評価 ★★★☆☆(55点) 全12話
あらすじ 異世界に君臨する魔王軍の四天王。その最後の一席に選ばれたのは……冴えないサラリーマン、ウチムラデンノスケだった! 引用- Wikipedia
異世界半沢直樹
原作はコミックガルドの漫画作品。
監督は福田道生 、制作はGEEKTOYS、CompTown
なろう系にあらず
最近、いわゆるなろう系みたいなタイトルの作品なのに
原作は小説家になろうでもカクヨムでもないみたいな作品が
ちらほらとアニメ化されている。
この作品の原作も小説ではなく「漫画」であり、
タイトル通り主人公はサラリーマンだ。
ブラック企業で、なおかつ「海外赴任」になり、
右も左もわからないなか様々な国に派遣されている。
自分は何のために働いているのか。
そんな事を考えている矢先に「異世界」の魔王に召喚される。
勇者ではなく、魔王軍の四天王としての召喚だ。
好条件であり、自分の才能を認めてくれる、しかも、
拒否すれば元の世界に戻してくれる。
魔王は異世界の主人公の姿を見て、
自分の側に置きたいと思い、自分の世界に召喚している。
多くのなろう系の場合、勝手に召喚して、しかも返すことはできない。
という状況なのが当たり前だが、この作品はそんな勝手なことはしていない。
この手の異世界召喚の場合は異世界召喚にともなって
チートな能力を与えられることが多いのだが、
主人公には一切チートな能力を与えられていない(笑)
彼に求められているのは「交渉役」だ。
複数の種族で構成されている魔族、
様々な種族がいるからこそ、様々な問題を抱えている。
そんな種族を魔王軍に引き入れることが彼の役目だ。
海外赴任をし、言葉も文化もわからない中で
仕事を成立させてきた彼の交渉力が買われている。
日本人のサラリーマンがかつて持っていた
自らの足で稼ぎ、汗を流し、営業をする。
相手の立場や文化を知り、理解することで交渉を成立する。
清々しいほどのサラリーマンイズムが詰め込まれている。
合併
魔王軍はこの世界では新興勢力らしく、
周辺の亜人族を吸収しながら勢力の拡大を目指している。
2話目では同業他社であるオーガ族との合併交渉が行われる(笑)
合併も様々だ、同条件での合併もあれば、
合併先に吸収されることもある。合併の利点、どちらが上か下か。
合併の条件、高いレベルの高障害世界という場面で描かれるのは
絵面としてはやや地味ではあるものの、
この作品だからこその面白さをしっかりと感じる。
魔王軍だけでなく異世界に課題も多く、
食料調達1つにしろ苦労している。
理性のない魔獣を狩るのも命がけであり、調味料も不足している。
主人公が訪れてるのは異世界ではあるものの、
海外赴任と状況はそこまで変わらない。言葉が通じるだけマシだ。
異世界は文化や価値観が違う、それを「理解」することが大事だ。
主人公にとっての当たり前、常識が通じないこともある。
魔人と呼ばれる存在は露出が激しい。それは彼らの「誇り」だ。
何もかも全てスムーズにいくわけではない、
異世界に赴任したサラリーマンな主人公は自らのミスを認め、
学び、精進していく。
仕事に詰まることもある、だが、脳内居酒屋で
酒を飲めば解決策が浮かぶ。
この繰り返し、1話からのテンプレートが作品でも生きており、
脳内居酒屋で流れる昭和歌謡曲も
哀愁漂うサラリーマンらしさが生まれている。
商売
魔王軍が抱える問題だけではなく、異世界に住む人の悩みも
彼は解決していく。
もちのような商品の売れ行きが悪いと聞けば、
彼はまるで平賀源内のごとく新たな価値観をつけくわえる。
仕事人間な主人公にとって魔王は優秀な上司であり、
彼の才能を伸ばし、彼の仕事を認め、彼を評価してくれる。
元の世界では味わえなかった「仕事の達成感」と「意義」を
与えてくれる素晴らしい上司だ。
同僚はクセが強いものがおおいものの、
話が進んでくると主人公に心をひらいてくれる。
特に四天王の一人の「サラマンダー」は
主人公に恋愛感情を抱いており、その恋愛要素が
作品にいい刺激を与えている。
もっとも仕事人間な主人公は一切気づいていない。
