評価 ★★★★☆(60点) 全13話
あらすじ 親の再婚で不動産王の家の娘となった鈴ノ宮りりさは、学園一のお嬢様の称号を得るために、好きだったロックとギターを捨てて淑女として振る舞っていた 引用- Wikipedia
燃えつきろ!お嬢様という名の不燃ごみ達
原作は漫画な本作品。
監督は綿田慎也 、制作はBN Pictures
お嬢様
1話冒頭、水と油なシーンが交互に描かれる。
THEお嬢様学校な様子が描かれていると思えば、
どこからともなくロックなドラムの音が聞えてくる。
お嬢様とロック、まさに水と油だ。
ごきげんようの清純な声が鳴り響く学校、
だが、そんな学校で一人「お嬢様」を演ずるのが主人公だ。
一流のレディが通う男子禁制な女子校、日本を動かす大物の娘しかここにはいない。
しかし、主人公はあくまで親の再婚でこの学校に通ってるに過ぎない。
彼女は生粋のお嬢様ではない。だが、必死にお嬢様であろうとしている。
このシチュエーションだけで非常に面白い。
転入したばかりの主人公は必死で学び学園でトップクラスの成績をもち、
クラスメイトからも尊敬の念を向けられている。
1番のお嬢様に、1番のレディに
「高潔な乙女 」に選ばれるために彼女は努力している。
それは母のためだ。再婚し立場の危うい母を守るために、
優秀な誰にでも誇れる娘になることで
母を守ろうとしている健気な少女だ。
彼女の前に現れるのが有名政治家の娘であり、
生粋のお嬢様である「黒鉄 音羽」だ。
そんな彼女が落としたのは「ギターのピック」だ。
喧嘩
生粋のお嬢様は旧校舎で一人、ロックを奏でる。
捨てたはずの、忘れたはずのロック。
だが、1度音楽をやってしまったものは忘れることはできない。
隠しきれない指のタコ、隠しきれないプライドを刺激される
「うまくないならそうおっしゃればいいのに」
まるで喧嘩のように、殴り合うかのように二人はドラムをギターを奏でる。
そこにボーカルなんてものはない。フルCGで描かれる演奏シーンは痺れる。
超絶技巧でリフを奏でれば、お嬢様は負けじとドラムを叩く、
お嬢様な外見からは想像できない荒々しい音の暴力、
これはまさに殴り合いだ。
互いが互いに自らの演奏に自身があるからこそ負けられない。
ドラムで殴り、ギターで吠える。
余計なボーカルがないからこそ純粋にドラムとギターの音だけで魅せる。
主人公が捨てたはずのロック、そんなロック魂を呼び覚まさせてしまう。
忘れていたはずの「本当の父」の記憶。
もういない父親とのわずかな記憶が彼女のロックの根底だ。
だからこそ余計に忘れることもできない。
無理矢理抑えていたものが爆発してしまう。
お嬢様も負けていない。
「黒鉄 音羽」 は主人公の演奏を褒めて一緒にバンドをする、
そういう流れに普通のバンドアニメならなる。
だが、この作品は違う。
「つまんねぇなお前のギター。
もしかして線香花火ですか?もっと燃やせよ!」
演奏が終わればお嬢様に戻る彼女のキャラクターの強さで
1話のつかみはバッチリだ。
そんな罵倒も主人公の演奏に迷いが合ったからこそだ。
交わりましょう
1度演奏してしまったからこそ、彼女と交わってしまったからこそ、
主人公の中のロック魂に火がついてしまう。
ロックドラムなんてお嬢様がやることではない。
そんな疑問をお嬢様は応えてくれる。
「金持ちとか貧乏とかどんな事情も一切関係ありません、
好き以外にやれる理由があるなら教えて下さい、
さぁ、一緒に交わり合いましょう?」
もう止めることはできない、今の自分には必要のないものと
捨て去ったギターを彼女は再び手に取ってしまう。
お嬢様とロック、この水と油のような交わることのないギャップが
とんでもない作品としての魅力を生んでおり、
同時にキャラクターの魅力にもつながっている。
唯一無二のロックバンドアニメだ。
お嬢様だろうがなんだろうが関係ない、ロックを奏でることが
彼女たちの「自己表現」だ。
自らという存在を、自らが好きなものを、全開に爆発させる瞬間。
それがロックだ。
不燃ごみ
自分を認めさせたい、そんな思いが主人公にはある。それは母のためだ。
だが、自分のためではない。
自分自身の好きのために、自分が気持ちよくなるための演奏、
忘れかけていた「ロック」を主人公が呼び起こさせる瞬間は最高だ。
