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「鹿の王 ユナと約束の旅」レビュー

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評価 ★★☆☆☆(27点) 全114分

映画『鹿の王 ユナと約束の旅』予告【2022年2月4日(金)公開】

あらすじ かつて最強の戦士団と呼ばれた独角の頭だったヴァンはツオル帝国に敗れ、岩塩鉱で奴隷として囚われていた。あ引用- Wikipedia

劣化もののけ姫

原作は小説な本作品。
監督は 安藤雅司・宮地昌幸、制作はProduction I.G

ジブリ大集合

本作品を手掛けているスタッフはジブリ作品の制作に携わっていた人ばかりだ。
安藤監督は、スタジオジブリの『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』で作画監督を努め、
宮地監督は千と千尋の神隠しで宮崎駿の監督の助手を務め、
更に元スタジオジブリの岸本卓氏が脚本を手掛けている。
実質ジブリといっても過言ではないかもしれないが、
安藤監督にとっては本作品が初監督作品になる。

PVやCMなどでは元ジブリな人が関わっていることを強くアピールしている。
そういった意味でも見る前は期待感の強い作品だった。
しかしながら、蓋を開けてみたら「なんだこれ」というのが正直な感想だ。
一言で言えばこの作品は「微妙」だ。

冒頭から「文字」でこの世界の歴史が語られる。
横文字だらけのそんな文字の説明ではまったくもって頭に入らず、
映画を見返した直後ではあるものの、その冒頭の説明文字が
なんて書いてあったのかまるで思い出せない。

アニメーションという媒体で文字による説明は悪手でしかない。
映画が始まった瞬間から、まるで膝カックンを食らったかのような
がっかり感を強く味合わされる。

作画

確かに作画は素晴らしい。
Production I.Gらしさと、ジブリらしさの共存といえばわかりやすいかもしれないが、
自然や動物の描写はジブリっぽい美しいものになっており、
人物の描写や戦闘シーンはProduction I.Gらしい硬派などこか
実写的なものになっている。

ただ、最近のアニメ映画は「君の名は」以降、どの作品も
背景作画のクォリティに強いこだわりを持ち描かれている作品が多い。
この作品の場合、たしかにジブリ的な自然風景ではあるものの、
そこに「圧」がない。ただきれいなだけだ。

美しい自然をやたらめったら見せられるようなグダグダなシーンも多く、
背景の絵を見てほしいのはわかるが、何度も何度もずーっと見せられる
背景描写のインパクトは最初くらいで、中盤以降は飽きてくる。

奴隷

主人公は奴隷として働かされている。寡黙で心を閉ざした中年の男である
「ヴァン」は牢屋に入れられていたが、そんなある日、
働いていた場所を謎の「山犬」が襲い、ほとんどのものが死にゆく中で
主人公だけは「山犬」に噛まれながらもなぜかいき、
生きながらえた少女である「ユナ」と逃げ出すことになる。

序盤、ヴァンはろくにしゃべらない。
「ん」や「ああ」くらいしか喋らず、ほとんど廻りの人間が喋っている。
彼がおっている心の傷のようなものが原因であることはわかるが、
どうにも主人公としての魅力や存在感に欠けるキャラクターであり、
彼が何故か「鹿の王」という特別なものに選ばれた理由もよくわからない。

「山犬」に噛まれるとなぜか病気が発症し、いずれ死んでしまう。
そのせいでこの国は多くの被害が出ている状況なのはわかるものの、
この作品に出てくる「用語」が非常にややこしい。

山犬に噛まれると発症する病気は黒狼熱と呼ばれるものらしいのだが、
基本的には「ミッツァル病」と呼ばれており、
その「ミッツァル病」はなぜかアカファの民には発症せず、
ツオルの民だけに発症する。

ミッツアル、アカファ、ツオルと似たような横文字が並び、
そこに人物名や国や村の名前も合わさると大混乱だ。
頭の中でなんとかその用語を理解しなければならず、
作品内ではろくに説明されない。