仕事と女、どっちが大切なのかと聞かれて、
仕事を選びそうな主人公だ。
中盤になると営業と現場の苦労など生々しい話も出てくる。
営業が優秀であればあるほど現場は商品の生産を求められる。
だが、生産速度は簡単に上げることは難しい。
しかも、営業は現場のことを考えない。
魔王軍が創る商品が優秀であるがゆえに、
主人公が営業として優秀であるがゆえに、
多くの契約を勝ち取るものの、トラブルが発生することもある。
その失敗を魔王は認めてくれる。
だが、失敗から学び、失敗で立ち止まることを魔王は許さない
同じ失敗を起こさないように再発防止策を取ることが重要だ。
主食
中盤をすぎると異世界での主食である「ギム」の供給が不安定になる。
店頭に並んだとしても庶民が買える値段ではない。
まさに今の日本が抱えている米騒動と同じようなことが起きている。
そんな同じような騒動が異世界でも起きる。
ただ解決策や話の流れ的にも
どことなく「半沢直樹」でもみているかのような気分になる展開だ。
裏帳簿や監査など話が複雑になりすぎている感も強く、
中盤まで主人公の邪魔をしてきた商人でさえ主人公は仲間に取り入れたのに、
この中盤の麦騒動は完全にわかりやすい悪人を作ってしまっている。
勧善懲悪でわかりやすい悪人を出し、それを倒す。
このストーリー自体は作りやすいが安易さが生まれる。
この作品はそういったことをせずに中盤までやってきていたのに、
中盤から明らかにその流れになってしまっているのは残念だ。
終盤の盛り上がりとして厄災というスタンピード的なイベントも起こる。
王
言われることをこなす、命令をこなす、
それがサラリーマンという務め人の仕事だ。
だが、主人公は元の世界でサラリーマンとしての抑圧に苦しんでいた。
自分がいくら頑張っても評価されず、せっかく仲良くなった現地民とも別れ、
会社の「命令」に従ってきた。
終盤、魔王から王になれと主人公は命じられ悩む。
魔王軍の子会社になり、そこの社長になる。ある意味、独立だ。
命じられ続けてきたサラリーマンからの脱却、
自分らしい王とはなんなのか。
悩みながら、1クールで関わってきた人たちの言葉が彼の背中を押し、
1クールの中で今後のストーリーを期待させるラストで終わっており、
きちんとまとまりのある1期になっている作品だった。
総評:異世界サラリーマン金太郎
全体的に見て「サラリーマン」という主人公の属性をうまく使った
異世界転移物になっている、チートな能力は一切なく、
元の世界で培われたサラリーマンとしての経験を異世界で活かす。
この根底部分が崩れず、まっすぐに1クール描かれている。
イメージで言えば前半部分はサラリーマン金太郎、
後半からは半沢直樹的な印象を受ける作品であり、
異世界というアニメ的な要素はありつつも、
どこか実写ドラマ的なストーリーが描かれている。
メインヒロインの主人公に対するラブコメ要素もいいスパイスになっており、
1クール楽しめる作品だ。
ただ、前半に比べると後半は半沢直樹感が強くでてくるせいか、
分かり易い敵などもでてきてしまい、安易さもでてきてしまっていた。
作画に関して言えばハイクオリティという感じではなく、
かといって作画崩壊するわけでもない。
なにか特筆すべき部分があるわけではないという
やや地味な絵面になっていることは否めない。
戦闘シーンなどもあるものの、グリグリと動くというわけでもない。
そういった意味でも全体的な「地味さ」は否めないものの、
堅実に作られている作品であり、
サラリーマンというものを主軸に
おいた作品らしいともいえるかもしれない。
個人的な感想:堅実
ザテンプレ、ザなろう系みたいな作品が最近は減ってきて、
なろう系のようにみえてなろうじゃない作品が増えており、
その手の作品はある種のなろうパロディ要素もありつつ、
どの作品も個性に溢れている。
ジャンルとして嫌われがちななろう系ではあるものの、
1つのジャンルとして成熟してきたからこそ、
こういう作品が生まれ始めたのかもしれない。
この作品も2期があるのかはわからないものの、
2期があるならばぜひ見たいと思える作品だった。