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ディレクター(を)カット版「チェンソーマン 総集編」レビュー

4.0
チェンソーマン総集編 映画
画像引用元:©藤本タツキ/集英社・MAPPA
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評価 ★★★★☆(60点) 全210分

TV‌ア‌ニ‌メ‌『チェ‌ン‌ソー‌マ‌ン』‌ティ‌ザー‌PV‌

あらすじ 「チェンソーの悪魔」ポチタと共にデビルハンターとして暮らす少年デンジ。親が遺した借金返済のため、貧乏な生活を送る中、裏切りに遭い殺されてしまう 引用- Wikipedia

ディレクター(を)カット版

原作は週刊少年ジャンプで連載していた漫画作品、
本作品はTVアニメの「チュンソーマン」を再編集したものであり、
AbemaTVで配信された。後日、Netflixなどでも配信予定。

ドラゴン

TVアニメ版のチェンソーマンの評判は賛否両論だった。
ごまかさずに言うならば「否定」的な意見が多かった。
その多くは演出面での力不足だ。

作品全体のテンポ感も悪く、陰鬱な雰囲気が漂い、
決定的なシーンすらもさらっと流してしまう。
そんな演出の悪さや、原作からの細かい改変があまりにも多く、
削られた台詞の数々、改変された台詞の数々の違和感、
更に声優の演技も抑え気味だった。

カメラワークも露骨におかしく、
アップにしてほしいところを引きの画で見せたり、
戦闘シーンの演出やカメラワークのおかしさは顕著だった。
そういった部分で賛否をうみ、まるで実写邦画のような
作品づくりとチェンソーマンという原作の相性の悪さが際立っていた。

そんな作品を総集編としてあえてやる。
尺は3時間34分、総集編の割には長い。
もともと1クール全12話、OPEDをのぞき
1話20分だとして240分、4時間ほどの作品だ。
あまりがっつりとはカットされていない。

それなのに総集編をやる、一挙放送と何が違うのか?と
疑問に思っていたのだが、これは総集編ではない。
リビルド、再構築だ。

テンポ

明らかに変わったのはテンポだ。
細かくシーンをカットして繋いでいる部分があり、
比較してみないと気づかないレベルなのだが、
長回ししていた部分を長回せずに場面をつなぐことで
異様なまでのテンポ感が生まれている。

TVアニメの1話はデンジがチェンソーマンになり
マキマさんと出会い、マキマさんに飼われるまでが描かれていた。
そんな内容が23分ほどかけて描かれていたが、
この総集編では17分しかかかっていない。恐るべき速度だ(笑)

背景の長回しをやめるだけで、ここまで違うのかと驚くほどだ。
会話、セリフとセリフの余計な間も極力狭めており、
だからこそ会話が非常にリズミカルだ。それゆえに「ギャグ」も冴える。
一部のセリフもきちんと原作準拠にわざわざ再収録されており、
作品全体が醸し出す雰囲気、印象もかなり変わっている。

カメラワーク

TVアニメでは死んでいたカメラワークもかなり改善されている。
無駄に引きの絵が多かったのが特徴的だったが、
そういった引きの絵が意図的に排除されており、
アップで迫力のあるダイレクトな戦闘描写がぐっと増えている。

ちょっとした違いではあるものの、そのちょっとした違いが大きい。
銃の悪魔の被害者数の紹介など、本当に細かいところなのだが、
それがあるとないとでは印象が違う。

戦闘シーンが面白い、それだけでチェンソーマンという
作品に対するイメージがだいぶ変わる。
カメラワークもそうだが、細かい演出周りもだいぶ変わっており、
音響面での印象の変化もわかりやすい。BGMの変化や追加など、
「シーンを盛り上げる」ための演出がきちんとある。

TVアニメ版は逆にシーンを盛り下げる演出があまりにも多く、
それが賛否両論を生む原因でもあったが、総集編は違う。
戦闘シーンにしろ、ギャグシーンにしろ、日常シーンにしろ、
何もかも印象が変わっている。

