青春

「スーパーカブ」レビュー

3.0
青春
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評価 ★★★☆☆(57点) 全12話

あらすじ 両親も趣味も友達もない、何もない少女、小熊。小熊は高校に通うために自転車[注釈 1]を使っていたが、通学路が坂道であったことからある日原付が気になり、学校帰りに寄ったバイク屋で、運転免許も無いまま、いわく付きのスーパーカブ50を破格値で入手する引用- Wikipedia

二人乗りは問題じゃない

原作は小説な本作品。
監督は藤井俊郎、制作はスタジオKAI

色づく世界の明日から

1話冒頭、この作品は厳かだ。
ゆっくりと主人公が住む町並みを見せ、家を見せ、部屋を見せ、
アラームの音とおもに静かに主人公が目覚める。

家族の居ない、たった一人で暮らす彼女の姿はどこか寂しそうで
どこか冷たい。無機質という言葉が似合うほど、
一人で居ることに慣れていることを感じさせる生活ぶりと
「誰とも喋らない」暮らし。

主人公が画面に出て1分、2分、3分。
ようやく彼女は自分のことを語り始める。まるで静かに小説を読むように
淡々と自分自身を語る彼女は「なにもない女の子」だ。

独特の雰囲気、そんな雰囲気を作り上げるための背景の描写と音楽、
胡弓すら感じそうなほどの静かな場面の描写が
この作品の「空気感」を生んでおり、台詞が本当に少なく静かだからこそ
1つ1つの音が鮮明に聞こえてくる。

歩く音、チャックを閉める音、彼女がつくため息、小鳥のさえずり。
音の鮮明さが画面を見る以上の情報量を見る側に与えることで、
この作品の空気感に飲み込まれる。

そんな空気感の中に佇む淋しげな少女と1台のカブ。
彼女は別にバイク好きではない。
だが、通学のために破格の中古で手に入れた「カブ」にまたがった瞬間、
彼女の琴線に触れる。世界が変わる、変化のない日常に生まれた。
些細な変化ではあるが、「カブ」を手に入れたことで彼女の日常に
変化が生まれる

ちなみに彼女は免許すら無い(笑)
お金もない、免許もない、友達も、家族も居ない。
そんな彼女が「カブ」をきっかけにゆるやかに変わっていく。

一見するととんでもなく地味だ。
文章にしてしまえば一人暮らしの少女が免許をとって
中古のカブに乗っただけだ。
だが、そんなシンプルな内容をこの作品は「アニメ」として魅せている。

少し灰色がかった景色、そんな景色がエンジンとともに色づく。
派手な演出ではない、だが、そんな1つ1つの演出という名の仕掛けが
物語と作品を鮮やかなものに変えていく。

単純に原作をなぞってアニメ化するのではない、
「アニメの表現」をこの作品は追求している。
だからこそみていて面白い、話はシンプルだ、描きたいことも分る。
日常系と呼ばれる作品としてはベタとも言える始まりだ。
だが、そんなまっすぐな内容をこの作品は演出で色付かせ、
一人の少女の世界が広がっていくさまを描いている。

1話はたった一人の物語だ。

「昨日まで私には何もなかった、けど…今日からはカブがある」

たかが1万円の中古のカブ、しかし少女にとっては大海原へと出る船だ。
カブにガソリンを満たすように、自分の心を満たしていく。
不慣れなカブの説明書を読みながらカブを理解していくように、
彼女は自分を理解していく。

カブ=彼女という図式が
1話できっちりと描かれているからこそ伝わりやすい。

出会い

カブと出会い、カブに乗り、世界が広がった。
そんな彼女だからこそ「新しい出会い」もある。
すでに出会っていたクラスメイト、だが、決して仲が良かったわけじゃない。
クラスメイトでも他人だ。だが「共通」の何かがあれば話は違う。

人はソレをコミュニケーションツールとも言う。
なにもなかった主人公にとってはそれすらなかった、
だからこそ友達も居なかった。しかし、今は違う。
彼女には「カブ」がある。

バイクが純粋に好きなその子は、本当にバイクが好きな少女だ。
だからこそ主人公に興味を持ち、お互いのバイクを顔見せするように、
互いの心を突き合わせるように互いを知っていく。

演出面のうまさも流石だ。特に2話のタイトルを出す瞬間の演出は
完璧と言っていいタイミングでだされており、
自然と新キャラである「礼子」の名前と印象がつく。
彼女はさり気なく主人公に言う。

