結局、「第4の攻殻機動隊」は「攻殻機動隊」ではなかった「攻殻機動隊 新劇場版」レビュー

2016年6月29日

評価/★★☆☆☆(24点)

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結局、「第4の攻殻機動隊」は「攻殻機動隊」ではなかった

本作品は攻殻機動隊の劇場作品。
いわゆる第四の攻殻と呼ばれる「ARISE」シリーズのラストを飾る劇場版だ
監督は黄瀬和哉、製作はProduction I.G
なおARISEのテレビシーズ(OVA)の続編となっており、見ていないとついていけない

見だして感じるのは「ガクッ」っと膝カックンを喰らうような感じだろう。
この作品の冒頭で最初のセリフをしゃべるのは
「草薙素子」演じる坂本真綾ではない。
ましてやプロの声優でもない。

NAOTO(EXILE、三代目J Soul Brothers)

である。どうだろうか(苦笑)
もはや見たことがない人だと「うげ・・・」と思う人が圧倒的多数に違いない
クレヨンしんちゃんやドラえもん、名探偵コナンなど
客寄せ的な意味で芸能人声優を使うことは少なくない。
ただあくまで「ゲストキャラ」であり、メインキャラではなく
ましてやプロの声優よりも先にしゃべることはない。

しかし、この作品は違う。主人公よりも先にゲスト声優ががっつり喋ってしまう。
いかにも「読んでいます」的な演技とぼそぼそとしたしゃべり方は
シリアスなムードで話している中で浮いてしまっており、
今更「ゲスト声優」で客寄せパンダをしないといけないほど
この作品のネームバリューが弱いとでも言うのだろうか?

更に地味さ。
「映画」ということをきちんと意識して作っているのだろうか?と感じるほど
序盤のシーンづくりが物凄い地味だ。
淡々としたストーリー展開、淡々とした絵、淡々とした人物描写。
2クールあるアニメの中の1話のような描き方であり、
なかなか世界観に浸らせてくれない。

最初からアクションシーンのあるシーンを冒頭に持ってきて
その後で地味なストーリーの始まりを描ければ
作品への「没入感」を高めることができ、
地味なストーリー展開も「地味」と感じなかったはずだ。
映画が始まって15分間、地味な絵が続いてしまうようなストーリー構成は
1時間半の映画の構成としてはナンセンスだ

更に戦闘シーン。
確かによく動く、だがそれだけだ。
これはテレビシーズ(OVA)からのARISEの決定的な欠点とも言えるのだが、
作画の質はたしかによくよく動いてはいるのだが、
その動きに「魅力」がない。

キャラクターデザインのせいもあるのだろうが、
どうにも激しい動きをしても「迫力」が伴っておらず、
思わず「おぉ!」と言ってしまうようなアクションシーンはない。
はっきりといってしまうと「動き」便りで、
そこに「キャラクターの強さ」が見えてこない。

激しく動かせばいい、かっこよく見せればいいという感じだけで
そこに「動きの面白さ」や「シーン展開の面白さ」という
アニメーションの基本部分の魅力がない。
「作画の質」「作画の制作能力」任せで演出の面白さがない。

しかしながら「ストーリー」的には面白い。
ARISEのストーリーはあまり褒められたものは多くなかったが、
この作品における根本的な「着眼点」は攻殻機動隊らしいともいえる。

これまでゴーストの探求、電脳のハッキング、難民問題、高齢化社会など
未来に起こりえるかもしれない「事件」を描いてきた攻殻機動隊だが、
この作品は「デッドエンド技術」に関して描写している。

体の義体化、脳の電脳化が進む近未来の攻殻機動隊という世界で
もし「自分の体や電脳をバージョンアップ」できなくなったら?という問題だ
自分の義体に使われているパーツの生産会社が潰れたら?
自分の義体に使われているパーツの規格が廃れたら?
直すことのできない「機械の体」を持つ者達の絶望感。

自分の義体をメンテナンスもできなくなり、交換パーツもなくなっていく。
自分の体が生きながらにして「失われて」いくような感覚だ
そんな問題がある中で義体をめぐる権利や市場の独占を狙う企業もあり、
デッドエンドはより明確に、より大きな問題となっている。

「未来の技術」である義体や電脳のある未来で
更に未来の問題を扱う着目点は素晴らしく、
TVアニメ(OVA)の時にはなかった「攻殻機動隊」らしさを
ストーリーからきっちりと感じることが出来る。

しかしながら、そんな「根本的なストーリー部分」が非常にわかりづらい。
地味な絵面の中で淡々とストーリーを描写しているが
専門用語や周りくどいストーリー展開が多く、
そのせいで芯にあるストーリーの面白さがボヤけてしまっており、
せっかくの着眼点の素晴らしいストーリーの
面白さがストレートに伝わりづらくなっている

なにがどうしてこうなったのか。
これをきちんと理解するためにはテレビシーズ(OVA)をしっかりと見た後に
この作品を2,3度見ないと理解しづらい。
だが、この作品を「2,3度」見ようと思うほど「面白さ」を見いだせず、
90分という映画の尺の中にストーリーを収めようとして
作品に対する拒絶感を強めてしまっている感じが否めない。

全体的に見てテレビシーズ(OVA)よりは悪くはなかったという感じだ
最初からこのストーリーの雰囲気とキャラクター描写ならば
もう少し「新劇場版」という作品に入り込みやすかったかもしれないが、
拒絶感の強いテレビシーズ(OVA)を見なければ、
この作品をきちんと楽しむことができず、
見ていても1度の視聴だけではストーリーを把握しきれない。

過去の攻殻機動隊シリーズも難解な部分はあった。
だが、その「難解」さを解きほぐし「理解」したくなる面白さが表面にあったが
この作品には理解したくなる面白さが表面にはなく、
一皮、二皮剥いたところでようやく味が出て来るような感覚だ。

作画の質だよりで面白みにかける戦闘シーンや、
キャラクターを「敢えて無能」にすることで
ストーリーを先延ばしにするような展開が多く
難解なストーリーがそのせいで回りくどい描写になってしまっているのも厳しい。
ストーリーの根本にある部分は理解できるが、アニメ映画として
「記憶に残るシーン」はこの作品にはない。

更に評価を落とす部分。
この作品は「第4の攻殻機動隊」と呼ばれるものだ。
故に1,2,3の攻殻機動隊とは別の面白さ、別の捉え方で描くことで
はじめて「第4の攻殻機動隊」としての面白さが生まれる。

だが、この作品は「第4の攻殻機動隊」どころか過去の攻殻機動隊に固執しすぎだ。
過去の攻殻機動隊の「オマージュ」とも言うべきシーンが
2シーンほどラストに描かれるのが、個人的には「イラッ」っとしてしまった。
その固執がこの「第4の攻殻機動隊」が「攻殻機動隊」になれなかった
原因ではないのだろうかとひしひしと感じてしまった。

やはり私はあの「メスゴリラ」な草薙素子が好きだ。
中途半端なツンデレのような「草薙素子」は最後まで受け入れられなかった。
この作品を見ると余計に過去の攻殻機動隊シリーズが見たくなり、
あの攻殻機動隊シリーズの続きが作られないかと期待するのだが、
色々と難しそうなのが残念な所だ。