演出の大切さ、印象の変化というものを総集編とTVアニメで
奇しくも学べてしまう作品になっている。
アニメーション、作画自体は同じだ。
だが、ちょっとカメラワークを変えるだけで、
ちょっとBGMやSEを追加するだけで乾いていたチェンソーマンという作品に
血が通ったような感覚になる。

端的に言えば「エンタメ」にきちんとなっている。

ドラゴンカット

クレジット表記すらなくなったTVアニメの監督の
「自己満足」だった部分を大量にカットしている。
終盤での「岸辺のシャドーボクシング」や
「早川アキ」のモーニングルーティンなど、わかりやすく、
明らかに冗長だったシーンをカットしている。

演技の部分もかなり変わっている、
前監督の指導だったのか、TVアニメでは全体的に演技が大人しかった。
しかし、総集編では再録した演技がかなりハイテンションになっている。
特に「未来の悪魔」は超ハイテンションだ(笑)

そんなハイテンションさが1番わかるのがラストバトルだ。
チェンソーマンとサムライソード、二人のバトルの中で「OP」が流れる。
オタクはTVアニメの最終話でOPが流れる演出が大好きだ、
この作品は本当に「肝」という部分をしっかりと抑えている。

もちろん前監督の匂いを完全に脱臭しきれたわけでもない、
だが、可能な限りTVアニメで不評な部分を取り除き、
改変した総集編は思わず「これがみたかったんだ」と
叫びたくなるような作品に仕上がっていた。

総評:前の監督はチェンソーの悪魔に食べられました

全体的に見て総集編とは名ばかりであり、ほぼ再構築に近い内容になっている。
TVアニメ版の1クールの内容を本当に細かくカットすることで
ストーリーのテンポを上げており、セリフの再録、音響周りの改善、
戦闘シーンの改善など、総集編とは名ばかりの改変の数々が見れる作品だ。

なぜTVアニメのチェンソーマンは不評だったのか。
それが総集編を観ると非常にわかりやすい。
少しの違いではあるのだが、その違いがあまりにも大きい。
冗長なシーンをカットし、セリフのテンションを上げ、
BGMを追加する、それだけでここまで変わる。

演出の大切さというのがよく分かる。
TVアニメのチェンソーマンに不満を持っていた人も、ぜひ見ていただきたい。
乾いたTVアニメからうるおいまくった総集編への変化は
思わず見ていて笑ってしまうほどだ。

まるでチェンソーの悪魔に食べられてしまったかのごとく、
前監督がクレジットからも削除されてしまったのは
衝撃的であり、それほど社内も社外からも評判が芳しくなかったのだろう。
それを極力排除するための総集編、
ここから映画版に綺麗につなげたいという製作側の意思も感じる作品だった

個人的な感想:エンディング

エンディングが毎回変わるのもTVアニメ版チェンソーマンの
特徴だったが、それも排除され、印象的だったOPしか残っていない。
確かに毎話変わるというのは話題性にはつながるが、
それ自体は作品の面白さには影響しない。

ここまで前監督の存在を消そうとする作品はなかなかない。
ディレクターズ・カットというものがこの世には存在するが、
本来それは監督自身が編集したという意味合いを持つ。
だが、この作品は「ディレクター」をカットしたものになっている。

ここまで皮肉めいた作品になっているのはなかなかお目にかけない。
正直やり過ぎなくらいだ。
全てのシーンを作り直したならばともかく、
前監督が監督した映像を使いつつも前監督のクレジットは載せないというのは
ちょっと異様な気配すら漂ってしまう。

ただ、それでもこの違いは色々な意味で面白い。
同じ映像でも演出が違えば印象が変わる題材として非常に優秀だ。
映画に備えてTVアニメ版と比較してご覧いただきたい。

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