「どこにでも行けるわよ。だってカブだもん」

通学だけに使うのはもったいない、
深夜にコンビニに行くだけに使うのはもったいない。
いつでも、どこにでも、どこまででも行ける「カブ」が彼女にはある。
今まで行けなかった場所に彼女はいけるようになった。

それは彼女自身もだ。今までできなかったことが出来るようになる。
カブで遠出すればするほど、彼女はより自由になる。
今までは一人だった、でも、違う。礼子がいる。

カブを手に入れたことによる世界の広がりと変化が
序盤から丁寧に描かれており、それが染み渡る。
彼女が毎話、笑顔を浮かべるたびに主人公の楽しさ、嬉しさが伝わり、
こっちまで笑顔になってしまう。

3話までの緩やかな成長と変化が心地良い。

ゆるやかな日常

時にはバイトをし、時にはレインコートを買う。
そんなゆるやかな日常、そんな日常の中での小さな変化が
彼女の中で積み重なることで大きな変化へと繋がっていく。

最初はバイクのことなんて何も知らなかった少女が、
カブと出会い「オイル交換」までこなすようになる。
バイクの細かい描写はさすが「ホンダ」が協力しているだけあって
本当に細かく描かれており、細かく描かれているからこそ
「オイル交換作業」というシーンが楽しく見える。

色々なことが一人で出来るようになったからこそ、
もっと「遠く」にいきたいと思うようになる。
1話1話、背景から音楽、演出までこだわって描いてるからこそ
このゆるやかな日常の変化が鮮やかなものになっている。

日常の世界観の描写が丁寧だからこそ、そこに出てくる料理も
美味しそうに見えてしまう。
最初は無機質なレトルトご飯だったものが、チャーハン、お好み焼き、
駅弁と美味しそうなご飯の数々を美味しそうに食べる彼女たちが愛おしい。

ときには

主人公はなにもない女の子だった。両親が居なくても、
一人静かに真面目に、何も問題を起こさずに過ごしていた。
社会から見ればそれはいい子だ、健気でひとりたくましく活きている。
だが、カブのおかげで彼女は一歩前に進めた、世界が広がった。

殻を破ったといえるかもしれない。カブのおかげで破ることができた。
カブに出会う前の彼女なら一人で鎌倉までバイクで来ることなんて
想像もできなかったはずだ。そんなことをできてしまった自分、
今までの自分では考えられなかった自分を彼女は噛み締めている。

だからこそ、本当は悪いこともしてしまう。
青春だ、若いからこそのちょっとした「罪」。
それは小学生男子がピンポンダッシュをしたりするように、
いけないこととはわかっていても「二人乗り」してしまう。

一人で鎌倉まで来たのだ、色々な事に大胆になっている。
現実的に言えば道交法違反だ、だが、そんなことが気にならないくらい
二人乗りをしている二人が楽しそうだ。

突っ込みどころではある、だが、間違いなく自覚している。
やっちゃいけないことをやる事で二人の仲が深まる。
間違うことも青春だ。

中盤になるともうひとりキャラが増える。
些細なきっかけで仲良くなる。
二人と仲良くなったから、二人が好きなものに興味を持ち、
自転車だけでは追いつけない、
一緒に入れないからこそバイクに徐々に興味を持つ。

丁寧に新キャラを描きつつも「冬のバイク事情」を描いており、
1話とは違った服装とカブの姿と街の景色が
冬の匂いすら感じさせてくれる。
カブがあれば冬も楽しい。
寒いだけの、寂しいだけの季節ではない。

ただ序盤から中盤までで、ある程度主人公の物語は
描かれきった感じが強く、やや失速してしまった感じは否めない。
「やんちゃ」をするシーンも非常に多く、
中盤での二人乗りが尾を引いた部分もあるが妙に引っかかる点もある。

はしゃぎすぎる二人だったり、遭難したり。

遭難

この作品は中盤の6話でちょっとした問題になってしまった作品だ。
「二人乗り」が現実の方に突き合わせると違法であり、
ホンダや協力監修し、なおかつ山梨県警察ともコラボしている作品が
違法行為を描いても良いのかという点だ。

ただ、私個人としては6話の描写は前述の該当部分のレビュー通り
そこまで気になる描写ではなかった。
しかし、11話は流石に引っかかってしまった。

簡単に説明すると中盤からの新キャラが冬の川に落ちてしまい怪我をし
動けないという状況になってしまう。そんな新キャラからの電話を
主人公が受けて助けに行くという展開だ。

