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全員死亡!世界破滅!バッドエンドのその先へ「全修。」レビュー

4.0
全修。 ファンタジー
©全修。/MAPPA
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評価 ★★★★☆(64点) 全12話

TVアニメ『全修。』メインPV / “ZENSHU” Main Trailer

あらすじ 幼いころからアニメーターを志していた広瀬ナツ子は、プロデビュー後すぐに頭角を現し、初監督作を大ヒットさせ、新進気鋭の天才監督として世間から注目されていた。次回作としてオリジナルの劇場ラブコメ作品『初恋 ファーストラブ』を任せられるが、恋愛経験のないナツ子は創作に行き詰まったまま、食中毒により死んでしまう。 引用- Wikipedia

全員死亡!世界破滅!バッドエンドのその先へ

本作品はMAPPAによるTVアニメオリジナル作品。
監督は山﨑みつえ、制作はMAPPA

監督

主人公である「ナツ子」は新進気鋭のアニメ監督として有名だ。
まるでセーラームーンのようなオリジナルアニメを手掛け、
天才監督として世間に持て囃され、
次回作であるオリジナルアニメ映画を制作中だ。

非常に独特なビジュアルをしている主人公だ。
パーカーを被り、ヘッドホンを付けて、
ロングヘアーな髪で顔すら隠している。
コンテがあがるまで髪を切らない、それが彼女のジンクス、願掛けだ。

だが同時にそれは「他者」との関わりと拒んでいることを表している。
自分の世界をかたくなに守り、他者との関わりを拒むことで
彼女は「孤高の天才」である自分を作り上げている。
他者と関わりたくないわけではないエゴサをし自らの評判を調べつつも、
孤高の天才であろうとしている。そのための演出だ。

他者を信用できないからこそ、たった一人でコンテを仕上げる。
それは同時に自分自身を信用していないことの現れでもある。

彼女が子供の頃に「滅びゆく物語」というアニメ映画をきっかけに
アニメの世界に入ることを目指している。
世間的には駄作といわれ、難解で万人受けしない。
しかも、「バッドエンド」の世界だ。

そんな作品を手掛けた監督の訃報が彼女のもとに入り、
それと同時に彼女は「食中毒」で死んでしまう。
しかし、気づくと彼女は「滅びゆく物語」の世界に
転移していたという所から物語が始まる(笑)

アニメーターものかとおもったら、まさかの異世界ものだ。
自分の大好きな作品の世界に行ける、オタクなら
1度は考えたことだ。しかも、自分が大好きなキャラが目の前に居て
自分を助けてくれる、夢小説もびっくりな展開だ。

滅びゆく物語はいわゆる異世界ファンタジーな世界であり、
「ヴォイド」という謎の魔物が定期的に人間を襲っている。
いわゆる鬱展開のあるアニメ映画であり、そういう物語の作品だ。
その物語を物語の登場人物である「ルーク」の運命を
彼女はすべて知っている、子供の頃から彼の姿を見続けてきた。

世間では駄作と言われ鬱作品だと言われる作品の主人公を
彼女は見続けてきた。そこに魅入られている。
だからこそ彼女はどこかで思っていたはずだ

「ルークの悲惨な運命を変えたい」

誰かが描いた物語を変えることなどできない。
作品として世に出た以上、それを修正することは
制作者ですら不可能だ。

だが主人公は違う、滅びゆく物語の世界にやってきた彼女は
この作品の登場人物の一人ですらある。
あんな姿を見たくない、こうなればいいのに、
傲慢でわがままで本来ならやってはいけない行為だ。

だが彼女の手には変える力がある。そんな力がるのに黙っていられない。
長い髪で隠されていた表情がむき出しになる。
これは彼女の隠していた「感情」そのものだ。
自らが生きてきた証、アニメーターとしての力で
彼女は異世界を「修正」する。

まるでどこぞの巨神兵のようなモンスターを描き、
彼女はルークの最初の悲惨な運命を変えてしまう。

現実なのか異世界なのか

ルークたちを助けたことで主人公は彼らの仲間になる。
現実に変える方法を探しつつも手段は見つからず、
自らの「召喚魔法」のようなものも自分の意志で使うことはできない。

そもそもこの世界はなんなのか。
「滅びゆく物語」の世界ではある、だが、すでに
ナツ子という主人公が介入したことで運命が変わっている。
滅びゆく物語に似た異世界なのか、はたまた主人公が見ている夢なのか。

主人公が現実で関わっている人に似ている人などもおり、
みている側にも判断しかねる部分がある。
そんな迷ってる中でも「ヴォイド」はやってくる。
ルークのピンチにあると発揮する力をもって、
彼女は自らの中にある「アニメーター」としての案を召喚する。

1話では巨神兵、2話では「板野ミサイル」、3話ではタイガーマスク、
4話では「うたプリ」だ。
ちなみにそんな板野ミサイルを手掛けたのは板野一郎さん御本人だ。
そういったアニメネタ、アニメーターネタのようなものも
ふんだんに含まれている作品だ。

