当に一瞬ガクっと気絶した。

こんな経験は初めてだ、今までの人生、私は映画館で
映画を見ながら寝たことはない。
この作品も寝ては居ないものの、本当に寝かけた。
Xでの睡眠ツイートの数々は嘘ではないことが証明された。

その原因はおそらく3つある。
まず音楽、作品全体の音楽がピアノ中心で奏でられており、
それがやさーしく、非常に心地良い。作品の世界観にあった音楽ではあるのだが、
場面を盛り上げる音楽というよりは、場面の雰囲気を後押しするような
音楽であり、ちょっとしたヒーリング曲っぽすらある。

さらにもう1つ、声だ。
本作の主人公は「原菜乃華 」さんが演じている。
彼女は「すずめの戸締まり」でも主人公を演じており、
演技力に関しては問題ないどころか非常に素晴らしい演技をしており、
その声もほわほわと本当に可愛らしい声をしている。声優向きの声と演技力がある。

だが、そのほわほわとした曲と音楽の組み合わせが駄目だ(苦笑)
まるで母の子守唄のように、母が絵本を読んでくれて寝かしつけてくれるように、
本当に「心地よく」眠気を誘われてしまう。
あまりにも「睡眠導入」の音として優秀すぎる。

淡々

その2つの要素に加え、この作品ははっきりいってテンポがあまり良くない。
主人公は就活中の大学生なのだが、なかなか就職先が決まらず、
「お祈りメール」を受け取ってばかりの日々だ。
どうすれば就職できるのか、よくわからない中で、
彼女は亡くなった祖母が開発したVRゲームのようなものをプレイすることになる。

彼女の祖母はいわゆる資産家であり、その資産を投じて
祖母が大好きだった「不思議の国のアリス」の世界観を
バーチャルで味わえるようにしている。
そんなヴァーチャルな世界に行くまでも淡々としており、
癒やしの音楽とPA.WORKSらしい色合いの背景描写が余計に眠気を誘う。

この作品は不思議の国のアリスを原作とし、基盤にしてはいるものの、
そんな不思議の国のアリスのストーリーをそのままやるのではなく、
あくまで主人公は就活中の大学生であり、
そんな大学生が不思議の国のアリスを舞台にしたゲームを味わうという作品だ。

原作というよりは原案などに近い。

アリス

祖母が開発したゲームは凄まじく、
プレイする人によって内容が変わる上に、プレイする事に内容も変わるらしい。
超高性能なAIかなにかでキャラクターたちは動いており、
VR技術も含め、一体どんな技術で作られているのかはやや謎だ。

そんな世界に入り込んだ主人公はスマホを
タブレットをもった三月ウサギに奪われ、追いかける。
基本的に1時間位はずっとこのウサギを追いかけながら、
不思議の国のアリスの世界観を「アリス」とともに巡る形だ。

このアリスも非常に可愛らしい少女で、
主人公との年の差が「おねロリ」的な百合要素も感じさせる部分があり、
二人の関係性は見ているだけで微笑ましい。
だが眠い(苦笑)

これは原作もそうなのだが、この作品自体も脈絡がなく突拍子もない展開が多い。
風船まみれの部屋から抜け出したかと思えば、
浮かび上がるチェス盤で空を飛んだり、
そうかと思えばインフルエンサーなイモムシが羽化するさまを見たり、
お茶会に参加したり。

脈絡のない展開が多いからこそ、
まるで眠る寸前に見る「夢とわかる夢」でも見ているかのような気分になる。
そのせいで決してつまらなくはないのだが、面白さの持続や
期待感が湧いてこず、細切れで支離滅裂なシーン展開を
見せられている感じがあり、余計に眠くなる。

現代的

この作品はあくまでもゲームの世界での不思議の国のアリスを描いており、
現代的にアップデートされている。
ウサギが持っているのは時計ではなくタブレットであり、
イモムシはインフルエンサーとして活躍していたりする。

そういった現代的なニュアンスを持つ世界観だからこそ、
主人公の現代的な悩みとも直結する。この作品で描きたいことはそこだ。
「就活中」の人や就活を経験した人は特に刺さる部分はあるかもしれない、
就職のために興味のない会社に応募したり、
「本当の自分」を隠し嘘の自己PRをする。

その繰り返しの日々の中で主人公は「自分」というものを見失っている。
不思議の国のアリスの世界を旅する中で主人公は問われる、
「あなたの嫌いなものは?好きなものは?」「美しいってなに?」
「本当にいいねって思っていいねを推してる?」
自分の価値観というものを不思議の国のアリスの住民から常に問われる。

彼女も働きたい仕事、やりたいことがあって就活をしているわけではない。
みんなが就活をするから、働くのが大人だから、
生きていくために働かないといけない。右にならえで生きている中で、
自分というものがわからなくなっている。

人が良いと思うものが良いもの、それは現代的な評価の1つでもある。
現代人は数字にこだわりすぎている。
フォロワーの数、いいねの数、再生数、チャンネル登録者、
そういった数の多さこそが正しい価値観になってしまっているのではないか。

説教

そういう事を言いたいのはわかるのだが、
ややこのあたりのメッセージ性も説教臭く、
この作品の舞台が祖母が作り上げた不思議の国のアリスを舞台にした
VRテーマパーク的なアトラクションなのを忘れてしまっている。

