青春

「フラグタイム」レビュー

青春

評価 ★★★★★(82点) 全60分

あらすじ 森谷美鈴は時間を止める能力を持ち、その間に変態行為を楽しむ少女であった。引用- Wikipedia

美少女のスカートの中をのぞいたら哲学が始まった

原作は漫画な本作品
監督は佐藤卓哉、制作はティアスタジオ

森谷 美鈴


引用元:©2019 さと(秋田書店)/「フラグタイム」製作委員会

彼女はこの作品の主人公だ。
控えめでおとなしい性格で他人とのコミュニケーションが苦手な地味な女の子。
しかし、そんな地味な彼女には「時間を止める」能力を持つ。
その能力はわずか3分しか持たず、彼女はその能力を
「逃げる」ために使っている。

クラスメイトが話しかけてきただけだ、だが、そんな些細なコミュニケーションすら
彼女は苦手であり、だからこそ時間を止めてその場から逃げ出す。
彼女にとって時間停止の能力は逃げるための手段でしか無く、
それ以上でもそれ以下でもなかった。

だからこそ時間を止める描写も「当たり前」のような描写だ。
普通、時間停止という壮大な能力の場合はSFなら何らかの装置やアイテムを
用いて行ったり、バトルアクションなら「技名」を叫んで時が止まる。
だが、この作品の時間停止能力は当たり前の日常の中で起こる出来事だ。

静かに、まるで砂時計をひっくり返すように止まる。
クラスメイトの動きが止まり、舞い散る木の葉の動きが止まる。
大げさな演出は一切ない、時間停止という能力の描写を
ここまで「さらっ」と描くのはこの作品くらいかもしれない。

彼女は他者と深く関わるのを時間停止の能力を使って避けてきた。
不器用な生き方をしている女の子だ。

村上 遥


引用元:©2019 さと(秋田書店)/「フラグタイム」製作委員会

彼女はこの作品のヒロインだ。
クラスの中心にいつもいる、先生にも頼られ、クラスメイトからも頼られ、
見た目は完璧な美人で性格も良い。
クラスメイトに宿題を見せて勉強を教えて優しく話しかけてくれる。

だが裏を返せば八方美人だ。
彼女と話すときには仲良さそうにしているクラスメイトも、
彼女が居ないところではあらぬ噂をしたり、悪口を言ったりしている。

どこか「達観」している彼女ではあるものの、
器用な生き方をしている女の子だ。
森谷さんとは真逆の存在と言っても良い。

そんな二人が関わることから物語が始まる。

時間停止


引用元:©2019 さと(秋田書店)/「フラグタイム」製作委員会

それは些細ないたずらだ。時間停止という能力を持った女の子が
きれいな女の子が[「どんな下着」を履いてるのか気になっただけだ。
時間停止の中で彼女は座って本を読む彼女のスカートを捲り、下着を見る。

だが時間が停止ししている「森谷」さんだけの世界のはずが、
なぜかスカートをめくられた「村上」さんは動くことができた。
きっかけはスカートめくりからだ(笑)
とんだガール・ミーツ・ガールだ。

それまで関わりなど一切なかった二人が「時間停止」という秘密を共有し、
「時間が停止した二人だけの世界」を楽しむ。
それは危険な遊びだ、授業中に時間を止めて制服を脱いだり、
「村上」さんの元カレにちょっとした復讐をしたり、
保健室で先生の目の前で時間を止めてキスをしたり。

「森谷」さんのスカートめくりなど可愛く見えるほど、
3分という二人だけの世界を「村上」さんは楽しむ。
だが、どこかで彼女はその行為をバレたがっている。
真面目であるがゆえに彼女は罪を犯したがっている。

そんな時間停止の世界の中で二人の関係は深くなっていく。
他者と関わることを避けてきた「森谷」さんは時間停止しても
「村上」さんからは逃げられない。
「村上」さんは真面目に生きてきた中で時間停止という世界で罪を犯す。

二人が二人の秘密を共有し、関係性が深まっていく

百合


引用元:©2019 さと(秋田書店)/「フラグタイム」製作委員会

この作品は紛れもなく百合だ。「森谷」さんは話が進むと嫉妬を覚えるようになる。
自分以外の子と話す村上さん、彼女を独り占めしたい、彼女を自分のものにしたい。
時間を止めても3分だけしか彼女を独り占めできない。
時間が永遠に止まればいいのにとさえ彼女は思う。

嫉妬から無意識に時間を止めてしまうこともある。
その嫉妬心さえ「村上」さんにはお見通しだ。
「森谷」さんが自分にどんな感情をいだき、自分にどんな欲望を抱いているのか。
器用に生きてきた彼女だからこそ「森谷」さんのしたいことが
手にとるように分かる。

まるで小悪魔のような手付きで「森谷」さんに触れ、彼女を見透かす。
「森谷」さんはそんな彼女に嫌われたくない、自分の気持ちをぶつければ
嫌われてしまうんじゃないかと不安になってしまう。
今まで不器用に生きてきたからこその不器用なコミュニケーションだ。

