「詩季織々」レビュー

評価 ★★☆☆☆(22点) 全74分

あらすじ 北京で働くシャオミンは、漠然と繰り返す日々に心が倦み疲れていた。そんなシャオミンは、ある雨の朝、ふと故郷での日々と、それぞれの場面でのビーフンの味を思い出す引用- Wikipedia

弘法筆を選ばず

本作品は中国の李豪凌監督が『君の名は。』でお馴染みの制作会社である
「コミックス・ウェーブ・フィルム」と、中国のアニメ制作会社「絵梦」に
よる日中合同アニメ映画となっている。
公開は2018年8月4日だが、8月25日よりnetflixなどでも配信されている。
全73分だが3エピソード構成の短編集になっている

質がいいだけの作画

コミックス・ウェーブ・フィルムといえば新海誠作品だ、
彼の作品を見て李豪凌監督がコミックス・ウェーブ・フィルムに
制作を頼んだらしく、それがわかる描写が冒頭から描かれる。

「新海誠監督」風のリアルな背景描写、人並みなどが描かれるが、
はっきりいってしまえば作画の質がいいだけでそこに
「新海誠監督作品」らしい圧倒的な背景作画による
飲み込まれる雰囲気作りというのはない。

あくまでも質がいいだけだ。
新海誠監督のようにフェチズムや変態めいたこだわりがあるわけではない。
金さえかければどんな監督でもできる「質の良いだけの作画」は
新海誠監督作品を真似たなにかでしかなく、
演出畑出身の監督がよくやりがちな綺麗だけの作画を淡々と見せられる。

特に冒頭の「雨」のシーンは言の葉の庭と比べれば、
同じ制作会社でも全く表現が違うことに気づくだろう。
「音」までこだわって初めて雨が生きてくる。

薄すぎるストーリー

この作品は3作品からなるオムニバスからなっており、
どれも中国を舞台にした話になっている。
だが、「中国が舞台」ということ以外に特徴は殆ど無い。

最初に描かれる「陽だまりの朝食」は主人公のビーフンの話が描かれる。
子供の頃食べたビーフンの味、成長期に食べたビーフンの味、
そして社会人になってからのビーフンの味。

主人公のナレーションベースで淡々とビーフンの思い出を語られるが、
正直言ってしまえば「だからなに?」と言いたくなるような話であり、
深いようで深くない。
ビーフンの作画が良いくらいの思い出しか残らない

次に描かれる「小さなファッションショー」は全3話の中で1番つまらない。
モデルの姉とその妹の話なのだが、売れたことで高慢になった姉が、
新人モデルに追い抜かれ悩む中で妹の夢に感化されて、
もう1度モデルの舞台に返り咲くという感じで、ものすごく薄い。
言いたいことはわかるが別にアニメで描くような内容ではない。

僕が求めていた秒速5センチメートル

最後に描かれる内容は「もし、僕が新海誠監督の脚本家だったら」という
テイストの作品だ。「秒速5センチメートル」と同じようにすれ違う恋愛だ。
学生時代にカセットテープを通じて交流し、互いへの思いをつのらせていく。
しかし、ヒロインは遠くの頭のいい学校へ行くために引っ越す予定があり、
主人公も同じ学校を目指すために必死に勉強する。

勉強に必死になるあまり主人公はヒロインと遊ぶ時間を減らし、
学校に合格するものの、ヒロインは受験に失敗してしまう。
どんどんすれ違う中で大人になってしまう。
すれ違ったまま大人になった主人公はヒロインからのテープを発見する。
という具合に話の流れとしては秒速に近い。

新海誠監督は「秒速5センチメートル」ではすれ違わせたままで終わった。
それをひねくれているという人もいるだろう。
この作品はそんな「ひねくれた新海誠監督」に納得いかなかった人が、
納得の行くハッピーエンドを描いただけに過ぎない。

それだけに逆に言えば「秒速5センチメートル」のラストが気に入らない人は
気にいるかも知れないが、私個人で言えば
余計なお世話のアンサーソングみたいな作品だ。

総評:新海誠風のなにかを作っただけに過ぎない

全体的に見て新海誠監督作品へのオマージュやリスペクトは感じるものの、
それだけで、それ以上ではない。
作画の質は確かに良いものの綺麗なだけで「圧倒」されるわけではなく、
脚本に関しても1話目と2話目はひどく薄味であり、
3話目は「秒速5センチメートル」のエンドが納得いかなかったファンが
納得の行くエンドを描くためだけに描いた作品にしか過ぎない。

コミックス・ウェーブ・フィルムによる作画で騙される部分はあるものの、
逆に「コミックス・ウェーブ・フィルム」制作ではなかったら
もっと駄作になっていただろう。

制作側が新海誠監督が好きなのはわかるが、
同じようなものを作っても、かつて「ほしのこえ」で
たった一人で作品を作り上げた新海誠監督作品を超えるものは作れない。
新海誠監督の凄さを改めて実感させられる作品だった。

個人的な感想:中国らしさは感じる。

中国版新海誠作品みたいな立ち位置の作品を作りたかったかもしれないが、
正直微妙だった。
作画が良いだけに「見れる」し不愉快になる部分もないが、
面白いと感じる部分もほとんどなかった。

弘法筆を選ばずとはよく言ったもので、新海誠監督なら
中国のアニメ制作会社でも面白いものを作れるだろう。
「コミックス・ウェーブ・フィルム」に頼った所で結局は
新海誠風の何かでしかなかった。

興行収入的にもあまり振るわなかったようで、
中国の興行ランキングは公開初秋にTOP10圏外で
興行収入的にも3000万以下、
日本では小規模映画館でしか上映されないうえに期間も短かったため、
ランキングや興行収入の情報は出てこなかった。

これからも中国のアニメ映画が日本で見れることはあるかもしれないが、
日本の有名なアニメ風の模倣したものではなく、
中国らしいアニメを期待したい所だ。