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「メイドインアビス」レビュー

4.0
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評価 ★★★★☆(68点) 全13話

TVアニメ「メイドインアビス」PV第1弾

あらすじ 人類最後の秘境と呼ばれる、未だ底知れぬ巨大な縦穴「アビス」。その大穴の縁に作られた街には、アビスの探検を担う「探窟家」たちが暮らしていた。引用- Wikipedia

美しくも度し難い

原作は竹書房のウェブコミック配信サイトである
『WEBコミックガンマ』にて連載中の漫画作品。
監督は小島正幸、制作はキネマシトラス

キャラクターデザイン

見出して感じるのはびっくりするほど可愛いキャラクターデザインだ。
身長が低く、丸顔でコロコロっとしたデザインであり、
このまま平和なほっこり異世界日常系が始まってもおかしくないほど可愛く、
子供向けアニメと言われても違和感を感じないほどのデザインだ。

しかし、そんな可愛らしいキャラクターデザインのキャラの前に、
巨大なモンスターが唐突に現れる。
人間のキャラデザに対してモンスターのデザインは
Theファンタジー世界の異型そのものだ。

可愛いキャラデザとリアルなモンスターデザイン、
容赦なくかわいいキャラクターに襲いかかるモンスターと
必死に逃げるキャラクターの対比が素晴らしく、
1話の冒頭で一気にこの作品の世界観に惹き込まれる。

ジブリみ

非常に安易なたとえではあるのだが、この作品の世界観はまるでジブリのようだ。
「もののけ姫」と「千と千尋の神隠し」をあわせたような
重厚な背景描写と細かい部分までこだわって描かれるからこそ、
作品の世界観に惹き込まれキャラクターたちにもしっかりと感情移入できる。

見終わったあとに知ったが、この作品の美術スタッフは
元ジブリのアニメーターだ。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/増山修
ハウルの動く城、千と千尋の神隠し、あの世界観を作り上げた背景が
この作品に息吹いており、ジブリではないのにジブリらしさを感じさせるのはさすがとしかいいようがない。
宮崎駿のあの「世界観」が息吹いている。

調べれば調べるほどこの作品を作ってるスタッフは恐ろしい。
小島正幸監督はMASTERキートンやMONSTERなどを手がけており、
キャラクターデザインは黄瀬和哉、モンスターデザインは吉成鋼、
シリーズ構成は倉田英之と、名前を検索すれば有名な作品しか
出てこないようなメンツばかりだ。

この作品は間違いなく面白い、だからこそ、
この作品を確実に「面白い」ものに仕上げよう。
そんな制作陣のこの作品にかける思いを画面の節々から感じる。

1話で誰もが感じるはずだ。
「面白い作品」が始まったと。

世界観

この作品の世界観は面白い。
巨大な穴が空いた街、その穴はどこまでも地下深くに続いており、
その穴でしかとれない「遺物」を求めて採掘を行うものが居る。
主人公もまた採掘者の見習いの一人であり、
母親は深部で行方不明ではあるが偉大な採掘者の一人だ。

そんな彼女の前に謎のロボットが現れる。
人間にしか見えないが人間とは思えない「伸びる腕」や傷つかない肌をもつ
ロボットの少年と出会うことで彼女の冒険は動き出す。
非常に王道なボーイミーツガール、いやガールミーツロボットだ。

きっちりと考え込まれた世界観、描き込まれた背景、可愛いキャラクターデザイン、
そして王道を感じさせるストーリーの始まり方。
この作品の1話を見て面白いと感じない人のほうが少ないのでは?と
思ってしまうほど、物語の初め方が素晴らしい。

キャラを見せ、背景を見せ、そして世界観を見せる。

深淵

この作品のストーリーの進め方は丁寧だ。
1話で出会い、2話で自分の出生の秘密を知る。
主人公である「リコ」の母は彼女が身ごもった状態で
「アビス」と呼ばれる大穴に潜った。

アビスという深淵の中で生まれた少女が「リコ」だ。
生まれながらにアビスの「呪い」を受けた少女は、
アビスの中にいるはずの母に会いたいと願う。

文章にすれば単純なのだが、きちんと丁寧に見せることできっちりと分かりやすく、
最近の1クールアニメにありがちな怒涛の展開ではない序盤だからこそ、
メインキャラクターにしっかりと感情移入できる。

