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「名探偵コナン ベイカー街の亡霊」レビュー

3.0
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評価 ★★★☆☆(58点) 全107分

劇場版 名探偵コナン #006 ベイカー街の亡霊 予告

あらすじ 江戸川コナンたちは新型仮想体感ゲーム機「コクーン」の完成披露パーティーを訪れるが、ゲームの開発者である樫村忠彬がIT企業社長のトマス・シンドラーに刺殺される。引用- Wikipedia

禁忌を犯したコナン映画

本作品は名探偵コナンの劇場アニメ作品。
名探偵コナンとしては6作品目となる映画作品。
監督はこだま兼嗣、制作はトムス・エンタテインメント

自殺

名探偵コナンという作品は、最近では多くのファンを獲得しており
ファン層も拡大し、子供向けな作品から大人も楽しむ作品へと変わっている。
しかし、今作の上映当時である「2002年」の段階では
まだ「子供向け」という印象の強い作品だ。
そんな作品でこの作品は「2つの禁忌」を犯している。

映画が始まって早々に「日本語字幕」で海外を舞台に物語が展開される。
10歳の少年は天才プログラマーとしてニュースになるほどの人物だ。
そんな人物が「自殺」するところから物語が始まる。強烈なインパクトだ。
子供向けの作品で「子供の自殺シーン」から始まる作品があるだろうか?
少なくとも私は知らない。

子供向けの作品で「自殺」シーンを描くというのも禁忌であり、
かなりセンセーショナルなシーンだ。
一緒に見に行ってる親御さんもびっくりするような始まり、
自殺した少年とコナンがどう絡み、同ストーリーが展開していくのか。
否が応でも期待感は強まる。

未来

2022年現在、この映画が上映してから20年後の今は
VRが当たり前のように存在し、身近なものになっている。
そんな今でこそ当たり前の「VRゲーム」をこの作品は題材にしている。
あまりにも「未来」を描いた作品とも言えるかもしれない。

今でこそ.hackやソードアート・オンラインなど今でこそ仮想空間の中の
ゲームのプレイヤーがログアウトできず、ゲームの内のキャラが死ねば
現実のプレイヤーも死ぬという設定の作品も少なくないが、
この作品はいわゆる「ログアウトできないデスゲーム」の先駆けだ。

映画の冒頭で自殺した少年が開発した「AI」が
50人の子供が遊ぶVRゲームを支配し、子どもたちを人質に取る。
誰かがゲームをクリアしないとゲームからログアウトできないどころか
生きて変えることも出来ない。

物語の舞台設定が必然的に緊張感を生む設定になっており、
ミステリーでありながら、サスペンスであり、デスゲームという
この作品だからこその舞台設定になっている。
果たして子どもたちだけでゲームをクリアすることができるのか、
ゲームを支配した「ノアズアーク」の目的はなんなのか。
同時に現実で置きた殺人事件とゲームはどんな関係があるのか。

現実の殺人事件自体は誰が犯人なのかは見ている側には明らかになっている。
いわゆる「倒叙形式」で描かれている。
犯人はわかってはいるものの、被害者が残したダイイングメッセージをもとに
コナンは自らゲームの世界へと乗り込んでおり、
ゲームの世界にどんな証拠があるのか気にならせてくれる。

ゲームの世界

コナンたちが入り込んだのは「ゲームの世界」だ。
それゆえにコナンのいつもの博士の道具が使えない。
キック力増強シューズも、蝶ネクタイ型変声機も使えない。
現実の世界ではコナンのアクションを支える便利な道具が
ゲームの世界では一切使えないハンデを追ってしまう。

ただの子供だ。頭脳は高校生探偵ではあるものの、
身体自体は子供でしかない。
「ジャック・ザ・リッパー」という殺人犯を追いながら多くの危険がそこにはある。
一歩間違えばゲームの中とは言え死ぬ。
誰かがクリアしなければ全員死んでしまうゲームの中で死ぬことは最大のリスクだ。

この作品はコナン映画、いや、シリーズもののTVアニメにおける「禁忌」を犯している。
シリーズもののTVアニメの場合は大抵、本編には関係のない
映画オリジナルキャラクターが出てきて、そのキャラ絡みのストーリーが展開する。
苦戦はするものの、メインキャラが「死ぬ」ということはない。

本編に影響を与えてしまう要素であるがゆえに、
シリーズもののTVアニメの映画において「キャラの死」というのは
描くことの出来ない禁忌だ。そんな禁忌をこの作品は犯している。

ゲームの世界では有る、最終的に助かるのは大人ならば予想できる。
だが、物語の中で話しが進めば進む無ほどメインキャラクターたちが
「仮想的な死」を迎える。
元太たち少年探偵団が、灰原が、そして「蘭」が。

子供向けであるがゆえにゲームの中という設定だからこそ
流石にメインキャラ達が刺されたりうたれたりしても
「血が出る」と言うことはない。
しかし、それでもメインキャラクターの死が描かれる衝撃がこの作品には有る。

シャーロック・ホームズ

コナンたちがプレイするゲームは「シャーロック・ホームズ」の世界のものだ。
実際の未解決事件である「切り裂きジャック」事件、
そんな事件をコナンがシャーロック・ホームズが不在の中で解決する流れだ。

ただ、この流れ自体は淡々としている部分が多く、
「シャーロック・ホームズ」という作品自体を知っていると
原作の世界の再現という部分もあり楽しめる部分もあるのだが、
コナン映画ならではの設定や解釈を持ち込んでいる点もある。

「シャーロック・ホームズ」自体が外出中という設定のため
シャーロック・ホームズとコナンの夢の共演という感じでもなく、
申し訳ない程度に最後ホームズが出るくらいだ。