ツオルはアカファと戦い、アカファを支配して数年たっているという
状況なのはわかるものの、その状況を理解しついていくのに必死だ。
場面転換も異様に多く、主人公とユナはのんきに旅してるシーンが
描かれてるかと思ったらツオル国内の様子や反乱などの陰謀を
企んでるキャラの様子をしょっちゅう挟まれる。

視点が二転三転するせいで物語に集中できず、
時系列もいつのまにか2ヶ月か半年くらいたってることもあり、
物語がかなり分かりづらいものになってしまっている。

もののけ姫

本当に見ているといちいち「もののけ姫」がちらついてしまう。
主人公であるヴァンは山犬に噛まれたものの病は発症しておらず死んでも居ない。
なぜか彼は「鹿の王」になる資格を得ており、そのおかげですごい力が出せる。
人の力では壊せないような檻を破壊したり、片手で猪突猛進してくるイノシシを止めたり。

なぜ彼が山犬に噛まれたのに病を発症せず鹿の王とやらに選ばれたのか。
その「理由」がよくわからず、鹿の王というものもふわっとしている。
彼がそんな力を使うシーンは「アシタカ」がタタリ神から
呪いとともに受けた力を使うシーンとも似ている。

明らかに「もののけ姫」を意識というよりオマージュしたようなシーンが多く、
鹿の王をみてるはずなのに「劣化」した「もののけ姫」を
見せられているようなそんな感覚になってしまう。

特にこの作品の象徴ともいえる鹿「ピュイカ」は
もののけ姫のヤックルにしか見えず、それにまたがる主人公の姿も
30年後のアシタカですと言われたほうが納得できるほどだ。

元ジブリな方が手掛ける作画は素晴らしいものの、
あまりにも「もののけ姫」を意識したようなシーンが多く、
別に宮崎駿監督作品でもなければジブリでもないのに、
宮崎駿監督が手掛けるジブリ作品を見せられているようなそんな感覚になる。
それが魅力的というわけでもない。

主人公であるヴァンは山犬の病気の「抗体」を持っているらしく、
そのせいで狙われる羽目になってしまうというストーリーなのはわかるものの、
そこに2つの国の陰謀や病気を治そうとする医師が絡んでくることで
余計にややこしくなっていく。

ユナ

ややこしい原因の1つがユナだ。
彼女は身寄りがなく、頭がおかしくなった女にあてがわれた小さい子供だ。
主人公とともに生き残った彼女もなぜか特別な力に目覚めている。
彼女もまた鹿の王の資格のようなものがあるらしいのだが、
主人公以上にその理由がよくわからない。
そもそも鹿の王なのに操れるのは山犬だ。色々と混乱してしまう。

序盤から中盤まではそんな主人公とユナの親子関係を築き上げながら
物語を紡いでいっているものの、結局、これもアシタカとサンの
関係性を親子の関係性に置き換えているだけのようにしか見えない。

現在の鹿の王は力がつきかけているらしく、
主人公かユナに鹿の王になってほしいようで色々と画策しているようだが、
主人公はそれを拒んだ結果、ユナが鹿の王になってしまう。
そんなユナを助けるために最後は主人公自らが鹿の王となり、
ユナは人里へ、主人公は鹿の王として山で暮らすという流れも
これまた「もののけ姫」と同じような展開になってしまう。

この作品に含まれる要素や展開、見せ方の数々が
あまりにも「もののけ姫」じみており、
見ていてあまりにも退屈だ。これならば同じ時間を使って
もののけ姫を見たほうが面白いと見ている間に思ってしまう。

退屈

久しぶりに映画を見ていて「退屈だ」と感じてしまった。
この作品はもともと「映像化不可能」などと言われていた作品のようだが、
そんな映像化不可能の作品を映像化した結果、
よくわからないものに仕上がってしまっているような印象だ。

