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「サイバーパンク エッジランナーズ」レビュー

5.0
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評価 ★★★★★(91点) 全10話

『サイバーパンク: エッジランナーズ』予告編 – Netflix

あらすじ 日系企業アラサカなどの巨大企業に支配されたディストピア都市ナイト・シティ。そこに暮らす少年デイビッドは、富裕層向けの学校で浮いた存在だった引用- Wikipedia

さぁ!狂え!

原作はゲームな本作品。
ゲーム自体はPS4ではバグが多く返金騒動が起こったことで話題になった。
監督は今石洋之、制作はTRIGGER

ヒャッハー!

1話冒頭からキビキビとした「TRIGER」らしいアニメーションを見せてくれる。
警察に対してたった一人で向かう大男、
「サイバーサイコシス」と呼ばれる存在は狂ったように警察を殺す。

銃弾の嵐、爆破の嵐、飛びだす血液。
たった一人の男が大勢の警察をただひたすら殺す。
その中で体に搭載された「インプラント」が起動する。
脳に作用するそれは周囲の時間を遅く感じさせ、
まるでときが止まった中を動けるように動くことができる。

サイケデリックなカラーリングで描かれるガンアクションは
もうニヤニヤが止まらない。
面白いアニメが始まる、トリガーのアニメが始まる、
今石洋之監督のアニメが始まる。
アニメが好きならばこんな期待感を煽る1話を楽しめない人はいないだろう。

そんな中で主人公は「脳」の情報を楽しんでいる。
BDと呼ばれるそれはある種の「ドラッグ」だ。
他者の脳のデータを利用し、自分がまるでその脳のデータの
持ち主のように楽しむことができる。

犯罪者の、快楽主義者の、一般人ならば味わえない
「ドーパミン」が過剰分泌しているような人間の
「脳」の快楽を直接、自らの脳に叩き込む。

サイバーパンクの名にふさわしい未来の世界、
だが、技術は進歩しても貧富の差は拡大しており、
サイバーサイコシスのように唐突に暴走するものもいる。

街並みは未来の世界だ、当たり前のように空を飛ぶ車が飛び、
人体を改造手術しているものも多いそんな世界。
だが、一歩裏路地へと足を踏み入れれば、
ドラッグにはまり狂っているもの、血液が地面にこびりつき、
サビと油と草の匂いが入り混じったような雰囲気を匂わせている。

「アニメーション」でそれを見て伝えている。
鼻腔に街の空気を想像し感じてしまうほど、
「今石洋之」監督らしい世界観の描写がたまらない。

主人公はどこか擦れた悪ガキだ。
それでも母子家庭でお金があまりない家庭だからこそ、
母を気遣い旧式のデバイスを使っている。
母のためにも学校に通うよりも働いたほうがいいのではないか。
擦れてはいるものの、親への愛は感じる少年だ。

金がなければ何もできないことを少年は知っている。
金さえあれば母が死ぬことはなかった。
金さえあれば格闘チップを入れて同級生との喧嘩に勝つこともできた。

全ては金がないせいだ。
主人公であるデイビットが「金」の大切さを知る1話、
泥臭く、世知辛く、血みどろのこんなくそったれな世界で
少年はたったひとりになってしまう。
キャラクターを精神的に追い込む容赦のない展開、
追い詰められたからこその「行動」にニヤニヤしてしまう。

デイビッドは改造人間である!

彼は追い詰められたあげく、「サイバーサイコシス」になった犯罪者の
「インプラント」を自らに埋め込む決意をする。
軍用のインプラントは強力ではあるものの、合う合わないが激しい。
一歩間違えば自らもサイバーサイコシス担ってしまう危険性をはらんでいる。

だが、彼はそんなことよりも「母の名誉」を守る決意をする。
母を侮辱した存在を、母が死ぬきっかけになった事件を起こしたものを、
「金」が大事なこの世界で、彼は「名誉」を守ろうとしている。
名誉を守るために全てを失った少年、そんな少年は「自殺」まで考える。

そんな中で彼は「泥棒のお姉さん」と出会う。
ボーイミーツガール、少年はお姉さんと出会うことで
人生が変わっていく。
何が起こるかわからない、どういうストーリーが展開するかわからない。
1話、2話と話が進めば進むほどこの作品を見ることをやめられない。

まるで「BD」というサイバードラッグにはまる
この世界の住人のように、我々も
「デイビット」という人物の脳のデータを体験しているような
そんな感覚にさせてくれる映像美が見る側のドーパミンを
ドバドバと分泌させてくれる。

サイケデリックな色彩で最高に狂ったアクションの数々、
予想できないストーリー展開がたまらない。
初めて飲む酒、タバコの煙も苦手な少年は、まだ子供だ。
たとえ軍事用のインプラントを入れても、泥棒になっても、
彼は親を失ったばかりの少年だ。

