実写映画

アニメではできない名作「爆弾」実写映画レビュー

爆弾 実写映画
画像引用元:(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会
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評価 ★★★★★(80点) 全137分

令和最大の衝撃解禁! 映画『爆弾』予告 2025年10月31日(金)公開

あらすじ 酔った勢いで自販機と店員に暴行を働き、警察に連行された正体不明の中年男。自らを「スズキタゴサク」と名乗る彼は、霊感が働くとうそぶいて都内に仕掛けられた爆弾の存在を予告する 引用- Wikipedia

アニメではできない名作

原作は小説な本作品。
監督は永井聡、制作はAOI Pro.

密室劇

本作品の最大の特徴は基本的にメイン、
主人公となるキャラクターたちが取調室という密室からでないことだ。
今作の犯人であり主人公とも言える「スズキタゴサク」は
映画冒頭の時点で警察に逮捕され取調を受けており、
彼がここから何処かに移動することはない。

そんな「スズキタゴサク」は、当初、
酔っ払って自販機を蹴り飛ばして酒屋店主を殴ったことで逮捕されている。
そんな男が取調の中で唐突に霊感が働くと言い出し、
爆破事件を予告し、それが的中すると言うとことから物語が動き出す。

映画のタイトルである爆弾を印象付ける冒頭のシーンの演出、
タイトルロゴが出る演出は非常に素晴らしい映像であり、
この作品のタイトルと「爆弾」の印象を根強いものにしている。

取調

基本的にこの作品は会話劇だ。
「スズキタゴサク」という犯人に対し、警察が取り調べを行い、
それをもとに爆弾を捜索する警察たちという構図で描かれる。
取調室と事件の捜査、この2つの場面が交互に描かれるものの、
基本は取調室の中での会話劇がメインだ。

この「会話劇」こそがこの作品の真骨頂ともいえる。
「スズキタゴサク」という男は掴みどころがない男だ、
飄々とした態度で警察をおちょくりようなことばかり言い放ち、
あくまでも爆弾が爆発する場所は「霊感」で言い当ててるに過ぎない。

だが本当に霊感があるわけではない。
警察に会話のなかで「ヒント」をあたえ、そのヒントをもとに
警察が爆弾にたどり着けるかを試している。
底がしれない雰囲気を持つスズキタゴサク、
この名前すら本名なのか偽名なのかすらわからない。
警察はそんな基本的なことですら最後の最後までわからない。

いわゆる「ホームレス」なスズキタゴサク、
彼がなぜ爆弾を仕掛けたのか、なぜ警察をおちょくるような真似をするのか。
底がしれない犯人だからこそ、見れば見るほど
このスズキタゴサクという男に取り憑かれていく。

演技

この作品は「佐藤二朗」さんの演技力こそ全てだと言っても過言ではない。
どこかおちゃらけていて、ふざけた役を演ずることの多い彼だが、
本作では立派な犯罪者だ。

ただ凶悪な目的を持って私念で事件を起こしているわけではない。
この底のしれない感じの怖さと、どこか憎めないユニークさ、
ときに「素」をみせ、ときに「狂気」をみせ、ときに「道化」となる。
シーンによってコロコロと変わる表情、怒涛のセリフの応酬が
強烈な刺激を生んでいる。

「爆弾」の「爆破」という派手な要素はあるものの、
この作品のメインはそこではない、あくまでも密室における会話劇と
濃厚な頭脳戦に浸ることの出来る2時間だ。
絵変わりがあまりしない2時間を役者の演技力で持たせる、とんでもない作品だ。

カメラ

その演技力に頼り切るのではなく、カメラワークも面白い。
役者のアップだけでなく、シーンによって様々な角度で映し出すことで、
それが登場人物たちの心情を写しており、
画面を飽きさせないものにしている。

相当なこだわりがなければ、ここまでカメラを動かすことはないだろう。
会話劇なのに「映画」としてスクリーンで見たくなる映像の面白さがあり、
取調室の会話の中での試行錯誤なカメラワークがあったかとおもえば、
爆弾の爆発シーンではその鬱屈さを発散させるように
大胆に爆破を魅せている。

飽きさせない試みというのを随所で感じさせる作品だ。

心のかたち

スズキタゴサクという犯人に警察は翻弄される。
いったいいくつの爆弾があるのか、いつ爆破するのか。
それすらわからないのにスズキタゴサクはのらりくらりと会話を続け、
爆破ぎりぎりにならないとヒントすら出してくれない。

当然、警察はあせる。焦っているのに彼は意味があるのか無いのか
わからない会話をひたすらに繰り返している。
特に面白いのは「心のかたち」が分かるという
九つの尻尾というクイズを出してくる。

