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最強と最狂、これがウマ娘の本能だ!「劇場版ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」レビュー

劇場版ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉 映画
(C)2024 劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」製作委員会
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評価 ★★★★★(90点) 全104分

劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』キャラクターPV[ジャングルポケット:CV 藤本侑里]【5月24日(金)公開】

あらすじ フリースタイルレースの世界で荒くれ者たちを束ねてきたジャングルポケットは、国民的人気スポーツエンタテインメント「トゥインクル・シリーズ」でのフジキセキの走りに衝撃を受け、最強を目指すべく公式レースの世界へと飛び込む。引用- Wikipedia

最強と最狂、これがウマ娘の本能だ!

本作品はウマ娘の劇場アニメ作品。
ウマ娘としては初の映画作品となる。
監督は山本健、制作はCygamesPictures

憧れ

この作品は作品全体を通してレース数がかなり多い。
重要なレースはもちろん、細かいレースもかなりの数描いていて、
作品の半分以上はレースシーンと言っても過言ではないほど
レースシーンだらけだ。

そんな作品の冒頭は当然、レースシーンから始まる。
この作品の主人公は「ジャングルポケット」だ。
彼女がフジキセキのレースを見たことで、
トゥインクルレースに憧れ彼女のようになりたいと思う。

そんな憧れという名の動機、「最強になりたい」という
ジャングルポケットとウマ娘たちの本能という名の動機を
冒頭からきちんと描くことで主人公であるジャングルポケットに
感情移入しやすくなっている。

過去のウマ娘の主人公たちの中でも彼女はわかりやすいまでに
「熱血」タイプだ、俺という一人称のせいもあるが、
勝負にこだわり、最強にこだわる彼女の姿は
まるで昭和のアニメの主人公であり、わかりやすい魅力がある。
一言で言えばヤンキーっぽさすら感じる主人公だ。

そんな彼女が初めてトゥインクルレースをみて、
トレセン学園に入り、憧れのフジキセキと出会い、
彼女と同じトレーナーに指導してもらうことになり、
デビュー戦で勝利を飾る。
この序盤の部分はOPでダイジェストで一気に見せている。

「君の名は」以降、映画ではこういった手法が使われることが
増えてきたが、この作品はうまくダイジェストを使っている。
映画の尺自体は108分しかない、
そんな短い時間の中で時にダイジェストを使いながら、
時間をうまく活用している。

場面転換もかなり自然だ。
例えば練習しているシーンや靴を履くシーンがある、
そんなシーンで映された足が自然とレース中の足や
出走前の足の描写に切り替わる。

余計な間がなく、自然に場面と場面をつなぐことで、
見ている側が息つく間もないほどに怒涛のストーリーを展開しており、
素晴らしいカットのやり方を作中で何度も見ることができ、
アニメーションという表現のこだわりに思わずニヤニヤしてしまう。
そんなストーリー構成だからこそレースも大量に描かれている。

そんなレースシーンの描写はウマ娘というアニメの中でも
郡を抜いていると言ってもいい。

カメラワーク

特に素晴らしいのがカメラワークだ。
今回、もうこだわりにこだわりまくったカメラワークが
特に素晴らしく、様々な角度や視点でレースを描いている。

例えばレースが始まった瞬間や序盤などは
上からの「俯瞰」で全体を見せているかと思えば、
まるでドローンで撮影しているかのように近寄り、真横や
真後ろから映し出す。

そうかとおもえば今度は「主観視点」に切り替わる。
映画のスクリーンいっぱいに広がるウマ娘たちの視線は
レースに対して強烈な没入感をうみ、
追い抜き追い抜かされる、レースシーンの迫力と緊迫感を
これでもか!と盛り込みまくっている。

RTTTでも、このカメラワークの凄さを感じる部分はあったが、
今回はそれが更に磨きがかかっている、
制作協力に「WIT STUDIO」の名前があったが、
進撃の巨人の戦闘シーン、立体駆動のあの戦闘シーンでの
カメラワークをウマ娘でも見せられているような感覚だ。

カット、カメラワークだけではない、演出も素晴らしい。

勝利への道筋

ウマ娘達がレースの際に「勝利への道筋」が見えることがある。
自分が進む先、まるで未来の勝利を掴んだ自分が見えているような
そんな「ゾーン」に入り込む瞬間、この先、自分が踏みしめる先の
足跡が光り輝き、勝利への道筋が見える。