フルCGで描かれつつも、大胆なエフェクトを織り交ぜることで
CG感を薄くさせ、荒々しい音楽をただ演奏するのではなく、
彼女たちが全身で楽しみ、全身で演奏をし、全身で表現していることを
見て感じさせてくれる、素晴らしいアニメーションだ。
そして演奏が終われば罵倒が始まる(笑)
「「この不燃ごみが!」」
放課後以外では彼女たちはお嬢様だ。
彼女たちはまだ自分たちを燃やしきれていない、不燃ごみだ。
自分たちが完全に燃えきるほどの演奏を味わうために、
バンド活動を始める。
放課後だけのお嬢様たちの秘密のバンドだ。
家族
ギターもガチでやりつつお嬢様もガチでやる。
1度やめたものを再開したからこそ、主人公は2つ両立し
ガチでやり遂げようとする。
彼女の親はいわゆる毒親だ。
ギターを、前の父を忘れさせるために、
別の男と再婚し、ギターを捨てさせている。
そんな親の期待に主人公は応えようとしている。抑圧だ。
ロックは反骨心を歌う音楽だ。
そんな反骨心を生むための抑圧が親でもある。
そして新しい家族には新しい妹もいる。
曲
基本的に曲はオリジナルのものが使用されている。
だが、1話ではさりげなく「リンダリンダリンダ」を歌うモブがいたり、
5話では「宝島」を演奏することになる。
現実に存在する曲を演奏ることでリアルさが生まれ没入感も生まれる。
この作品は本当に異例だ。
お嬢様とロックという組み合わせもそうだが、
バンドはバンドでも「インスト」バンドだ。つまりボーカルはいない(笑)
自分たちの演奏に自身があるからこそ、歌なんて要らない、
演奏だけで人を魅了したい。だからこそのインストバンドだ。
5話で彼女たちが参加するのは地元の吹奏楽バンドだ。
エキストラとして参加する、経験を積むためのものだ。
だが、その吹奏楽はひたすらにゆるい。いわゆるエンジョイ勢だ。
そんな吹奏楽バンドを批判するものも現れる。
「吹奏楽は所詮、歌手を盛り上げるだけの脇役」
インストバンドをやろうとしている主人公たちに言われたのと同義だ。
まるで喧嘩をするように強烈なリフから始まる。
お遊びな吹奏楽バンドではついていくのさえ必死だ、
だが、彼らもまた「音楽」をやってきたものたちだ。
自分たちの音楽をバカにされて火がつかないわけがない。
自らのプライドを、自らの音楽を、自分自身を表現する。
最高に気持ちいい全力の演奏を披露する。
無茶苦茶な喧嘩のような「宝島」、互いが互いの自己主張で
ぶつかりあう宝島に圧倒される。
それはたまたま訪れていた主人公の「義妹」も同じだ。
クラシック以外は庶民の音楽、そう思っていた彼女の
偏見という名の壁がぶち壊れる。
御機嫌ようと中指を突き立てる、お嬢様でありながらロックを貫く、
中盤で主人公らしさがしっかりと固まる。
バンドメンバー
中盤、ようやく追加メンバーがでてくる。
学園の生徒会副会長でボーイッシュな王子様タイプのお嬢様だ。
学園だも大人気で王子様のような振る舞いをしている。
だが、彼女は本心を隠している。
服も趣味も王子様キャラも人から抑圧されたものにしか過ぎない。
そんな彼女が主人公の演奏を目にする。
自分らしく、自分を表現する主人公に彼女は憧れてしまう。
もう一人のヘルプのバンドメンバーも現れ、
ライブハウスで対バン形式でライブをすることになる。
序盤はテンポの悪さも少々あるものの、
中盤から一気にスロットル全開だ。
不協和音
二人の新メンバーはクセが全開だ。
王子様はキーボードを担当するものの素人に毛が生えたようなものでしかなく、
一方でベースの技術は主人公すら上回るほどのギターの演奏技術があり、
ベースも一級品だ。
ベースに対抗心を燃やし、彼女を乗り越えようとしつつも、
キーボードであるティナの懸命さにも影響されていく。
だが、ティナの実力は3人に追いつかない。
この作品は音楽に関して本気だ。
だからこそメインキャラクターたちも言葉を濁さない。
下手くそには下手くそと、言葉を濁さす取り繕うこともない。
本心でぶつかり合うからこそ面白い。
主人公は5日で「ティナ」の素人演奏を変えると宣言する。
演奏がうまいのがロックの全てではない、
自分らしくありたい、自分を表現したい、
そんな気持ちこそロックだ。
ティナ自身が自らをロックで表現したいと願っている。
誰かが願う彼女ではなく、自分が願う彼女に。