制作側もナツ子を通してこの作品でやりたいことを
楽しそうにやっているのが伝わってくる。
好きな作品の世界にきてナツ子は現実に戻るのが正解なのかすら悩みだす。
主人公すら知らない、運命が変わりゆく中で、
登場人物たちも変わっていく。

映画の中でも、設定資料集の中でも描かれなかった
生きてる「キャラクター」の物語に主人公が関わっていく。
生きているからこそ、それぞれのキャラクターが命あるもの、
人として苦悩することもある。

その苦悩の中で絶望し、裏切ることもある。
だが、その絶望を「アニメ」が救う。
原作では永遠に生きる人生に絶望し裏切ったキャラにたいし、
主人公は「推し」を描く(笑)

推しがいれば絶望しない、安易ではあるものの、
子供の頃からアニメ制作に携わることを夢見て、
アニメに救われた主人公だからこその手段だ。

無駄な修正

中盤まで主人公は負け知らずだ。
アニメーターとしての力を具現化する、
その力でこの世界のキャラの運命を変えてきた。
今まで一人で作品を作り上げてきた、そんな自尊心が彼女にはある。
他者を信用できないからこそ自分ひとりで全てをやる。

この世界に来て少しずつ心を開いては来ている、
その証拠に彼女の前髪は少しずつ開けてきている。
だが、信用にまでは繋がっていない。
一人で戦える、一人でアニメを作れる、そんな慢心がミスを生む。
そんな慢心を生きているキャラとの関わりで彼女は改める。

子供の頃に「滅びゆく物語」に魅せられ、
アニメーターになることを決めたからこそ、
彼女は青春をすべてアニメを作ることに捧げている。
彼女に恋するものも居た、しかし、そんな周囲の気持ちを
彼女はみていない。

初めて手掛けるはずだったアニメ映画「初恋」、
そんな初恋を知らない彼女は行き詰まっていた。
だが、それは彼女が自覚していないだけだ。

異世界での生活に幸せを感じ、現実を悪い夢のように
感じていた主人公の前に「鳥」が現れる。
「無駄」という言葉を連呼し、本来の物語に戻そうとする。
この鳥こそが死んだ「滅びゆく物語」の本来の監督だ。

物語のエンディングは決まっている。
いくら修正しようとも無駄なあがきだ。
「ルーク」が主人公に告白することで物語は大きく動き出す。

この作品は一人の女性の初恋の物語だ。

初恋

ルークに告白されたからこそ、彼女は自覚し始める。
子供の頃に「滅びゆく物語」をみて、
子どもが好きそうなキャラではなく主人公であるルークが
1番好きになっている。そしてずっと「滅びゆく物語」を好きで居続けた。

何度も何度も見て資料集もかって、模写しつづける。
自覚していないだけでそれはもはや「恋」だ。
創作物のキャラに恋をする、それを自覚せずに生き続け、
作品の世界に来て生きているルークに出会ったことで
それを彼女は強く自覚してしまう。

まっすぐに自らの思いを伝えてくれうルークの気持ちに呼応するように、
彼女の中の恋心もトゥンクと音を立て目覚める。
この作品で描きたいことはシンプルだ、
不器用な女の子の初恋、それをアニメ制作者という設定と
異世界という世界観で表現している。

この世界はあくまで鶴山亀太郎監督が作り上げた作品だ。
主人公はそれを勝手に修正しているに過ぎない。
原作者の力は絶対だ、あがいてもあがいても逆らうことはできない。

運命を変えた結果、本来は犠牲にならないものが犠牲になる。
バッドエンドという結末、そこに至るまでの道のりを
いくら変えようともたどり着く結末は変わらない。
終盤はそんなバッドエンドに向かって進み出す。

「全部ナツ子のせいだ」

国中にそんな噂が広がってしまう。
修正したはずのキャラクターの運命ももとに戻っていく。

ルーク

勇者であるルークは子供の頃から戦う運命を強いられてきた。
人々を守る、家族すら居ない彼に負わされた宿命は重く、
多くの仲間を失い、彼の心は限界だ。

戦いが終わったらここではないどこかに行きたい、
そう思いながら彼は戦ってきたが、に原作では
彼はラスボスとも言える存在になり、世界を滅ぼしバッドエンドを迎える。

だが、主人公が介入したことでその運命は変わった。
恋を知り、守りたい存在が生まれた。
しかし、そんな主人公を失いルークは絶望する。
運命は元のとおりだ。

そんな中で主人公は自らの対話をする。
精神世界の中で自らの過去を振り返る。
彼女は戦い続けてきた、孤高になり、天才になろうと、
憧れた監督のようになりたいと、描き続けてきた。

そんな彼女が原点に立ち返る。
「滅びゆく物語」を見たときに感じた感情、思いを思い出し、
描くことの楽しさを、そして、いつもそばに
「ルーク」が居たことを思い出す。