主人公とヒロインが冒険に出るのは3話だ。
普通ならば「遅い」と感じてもおかしくはない、だが、
この作品は遅いとは微塵も感じない。
きちんと1話からストーリーを積み重ね、
リコは母親に会うために、レグは自分が何者であるかを知るために
危険な奈落の底へと挑む。

それは決して帰れない、帰ることのできない冒険の始まりだ。
序盤はわりと「ほっこり」な印象を受ける作品だ。
しかし、この作品は話が進めば進むほど、穴の底へと進めば進むほど
辛辣な世界が待っており、シリアスになっていく。

洗礼

彼女たちが潜る穴は単純に凶悪なモンスターが住んでいるだけではない、
穴を潜れば潜るほど「上昇」するときに負荷がかかる、
アビスの「呪い」が存在する。
浅い階層ではめまいと吐き気くらいだが、
12kmも下に進めば登るときに「穴という穴からの流血」し、
15km潜れば登る際に「確実な死」がまっている。

それゆえにアビスを深く潜る行為は自殺行為だ。
可愛らしいデザインのキャラクターのそんな姿が
平気で描かれるような設定がこの作品には潜んでおり、
序盤ではその要素が潜んでいるが話が進むほど、その設定が顔を出す。

序盤ではめまい、中盤からは嘔吐、流血描写、終盤では人体の切断まである。
はっきりいって「グロい」作品だ。
深淵に進めば進むほど、彼女たちにそんな洗礼ともいわんばかりの
現実が襲いかかってくる。

彼女たちは子供だ。とくに「リコ」は闘うすべすら無い。
アビスという現実に彼女達は自分自身の無力さをときに噛み締めつつ、
ときには代償を払い、それでも、深く、また深く潜っていく。
幼い心と幼い体を持つ2人、
だが、2人は強い心と強い体を持っている。

大人

この世界の大人たちは「アビス」から持ち帰った恩恵と、
「アビス」での現実を知っている。
だからこそアビスの中に居る、どこか狂い、
どこかおかしな大人しかいない。
大人たちは時に優しく、厳しく「リコ」と「レグ」に接する。

それはアビスに入ったからこその態度だ。
現実を子どもたちに叩きつけなければ彼女達はあっさりと死んでしまう。
「死を拒絶」する術と心も持たずにアビスへと入った彼女達だからこそ、
大人は現実を叩きつける。

「オーゼン」という探窟家はリコの母と共にアビスと潜った。
そんな彼女だからこそ、かつての弟子の娘であるリコに
「現実」を隠すこと無く教える。それはかつて母が残した言葉でもある。
アビスの中で「死んで生き返った」存在であるリコ、
それを知ってもなお、彼女は深淵へと足をすすめる。

母の物は深淵から帰ってきた。だが、母の死体はそこにはない。
深淵の底にかならず「母」が待っている、
そんな「希望」があるからこそ、彼女はより深く足を沈めていく。

容赦がない

彼女たちの目的は母親に会うためと自分が何者なのかを知るためだ。
世界名作劇場アニメのような目的でありながら、
あまりにも辛辣すぎる展開の数々はキャラクターに容赦がない。
はっきりいって好みの分かれる部分だろう。

原作者は間違いなく「ドS」だろうと感じてしまうほど、
自分の生み出したキャラクターをどんどんと過酷に、過剰に追い詰めていく。
特に終盤の辛辣すぎる展開は目を背けたくなってしまう。
容赦なくリコの体に襲いかかる「毒」と絶え間ない出血、
1話で浮かべた彼女の素直な笑顔は見る影もない。

気合の入った作画と気合の入った演技が相まって
単純な描写のグロテスクさというよりも
キャラクターを精神的に追い詰める「エグさ」を感じさせる。
「リコ」が苦しむさまを徹底的にえがき、そんな苦しみを
何もできずに「レグ」は見つめるしか無い。