勝負の駆け引き、彼女たちがどうやって勝つのか。
単純に才能だけではない、練習量だけではない、
運や感情がそこに乗っかってくるからこその試合模様と、
その結末を勝利への道筋をきちんと演出で見せることで、
彼女たちが突き進むウィニングロードをこの作品では描いている。

作画のクォリティももちろん高いのだが、
この作品はあえて、そこを「崩す」演出がかなり見られる。
ギャグシーンではジャングルポケットがまるで「溶けた」かのように
デロデロになるシーンもあったりするのだが、
そんな崩しの演出をレースシーンにも入れてくる。

これはかけだ、最近のアニメの場合はこういうあえて
「崩す」演出は好まれない。
例えば「この素晴らしい世界に祝福を!」という作品でも
あえて作画を崩したギャグシーンが多く見られるのだが、
そういう演出意図を視聴者が作画崩壊と受け取ることもある。

そんな演出をあえて取り込んでいる。
特にレースシーンの作画は顔も体も作画をあえて崩すことで、
レースシーンにおけるスピード感、そして彼女たちの
「必死な思い」が伝わるような演出になっている。

制作協力にTRIGGERの名前もあったのも納得できてしまう。
この作品は進撃の巨人のようなカメラワークで
グレンラガンのような熱血な戦闘シーンという名の
レースシーンを見せているようなそんな印象だ。

カメラワーク、演出、作画だけでなく音響も素晴らしい。
レースシーンの中での「音」の表現が生々しく、
其の生々しい音がよりレースを盛り上げてくれる。

とにかくレースシーンが凄いのに、そんなレースシーンが何度もある。
レースシーンのたびに、結果が出る最後の一瞬まで
固唾を呑んで見守ってしまう、手に汗握るレースシーンの数々だ。

そんなレースシーンをアニメーションという表現だけでなく
「ストーリー」によるキャラ描写でも盛り上げてくれるからこそ、
この作品はたまらない。

アグネス・タキオン

この作品の主人公はジャングルポケットなのは間違いない。
だが「アグネスタキオン」もまた主人公でありライバルだ。
彼女はジャングルポケットの前にライバルとして立ちふさがる強敵だ。
白衣に身を包み、ウマ娘の可能性を彼女は模索している。

ジャングルポケットが最強になるためにレースに挑んでいるのに対し、
アグネスタキオンは最速を求めるためにレースに挑んでいる。
だからこそ、考えの違いもある。

ジャングルポケットは自らが最強であることを求めている。
だからこそ自分がレースに挑み、負けてしまえば悔しがり、
自分より早いウマ娘に憧れ、そんなウマ娘たちに勝つために
彼女は特訓をし、走り続けている。

だが、アグネスタキオンは違う。
彼女が求めているのは「最速」であり、同時に「ウマ娘の可能性」だ。
時速70キロの世界で走り続けるウマ娘たち、
彼女たちの中に眠る走るという本能はどこからきて、どこまで行けるのか。
それを彼女は探し続けている。

探求欲、知識欲といってもいい。
自らを「実験材料」にし、彼女は最速のウマ娘になる。
それは「狂気の残光」だ。

本来、人は自分を壊さないように「セーブ」して動いている。
それはウマ娘も変わらないだろう。
時速70キロの世界で走り続ける彼女たちにとって怪我はつきものだ。
選手生命にも関わってしまう。

しかし、アグネスタキオンには自らの可能性、ウマ娘の
行き着く先にたどり着きたいという本能と知識欲に逆らえない。
たった1度でもいい、このレースで走れなくなってもいい。

彼女の名前にも含まれている「タキオン」は架空の粒子だ。
光速よりも早く動く粒子、それゆえに存在するかどうかも
「観測」することができない。
そんな名前の彼女だからこそ、1度きりの、
まるで幻のような走りを見せる。

多くのウマ娘の中にその走りは残り続ける。
アグネスタキオンが見せた狂気の残光にとらわれてしまう。
彼女はたった1度のレース、1度だけその狂気の残光を見せつけ、
タキオン粒子というものをウマ娘たちに見せつけるような感覚だ。

それは彼女の足を代償に得たものだが、
あえて、それを彼女は口には出さない。
自分の狂気の残光に多くのウマ娘をとりこみ、
自分を超える速度で走れるウマ娘を生み出すことが彼女の目的だ。