そんな少年は自分の気持ちを吐露するように、
泥棒である「ルーシー」に自分の過去を、気持ちを吐き出す。
母でさえ完全に理解しきれなかった思い、
彼自身のすさんだ心を救うようにルーシーが問いかける。

アクションがないシーンの日常のちょっとした会話でさえ、
セリフのセンスの切れ味が半端なく、
それがキャラクター描写に繋がり、魅力につながる。
蠱惑的な魅力を持つ「ルーシー」、そんなお姉さんに
あっさりと裏切られる(笑)

チャンス

信じていたお姉さんに裏切られ、彼は再び傷心する。
だが、それでもなお、彼はチャンスをつかもうとしている。
このくそったれの世界で、母もいなくなった世界で、
自分が何をできるのか、何をなすことができるのか。
彼は模索している。

彼に対して厳しい大人や同級生も多い。
だが、このくそったれの世界で彼は「頼れる大人」に出会う。
サイバーパンクの奴らに、ルーシーというお姉さんに、
仲間に出会うことで少年は希望を見出していく。

暴力表現だけでなくセクシーな表現もふんだんに含まれているものの、
そこは「今石洋之」監督だ。
エロではなく、そのセクシーな表現をギャグとして取り込んでいる。
街中で「自慰行為」をしているものが当たり前のようにいたり、
敵キャラの股間をもみもみするキャラがいたり(笑)

Netflix配信だからこその規制のゆるさが
今石洋之監督らしい下ネタギャグを作り出しており、
シリアスかつ血まみれなこの世界のいいコメディリリーフになっている。
ちょっとした日病描写でさえ狂って血にまみれている。

見ている側を飽きさせない刺激まみれのシーンの数々が
見る覚醒剤のごとく見る側の脳を刺激していく。
全10話だからこそ細かいストーリーはダイジェストで描かれるが、
このダイジェストになってるストーリーも、
1話1話しっかりと見たいと感じさせる魅力がこの作品にはある。

恋心

そんな中でのルーシーへの恋心。
騙されたとは言え、自分がやることができるきっかけになった存在であり、
自分の気持ちを理解し、すさんだ心を癒やしてくれた彼女に
主人公はほのかに恋心をいだき始める。

自分のために、彼女のために、仲間のために、
彼は「強く」あろうとする。
彼女よりも強く、彼女よりも前に走るために、
自らの身体を鍛え、インプラントを組み込み、強くなろうとする。
男の子だ。

思春期の男の子の恋心と野心、デイビットが
自らを自己確立していく過程がたまらない。しかし、この世界は平和ではない。
一歩間違えばあっさりと命が奪われる、さっきまで喋っていた
仲間が狂った街のやつらに簡単に殺される。

そんな仲間を助けるために自らの手を血に染める。
銃を握ることをおそれ、銃弾を撃つことに抵抗感のあった少年が
仲間のために引き金を引く。
少年が恋したお姉さんの願いを叶えようとする。

「俺が月に連れて行くよ!約束する!」

ロマンチックな告白、大切なものができたからこそ、
自分も誰も死んでほしくないと願う。
だが、彼がつけているインプラントはいつ暴走するかわからないものだ。
いつ自分がサイバーサイコキスになるかわからない、
それでも自分は特別だ、自分は大丈夫だと、
思春期の少年だからこその自己の特別視が彼の中にはある

そんなご都合主義などこの世界には存在しないのに。

サイバーサイコシス

底辺で生きている人間は生きるためにも自らを改造しなければならない。
インプラントをうめこみ、人よりも強い力で、感覚で、
人とはいえないことを成し遂げている。しかし、そこにはリスクもある。
使えば使うほど、インプラントを入れれば入れるほど、
自らの「精神」、人としての魂が蝕まれていく。

デイビットが入ったサイバーパンクのボスである「メイン」も同じだ。
彼は生きるために強さを求め、どんどんとインプラントを注入し、
薬に頼りなんとか精神を保っている。だが、限界はある。
この世界は誰も特別ではない。

自分は大丈夫だ、自分は特別なんだ、自分はやれる。
そんな「慢心」が人を狂わせる。
主人公は本当は誰も失いたくない、誰も殺したくはない。
ただ普通に母と生きたかっただけだ。
しかし、それをこの世界は許さない。

多くの仲間を失った「メイン」はもう限界だ。
それを自らしり、自覚し、自らの後を継ぐ者としてデイビットに全てを託す。
特別だと、すごいと、尊敬していた存在が死ぬ光景を
目の前にし、少年は変わる。

人の死によって人は成長する。
母が、父代わりと言える存在を失ったことでデイビットは
初めて大人になる。

大人になるということ

少年は成長し大人になる。
精神的な落ち着き、サイバーパンクのリーダーとしての才覚を表し、
それだけでなく「肉体」も変化している。
普通の人間としての成長ではない、力を求め、メインのようになることを求め、
彼は自らの肉体を改造している。