そんな彼女に対し村上さんは「本当の気持ちを伝えてほしい」と彼女に言い放つ。
今までそんな事をしたことがない「森谷」さんだが、
彼女への想いが、彼女を独り占めしたいという「恋心」が彼女を変化させる。

自分から彼女の頬にキスするシーンは思わず声を上げてしまいそうになるほどだ。
不器用で他者を関わることのなかった女の子が他者と関わり恋を知り、
自らの欲望を相手にぶつける。

ここから二人の「付き合い」は始まる。

小林 由香利


引用元:©2019 さと(秋田書店)/「フラグタイム」製作委員会

彼女は二人の同級生だ、物語の冒頭から「森谷」さんに頻繁に話しかけるものの、
いつも「森谷」さんは時間を止めてどっかに消えてしまっていた。
だが、「森谷」さんは変わった。
時間を停めて逃げずに他者と関わり、「村上」さんと付き合うことで
彼女は他者とのコミュニケーションとのやり方に変化が現れた。

「村上」さんの周りにいるクラスメイトと一緒に御飯を食べてみたりするものの、
トイレで彼女たちが村上さんの悪口を言ってることを知ってしまったり、
頻繁に話しかけてくる小林さんとその友達と一緒に御飯を食べて、
ナチュラルに間接キスしてくるような距離感に戸惑いを覚えるものの、
逃げずにそれを受け入れ始めている。

特に小林さんはいい子だ。コミュニケーションを拒んでいた「森谷」さんにも
ややしつこいくらいに話しかけ、些細なキッカケで仲良くなっていく。
「村上」さんとは違う、友達と言える存在なのかもしれない。

だからこそ彼女は初めて自分や、村上さん以外のために友達のために能力を使う。
しかし、それを「村上」さんはしってしまう。
自分以外の子と二人きりで仲良く話、自分以外の子のために力を使う彼女の姿に
嫉妬を覚える。

見せ合い


引用元:©2019 さと(秋田書店)/「フラグタイム」製作委員会

そんな嫉妬を覚える「村上」さんのために時間を停止した世界の中で
自分の下着を彼女に見せつける。
それはかつて「村上」さんが履いていたのと同じ下着だ。
やや変態的とも言えるその行為に対し、
「村上」さんも自らの下着を見せつける。お揃いだ(笑)

しかし、時間が動いた世界で村上さんは廊下で下着を女の子に
見せつけるところを他人に見られてしまう。
それがきっかけで学校中に彼女の嘘か本当かわからないような噂が流れ始める。
悪口に近いその噂や、嫌がらせ、いじめに近い行為も始まる。
器用に生きてきたはずの彼女の立場がほんの些細なことをキッカケに瓦解し始める

おうち


引用元:©2019 さと(秋田書店)/「フラグタイム」製作委員会

中盤以降、「森谷」さんの力は弱まり始める。
不安定になり時間制限もあやふやになり、もしかしたら自分の力が
消えてしまうのではないかという不安さえも感じるようになる。
だが、いや、だからこそ彼女は時間が止まってない世界で「村上」さんと
きちんと話がしたいと思うようになる。

3分という時間が止まった時間ではなく、時間が動いてる世界で
ゆっくりと彼女と話したい、彼女と向き合いたい、彼女を知りたい。
自分の欲望を素直に「村上」さんにぶつける姿は健気であり恋する少女だ。

だが、「村上」さんの本当の姿は恐ろしさすら感じる。
彼女は他者の欲望を叶えることで自らの社会での立ち位置を確立してきた、
いい子であろうとし、いい子だからこそ社会に自分が存在できるのだと。
他者の欲望を叶えるのは良いことだと、いい子に慣れると。

それは「森谷」さんに対してもそうだったのかと「森谷」さんは不安になる。
自分が付き合いたいと思っていたから、「村上」さんを
好きだとわかっていたからこそ「村上」さんは付き合ってくれたのではないかと。

彼女は単語帳を複数ベッドの下に隠している。
1枚1枚、表には学校の生徒や先生の名前が書いてあり、裏には
表の名前の人物がどんな人物で何が好きかなど事細かく書いてある。
いい子であるための、単語帳だ。

当然そこには「森谷」さんのメモもある。そして「村上」さんのもある。
だが「村上」さんの裏には何も書かれていない。
彼女は誰からもスカれようと生きている内に自分を見失ってしまった。
自分が何をしたいのかわからなくなってしまった。

もはやパンツを覗いたことがキッカケに始まったストーリーとは思えないほどだ。
結末はどうなるのか、バッドエンドすら予想できてしまう。
下手したら永遠に時間を停止した世界で二人だけの世界で終わるような
エンドすら予想できる、だが、永遠など存在しない。

人はひとりでは生きていけない


引用元:©2019 さと(秋田書店)/「フラグタイム」製作委員会

「森谷」さんの生き方は人を拒んで一人で生きようとしてきた生き方だった、
「村上」さんの生き方は人を全て受け入れたが、そこに自分が居ない生き方だった。
器用に見えた村上さんの生き方のほうがむしろ森谷さんより不器用だ。
他人を理解し切ることはできない。どんなに相手の欲望を叶えても
陰口を言うクラスメイトは存在する。

