青春アニメ

遅効性毒入りミルフィーユはいかが?「うたごえはミルフィーユ」レビュー

3.0
うたごえはミルフィーユ 青春アニメ
画像引用元:©うたごえはミルフィーユ製作委員会
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評価 ★★★☆☆(57点) 全10話

TVアニメ『うたごえはミルフィーユ』第1弾PV|2025年7月放送決定!

あらすじ 高校一年生の小牧嬉歌は、歌うことが大好きだが極度の人見知り。軽音部に入部しようとしたが、尻込みして入部届を出せずにいた 引用- Wikipedia

遅効性毒入りミルフィーユはいかが?

本作品は女性声優による音楽プロジェクトにより生まれた
メディアミックス作品。
監督は佐藤卓哉、制作は寿門堂。
おそらく日本初のアカペラを題材にしたアニメ作品。

アカペラ

1話冒頭、アカペラで音を合わせているシーンから始まる。
軽音や吹奏楽、バンドなど色々なものがアニメでは描かれてきたが、
今作ではおそらく初めて「アカペラ」というものを題材にしている。

そもそも主人公は「軽音部」に入ろうとするのだが、
極度の人見知りで、軽音部の前で軽音部への
入部届を破り散らかすという暴挙に出る(笑)
歌うのは好きだけど軽音部に入ることができない、
そんな彼女の目の前に現れたのが「アカペラ部」の部長だ。

主人公の台詞回し、自己観察というものは卑屈だ。
常に自分というものを下に見て卑下するような言い回しを使う。
しかも思っていることが全部口に出る。
この主人公の描写はやや好みが分かれそうなところではあるものの、
部員の足りないアカペラ部に彼女は入ることになる。

印象的なのはBGMがかなり少ないことだ。
要所要所では流れるものの、おそらくあえて極力BGMというものを排除し、
アカペラというものを強調している。

1話の導入は非常に丁寧で自然な流れで主人公が
アカペラ部に入る過程が描かれている。
ただ2話以降でこの主人公含め、全キャラの性格の悪さがにじみ出てくる。

性格

主人公も卑屈な上に思ったことが口に出る性格だが、
他のアカペラ部の部員も「結」というキャラはプライドが高く、
部長は勝手に学校にフリーwifiを設置し情報を覗き、
副部長はそんな部長の信者である。厄介なやつしかいない。

2話ででてくるYouTuberもどきも悪気なく悪口が出るタイプであり、
どのキャラもあまり好感が持てない。
それはキャラクター同士もそうであり、2話以降ギスギスしっぱなしだ。
主人公がリードボーカルに選ばれたことで「結」はブチギレだ。

「はぁ?」
という言葉とともに顔を歪ませ不満を大爆発させる。
自分が1番うまいのに、自分がリードすべきなのに、
アカペラ部の顔なのに、自分が選ばれないという不満。
それを露骨にあらわにする。

その後も嫌味たっぷりである。
このギスギスっぷり、性格の悪さを見る側がどう受け取るかで
この作品に対する感想も大きく変わってきそうだ。
それほど人を選ぶという感覚がつきまとう。

そのハードルの高さはあるものの、ストーリーは悪くない。
主人公は卑屈だ、自分を常に下にみて、自分が好きじゃない。
そんな彼女だからこそ他人のトラウマに、他人の欠点に、
他人が抱えている心の問題に寄り添うことが出来る。
同じ立ち位置で、同じレベルで、彼女は人の心に一歩踏み出す。

それは決してキラキラな「陽キャ」にはできないことだ。
「陰キャ」な主人公だからこそ、同じ「影」をもつものに寄り添うことができ、
心の傷を少しだけ癒やし、自分に立ち向かえるようにしてくれる。
序盤の時点では彼女は主人公感が薄いのだが、
中盤で一歩踏み出す彼女の「成長」が感じられる。

主人公には友達もいない、おしゃれなカフェにも入ることができない。
だが、「声が低い」ことで悩む「熊ちゃん」のために、
彼女は一歩を踏み出す、他人のためであると同時にそれは自分のためだ。
自分自身がアカペラ部に入り、一歩踏み出して変わっていることを感じるからこそ、
「熊ちゃん」にも変わってほしい、そのために主人公自身は一歩また踏み出す。

自分では気付けない自分の魅力、それに主人公自身が気づきつつあるからこそだ。
話のテンポはかなり遅く、中盤の4話でようやく部員が揃い、
5話で発表会に出るという流れになる。
全10話ということを考えても、ややテンポは悪い

アカペラ

アカペラは非常に難しい、誰かが下手であれば調和が乱れる。
逆に誰かがうますぎても調和が乱れる。ようはバランス、協調性の問題だ。
自分だけが先行しすぎっても遅すぎてもいけない、
周囲の音、空気を読み合わせる。その意識が大切だ。