ダラダラ、なにも起きないシーンが非常に多く、
序盤で主人公とユナがとある村にたどりついたかと思えば
またダラダラと生活が描かれ、ようやく主人公とユナと狙うものが
現れたかと思ったら、またダラダラと主人公がユナを追う旅が描かれる。

本当に退屈だ。
映画を見ている間に3回くらいはトイレに行っても問題がないと思うほど
ストーリーがなかなか進まず、その間に描かれるのは豊かな自然の描写ばかりだ。
ようやく話が進んだかと思えばまたダラダラ、
戦闘シーンや激しいアクションが描かれたかと思えばまたダラダラ。

作品全体が「だらー」っと間延びしており、
謎の病が蔓延していたり、従属国のおえらいさん達が反乱を企んでいたり、
ユナがさらわれていたりと本来は緊張感のある作品のはずなのに、
そんな物語全体の緊張感がまるで感じられなくなってしまっている。

映像化不可能といわれた原作を映像化するに当たり、
2時間という尺に収めるために原作の要素やエピソードを削り過ぎた結果、
こんな間延びした作品になってしまったのかもしれない。

医師

一方で医師の物語のほうが主人公であるはずのヴァンの物語より面白い。
彼は謎の病である「ミッツァル病」をなんとかしようとしており、
そんな彼が自身の命も顧みずに患者に接し、
命を助けようとする姿と「ミッツァル病」に関連するストーリーは面白い。

なぜツオルの民だけにミッツァル病は発症し、アカファの民には発症しないのか。
終盤になるとツオルの街で暮らしていたアカファの民の中にも
ミッツァル病が発症してしまう。

そんな彼が原因を探していくストーリーは素直に面白く、
ヴァンやユナの親子の物語や鹿の王とかいうわけのわからん
ファンタジーな要素をごっそり取り除いて、
戦争により支配された国と支配している国、そんな2つの国が1つになった
国で一方の国の民だけに発症する病の謎を追う物語のほうが素直に
この作品を楽しめたかもしれない。

そう感じてしまうほど、ファンタジーの要素があまりにも説明不足であり、
2つの国の物語やミッツァル病とファンタジーの要素が
噛み合っておらず、ちぐはぐな感じになってしまっている。
見終わった後に「結局あれってなんだったの?」と思うような要素も多く、
消化不良で終わってしまう作品だった。

総評:宮崎駿という名の呪い

全体的に見てひどく微妙な作品だ。
作品全体のテンポが悪くダラダラとしたシーンが非常に多く、
そのせいで物語が盛り上がりそうで盛り上がりきれずに終わってしまっており、
横文字だらけの用語や説明不足な部分が多いせいで理解が追いつかず、
結局アレは何だったのかと思う要素が非常に多い。

もともと映像化が難しいと言われていた作品を映像化しただけに、
その弊害を強く感じる要素も非常に多く、
そんな映像化が難しい作品を「ジブリ」的なタッチで描いた結果、
出来たものは劣化もののけ姫のような作品でしか無い。

元ジブリの方々が作り上げた作品ではあるものの、
結局、宮崎駿の監督の作品の劣化作品しか出来ない。
これは彼自身の息子である「宮崎吾朗」やジブリを出た「米林宏昌」監督にもいえることだが、
安藤雅司・宮地昌幸、両名もまた宮崎駿監督の呪いのようなものに
かかっているのかもしれない。

原作は評判のいい作品のようで、Production I.Gらしさを感じる
戦闘シーンなどは面白かっただけに、映画ではなく
2クールか4クールくらいの作品でじっくりと腰を据えて
描かれていれば違ったかもしれない。

「鹿の王」は面白い?つまらない?

この作品をどう思いましたか?あなたのご感想をお聞かせください

  1. 宇野知子 より:

    鹿の王原作が大好きで感動しただけに、映画は原作の良さが省かれたものになってしまっていて少し残念でした。2時間には収まりきれないないようなので、テレビアニメとかにして丁寧に描いた方が良かったんじゃないかと思いました。原作を是非読んで欲しいです。