新世界より

評価/★★★★☆(75点)


「新世界より」 七 [Blu-ray]

制作/A-1 Pictures
監督/石浜真史
声優/種田梨沙,遠藤綾,浪川大輔ほか


あらすじ
1000年後の日本。人類は「呪力」と呼ばれる超能力を身に着けていた。注連縄に囲まれた自然豊かな集落「神栖66町」では、人々はバケネズミと呼ばれる生物を使役し、平和な生活を送っていた。その町に生まれた12歳の少女・渡辺早季は、同級生たちと町の外へ出かけ、先史文明が遺した図書館の自走型端末「ミノシロモドキ」と出会う。




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第一話から最終話を全く予想できないアニメ


原作は小説、ライトノベルではない。
実写化されたことの多い貴志祐介さんによる作品で
貴志祐介さんの作品ではアニメ化は初。

見だして感じるのはわけがわからないということだろう。
序盤から何の説明もなく、様々な用語が飛び交う中でストーリーが展開していき
それが同時に独特の雰囲気を醸し出す。
1000年後の茨城という舞台設定ではあるものの未来的な要素はなく、
むしろ明治ぐらいのような世界観が描写される。

そんな中、「呪力」と呼ばれる力を人間が普通に持っているという設定だけが分かる。
呪力とは簡単にいえば超能力のようなもので、人によって力の差があり
子どもたちはそんな呪力を強めるために学校に通っている。
しかし、子どもたちの間にはある噂が流れている
「ネコダマシが子供を狙っている」という噂。
そして1話で呪力の弱い子供が消える、誰も知らないうちに。

1話からかなりの情報量だ。
独特の世界観、独特な用語、独特なキャラクターデザイン。
1話から癖のある外見に見合う内容になっており、
その情報量を全て理解できなくとも「子供がいつの間にか消える」という現象が
視聴者を作品の物語に惹きつける。

わけの分からない謎の展開は1話から3話まで続く。
しかし、4話で「何故子供が消えたのか」が一気に説明される
それまでわからなかった謎がパズルのピースを埋めるように
1つずつ確実に埋まっていく展開は、一種の快感ですらある。
思わず「なるほど」と口走ってしまうほど伏線と情報開示のやり方が上手い。
ただ、それと同時にストーリー展開が複雑だ。

1話から4話までである程度の世界観の説明と設定をし
その後、主人公たちがピンチになりそれを打開する。
ここまでは割と素直に作品を楽しめるのだが、
ピンチを打開した後に急に時系列が2年も流れる。

主人公たちは「自分たち」がどんな人間なのかを知ったはずなのだが、
その知った事はとりえず置いておかれ恋愛描写が描かれる。
それも同性同士のだ。
同性同士の恋愛になる展開は分かるのだが、1話前まであれだけ緊迫した状況だったのに
急に同性同士の恋愛という展開に変わるのはついていくのが大変だ。
しかし、そう感じるのも1話だけだ。

展開が変わっても、この作品のやり方は変わらない。
謎をばらまきながらストーリーを展開し、パズルのピースをはめるように謎を明かす。
だが、ワンパターンというわけではない。
ばらまかれる謎はどんどん大きく、どんどん登場人物の身近になっていく。
はめるピースは「パズルの大きさ」が把握できないほど大きなものが気持よくはまっていく

ただ、それゆえに「パズルの大きさ」が把握できないため
物語がなかなか結末に至らない。
常に伏線を残し、少し解決したと思ったら新しい伏線をばらまく
物語がどこへ向かっているのかがつかみにくく2クールという長さ故に
「ダレ」のようなものを序盤感じてしまうのは残念だが、
それはこの作品の情報量とストーリー構成上致し方無い。

しかし、それも本来は回避できたはずだ。
この作品は決定的に「アニメーション」としては微妙だ
独特の世界観を作るために奇抜な演出がとられることも多く、
「シャフト」のような癖のあるアニメともまた違う癖がある。
止め絵、キャラの表情のアップで敢えて決定的なところを描写しないなど
言葉としてそのシーンの意味はわかるのだが明確にアニメーションとして表現せず
あえて濁した演出をとっているので、この作品のわかりづらさを助長してしまっている。

同じシーンでも原作の小説なら、文章による想像でシーンを頭の中で描けるが
絵として画面に出てしまっているアニメで中途半端に描写してしまったことで
ストーリーをより難解にしてしまった。
ストーリーとしての盛り上がりはあるのだが、アニメーションとしての盛り上がりは薄い。

それ故にそれを支える「声優」さんの演技が素晴らしい。
独特の世界観を後押しするように深刻に緊迫感のある演技をしており、
成長による声優の変更も自然に行われ、違和感がない。
声優さんの熱演が光る部分も多く、最後のスクィーラの叫びは深く突き刺さった

ここで私は敢えて序盤のストーリーを少しだけネタバレする。
これはネタバレというよりも原作を読んでいない私と同じ人は
このネタバレがわかっていたほうがストーリーを楽しめると判断したためだ。