その能力だけは主人公に長けている、陰キャだからこそ、
自分に自信がないからこそ、その場所に、周囲に馴染み、目立たないようにする。
それは欠点と彼女は捉えているものの、アカペラにおいては貴重な
「協調性」へとつながる。

アカペラというものを通じ合いながらキャラクターの内面を描き、
キャラクター同士の関係性を描き、それぞれが成長しながら
「アカペラ」という協調性、ハーモニーを生み出す。
そのハーモニーを奏でるのは6話だ。

一人を除いて満足を感じてる演奏だ。
だがプライドの高い「結」だけは満足できない。
ここまで溜め込んできた毒が中盤を越えて爆発する。

完璧

それぞれが追い求めるアカペラがある。
楽器のように調整できない、人の声で奏でるアカペラには
完璧な演奏というのは存在しない。完璧な人間などいないように、
その不完全さを楽しむのがアカペラでもある。
二度と同じ演奏はできないのがアカペラだ。

自分の欠点を見つめ直し、何がだめだったのかを考え、改善する。
ここで踏みとどまり、諦めることも出来る。
だが「1歩」を踏み出してきたからこそ今の彼女たちがある。

メインキャラクターたちは色々と問題を抱えている、
それが簡単に解決するわけではない。
だが、全員が1歩踏み出し「歩み寄る」ことで完璧に近づく。

自分に自信がなかった少女たち、他人に誇れるものがなかった少女たちが、
自らの毒を、他人の毒をくらい、受け入れる。
「結」という才能のある天才、そんな才能に彼女たちは頼ってアカペラをしている。
だが、それでは駄目だ。
天才の毒、指摘にきちんと向き合う。

毒を食らわば皿までの精神で彼女たちが逃げずに立ち向かい、
それが自然と自らの中にある欠点という名の毒を受け入れることにもつながる。
「結」も自分の中の毒、傲慢さを受け入れる。

きちんと彼女たちの変化と成長が「アカペラ」に現れる。
中盤と終盤のアカペラは別物だ。
目と目を見て、心のなかで手をつなぎ、6人の協調性が1つになる。

そんな協調性が生まれたのに最後の最後で毒が大爆発する(笑)
最後の最後にとんでもない毒を撒き散らし、最後の最後まで
ギスギスしている、とんでもないアニメだった。

総評:毒を喰らわば皿まで

全体的に見て全10話で起承転結スッキリとまとまっている作品だ。
物語の流れとしてはベタな部活動ものではあるものの、
その流れの中に潜まれた「毒」が徐々に顔を出し始め、
中盤と終盤で大爆発する展開はこの作品だからこその魅力があり、
1度見ると忘れられない作品だ。

序盤はメインキャラ達の性格の悪さが気になる部分があるものの、
その性格の悪さという欠点、毒をメインキャラ同士が受け入れ、
見事なミルフィーユを積み重ねる姿は青春ドラマとして美しく、
ややギスギスしているものの、そのギスギスが心地よく感じるほどだ。

アカペラの変化も素晴らしく、中盤と終盤できちんと
彼女たちの歌声が変化し、協調性のあるアカペラになっていることを
耳で感じさせてくれるのも素晴らしい。
全10話という変則的なストーリー構成ではあるものの、
それゆえに変にダレずにまとまっている作品だ。

ただアニメーションとしてはかなり地味だ。
基本的に会話劇であり、その会話劇でこった演出というのがあるわけでもなく、
あえてでは有ると思うがBGMが少ないことで余計に地味さが際立つ。
いざアカペラのシーンになっても棒立ちで歌っているだけなので
その地味さは変わらない。

アニメーションという表現においての地味さはあるものの、
ストーリーはストレートに面白く、
1話切りや3話切りではなく、遅効性の毒が効き始めるまで
ぜひ見ていただきたい作品だ。

個人的な感想:部活

こういった部活や趣味系のアニメはここ数年のはやりでもあったが
まだまだネタはつきないようだ。
合唱は過去にもあったが、今回はアカペラ、次は一体何がでてくるだろうか。

バンドアニメというのはジャンルとして確立しつつある感じがあるが、
アカペラアニメが今後も出てくる可能性は果たしてあるのだろうか(苦笑)
声優というものを活かすという意味ではアカペラ自体は悪くない、
バンドアニメやアイドルアニメなどは楽器の演奏やダンスの負担が有るが、
アカペラはそこの負担がない分、やりやすいかもしれない。

今後、第二、第三のアカペラアニメがでてくることを
個人的には期待したいところだ。

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