特に終盤の展開は異様ですらある。
主人公は「裁判」にかけられ、悪人かどうか問われる。
彼女のスマホが喋りだし、彼女のリアルでの嘘の数々を暴露する。
嘘の自己PR、嘘の志望動機、嘘のいいね、
嘘で塗り固められた彼女は「罪」なのだと。

このあたりは本当に説教臭く、そういう生き方をしている人にとっては
余計なお世話でしかないだろう。そもそもこの作品の舞台はゲームのはずだ、
確かにリアルすぎるVRゲームは面白いのかもしれないが、
キャラクターたちがあまりにもプライベートに入ってきすぎて、
説教までしてくるのはちょっと厳しい部分がある。

これが祖母が作り上げたVRの中ではなく、
本当に主人公は不思議の国のアリスの世界観に潜り込んでしまった
というなら納得できるかもしれないが、
祖母が作り上げたVRというのがややノイズになってしまっている。

好き

終盤、主人公は透明になってしまう。
何が好きなのか、何が自分なのか、自分という存在を見失ってしまう。
そこで彼女は祖母との思い出を見て、更にアリスとの対話のなかで
「自分」というものを取り戻していく。

自分が好きなものはなんだったのか。
1つ1つ思い出していくこと、その好きの集合体こそが「自分」だ。
それを誤魔化すことは自分を見失うことであり、
自分を見失っていた主人公が不思議の国のアリスの世界の中で
「自分探し」をして自分を見つける、そんなストーリーだ。

ラストの展開はやや突拍子もない感じはあり、
主人公が大好きなものを見つけたことで自分を確立した、
「推し」を見つけたというのも現代的なストーリーとしては悪くない。

おめでとう

ただ、作品全体として真面目に作りすぎており、
1シーン1シーンがダラッとしており、終盤の突拍子もない展開や、
やや押し付けがましいメッセージ性が鼻につく部分がある。

みる人によって考え方は違うと思うが、
「自分に嘘」をつくことは罪であり、そんな嘘を付くことやめて
自分の好きなものだけを叫んだ主人公は
不思議の国のアリスの住人から「無罪」の称賛を受けて
VRアトラクションから卒業することになる。

まるでエヴァの最終回の祝福を受ける「碇シンジ」を
見つめたときと同じように、やりたいことはわかるが
なにか釈然としないまま物語の幕が閉じてしまった。

総評:貴方は最後まで眠らずに居られるか

全体的に見て作品として真面目すぎる印象を受ける作品だった。
「不思議の国のアリス」をアニメ映画にする、
そのうえで主人公を就活生にし、現代的な若者の
自分探しを不思議の国のアリスの世界で行わせるという
企画案自体は悪くないが、ぶっちゃけそれ以上でもそれ以下でもない。

主人公とアリスのおねロリな関係やキャラ描写自体は悪くないが、
そのためにこの映画を見てほしい!とまでなるほどの
シーンや魅力があるというわけでもなく、
自分探しの旅もやや説教臭く、やりたいことはわかるものの、
そのやりたいこと以上の「面白さ」を感じるわけでもない。

現代的にアレンジされた不思議の国のアリスの
住民は面白いといえば面白いのだが、現代的にアレンジしました
以上の何かがあるわけでもなく、
作品全体として「企画案」、プロットだけで終わっており、
そこからもう1歩、映画としてのエンタメ感や盛り上げ方がない作品だ。

現代の普通の就活生な主人公を不思議の国のアリスで
旅をさせるという舞台をやらせるために
「VR」という真面目すぎる設定になっているのも、
この作品のまじめさの象徴にもなっており、VR要素もほとんど活かされない。

これならば謎パワーで不思議の国のアリスの世界に迷い込んじゃいました!
帰れるかどうかわかりません!みたいな感じのほうが物語に刺激が生まれたはずだ。
作品全体としてそういうことをやっておらず、生真面目に作品を作っており、
決して駄作!とケチョンケチョンにするほどの作品ではないのだが、
その反面、名作とも言い切れず、面白かったとも言いづらい作品になっている。

そういう生真面目さと作品全体の癒やしのBGMと
原菜乃華さんの声が多くの人を眠りにいざなったのかもしれない……

個人的な完走:魔境の8月

8月は本当に「魔境」といえるほど色々なアニメ映画があり、
この映画はその中でも特徴らしい特徴、PRポイントが薄い。
ChaOが令和最大の赤字映画、アズワンは2025年ワーストアニメ映画、
BULLET/BULLETは完全空気映画と称してきた私だが、
この作品は完全催眠映画と称している(笑)

4作品も色々なベクトルで進んでおり、その独自性だけは評価したいが、
この作品はそういった意味でも独自性というものが薄かった気がする。
PA.WORKSは駒ケ岳蒸留所へようこそなど地味な名作もあるものの、
この作品は名作というには物足りない。

ただ、映画館に足を運ばずとも、
配信が始まったら気になる人は是非見てみてほしい。
寝る前に見ると本当に優秀な睡眠導入映画であることは間違いなく、
下手したらその方向で来年あたりバズってることも
無きにしもあらずかもしれない。

「不思議の国でアリスと-Dive in Wonderland-」に似てるアニメレビュー

著:えの, 著:あやめ ゴン太, 著:studio HEADLINE, その他:「不思議の国でアリスと」製作委員会