そんな彼女はあっさりと引退に近い無期限休止宣言をしてしまう。
史実においてもアグネスタキオンは4戦4勝で無敗だ、
しかし、たった4戦しかしていない競走馬だ。

そんな競走馬をウマ娘にし、ストーリーに「狂気の残光」として
組み込む流れは素晴らしく、これぞウマ娘という
競走馬の擬人化作品だと感じさせるキャラ描写と
ストーリーが生まれている。

ライバルの不在

そんなライバルの不在に主人公であるジャングルポケットは挫折してしまう。
自らのライバルだった彼女に負けてしまった事実、
そして彼女が引退してしまったことによって、
彼女に二度と勝つことができなくなってしまった事実が
彼女の目の前に巨大な壁となって立ちふさがる。

それでも彼女は1度は立ち上がっている。
同期であるダンツフレームと挑んだレース、
その中で二人はアグネスタキオンと同じように狂気の残光を求め、
素晴らしいレースを展開している。

紛れもなくジャングルポケットは最強の名を冠するウマ娘の栄光を得る。
だが、それはあくまで世間としてだ。
ジャングルポケットは違う、自身よりも早く走るアグネスタキオンを
見てしまったからこそ、そんな彼女が二度とレースに参加しないからこそ、
最強にはなれないという楔が残ってしまう。

このあたりのシーンはとにかく暗く重い。
この作品の演出はやや過剰に感じる人も多いかもしれないと思うほど、
かなり重苦しい演出になっている。

アグネスタキオンが事実上の引退を宣言したあとの
ジャングルポケットとの会話のシーンでのライティングや、
表情の描写は本当に重苦しい。

ギャグシーンで作画を崩して大胆に描いたように、
シリアスシーンでは表情もかなり険しく描いており、
ギャグならばギャグをやりきり、シリアスならばとことんシリアスにする、
極端とも言える描写を取り込んでいる作品だ。

フジキセキ

ある種の燃え尽き症候群のようなものになっているジャングルポケット、
そんな彼女を再び最強への道へと奮い立たせるのがフジキセキだ。
彼女は怪我により、引退してしまっている。

そんな彼女があえてジャングルポケットを奮い立たせるために
「現役」のときの服を着て、早朝の土手で二人きりでレースをする。

ジャングルポケットにとっての原点だ、
彼女の走りを見たからこそ、
ジャングルポケットはトゥインクルレースに挑み、最強を目指した。

フジキセキも現役のときのように走れるわけではない。
だが、彼女もまたアグネスタキオン、ジャングルポケット、
ダンツフレームの姿を見て「走りたい」という
ウマ娘の本能を再び湧き上がらせている。

そんな姿にジャングルポケットは憧れを最強への思いを取り戻す。
王道ではあるものの、この先輩と後輩という立場のやりとりと描写が
たまらず、彼女らのトレーナーとのエピソードも
思わず目をうるませてしまうほどだ。

ウマ娘はトレーナーも描いてこそウマ娘だ。
そんな基本に立ち返ったかのようにウマ娘とトレーナーとの
関係性をきちんと描き、トレーナーのアドバイスや
ウマ娘同士が影響し合うことによってストーリーと
レースの結果が生まれる流れは原点回帰とも言える。

自分が

最後のレースはテイエムオペラオーも参加しているレースだ。
ナリタトップロードもそうだが、RTTTを見ている前提の
作品になっており、RTTTを見ていればナリタトップロードや
テイエムオペラオーが再び出るだけで思わず興奮してしまうはずだ。

覇道を貫かんとする圧倒的なテイエムオペラオー、
そんな最強に、最強になるために挑むジャングルポケット。
そのレースを「アグネスタキオン」は見つめている。

彼女が求めているのはあくまで最速だ。
それが自分でなくても良い、ウマ娘の可能性を見せてくれるなら
自分が実験材料でなくてもよかった。しかし、彼女もまたウマ娘だ。
自らの底しれぬ「知識欲」よりも「本能」が勝ってしまう。

ジャングルポケットに、ダンツに、マンハッタンカフェに、
同世代のウマ娘たちが自分よりも早く走る姿に
彼女の足は自然と動き出してしまう。
絞り出すように、湧き上がるように彼女の言葉が溢れてしまう。

「待ってくれ…」

彼女もまたウマ娘だ。
走りたい、誰よりも先に、誰の背中も見たくはない。
レースに参加していない彼女が思わず走り出す姿、
自らのウマ娘としての本能が爆発する姿に思わず涙腺が刺激されてしまう。

史実の競走馬は怪我をして引退して、そこから復帰することはない。
だが、ウマ娘の場合は違う、そこには「可能性」と「未来」と「希望」がある。
ラストはそんなウマ娘らしい未来とライブシーンで幕が閉じられており、
ウマ娘という作品らしいストーリーを見せてくれた作品だった。

総評:進撃の巨人だ!?グレンラガンだ!?いや、ウマ娘だ!