ストーリーは序盤から中盤までは「伏線」と「積み重ね」だ。
何話かごとに主人公たちの年齢も重なっていき成長していく。
同時に「主人公の友人」も減っていく。
呪力と呼ばれる超能力を持った人間の中に生まれる「悪鬼」と呼ばれる殺人鬼。
そんな悪鬼を恐れるあまり、この世界の大人は「間引き」をする。

主人公たちはこっそりと行われた間引きに気づいてしまう。
やり方は残酷で恐怖の募るものばかりだ。
1000年後の日本は人間からあふれる呪力の影響で異型の生物が多く、
人間が意図して異型にした生物もいる。
そんな異型を大人は「間引き」に使う。

しかし、それはしかたのないことだ。
「悪鬼」が生まれてしまえば対処方法は内に等しい。
多くの人間の命を守るために大人は子供を間引く。
主人公たちはそんな世界で「間引いている」事実に気づき怯える。

ここまでが序盤のストーリーだ。
今、ここまで読んでいただい方はこの展開から
「異生物と人間の戦い」という展開に変わることを想像できるだろうか?
伝奇ホラーのようなストーリーから一変、戦いへと展開する。
人間を神と崇めちたはずの「バケネズミ」たちの反乱は、
物語の序盤から徐々に徐々に仕組まれ、主人公たちの行動すら戦争の発端となっている。

それは幼いがゆえの過ち。それは幼いがゆえの思いからの行動。
それまで丁寧に描写した設定を積み重ねるように終盤のストーリーを作り上げる
大人たちが子どもたちを殺してまで生み出さないにようにした「悪鬼」、
人間が意図して生み出していた「フジョウネコ」、言葉を喋れる「バケネズミ」
全ての要素が終盤のストーリーを紡ぐためのものだ。

18話からの展開は怒涛の展開だ。
保っていた平和の崩壊、力関係の逆転、現れる悪鬼・・・。
そして、それまで見てきた視聴者だからこそ「悪鬼の正体」が否が応にも分かってしまい
わかっているからこそストーリーが気になって仕方ない。

そして訪れる最終回。
あまりにもあっけない、あまりにもあっさりとした最後だ。
だが、全てが終わった主人公たちの気持ちは視聴者にも痛いほど伝わり
美しいほど悲しい物語だ。

この物語に「悪」や「罪」というものはないだろう。
誰が悪いともいえない、恐怖に囚われた人間が取った行動ゆえの業、
人が人を思うからこそ行った罪
それは主人公側も敵である「バケネズミ」側も変わらない。
敵であるはずの「スクィーラ」の最後の叫び、最後に描かれる「バケネズミ」の正体、
そして、この作品の最後の最後で安堵できるシーンが描かれ
物語は「新世界へ」と紡がれる。

全体的に見て素晴らしい作品だった。
序盤は独特の雰囲気と設定の難しさ故にとっつきにくさはあるものの、
それを乗り切ってしまえば「人間の業」を描いたようなストーリーは
他のアニメ作品では中々味あわせない、じっくりと味わせる内容になっており、
世界観を助長するように「音楽」と「声優」さんが作品を後押ししていた。

この作品は2クール一気に見ることをおすすめしたい。
あえてネタバレを書いたのは序盤でつまずきやすいからだ
4話まで乗り越えてしまえば、どんどんと飲み込める内容になっているのだが
4話までは「つまらない」と感じやすい。
それを少し乗り越えたと思ったら、同性愛の描写があり人によってはキツイだろう。
描写としては「男同士」の濃厚なキスシーンがある(苦笑)

しかしながら、それらの欠点を差し置いてストーリーが素晴らしかった。
2クールという尺をたっぷり使ったストーリー構成、
染みこませる序盤、湧き上がらせる中盤、畳みかける終盤、
起承転結がしっかりとした内容だ。

ただ、アニメーションとしての演出の独特さや序盤の取っつきにくさ、同性愛、
じっくり見なければ理解しきれない設定など好みの分かれる部分も大きいのは残念だ。
誰かにこの作品を進めるならば「4話くらいまで我慢して!」というしかないが、
その4話までその人が耐えられるかというのが本作品の最大の欠点だ。

個人的にはやられた。という感じが強い。
癖のある演出も独特なBGMも作画も、普段から色々なアニメを見てるせいか
すごく「個性」を感じる作品で序盤から引きこまれてしまい徹夜して一気に見てしまった。
原作小説も非常に気になるのでぜひ読んでみたいと思います。

余談だが本作品の売上はあまりよろしくない(苦笑)
本作品はいわゆる「質アニメ」に該当するゆえに萌え的なものはない
更にストーリーも1度見てしまうと、2回目見るのは気力のいる内容なだけに
売れにくいのは仕方ないのだが、こういう作品が売れず
似たような作品ばかり作られるアニメ市場は若干残念な気持ちで仕方ないです。

質アニメ、いいじゃないか。