序盤からやたら主人公のシャワーシーンが目立つ作品だ。
筋トレですらシャワーをしながら行っていた。
そんな少年がおとなになり、7話でシャワーを浴びるシーンは衝撃だ。
体格も、筋肉も、体を構成しているものも何もかも違う。
序盤のシャワーシーンが7話で生きてくる。

子供の頃は母の夢を、おとなになってからはメインの夢を。
彼は他人の夢を背負い続けている。
背負えば背負うほど追い込まれ、サイバーサイコシスになる危険性も増えていく。
誰かを殺せば殺すほど、本当は誰も殺したくない彼の精神が蝕まれる。
もう戻れないところに来てしまっている。

何かを成し遂げるまで、死んでいった者たちのために
「特別」でなければならない。
特別であることの代償はあまりにも大きい。

全てを

終盤のデイビットの姿はおおよそ人の姿には見えない。
機械の体を身にまとい、まるで「ロボット」のようになる。
もう今石洋之監督とTRIGERの十八番全開だ(笑)
キルラキル、グレンラガン、パンティ&ストッキングwithガーターベルト、プロメア、今石洋之監督が手掛けた作品のすべてが
この作品には詰まっている。

面白くないわけがない。
くるちまった主人公、特別になろうとした少年、
他人の夢を背負い続けた男、限界を越えた先に、
たった一人の女を守るという自らの目的を成し遂げる。

彼は特別ではなかったかもしれない。
だが、ディビットとして自分の夢をかなえた。
たった一人の愛する女を守ることができた。
彼の最後はほろ苦さが残り、この作品にふさわしい
ラストに震えながら涙をこぼしてしまう作品だ。

総評:見ろ!味わえ!浸れ!この世界に!

全体的にみてとんでもない作品だ。
TRIGER、そして今石洋之監督の世界観がサイバーパンクの中で
全開に生きており、それを1話から10話まで200%感じさせてくれる。
これは見るドラッグだ、見た後の脳内のドーパミンの量は
ありえないほど増加しており、言葉を失ってしまう。

ストーリーはシンプルだ。
一人の少年が成長し、おとなになり、一人の女を守る。
そんな王道のストーリーを描きつつも、
サイケデリックな色合いとセンセーショナルなアニメーションの数々、
五感を刺激し、アニメーションというものの面白さを心の底から感じさせてくれる。

エロ、グロは当たり前だ。
人の根本にある欲望を刺激するようなアニメーションの数々はもう言葉を失ってしまう。
この表現は厳しくなった地上波では厳しい。
NetflixというWeb媒体だからこそ成し遂げた映像美だ。

一人ひとりのキャラがこのくそったれな世界で生きている。
その生き様を全10話味あわせてくれる作品だ。

個人的な感想:今石洋之監督最高傑作

個人的には今石洋之監督の最高傑作、集大成といえるかもしれない作品だ。
見ているうちに彼が手掛けた過去作のテイストや要素を感じ、
それが集まって1つの作品に、そしてより高みに挙げられるような
そんな感覚を味わえる。

宮崎駿監督の風立ちぬ、庵野秀明監督のシン・エヴァンゲリオン、
湯浅政明監督の犬王、そして今石洋之監督のサイバーパンク エッジランナーズ。
それぞれの名監督の最高傑作だ。

Netflixオリジナルのため、Netflixでしか見れないのが
欠点ではあるものの、映画代よりはうんと安い。
この機会に是非、あなたも今石洋之監督の世界を
ご堪能あれ。

「サイバーパンク エッジランナーズ」は面白い?つまらない?

この作品をどう思いましたか?あなたのご感想をお聞かせください

  1. breakwater より:

    はじめまして。自分は拗らせて面倒くさいクソヲタクなんですが、この物語の主人公デイビットの破滅へ一直線の生き様に痺れ深く心に刺さる物語でした。

    今期20作品ちょっと夏アニメを見ていますが、千束&たきな・綾小路・俺TUEEE異世界転生物の全ての主人公達、全員を『サイバーパンク エッジランナーズ』の世界または、
    『メイドインアビス』の深界六層に放り捨ててやりたいと本気で思った程に
    『サイバーパンク エッジランナーズ』『メイドインアビス』の2作品は頭一つ二つ突き抜けた傑作アニメーションでした。

    このクリエイターの魂と志が込められた2作品はもっと売れて欲しいと思うと共に、普段アニメを見ないカタギの皆さんに見て欲しいと思いました。

    余計なお世話ですが、Netflix加入民にはアニメでは無く実写ドラマですが、
    『このサイテーな世界の終わり』シーズン1~2(各話20分ちょっとで各8エピソード)
    オススメさせて下さい。

  2. トイレ より:

    面白かった!!!