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「少女終末旅行」レビュー

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評価 ★★★★★(84点) 全12話
少女終末旅行

あらすじ 文明が崩壊した終末世界を2人だけで生きるチトとユーリは、半装軌車のケッテンクラートで廃墟をさまよい、食料を求めてひたすら移動を続けながら、旅の道中でさまざまな文明の痕跡に出会う。引用- Wikipedia

これは新しい形のセカイ系、抗うこと無く受け入れる

原作はウェブ漫画サイト「くらげパンチ」で連載していた漫画作品。
監督は尾崎隆晴、制作はWHITE FOX
なお、監督はこの作品がTVアニメでは初監督。
これまではどちらかというと「撮影監督」をされていた方だ。

見出して感じるのは完成された空気感だろう。
ひび割れた地面、落ちている細かいネジ、何を作っていたのかすらわからない工場、
そんな中を重厚なエンジンの音とキャタピラの音を響かせながら突き進む。
この作品の冒頭はそんな誰一人セリフを発さずに始まる。
流れる曲の物悲しさと「灰色」な世界観はこの作品ならではの空気感を感じさせる

そんなシリアスなSFストーリーが始まってもおかしくない空気感で
キャラが発するセリフについつい笑ってしまう。

「暗い」
「うるせぇ」

二人の主人公が最初に喋るセリフはコレである(笑)
せっかく作り上げた空気感からは考えられないほど軽く、
夫婦漫才のようなボケとツッコミが唐突に放たれることで、
見る側の緊張感が一気に緩み、ギャグになり、笑ってしまう。

この世界にはほとんど人間はいない。
作中に出てくる人間と言えるキャラクターはわずか5人だ。
一人は回想でしか出てこない。
もしかしたら彼女たちが出会わなかっただけで
この世界のどこかにもっといるのかもしれない。だが、出会うことはない。

壊れて動かなくなった武器や兵器、自立して動いている機械。
木々も枯れており、動物はおろか虫も居ない。
食料とよべる物も旅していく中で探し出すしか無い。

タイトル通り、この作品の世界は「終末」を迎えている。
そしてタイトル通り彼女たちはそんな中を旅する。
彼女たちの過去にはなにかがあり、世界にもなにかがあった。
でもそれが明確に語られることはない。

敢えて語っていない。それがこの作品の良さだ。
彼女たちが世界を救うことはできず、そんな力もない。だから語らない。
見ている側に「察する」「考えさせる」世界観ではあるが、
深く考察するほど情報がでてくるわけでもない。
登場人物たちも「僕は思う」「らしい」と推測の域でしか無い情報しか出さない。

これは新しい形の「セカイ系」だ。
90年代のセカイ系はエヴァを代表として、少ないキャラクターで、
本来は非力な存在であるはずの少年と少女が何らかの力を持って
世界を救うために敵と戦ったり何かしたりする作品の傾向を示すものだった。

しかし、この作品における「セカイ系」は
少ないキャラクターである点と世界の危機という部分に代わりはないものの、
その危機に立ち向かうことも、立ち向かう力もない。
衰退し終末へと向かっていく「セカイ」を抗うこと無くキャラが受け入れてる、
新しい形の「セカイ系」とも言える世界観と設定は興味深いものがある。

キャラクターたちのセリフも達観している部分がある。

「実は私たちは死んでいて死後の世界に居るみたいな」
「生きるってなんだろうね」
「生命って終わりがあることなんじゃないかな」

こんな死生観のような哲学的な会話が彼女たちの日常の中で繰り返される。
彼女たちは自分たちが終末へと近づいていってるのを自覚し受け入れている、
だからこそ自分たちの姿を「写真」に定期的に残したりする。

そこに意味があるかどうかは彼女たち自身もわからない。
希望がないからこそ絶望もない。
淡々としたストーリーではあるものの、その淡々とした日常の中での
些細な幸せや出会いがきっちりと物語を盛り上げており、
最初から最後までこの作品のどこか物悲しい空気と
キャラクターの魅力を味あわせてくれた作品だ。

総評

全体的に見て素晴らしい作品だ。
完成された世界観と、その世界観から醸し出される空気をきっちりと描写しており、
派手なアクションはなく戦闘シーンのようなものもほとんどないが、
「アニメーション」としての面白さをしっかりと感じさせる描写になっており、
その中で描かれる「終末旅行」を楽しむことができる。

この作品はいわゆるセカイ系でディストピアな作品だ。
世界はゆっくりと破滅に向かっているが、
登場人物たちにそれを止めるすべもなく、他の誰も止めることは出来ない。
それをこの作品のキャラクターは分かっており受け入れている。

だからこそ無駄にシリアスにならない。
希望の一切ない世界観の中で「幸せ」や「生きる意味」を模索し、
旅の中で些細な喜びを味わう。
「温かい」「美味しい」「楽しい」、そんなシンプルなキャラの喜びが
見ている側にもしっかり伝わり、笑顔になってしまう。

強烈に盛り上がる展開と言うのはない。
世界の秘密が明らかになったり、誰かが死んだり、世界を救うことが出来たり。
そんな展開はこの作品にはない。盛り上がりという意味では薄いのだが、
目的のない淡々とした旅と終末な世界の日常の空気が作品の面白さになっている。
1話の空気感にハマれば最終話までしっかりと楽しめる作品だ

個人的な感想

個人的には思った以上に面白かった作品だった。
1話のあの二人のセリフで笑ってしまい、
「イシイ」の初飛行に何故か感動してしまったり、
最終話の世界を「終わらせる存在」との出会いだったり、
印象残るシーンが多かった。

原作は終わってしまい、私も最終話だけちらっと見た。
この作品らしい最終話であったが、
アニメの最終話はまだ「少しの希望」がある終わり方をしている。
おそらく2期はないだろう、アニメの最終話の余韻が素晴らしかっただけに、
2期はやってほしくないという希望でもある。

試しに1話だけでも見てほしい。
この作品の空気感が肌に馴染めば最終話まで一気に見てしまう面白さのある作品だ。

余談だが「三石琴乃」さんと「石田彰」さんが出てたのは、
やはり「セカイ系」ということを意識しての採用だったのだろうか?(笑)

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