映画青春

「グッバイ、ドングリーズ!」レビュー

3.0
映画
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評価 ★★★☆☆(55点) 全95分

映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』本予告ロングver.

あらすじ さあ、宝物を見つけに行こう。引用- Wikipedia

青春尺不足

本作品は映画オリジナル作品。
監督はいしづかあつこ、制作はMADHOUSE
よりもいなどで一気に有名になった「いしづかあつこ」監督による
初の初めてオリジナル劇場アニメ作品であり、
よりもいのスタッフ再集結やよりもいとのコラボも開催された。

じっとり

映画の冒頭はやや湿っぽさを感じる「じっとり」とした雰囲気に溢れてる。
主人公たちは田舎に住んでおり、
そんな田舎のどこか「土」や「畑」の匂いを感じるような空気感の演出と、
「背景作画」のリアリティへの追求は流石と言える出来栄えだ。

どこかサビっぽく、ホコリぽく、土っぽい。
堆肥の匂いすらただよってきそうな主人公は、いわゆる「陰キャ」だ。
クラスメイトからは畑仕事をしていることをいじられ、
輪に入ることもできないものの、唯一とも言える友達とは
ノリノリで会話することができる。

そんなどこか現代的な「陰キャ」な主人公はかっこいいとも
カワイイとも言えない。
いい意味でも悪い意味でも特徴的な要素がなく、
主人公の親友も東京に出てイメチェンしてたりするものの、同じ陰キャだ。

そこにもう一人「ドロップ」と呼ばれる少年がいる。
彼らはたった3人で秘密基地を作り、
3人だけの世界を構築している。

主人公は好きな女の子に告白することができず、
陰キャと抜け出せない中2感をまとったような少年だ。
どこか掴みどころがなく、ストーリーの方向性も序盤は見えない。

主人公が何がしたいのか、一歩を踏み出すこともできず、
主人公の友人である「トト」は医者になるという漠然という夢があり、
もう一人の友人であるドロップには宝物を見つけようとしている。

彼ら自身も明確な「目的地」がわからない、見えない、
現実的ではないからこその、ぼやっとした序盤だ。
そんな目的地の見えない彼らが「目的」を見つける物語と言えるのかもしれない。

花火

3人は序盤は輝かしい青春を送っている。
決して友だちが多いわけではない、彼女が居るわけでもない。
だが「男3人」だからこその「馬鹿げた」ともいえる行動が
青春らしいバカバカしさにつながっている。

クラスメイトを見返すために女装したり、
特に意味もなく高いドローンを買って花火を撮影したり。
若いからこその、青春真っ只中だからこその、
まっすぐなバカバカしい行動の数々は清々しさすら感じている。

だが、そんな馬鹿げた行動がゆえに冤罪をふっかけられる。
山火事の原因が彼らの花火であると噂が立ち、
「主人公」は気にし、トトは過剰に気にしてしまう。
しかし、ドロップは一切きにしていない。

彼らは自身の冤罪を晴らすためにも行方不明になった「ドローン」を
探すために山の中へと入っていくところから
物語が動き出す。
たった3人の冒険。しかし、3人の冒険の意味は違う。
2人は冤罪を晴らすため、一人は最後の冒険だ。

動機や状況は違うものの
「スタンド・バイ・ミー」を思い出す、少年たちの一夏の冒険だ。
モノローグ、ナレーションという形で少し未来の主人公が
過去を語るという形式もスタンド・バイ・ミーらしく、
オマージュと言えるかもしれない。

警察から逃げたり、くまから逃げたり、遭難したり。
そんな中で彼らは語る。
互いが知らない互いの本音、互いの事実、
友達のはずなのに、そばに居たはずなのに知らなかったことの数々。

自分が何がほしいのか、自分にとっての宝物はなんなのか。
漠然と「なにかが足りない」と感じる彼らは、
モラトリアムのさなかに居る。
夢も目的もない主人公、自分が本当に医者になりたいのかわからないトト、
自身の時間が残り少ないドロップ。

この視線の違いがこの作品の面白さもであり、難しい部分でもある。
この作品は3人の主人公が同じ視線で同じことを考えているわけではない。
私達、視聴者は俯瞰的に映像と言うかたちで
それぞれのキャラのセリフと行動をみているが、
その3人のキャラが全員違った視点に立っている。

同じものをみて同じように感じるとは限らない。
当たり前のことではあるものの、その当たり前をこの作品は描いており、
そこに「モラトリアム」を絡めることで、
むずがゆさを感じるような青春映画へと仕上げている。