「森谷」さんも「村上」さんも根本の部分は同じだった。
誰かに自分を知ってほしい、自分を理解してほしい、自分を好きになってほしい。
この二人だけではない、誰しもが感じることだ。
二人はそれぞれ違う処世術で生きてきたが、根本では
本当の自分をしてほしい、見つけてほしい、理解してほしいという欲望がある。

もはや哲学だ。どんな処世術を用いてもどんなコミュニケーションをとっても
完全には人と人は理解し切ることはできないし、
自分ですら自分をよくわかっていない。だが、それでも人は人と関わろうとする。
しょせん、人は一人では生きていけないのだと。

時間停止という世界の中で二人の少女の処世術と百合な模様を描きつつ、
この作品はとんでもない哲学を描いている。

ハッピーエンド


引用元:©2019 さと(秋田書店)/「フラグタイム」製作委員会

ラストの10分くらいまでこの作品は
「もしかしたらバッドエンドで終わるんじゃないのか?」とすら感じさせてくれる。
だが、違う。

二人の少女は自分の気持ちを素直にぶつけ合う。
互いの痛いところをつき、欠点をつき、互いの不器用な生き方を指摘し傷つけ合う。
だが、その行為は心所のぶつかり合いでもある、相互理解だ。
そんな散々互いを傷つけたあったあとに褒める。

散々っぱら口喧嘩をしたのに、「森谷」さんは唐突に「好き」と言い放つ。
それまで「村上」さんに振り回されていた彼女の方から自ら
好意という欲望を素直に言葉に出して相手にぶつける。
散々喧嘩したあとにこんなストレートに告白されて落ちない女子は居ない、
とんでもない恋愛テクニックを終盤で見せつけられる(笑)

互いが互いに「告白」することで理解を深める。
傷つけ合い欲望をぶつけ合うことで相互理解が生まれる。
そして「森谷」さんの能力は完全に消え去る。もう彼女には必要がない。
未だに他者との交流には違和感を覚える部分はあるものの、
自分を理解してくれる「村上」さんがいる、もう逃げなくても良い。

人が生きる上で何よりも重要なのは愛だと見せつけられたかのようなラストであり、
60分の作品をは思えないほどの満足感を感じさせ、自然に主題歌が流れる。
「fragile」だ。まさかのEvery Little Thingのカバーだ。

「出会えた頃からすべてが始まって傷つけ合う日もあるけれど」

まるでこの作品のために作られたかのような歌詞を二人が歌う。
最後の最後まで楽しまさせてくれる素晴らしい作品だった。

総評:60分で描かれる百合、時間停止、百合、処世術、哲学


引用元:©2019 さと(秋田書店)/「フラグタイム」製作委員会

全体的に見てものすごい深い作品だ。
60分という尺であるがゆえにやや場面展開が急なシーンがあるものの、
そんな欠点が気にならないほどに描かれている要素が素晴らしく、
その1つ1つの要素をきちんと掘り下げて60分という尺でまとめている。

時間を止めることのできる少女が美少女のパンツを覗いたことで
百合が始まり、互いの処世術を描きつつも変化し、
互いの生き方の答えを見つけ雨用とする哲学へといたる。
とてもじゃないが60分の映画とは思えないほどに深い部分まで描かれた作品だ。

この世代の少女の生き方は生々しく、共感できる方も多いはずだ。
きっと「森谷」さんや「村上」さんのような生き方を多かれ少なかれ
誰もがしている。他者と関わらないようにする、
他者と関わろうとする、そのどちらも生きるための術、処世術だ。

だが本質的にはどちらも「自分を「理解してほしい」という気持ちを秘めている。
そんな哲学をこの作品は描いており、人の本質に深く突き刺さる部分まで
描いているからこそ、二人の少女に強く感情移入し、
最後の最後までストーリーが気になって仕方ない作品だ。

そして気持ちのいいラストを迎えてくれる。
バッドエンドの可能性すら少し漂わせていたからこそ、
余計にハッピーエンドが心地いい。

60分とは思えないほど濃ゆく、深い作品だ。是非劇場でお楽しみいただきたい。

個人的な感想:予想外過ぎた


引用元:©2019 さと(秋田書店)/「フラグタイム」製作委員会

予告段階ではまさかこんな哲学的な作品になると思いもしなかった(笑)
いい意味で予想外すぎる作品であり、ちょっと衝撃的だった。
まさかパンツを覗いてる予告編から、こんな深い話になるなんて
誰が予想できるんだろうか。

やや展開の唐突さは気になる部分があるものの、
60分の中にぎゅぅぅぅっと詰め込まれている。ぱつんぱつんだ。
この詰め込み感が気になる方はいるかも知れないが、
個人的にはいろいろな意味でヤられた作品だった。

「」は面白い?つまらない?

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  1. takapu4818 より:

    百合作品でしたが、正直自分自身は途中から性別設定無視して観てました。
    自分自身を振り返りつつ、現実の自分の世界はこの60分に描かれる要素がもっと複雑に入り組むのですが、少しだけ自分の整理が出来た気がします。
    良い作品紹介していただき、ありがとうございました。