このクイズの中でもスズキタゴサクはヒントを出してくる。
そんなヒントの中で警察は爆弾を見つけることに成功する。
だが、もう1つの爆弾を見逃してしまう。

ヒントはあったのに、警察は「子供が危険」ということであせり、
ヒントを見過ごし「ホームレス」が被害にあってしまう。
そんな爆破のあとにスズキタゴサクは警察に投げかける

「でも、爆発したのが保育園じゃなくて、良かったって思ってるでしょ?」

命は平等ですか?とスズキタゴサクは投げかけてくる。
取り調べをしていた警察は怒り心頭と鳴り、
スズキタゴサクの人差し指を思わず折ってしまう。

そんな折れて曲がった指をスズキタゴサクは見せつけてくる

「これがあなたの、心のカタチです」

あまりにも続々とする会話劇と魅せ方、
そして役者の演技力に飲み込まれながら、
「スズキタゴサク」という存在そのものに見る側も囚われていく。

無敵の人

スズキタゴサクというのは、いわゆる「無敵の人」だ。
一時期、社会への不満などから明確な理由もなく、
無差別に人を気続ける事件が多発したことがある。
その多くが職がなかったり、借金があったり、家族がいなかったりと
「失うものがない」人たちだ。

「失うもの」がある多くの人にとって、失うものがない無敵の人の
突発的な狂気の行動は脅威でしか無い。スズキタゴサクもそんな一人だ。
ホームレスで家もなく、職もなく、おそらく家族などもいないのだろう。
そんな彼が社会に牙を向く。

彼の動画がネットに公開され、犯行動機も明らかになるが、
それは漠然とした社会に対する不満の羅列だ。
政治家、老人、妊婦、3人家族etc….
漠然とした理由で彼は無差別な爆弾テロを社会に投げかけている。

紙一重

スズキタゴサクはホームレスではあるものの、「異常者」ではない。
彼には彼なりの理由があり今回の事件を起こしている。
彼は社会に不満を持っている、その不満の原因は描かれることはない。
だが、天才的とも言える頭脳を持ち、それを持ってしてでも
ホームレスになった過去があることは想像できる。

一方でスズキタゴサクに相対する存在として「類家」という刑事がでてくる。
彼もまた天才的な頭脳をもち、スズキタゴサクとの頭脳戦を
繰り広げながらも一歩及ばない。

スズキタゴサクが今回の事件を起こしたのは「きっかけ」があったからだ。
その「きっかけ」さえなければ、都内を大混乱に貶め、
何人もの犠牲者を出した今回の事件は起こることさえなかっただろう。
抱えていた社会への不満、ちょっとしたきっかけが
彼を「犯罪者」にしてしまった。

人は誰もが犯罪者になりうる。
それはスズキタゴサクに相対する「類家」もまた同様だ。
それをスズキタゴサク自身がよくわかっている。

人生において
何かが違えば類家の椅子にはスズキタゴサクが座り、
何かが違えばスズキタゴサクの椅子には類家が座っていたかもしれない。

多くの人は社会になにか不満があっても、爆弾を仕掛けたりはしない。
だが、その何かはいつ訪れるかわからない。
いつ誰がスズキタゴサクになるのか、その誰かは見ている側かもしれない。

総評:アニメではできない名作

普段アニメレビューをしているからこそ感じるのだが、
この作品は「アニメ」ではできない、実写だからこその強みが生きている。
アニメにおける会話劇はTVアニメでも難しいところがある、
それを爆破シーンがあるとはいえ映画でやってしまうのは
アニメでは不可能に近い。

しかし、実写だからこそできる。
実写という存在する人間の「リアル」が会話劇を盛り上げ、
実在する人間が演ずるからこそ「スズキタゴサク」という、
誰しもがそうなってしまうかもしれない「社会に潜む爆弾」という
存在に生々しさが生まれる。

佐藤二朗さんの演技も素晴らしい。
どこかコミカルではあるものの、そのコミカルさが
底知れなさを演出し、決してイケメンでもイケオジでもない
彼だからこその「存在感」、彼以外にスズキタゴサクを
演じることは不可能だといってしまえるほどの圧倒的な演技力を見せられる。

他の登場人物たちの活躍や印象ももちろん残るのだが、
映画を見た後に感じるのは佐藤二郎の凄さと、
スズキタゴサクの存在感だった。

個人的な感想:邦画

去年大ヒットしたのもわかる作品だった。
個人的に実写の邦画はよっぽどでなければ
見に行こうと思えず、この作品も話題になっていたのは知っていたが
映画館に行くという気持ちにはなれなかった。

ただ、配信で見てしまって少し後悔している。
この圧倒的な会話劇を劇場のスクリーンで味わっていたら
どうなっていたのか…
そこだけが惜しまれる作品だ。

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