「切り落として」

毒を受けた左手を切り落とすことを「生きのこる」ために懇願する少女、
たった12歳の少女が受けた洗礼と決意。
恐怖と痛みと苦しみが容赦なく少女に襲いかかる。

あの時ああしていれば。「レグ」は後悔する。
だが、後悔に意味はない。起こってしまった現実を受け止め、
助けるために、前に進むために、少女の細い腕を折り、左手を切り落とす。
ご都合主義などそこにはない、あまりにも辛い現実が容赦なく襲いかかる。

ナナチ

リコとレグは絶望の中で希望とも言える存在に出会う。
それが「ナナチ」だ。
彼女は獣のような姿をしており、リコやレグの知らないことを知っている。
それは辛い現実を経験した過去を持っていることと同義だ。

かつてはただの子供だった。貧しい中で彼女はある探窟家に魅入られ、
「アビス」に希望を見出した。
しかし、そこに必ずしも希望があるとは限らない。
ただ利用されるだけの存在だ。

そんな絶望の中で「ナナチ」は「友達」と人間としての姿を犠牲にし、
生き残っただけだ。
残ったのは獣になった自らの姿と人格も知性も人としての姿を失った
友の「成れ果て」だ。彼女は救いを求めていた。

そんな中で現れた「リコ」と「レグ」。
ナナチはリコの「命」を救い、レグはナナチの友の「魂」を救い、
リコはナナチの「心」を救った。

絶望ばかりのアビス、深淵に至ることを拒否するようなアビスの中で、
彼女達は絶望の中にあるわずかな希望と「生」にしがみついている。
「アビス」にみいられてしまった者たちはどこか狂っている、
こんなにも厳しい現実が待ち構えているのに、
彼女達は「憧れ」を止められない。

総評:新たなる世界名作劇場

全体的に見て強烈に好みの分かれる作品だ。
序盤のジブリのようなほっこりな世界観とキャラクターからの、
中盤以降のエグくグロい展開と描写の数々は「面白い!」と感じる人と
「見たくない」と感じる人に分かれてしまう。

簡単に言えば「熱心なファン」と「強烈なアンチ」を生み出す作品だ。
なまじ、序盤の描写が非常に丁寧なだけにキャラに感情移入しやすく、
中盤以降の辛辣な展開の数々とのギャップで作品にハマるか、
逆にその展開を受け入れられず拒否感を生むか。
それは好みでしか無い。

残念なことに1期は1クールで終わってしまうため、
ストーリー的にもかなり中途半端な所で終わっており、
いろいろな謎や伏線など明らかにされていない部分があまりにも多く、
丁寧に描写しているだけにストーリー進行が遅いのは欠点ともいえる。

きちんと作り込まれた世界観と設定だからこそキャラクター描写が光り、
ストーリーも面白い。その部分の評価は変わらない。
「子供」が主人公だからこそ、その世界観の中で必死に生き抜こうとする様と、
度し難いほどの現実を大胆に描写する事でこの作品の魅力を強烈に生み出しているが、
その魅力は強烈すぎるゆえにおぞましいと感じる人もいるだろう。
突き詰めていけば個人個人のモラルや倫理観の問題まで発展していきそうだ。

名作だからこその「賛否両論」だ。
リコが、レグが、ナナチが、探窟家たちが命の危険を晒してでも
「アビス」に潜るほどに魅入られてしまっているように、
この作品を見ている側も、目を背けたくなるシーンを見せられながらも
この作品に魅入られてしまう。

個人的な感想:強烈に好みが分かれる

個人的には好きな作品だ。
ちょっとうるさい人に目をつけられてしまえば確実に問題作として
取り扱われるであろう内容と描写であり、
私個人としては娯楽は好みが分かれるほど独創性があり面白いと感じ、
問題作として扱われるほどエンターテイメントとしては優秀だと思うのだが、
この作品を毛嫌いしてしまう人の気持ちも理解できる。

2期も決定しているが、1期の序盤のようなほっこり描写はもうないだろう。
できればストーリーの最後まで「アニメ」という媒体で描いてほしい所だ。

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出演声優 富田美憂, 伊瀬茉莉也, 井澤詩織

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  1. ミュラー より:

    キャラデザインで敬遠していましたが、大変な名作だと思います。