事件に関しても、本来は現実の事件を解決するために
「コナン」がゲームの中に入り込んで捜査をしているはずなのに、
ほぼほぼコナンの父が解決してしまっており、
「なんのためにコナンがゲームの世界に入ったんだっけ?」という感じになってしまっている。

ゲームの中の事件、「切り裂きジャック」事件に関しても
見ている側へのヒントはほぼ無い。
あまりミステリーとしてうまく作られてるとはいえず、
「雰囲気」は素晴らしいのだが、作品の要素が噛み合っていない部分が多い。

VRデスゲーム、現実での事件、ゲームの中での事件、
シャーロック・ホームズ要素などもう1歩掘り下げたら
面白くなる部分を掘り下げきれておらず、
舞台装置でしか無くなってる部分も多い。

世襲制

この作品は色々と挑戦的な要素が盛り込まれているが、
その1つが「風刺」的な要素だ。社会派なコナン映画ともいえるかもしれない。
映画冒頭から出てくる「お金持ち」や「政治家」の息子たち。

彼らはいわゆる「悪ガキ」だ。
親の傘の下で育った彼らは成長したら親と同じ職に付き、
同じように腐った政治や金に物を言わせるようなことをするような大人になる。
「世襲主義」に対する批判だ。

そんな彼らが親の力の及ばぬVRゲームの世界の中で変わっていく。
ときにはコナンたちに守られ、「命」を考え、
「自己犠牲」を厭わぬ子供の変わっていく。
彼らが親の力という武器を失って初めて自分自身と向き合い、
自分自身の力だけでなんとかシナケラばならないという状況での
成長はこのゲームの主催者である「ノアズアーク」の目的でも有る。

彼を作った「ヒロキ」は日本の教育の枠には外れてしまう子だ。
だからこそ彼は自身の力を最大限に発揮できる海外へと行ったものの、
母はなくなり、父とも離れ離れという状況でたったひとりだった。

この作品は「親子の愛」も描いている。
それを表すようにこの作品には工藤新一の親である
「工藤優作」も出ており、現実世界からコナンをバックアップしている。

親の愛、親の力はどれくらい子供に与えればいいのか。
過保護であればあるほど金持ちの息子たちのようにひねくれ、
逆に適度な距離感で接すればまっすぐに育ち、
逆に接しすぎなければ子供は未熟な自分を支えきれない。

様々な「親子」の形をさり気なく描いており、
同時に世襲主義や日本の教育に関する批判も描いている。
てんこもりだ(笑)
大人が見ると「こんな難しい内容を子供向けアニメに盛り込んでるのか」と
やや驚いてしまうほど社会性に溢れた作品になっている。

ジャック・ザ・リッパー

ただ、その一方でやはりミステリー部分は雑だ。
根塊の犯人の動機は自分自身の先祖が「殺人鬼」であることを
バレたくなかったことが原因だ。

これが、自分自身の親や兄弟などの親しい近親者であることならば
社会への影響を考えればいわれのない批判を受けたりするかもしれない。
しかし、100年前以上に存在した先祖だ。
自分自身の親の親の親くらいの人物が殺人鬼だったことが
世間にバレてもどれくらいの影響があるのだろうか???

コナン映画の犯人の動機はぶっとんでる物が多いが、
この作品の犯人の動機はぶっとんでるというより
いまいち納得しきれない感じだ。

全ては手のひらの上

序盤でコナンは謎の人物に出会っている。
その人物が歌っている歌の歌詞が終盤でコナンが助かるヒントになっている。
しかし、これも突っ込みどころだ。
この人物自体は「ノアズアーク」がコナンを助けるために仕込んだ人物だ。

そう考えると「ノアズアーク」はコナンたちの行動を予め
ゲーム開始時点から全て予測した上で、ラストにこうなることもわかった上で
コナンにヒントを出したことになる。全ては手のひらの上だ。
いくら優秀なAIといえどちょっと優秀すぎだ。

彼自身の目的と「子供心」と最後は悪くないものの、
作品全体として細かい粗が目立っている作品だった。

総評:あまりにも先見の明がありすぎるコナン映画

全体的にみて非常に未来を見据えた作品だったと言える。
今も続く世襲制、人工知能、VRゲームでのデスゲームという設定など、
2022年に見ても通ずる内容になっており、
「映画」だからこそ、海外に行けないコナンが仮想空間の中の
ロンドンの中で事件を解決するというストーリー自体は面白い。

メインキャラ達もどんどんと死んでいく展開は緊迫感あふれるものであり、
「親子」というものに焦点をおいたストーリーは
今も色あせない面白さのある作品だ。

その一方で犯人の動機や、この時代の子供向けコナン映画としては
子供の自殺シーンや社会風刺のような要素など難解なものも多く、
細かいツッコミどころも多い。

AIの動機や子供らしい行動は分かるものの、未来予知に近い部分や、
彼が「プレイヤー」として混ざってしまったため、
彼が変えようとしていた「世襲制」の影響を受けている子供の1人が
何の成長もなく終わってしまっている点など気になる点も有る。

しかしながら、いつものコナン映画とは違う舞台設定で、
いつもと違う雰囲気あふれるこの作品は
多くのコナンファンの印象に残るのも納得の作品だった。

個人的な感想:元太

この作品を見る度に元太が消えるシーンで笑ってしまう。
あのシーンはMAD動画で散々見たこともあり、
更にはフィギュア制作もされている(笑)

シリアスなシーンのはずなのに消える描写と相まって
妙に見る人の心をつかむコナン映画屈指の
名シーンなのかもしれない…

「名探偵コナン ベイカー街の亡霊」は面白い?つまらない?

この作品をどう思いましたか?あなたのご感想をお聞かせください

  1. たこ より:

    俺の中では1番のコナン映画なんだけどな〜
    好みは別れるね