お年玉をはたいてルークのフィギュアを買い、
大人になってもルークの姿を見続け、ルークを描き続けてきた。
それは「恋」だ。次元の違う叶わぬ恋に彼女は囚われていた。

恋をしたことがない、初恋なんてわからない、
そう思っていた彼女は自らを振り返り、勘違いを修正し、
己の中にある「恋」に気づく。

「描け、描くんだナツ子」

アニメーターとしての力を発動するときに聞こえてきた声、
それは自らの声だ。

全修

確かに「滅びゆく物語」は鶴山亀太郎監督が作り上げた作品だ。
だが、それを見て感じた思い、生まれた感情はその人のものだ。
それを制作者が、つくり手が、監督がどうこうすることはできない。
受け手が作品をみてどう感じるのか、それは自由だ。

作品を関係のない他者が勝手に修正する行為は本来は許されない。
だが、解釈は人それぞれだ。
そして、その解釈により新たな創作が生まれてもいい。

「描け、描くんだ私」

彼女が最期に描きあげるのは自らが最強だと、
誰よりも信じられる存在だ。
何度も何度も子供の頃から描いて描いて描いて描きまくった。
何百、何千、何万枚も描き続けてきた。
作り手である鶴山亀太郎監督よりも描きまくった存在

勇者ルークだ。
原作にはないルークの姿、それはある意味二次創作だ。
自らの「好き」という思いを具現化した世界、
それはご都合主義の塊だ。

安易なハッピーエンドは作品としてはつまらない。
だが、これでいい。二次創作なのだから、
原作とは違うエンドでもいい。
彼女がやったことはエピローグは追加しただけだ。

ただ作品自体のエンドとしては最終話は
収まるところ収まって予想通りとも言えるラストになっており、
ある意味で
「ハッピーエンドだけがエンタメじゃない」という
鶴山亀太郎監督の言葉を表すような作品になってしまっていた。

総評: 修正してやる!

全体的に見て描きたいこと、やりたいことは伝わる作品だった。
アニメーターを主人公として、そんな主人公が自分の
大好きな作品の世界に転移し、しかも「修正」できる能力を持ってる。
オタクにとっては夢のようなシチュエーションだ。

その中で主人公が気づかなかった自らの初恋に気づいていき、
不器用で孤高だった彼女が異世界での冒険を経て成長し変わる。
そんな物語がキレイに1クール描かれている。

同時に創作論やアニメーターを描こうとしているのはわかる。
いわゆるパロディ的に有名なアニメーターのシーンや
様々なアニメ作品を彷彿とさせる要素もあり、
制作側もそれを楽しんでやっていることは伝わる。

中盤からは「滅びゆく物語」の監督もでてきて、
勝手に他者が作品を修正、変更することの是非についても問われるが、
そのあたりはかなりサラっと描いており、
深く掘り下げられている部分ではない。
しかし、制作側の言いたいことは伝わる。

作品は制作の、作った人のものだ。
それを他者が勝手に改変することは許されない。
しかし、その作品をみてどう感じたかはその人次第であり、
つくり手が介入する事ができない領域だ。

終盤はそういいった部分を伝えたいということが伝わる、
個人的な解釈ではあるものの主人公が最終話で
「全修」を行い「滅びゆく物語」にエピローグが加筆されるものの、
現実世界での滅びゆく物語の物語自体が
全修されたわけではないのだろう。

あくまであの世界は食あたりで生死を彷徨った主人公が
訪れたこの世とあの世の境、一種の臨死体験に近いものであり、
全修したのは主人公であるナツ子の中にある
「滅びゆく物語」の世界という名の二次創作の世界だ。

「滅びゆく物語」を見た人の数だけ「滅びゆく物語」の世界があり、
それぞれが解釈した物語とキャラクターの世界が広がっている。
制作側にも作り手としての傲慢さがあり、それが作品の面白さにつながる。
同時に視聴者側も傲慢だ、勝手に解釈し、勝手に世界を広げ、勝手な感想を抱くこともある。

それがまさに創作だ。
ラストのシーンの解釈も含め、見る人によって好みも別れ
解釈も大きく異なる作品だろう。

これを見た貴方がどんな解釈をしたのか。
私はそれが気になる。

個人的な感想:ざっくり

もう少し深く掘り下げてほしいという部分や
ラストのご都合主義、予定調和な部分はあり、
欠点がないと言えば嘘になるものの、
個人的にかなり刺さった作品だった。

序盤は作品の方向性も見えず、
割と安直なパロディをMAPPAが本気でやるような
感じの流れはそこまで好きな感じではなかったが、
中盤あたりで「初恋」の話を描こうとしてるとわかり、
それが綺麗に1クールで描かれている作品だ。

クリエイターものとして考えると掘り下げが甘い部分もあり、
異世界ものとしても物足りない部分がある、
だが、初恋の物語としてはよく描けている作品だった。

「全修。」に似てるアニメレビュー

「全修。」は面白い?つまらない?