お嬢様は誰かに常に守られる存在だ。
親に、周囲に、花よ蝶よと大事にされる。
燃えないように消えないように大切に大切に。
だが、それは裏を返せば不燃ごみだ。
そんなお嬢様がロックという誰に守れない場所で
誰にも抑圧されず、自分らしく表現する。
燃え尽きるまでお嬢様という存在が消え去るほどに。
抑圧されるお嬢様と自由なロック、
この対比が常に作品にあるからこそ面白い。
ライブ
ティナの初演奏、初ライブはミスばかりだ。
スタートも遅れ、1度はやめそうになる。
無心になりながらも、みんなの音を聞く。
彼女の成長と変化、自分で選んだ自分らしさがあまりにも尊い。
だが主人公は別だ。自分の演奏を見失い、迷い、足掻く。
雑念を取り払い、本性を爆発させることで、
彼女も彼女なりの演奏を進化させる。
同じバンドのメンバーでありながら演奏で殴り合う。
メンバーが暴走すれば、その暴走に合わせ、殴り合う。
どうしようもない衝動を音に乗せぶつかり合う、
ベースで喧嘩のフィールドを作り、ギターとベースが殴り合い、
キーボードはそんな喧嘩を盛り上げる。
ボーカルのないバンドなのに魅入られる。
その凄さを9話でしっかりと見せつけてくれる。
そして終わったら罵詈雑言である(笑)
完全燃焼したいからこそ、不完全燃焼のゴミという名の
お嬢様たちが叫び合う。
一人ひとりの成長と変化がきちんと描かれている。
10話はある意味最終回だ。
終盤
終盤はやや蛇足感というかストーリー構成のミスを感じる。
実質10話が最終回だ。
バンドメンバーが揃い、ライブをしてこれからもこのメンバーで
バンドを続けることを決める、実際最終回のような演出すらある。
しかし、あと3話ある。
主人公が憧れる「高潔な乙女 」 に出会ったり、
ライブハウスでライブをするとなったら対バン相手の
男性バンドがいきなりでてきたりする。
「高潔な乙女 」 も男性バンドも唐突で、しかも使い捨て感があり、
10話までの脚本と違って一気に盛り下がる。
「音楽は遊び」と言われた主人公が対抗意識を燃やすという
流れなのはわかる、音楽へ本気になり、
本当にフジロックを目指す決意を彼女たちがする流れなのはわかるが、
唐突に現れるイケメンバンドといい10話までの脚本と違い
安易さが生まれている。
バンドをどう魅せるのか、自己満足でなはい
ライブパフォーマンスをきちんとみせ、きちんと成長していることを
感じさせてはくれるものの、10話までの脚本の盛り上がりは
生まれずに終わってしまううえに、
対バン相手のファンがあっさりと主人公たちに寝返りのも
ややご都合主義を感じてしまう部分だった。
総評:水と油も交われば弾け飛ぶ
全体的に見てロックバンドアニメとしてまっすぐに描きつつ、
同時に「お嬢様」という水と油の要素を掛け合わせることで
弾け飛んでいる作品だ。
クセは非常に強い、特にキャラクターデザインはかなり特徴的であり、
主人公などくそデカツインテールだ(笑)
決して流行りのキャラデザではなく、可愛いとは程遠いほど
演奏中は快楽と愉悦に浸った表情で笑顔を見せ、
お嬢様なのに演奏後は互いを「罵り合う」ほど口は汚い。
そういったキャラ描写の部分でも人を選ぶ分がある作品だ。
しかし、そこを乗り越えると水と油という交わらない要素を
強引に混ぜ合わせ、あろうことか火をつけて大爆発させている。
お嬢様という立場から生まれる抑圧、
燃えないように、消えないように大切に育てられた彼女たちは
言い換えれば不燃ごみだ。
そんな不燃ごみというお嬢様たちが可燃ごみという名のロックバンドになる。
この変化と成長が1クールできちんと描かれており、
10話で最終話になった感じはあるものの、
「音楽」というものに本気で挑み、この4人でフジロックを目指すという
意思が固まるまでの物語がきちんと描かれている。
人を選ぶ部分はあるものの1度見たら忘れられない作品であり、
2期があればぜひ見たいと思える作品だった。
個人的な感想:感情爆破
気持ちいいまでにキャラクターの感情が爆発する作品だった。
本音を隠さず、本音以上の言葉を相手にぶつける。
それでドロドロにもシリアスにもならない。
むしろ本音でぶつかり合うからこそわかりあえている。
ストーリー構成はやや気になるものの、
最後まで気持ちの良い作品だった。