3人の冒険の果に見つけたものは証拠にすらならないものだ。
彼らの冒険は間違っていたのかもしれないが、
冒険自体は無意味なものではない。

このキャラの視点の違い、むずがゆさを感じる青春描写は
人によってはかなり好みが分かれるところだ。
特に視点の違いは人によっては「わかりにくい」と感じる部分でもある。
映画の尺が95分しかないからこそ、過程を省いたり、
ダイジェストにしている部分も多く、わかりにくさを助長している。

変化

ひと夏の冒険を経て彼らは成長している。
「自分に足りないなにか」を彼らは求め、その答えを見つけたとはいえない。
青春は永遠に続きそうに見えて一瞬だ。
わかったように見えてわかっていない。
あっけなく終わり、あっけなく変化し、あっけなく人は死ぬ。

あの時ああしていれば、あの時こうしていれば。
そんな後悔は誰にでも、彼にもある。
失って初めて自分たちの「無力さ」を噛み締めて、
ちっぽけだとしり、大人になっていく。

宝の地図

ただ終盤はかなり詰め込んだ感じが強い。
ドロップが残した宝の地図、そんな宝を求めて
残された二人が旅立つという展開自体は悪くないものの、場所は「アイスランド」だ。
残りの尺が20分足らずしかない状況でいきなり海外に行くのは
流石に唐突さが出てしまい、終盤の展開はかなり駆け足になっている。

これがTVアニメならばもう少し丁寧に描けたかもしれないが、
90分ほどの尺の映画の中でのストーリーの取捨選択がしきれておらず、
やりたいことを詰め込んだ結果、描写不足の部分や
詰め込み、ダイジェストになっている部分があまりにも多く、
どうにも最後までキャラクターたちに感情移入しきれない。

最近のアニメ映画は「君の名は」以降、ダイジェストの中で
主題歌を流す手法を採用する作品も多いが、
この作品も類にもれずその手法を採用しており、更に多用している。

本来なら山の中のドローン探しより、
アイスランドへの宝探しのほうが時間はかかっているはずなのに、
実際は8割山、2割アイスランドという配分になっているため、
アイスランドへ旅立ってからの旅路がまるで面白くなく、
その結果もいまいち腑に落ちないものがある。

特に「電話ボックス」のくだりはファンタジー感が凄まじい。
この作品を構成する要素の8割がリアルな青春模様、
モラトリアムからの脱却が描かれているせいもあり、
終盤の「電話ボックス」だけが浮いてしまっている。

ドロップが彼らに「アイスランド」の黄金の滝にある
「電話ボックス」の話をしており、それがある意味で伏線にもなっているのだが、
そもそもなんでそんな辺境に「電話ボックス」があるのかも謎だ。

しかも、ドロップは死ぬ寸前で残り時間が少ない病弱の身でありながら、
そんな体を引きずって日本からアイスランドの電話ボックスまで
行けたのか…?というツッコミどころも生まれてしまっている。

ドロップがなぜ彼らのもとにきたのかという伏線回収にもなっているが、
「電話ボックス」の伏線や設定が
この作品から、かなり逸脱したものになってしまっている感じが
否めない作品だった。

総評:モラトリアムにさよならを

全体的にみて色々と惜しい作品だ。
アニメーションのクォリティは高く、3人の冒険譚を
美しい背景作がとともにダイナミックに描いており、
「いづかあつこ」監督の世界観を感じる空気感が生まれている。

ただ、その一方で90分ほどの尺に色々と収めきれていない感じが強い。
序盤から中盤までの青春模様は、ややムズがしゆさを感じるものの、
この年頃の少年たちだからこその悩みや葛藤がリアルに描かれており、
彼らが冒険の中でモラトリアムから抜け出すさまが描かれている。

この部分だけで終わっていればもう少し高い評価ができたのだが、
終盤の20分でいきなりアイスランドへと向かい、
ほぼダイジェストで描かれるアイスランド冒険の模様は
楽しさがほぼなく、辺境の「電話ボックス」はファンタジー感が強く、
色々と突っ込みどころが生まれている原因にもなっている。

これが1クールのTVアニメならば、色々と描写不足な部分や
もう少し自然なストーリー展開にできたかもしれないが、
90分ほどの尺では色々と収めきれていない部分が多く、
感情移入しきれないキャラ描写と相まって
消化不良になってしまう作品だ。

個人的な感想:視点の多さ

ドロップの視点だけみてこの作品を見ると、
彼が「宝物」を見つけるまでのストーリーが描かれていると言えるが、
他の二人はまだその過程のままで終わってしまっており、
その3つの視点をみている側がどの視点で見るか、
どう消化するかで作品の評価も変わってきそうだ。

個人的にはなんとも消化不良で終わってしまった作品であり、
このとっつきにくさやキャッチーな部分がないために、
興行収入が伸びなかったことも納得できてしまう作品だった

「グッバイ、ドングリーズ!」は面白い?つまらない?

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