評価 ★★★☆☆(59点) 全12話
あらすじ 生まれながら目が見えない侯爵家の次男クノン・グリオン。それでも、魔術を習い始めて僅か五ヵ月で教師の実力を追い越すほどの天才魔術師 引用- Wikipedia
時代に逆らう?女尊男卑な主人公
原作は小説家になろうで連載されている小説作品。
監督は大庭秀昭、制作はプラチナビジョン。
盲目
本作品の主人公である「クノン」は貴族の子供だ。
この世界の貴族には、かつての英雄の傷跡が受け継がれることがあり、
クノンもまたその傷跡を受け継ぎ、生まれつき「盲目」だった。
英雄の再来ともてはやされるものの、
クノンにとって「見えない」という事実を覆すほどの栄光ではない。
どこかに一人で行くこともできない、彼には自由がない。
そんなクノンが「魔法」に出会う。
水の魔法の適性を持つ彼は、自らの「目玉」を魔法で作るという目的を得る。
何もなかった少年に「目的」という名の未来、希望が生まれ、
彼の人生は一変するというのが1話だ。
この1話の描き方が非常にうまい。
いわゆる「なろう系」ではあるものの、転生要素はなく、
主人公にも魔法の才能こそあれど、チート感は薄い。
水の魔法を修練し、様々な水を再現し、
魔力のおかげで「色」と「形」を感じ取れるようになるものの、
すぐに「見える」わけではない。
あくまでも物語、作品としての目的は「魔術で目を作る」ことだ。
その目的に向かって1歩1歩進んでいく過程、
その過程に至る導入である1話が非常に丁寧に描かれており、
なろう系特有の嫌味さがない、自然な導入になっている。
クノン
この作品の序盤は基本的に会話劇だ。
モンスター退治をしたり、ギルドに行って冒険者になるわけでもない。
そんな会話劇を光らせるのが、主人公であるクノンの圧倒的な「ユーモア」だ。
クノンに仕えているメイドである「イコ」は非常に明るい性格だ。
金に汚い部分こそあれど、彼女はクノンの傍にずっと付き従い、
暗い少年時代も支えてきている。
そんな彼女の影響で、クノンは「ユーモアを忘れない紳士」になっていく。
女性には褒め言葉と称賛を常に投げかけ、
もはや冗談とは思えないほど、物語の中の王子様のごとく
キザなセリフもバンバンと吐き散らす。
それを周囲がドン引きすることで「ギャグ」になっているのが面白い。
本来は「盲目」というハンデがあり、暗い少年時代を過ごしたはずの
クノンが、話が進めば進むほど前向きで明るい性格になっていく。
その底抜けのユーモアが会話を盛り上げてくれるため、
常にクスクスと笑えてしまう会話劇がそこにはある。
会話だけではない。貴族同士のゴタゴタで因縁をつけられても、
自らの才能で「圧倒」するのではなく、相手の股間に水魔法で水を仕込み、
「おもらし」したと叫ぶことで対応するような
ユーモアもある(笑)
言葉だけでなく、行動すらもユーモアに溢れた主人公であり、
そんな彼の変化に戸惑いながら、彼との仲を深めていく
キャラクターたちの魅力もしっかりとある。
「かわいそう」と言われていた主人公が、1話の序盤以降は
ある種の狂言回しとして物語の中心にいる。
このキャラクターの魅力こそが、この作品の真髄だ。
なろう系において「主人公に因縁をつけてくる」キャラは多いのだが、
そんな相手に対し、クノンは「褒め殺す」ことで敵から味方にしてしまう。
凄まじい主人公だ。
魔術師
クノンはランクで言えば、そこまで高い魔術師ではない。
彼よりも高いランクの魔術師は多く存在する。
だが、彼の探究心と知識欲と才能、そして彼を幼少期から教えてきた
先生の「小細工」により、彼は普通ではできない工夫で魔術を使っている。
そんな魔術に興味津々なのが魔術師たちだ。
彼の魔術を楽しそうに見て知り、そんな魔術師たちとともに
クノンはより魔術の深淵に触れていく。
中盤になると、新たな魔術師を先生に迎える。
クノンに対して最初は面倒くさそうな態度を取っているのだが、
彼のユーモア溢れる軽口と才能に、新たな先生も彼に惚れ込む。
師匠を手に入れたクノンは、さらに魔術の深淵に足を踏み入れていく。
その一方で婚約者たるヒロインも、クノンにふさわしい女になろうとする。
主人公だけでなく他のキャラも主人公に影響され変化していく、
そんなドラマがきちんと描かれていく。
派手な戦闘で見せる作品ではない。
それでも、魔術の成長、人間関係の変化、
そしてクノンの会話の面白さだけで物語を引っ張っていく。
会話劇中心の作品でありながら、退屈さを感じにくいのはこの部分が大きい。
新しい世界
そして中盤、主人公は夢を叶える。
多くの出来事と多くの経験を積み、多くの人と出会い、
「今の自分」に満足してしまっていた。だが、彼には夢がある。
感じるのではなく、自分の目で自分の好きな人の顔を、
自分の好きな人たちと同じ景色を見たい。
そんな夢を中盤で叶える。
この作品のテンポ感は素晴らしい。
1話1話で確実に物語が進み、どんどんと時系列が変化していく。
クノンが「眼」を手に入れる展開も、かなりあっさりしている。
1話からの目標があっさりと叶った感じはあるのだが、
本作はその感動だけで終わらせず、「異常事態」として笑いに変えてしまう。