そもそも、電話が通じるなら主人公ではなく警察や救急車を呼ぶほうが
いいのだが、その電話を受けた主人公も警察や救急車にも知らせず
彼女を助けに向かってしまう。そこまでは百歩譲っていいが、
怪我をしている状態で主人公が手を貸しつつ軽い崖を登らせ、
「カブの前カゴ」に乗せて自分の家に運ぶ。

ちょっと色々とやりすぎだ。
もう少し怪我がひどければ状況はもっとひどくなっていたかもしれない。
二人乗りよりも確実に命の危険がありそうな行為をしてしまっている。
恐らくは背の小さい新キャラを「カブの前カゴ」に乗せるという
シーンをやりたかったのは分るのだが、あまりにも強引だ。

この事故をきっかけに3人がより仲良くなる。
その展開自体は決して悪くない、悪くないがそこに至らせるまでの過程が
相当に強引に思えてしまう。

二人乗りはまだ自然な流れの中での描写に見えたが、
11話のこの展開は強引すぎて法律以上に主人公の考えが
どうなっているのかがちょっと理解できない感じになってしまった。

せっかく感情移入してこの作品を見ていたのに、
そんな感情がさめてしまう感覚になる。6話の二人乗りと
原作だともう少し詳しい状況説明や流れの描写はあるようなのだが、
そのあたりはアニメではカットしているのも余計に違和感を生んだのだろう。

この作品はなるべくセリフを減らし、
アニメーションで表現しようとしているのは分る。
だが、削ってはいけない部分まで削ってしまったせいで
変なツッコミどころが生まれてしまっているのが残念だ。

それでもラストはキレイに話がまとまっている。
何もなかった少女がスーパーカブと出会ったことで変わった。
そんな物語が1クールできちんと描かれている作品だった。

総評:もう一歩

全体的に見て良い部分と悪い部分が目立つ作品だった。
序盤はこの作品がやろうとしている「セリフ」をあえて削り、
アニメーションでキャラの心情や作品の雰囲気作りをし、
魅せるアニメ作品になっていた。

ただ、そこを追求するあまり6話や11話などの
現実的な「ツッコミ」が入ってしまうようなやや強引な展開が
悪目立ちしてしまっている。あと1,2個台詞が原作のあれば
その展開にも納得できたかも知れないが
そこも削ってしまったために生まれた違和感が尾を引いてしまった。

それでも主人公がカブに出会ったことで置きた変化と
成長がゆるやかに季節が変わりながら美しく描かれており、
気になる部分、引っかかる部分はあれど作品自体の完成度は高く、
変に引き伸ばさず、2期があってもなくても良いラストで
綺麗に締めてくれている作品だ。

個人的な感想:6話まで

個人的には原作の1巻までの6話までのこの作品は非常に好きだったが、
2巻の内容に当たる7話からは違和感を感じることが多く、
序盤から中盤までの少し違う印象を受ける部分もあり、
1巻と2巻という原作の巻のちがいまで感じれてしまうほどだった。

最終話の3人のバイク旅の模様は序盤から中盤までの雰囲気を感じたが、
中盤くらいまでの面白さを超えないまま終わってしまった印象だ。
色々と突っ込みどころも有り、6話の二人乗りはニュースにまでなったが、
リアルな作品だからこそ現実的なツッコミが入った部分があり、
現実と創作、フィクションのラインは難しいところだ。

ただ、ソレを踏まえても11話の展開は流石に飲み込み難く、
色々と無理のある感じになってしまったのはやや残念ではあるものの、
この作品の雰囲気自体は好きなため、もし、2期をやるならば見てみたいと
思える作品だった。

「」は面白い?つまらない?

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  1. resin K. より:

    動画曰く,「6話までならば85点」.総合評定が57点ということは,終盤は30点前後だった訳ですね.
    7話以降の展開,文化祭・オートバイ乗りとカフェ・冬支度・雪遊び・遭難・春捉えといった流れで,
    遭難は不味く,雪遊びは二人乗りと同程度の悪ふざけ(私有地なので二人乗りと違って怪我をしなければ法的な問題はない)として,
    文化祭から冬支度までの違和感は何だったのでしょうかね?

  2. とわ より:

    スーパーカブ、リアルタイムで毎週追っていました。
    7話目以降大きくはないが少しずつ感じてくる違和感、そしてトドメの11話。それまでのスーパーカブの良さを全否定するような酷い11話でした。今まで真面目に見ていたのがバカらしくなるくらいに