全体的に見てアニメーションのクォリティに度肝を抜かれる作品だ。
1期や2期の時点から作画のクォリティは高く、
CygamePictures制作のRTTTは演出面でのこだわりも強かったが、
この作品は作画のクォリティも演出面でのこだわりも、
すべて上を行っている。

レースシーンの没入感を増加させるカメラワークの数々、
レースシーンを盛り上げる演出の数々、
レースに挑むウマ娘たちの心理描写を描く作画の数々が
本当に素晴らしく、手に汗握り固唾をのむレースが
これでもか!と描かれている。

エンドロールでTRIGGERやWIT STUDIOの名前を
見つけたときは思わず納得してしまったほどだ。
進撃の巨人のようなカメラワークでグレンラガンのような
作画でウマ娘という作品を描いている。

ストーリー面も素晴らしい。
最強を目指すジャングルポケットと最速を求めるアグネスタキオン、
そんな二人のウマ娘の史実を絡めつつ、
ライバル関係を描きながら勝利と努力、挫折と復帰を描いている。

マンハッタンカフェなど一部、やや描写不足のキャラは居たものの、
それが余り気にならないほど、二人の主人公の描写が素晴らしく、
特にアグネスタキオンはジャングルポケットを食うレベルで
もう一人の主人公として物語を紡いでいる。

演じている上坂すみれさんの演技力もさすがであり、
序盤の狂気を感じるアグネスタキオンの演技から、
終盤のウマ娘の本能に動かされるアグネスタキオンの演技は
思わず魅せられ、感情を昂らせてくれた。

ウマ娘という作品が隙ならば間違いなく楽しめる、
そう断言してしまうほど素晴らしい作品だった。

個人的な感想:3期はなんだったんだ…

本当に3期はなんだったのだろうか…
1期、2期、RTTT、そして本作品と素晴らしい作品なだけに
3期だけが異質だ。

やはり史実を扱う上で「キタサンブラック」は
色々と扱いにくかったのかもしれない、
序盤はともかく中盤以降は勝ちの連続だ。

しかし、生涯無敗の「アグネスタキオン」という史実をもつ
競走馬をこの作品ではうまく扱っている。
同じようにライバル的な立ち位置として彼女を描けば
違ったのかもしれない。

ソシャゲの方はやや人気は落ちている部分はあるようだが、
以前、人気であり、今作の映画で再びまた火がつくかもしれない。
今後もウマ娘のアニメが生まれることを期待したい。

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  1. さいとう より:

    御指摘のとおり、3期の最大の失敗は、キタサンブラックを主人公に据えたことでしょう。
    健康で大きなレースに勝ちまくった馬でしたから、主人公よりもラスボスに向いた戦績だったと思います。
    ただ、サイゲの側にもキタサンブラックを主人公にしなければならなかった苦しい事情がありました。
    キタサンブラックの3期主人公が決まったのは、2期放送&アプリリリースよりもさらに前のことだと思われますが、アプリリリース前のウマ娘の状況は、業界最大手の社台グループの協力が得られず、馬名使用権の獲得に大苦戦していました。
    「ウマ娘に登場するのは昔の馬ばかり」と揶揄されていた当時、なんとか馬名使用許可がおりた新しめの大物が、キタサンブラックやサトノダイヤモンドでした。
    とくに、キタサンブラックは、オーナーが大御所演歌歌手の北島三郎さんということもあって、競馬ファンの枠を超えた抜群の知名度を誇っています。
    「なぜキタサンブラックを主人公にしたのか」という問の答えは、「そうせざるを得なかった事情があったから」ということに落ち着きそうです。
    ちなみに、現在では社台グループの許可を取り付けることに成功し、劇場版でもその成果(ジャングルポケット)が表れています。
    突破口を開いたのは、サイゲの親会社の社長である藤田晋氏によるサラブレッドの爆買いでした。