初めて見る自分の顔と同時に、彼は自らの背後にいる
「巨大な蟹」と出会う(笑)
普通の人には見えない謎の存在、自らの背後には蟹が、
兄には翼が生え、父親は霧のようなものに包まれ、師匠は光り輝き、
メイドの頭にはツノが、自然の景色もどこかどんよりしている。
見えているはずなのに、なにかがおかしい。
とんでもない新しい世界に、クノンも見ている側も戸惑ってしまう。
このあたりの描き方も本作らしい。
夢が叶った感動をしっかり描きつつ、それを重くしすぎず、
クノンの見ている世界の異様さで一気に空気を変えてくる。
シリアスとギャグのバランスが、かなり独特だ。
別れ
主人公は1話の序盤では、一人で歩くことすら難しかった。
多くの人に支えられ、多くの人と出会って今がある。
彼には多くの可能性、未来がある。だからこそ、そこには「別れ」もある。
最初の先生たち、師匠、家族、長年付き従ったメイド。
ずっと同じ環境で、ずっと同じ生活をし続けることもできる。
だが、彼は進むことを選んでいる。それは成長であり、
子供だったクノンが大人へと一歩進んでいる証でもある。
眼を得て、新たな世界を知り、別れを経て、新たな出会いを得る。
そしてまた魔術の深淵へと至る。
常に女を口説き、ユーモアな言葉をささやきながら(笑)
なろう的なテンプレート展開はある。
実技試験で実力を見せる展開などまさになのだが、
そんなテンプレ展開でさえユーモアに溢れており、
嫌味さが一切ない。
主人公がブレないからこそ、状況が変わっても面白さもブレない。
また、会話劇中心だからこそテンポの良さも重要だ。
本作は1話ごとの区切りがよく、成長、出会い、別れが小気味よく描かれていく。
派手なアクションで見せる作品ではないが、
物語の進み方に停滞感が少ないのは大きな魅力だ。
派閥
終盤でクノンは学校に入るのだが、そこで彼を巡って派閥争いが発生する。
4つの派閥が4人の美女をクノンのもとに派遣し、
クノンはクノンで全美女(一人除く)にYESと返事する(笑)
クノンの紳士ぶりから生まれるドタバタ劇が心地よい。
男性に対しては冷たく、女性には徹底的に甘い。
クノンだからこそのドタバタ劇と会話模様が面白い。
だが、そんなクノンに最大の敵が終盤で出てくる。
彼は女性には甘い。常に口説き、褒め称える。だが男には冷たい。
そんなクノンの前にもし「男の娘」が現れたら?
1クールのラスボスである(笑)
体は男、心は女、そんなラスボスにクノンはどうするのか。
ぜひ、刮目していただきたい。
この終盤の展開は、本作のギャグセンスがよく出ている。
クノンの女尊男卑な紳士ぶりをここまで積み重ねてきたからこそ、
「男の娘」という存在が最大の難敵になる。
このくだらなさと真面目さの混ざり具合が、実にこの作品らしい。
総評:男の娘がラスボス!?
全体的に見て、とても楽しい作品だ。
「クノン」という盲目な主人公が1話から多くの出会いを経て、
成長していく。そんなシンプルな物語であり、
魔王を倒すわけでも勇者になるわけでもなく、ろくに戦闘もしない。
それでも、ユーモア溢れる紳士となった主人公が、
軽口を叩きながら女を口説きまくる会話劇だけでしっかりと面白い。
その会話劇が心地よく、クスクスと笑わせてもらえる。
1話1話でマンネリを感じさせないハイテンポなストーリーになっており、
いわゆるなろう系なテンプレ展開はあるのだが、
そのテンプレすらクノンがユーモアたっぷりに見せてくれる。
その中できちんとクノンの成長と変化が描かれており、
シリアスな状況でありながら重苦しく感じさせず、
サクサクと進む物語を1クールたっぷりと味わえる。
作画こそお世辞にもいいとはいえないものの、
本作は派手なアクションや作画の迫力で見せるタイプの作品ではない。
会話劇とキャラクターの掛け合いが中心だからこそ、
一定の水準を保っていれば大きな欠点にはなりにくい。
クノンを演じる早見沙織さんの演技もあいまって、
クノンという主人公を好きになれる作品だ。
1クールでは、まだまだ話が続くというところで終わっており、
クノンの魔法で作り上げた眼で見える謎の存在も謎のままだが、
続きが見てみたいと感じさせてくれる作品だった。
個人的な感想:時代に逆らう主人公
昨今は男女平等だなんだと色々と言われる社会だが、
そんな現実社会とは打って変わって、女尊男卑を貫く主人公だ(笑)
クノンという主人公を1話で好きになれるか、笑えるか。
そこでハマれれば、1クールそれをたっぷりと飽きずに味わうことができる作品だ。
クノンが魔法で作り出した眼で見えていた存在は何なのかなども、
シンプルに気になるところであり、残念ながら2期は決定していないものの、
ぜひアニメで続きが見てみたくなる作品だ。
異世界転生でチートでヒャッハー!ななろう系は配信では人気になりやすいが、
こういう会話劇で見せる作品が盛り上がらないのはもったいない。
派手さはない。だが、主人公の魅力と会話劇の楽しさはしっかりある。
こういう作品こそ、もっと見つかってほしい。
もし、このレビューを見て気になった人がいたならば、
一人でも多くの人にこの作品を見ていただきたいところだ。



